第二話 5 Fhantasm
5 fhantasm
怪しげな男と話をした二週間後のこと。
数式を黒板にいくつも並べながら話をする先生のことなど気にも留めずに、翔はぼんやりとしていた。どこを眺めるということもなく、ただぼんやりとしている。
『お前は宿命からは逃れられない。そういう人生なのだから』
あれからあの男と顔を合わす機会がない。
心霊スポットの話と言いつつ、様々な話を聞かされた。
“草薙翔”という男は、これからどんなことをすべきなのか、どんなことが待ち受けているのかを。
最初はオカルトが好きな変人だと思っていたが、そのうち宗教の勧誘になっていきそうだった。
やっぱり、ただの変人だったんだろう。
そう心の中で整理が付いていた。
遠い親戚だとか言っていたが、あんな男は見たことが無い。
だが、不思議なことに翔しか知らない秘密を幾つも知っていたのだ。それを、教科書を読みながら言うかのように、ぺらぺらと喋るその男を親戚以上の何かに感じたのだ。
「自分が何をするのかは、自分で決める……か」
あれよあれよと言う間に、一日が過ぎていく。
またいつもの通り放課後を迎えた。
今日も悠一と夢奈は用事があると言って、揃って帰路についた。
つまらなそうな顔をしながら、翔も帰路に付く。
同じ道。同じ毎日。
退屈な日々を過ごしていると、このままでいいのだろうか?と思ってしまう。
それは誰しも思っているかもしれないが、充実した日々を送っている人達はそう思わないだろう。
そんな人たちが羨ましくも思えるし、逆に言えばそういう人たちのことすら“それでいいのか?”と言いたくなってしまう。
やりきれない気持ちを抱えたまま自転車で走っていると、細い道に入り込んだ。
スピードを抑え、ゆっくり走って行く。
すると、黒い影がゆっくりと翔の視界に入ってくる。
ブレーキを握り、やれやれと言った様子で話しかける。
「またアンタか。警察呼んだ方がいいか?」
「今日はまた別の話をしにきた。とある喫茶店に纏わる話だ」
男はあれこれと話を始めた。
恐ろしい力を持った者が店長を務める喫茶店の話。
信じがたい話の連続であった。
創作された物として聞いていると、ちょっとしたアニメのストーリーのようで面白く感じてくる。
付け足すように、男は喫茶店の話とは別にこんな話を始めた。
「友人達のことをどう思っている?」
「友人?一体誰のことだよ」
「妻久詠悠一と、淺倉夢奈のことだ」
二人の名前を聞いて、翔は眉を潜め、男を睨んだ。
「どうしてアイツらのことを」
「大切なんだろう?彼らのことが」
単調に喋っていた男の声色が、段々と怒りを込めたものに変わっていく。
「前にも言った通りだが、お前はまだ何も知らない。そして、俺が誰かも。最後に教えてやろう。俺の名前は……」
その男の名を聞いて、翔は愕然とした。
何故ならば、その男の名は…………。




