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ノベルRe;バース 0 "ノベルリバース ゼロ"  作者: 鳴海悠一
ノベルリバース ゼロ "ノベルRe;バース 0"
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第三話 1  World

 1 World


「夢奈」


 聞きなれた声がする。

 真っ暗闇の中で、その声を頼りに歩いて行く。彼女が一番聞きたい声。

 いつもそこに居てくれる人。

 どんな時も、一緒に居てくれた人。


「こっちだ。早く来いよ」


 でも、何かが違う。

 真っ暗で何も見えないから、情報として得られるものは耳に入る声だけ。


「さぁ行こうぜ。俺達で世界を創るんだ。表も裏も関係ない。二人だけの世界を……」


 微笑んでいる顔は紛れもない悠一の顔だ。だけど、これはまったく別人だ。求めている人じゃない……。


「い、いや……」


 ゆっくり顔を近づけられ、顔を背ける。

 すると、悠一の顔をしていた何かは顔を変え、草薙翔の顔へと変貌する。


「こっちの方が好みだったか?さぁ言うんだ。お前の求める男は誰だ?」

「アンタがいくら顔を変えたって、悠一や翔には成れない!」


 片方の頬だけ吊り上げると、翔の顔がどろどろと溶ける様にして形を変えていく。


「わかっている。お前は、俺を求めているんだろう?」


 翔の顔から、またもや悠一の顔に変わる。

 優しく囁くその声は悠一とまったく同じ声だ。紡夢が姿を変えているとわかっているだけに、心の中で必死に叫びたくなる。

 悠一に会いたい!ここから早く逃げたい!

 夢奈が涙目になりながら嫌がるのを楽しむように、紡夢は悠一の姿をしたまま話を続けていく。


「なんで淺倉夢奈が妻久詠悠一を求めるのか、俺は知っている。運命は変えられない。君達二人は、結ばれる運命にあるからだ」

「妖魔のくせにロマンチックなこと言わないでくれる?」

「これがロマンだと言うならば、世界はロマンで溢れているぞ。だが、人間の人生というのは、神によって造られたレールを歩いて行くだけに過ぎない。そんな人生はつまらないと思わないか?私が創る世界は、そんなレール等存在しない。好きに生きていいのだ」

「その世界を創るのに、私と悠一の魂を使うんでしょう?それじゃ、好きに生きられないのは変わらないじゃない」

「肉体を再度生成すれば、新世界でも生きられる。案ずるな。全て私に任せればいい」


 頬を撫でようとする手を振り払い、悠一の姿をした紡夢を睨んだ。

 何がおかしいのかはわからないが、紡夢は声を出して笑い始めた。

 夢奈から離れると、彼はとある何かに手を掛けた。それを右へ目一杯引っ張ると、白い光が部屋中を満たす。

 薄暗かった視界は一気に鮮明となり、この場所の全容を現した。

 夢奈が伏せていたのはふかふかのベッド。

 この部屋はまるで西洋にある城の一室のよう。豪勢なベッドが壁端に一つ置いてあり、それ以外には見知らぬ女性が描かれている絵画や、何冊もの本が収められた本棚等が置いてある。

 これは一体、日本のどこだと言うのだろうか。


「私の世界は自由自在。西洋の造りが大変お気に入りでね。神社を囲う様にして城を築かせてもらった」

「自由自在なら、悠一をここに連れてくれば?その方が楽でしょ?」

「それができるなら、とっくにやっている。私の干渉を跳ね除ける力を持った者達には無効になる力もある。だからこそ、力ずくで奪うしかないのだ」

「あっそ。そんなこと興味ないから、さっさとここから出してもらえる?私、お姫様って柄じゃないから」


 相も変わらず強気の発言をするお嬢様に対して、紡夢は益々興味深そうに頷いた。


「おかしなものだな、人間というものは。所詮自分の手に入れたいものさえあれば満足するというのに。淺倉夢奈という女性は実に変わっている」

「よく言われるわよ。放っといてくれる?」

「気に障ったのであれば謝る。すまない」

「本当にそう思っているのであれば、ここから解放して。私を悠一の所に戻して」

「まだ刻ではない。妻久詠悠一の魂が必要だ。全てを完結させるためにも、奴の魂が」


 指を二度パチンと弾くと、西洋風の豪華な部屋が一変。

 辺りは血の池地獄と称せるくらい恐ろしい、死体だらけの戦場と化した。

 悠一の姿をしていた紡夢は、本来の獣の姿に戻っていく。


「表の世界。それは人間が支配する世界。奴らは自分たちが頂点であると思い込んでいるだけに過ぎない。危機とは常に隣り合わせだ。傲慢な考えが危険という言葉を知らぬうちに遠ざけ、移ろいやすい平和にゆったりと浸かっているだけだ。私はその世界を壊し、現実とはいかに非情であり素晴らしいものかを見せてやるだけだ。この風景は、私が人間達と対峙した時に目にしたもの。すなわち、現実なのだよ」


 その光景は、本当にあった出来事“過去”を表わしているかのようだった。何故ならば、倒れている人達の格好は西洋の鎧を着た男達ばかりだからだ。

 手に持って居るのは槍、もしくは弓矢。

 とある国の戦国時代を連想させる彼らは、一体誰に殺されてしまったのか。

 それは、遥か遠くから紫色の目を光らせながらこちらを伺う異形の存在。

 千や二千じゃきかない、十万は超えるであろう妖怪の軍勢。

 人々の世界を飲み込もうとする彼らが、次に狙うのは……。


「妖怪の軍を使って、世界を支配する気なの?それはただの独裁じゃない」

「ただ支配するだけなら、誰にでもできることだ。強大な力を持つ者は容易く統治ができる。だが、それだけでは世界を救ったことにはならない。根本的に全てを変える必要がある。表の世界に必要なのは、絶滅だ。絶滅後、生き残った種が世界を統べるのだ。お前は人間だが美しい魂を持っている。その魂は決して無駄にはしない」

「もう少しマシな口説き文句を言ってくれる?何も心に響かないわ」

「この期に及んでそのような口を聞くか。益々気に入った」


 不敵に笑う悠一の姿をした紡夢は、次第に自分の姿に戻っていく。

 黒い体、象を彷彿とさせる巨体。虎も噛み砕けそうな牙。何度も変化を繰り返す紡夢は、まさに夢の中の主。芸能人の姿だろうが、小さなこどもの姿であっても簡単に変化できそうだった。

 紡夢の巨大な体を見ても、夢奈は恐れを抱かなくなった。


 何故ならば、今の自分は決して殺されないという自信があったからだ。殺してしまっては世界の結合が不可能になる上に、自分の目的は達することができなくなる。

 この状況が“夢”であるならば、世界の結合に失敗した時点で全てが元通りになるはず。

 それが、夢奈の考え出した結論だった。

 そうなると、口が達者な夢奈は紡夢にすら喰ってかかる。


「私の好きな考え方を教えてあげる。難しいことは放っといて自分の好きなことや楽しいことに全力を尽くすの。その方が、きっと素敵な人生を歩めるから」


 紡夢は小さき人間から言われた言葉を頭の中で整理しようとする。

 妖魔であっても、自分が知らぬ考えを聞くと少しは考察をするものらしい。

 あれこれ考えを巡らせると、最終的に行きついたのは鼻で笑うことだった。


「真実を知らぬ者はかくも幸せなのだな。どうしてお前達が選ばれたのか知らないだろう?淺倉家と妻久詠家の宿命を呪うがいい。そして見せてやろう。裏の世界に潜む者達の悍ましき姿を」




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