狂乱の三筑 中
そういえば、相伴衆に任じられた長慶は同時に修理大夫に任じられていた。
それまでの受領名である筑前守には、嫡子義興が任官している。
通称である三筑と言えば三好長慶のことであるのに、実際の三好筑前守は義興のことである。
何とも紛らわしい。
それはともかく、同年三月に長慶は居城を義興に譲った。
この動きは即ち、本格的に権力の委譲が行われるであろう予測が容易となっていた。
実際この頃から、長慶は自ら兵を率いて戦場に立つと言うことがなくなっている。
逆に、義興が松永弾正らを率い、その名声を高めているのだった。
尚、件の松永弾正であるが、長慶親子に対する忠誠心は天元突破している。
常には義興の側に侍り、戦場でも義興を守り、献策し、武功を重ねていた。
これらは全て、忠誠の頂きにある長慶親子の為であった。
松永弾正の忠誠は長慶親子に唯只管向かっており、その他の有象無象については無視を貫いていた。
その為、家中から妬み染みた視線を投げ掛けられるのであるが、当人は素知らぬ顔である。
結果、より一層の疎意を得てしまうのであるが、それはともかく。
松永弾正をして不可解な者に映るのが、長慶の側近である右近允である。
右近允は長慶の信頼を一身に浴び、側用人のような存在となり、大いに威光を示していた。
しかし、その威を奮う真似は全く行わない。
唯々己の分限を守り、己の仕事の範囲のみで長慶に忠実に仕えている。
長慶親子の為ならば、どのようなことにも手を出す己とは違いすぎて、意味が分からない。
裏の裏まで見てきた己をして意味不明と言う結論に辿り着く右近允。
一体何者なんだ。
松永弾正が、考えても答えの出ない袋小路に迷い込んでいる最中、件の主従は日常を謳歌していた。
* ─ * ─ * ─ * ─ *
「右近よ。どうだ、この新しい我が城は。」
「船に乗ると御髪が靡いて危険ですよ?」
「な、なななな何を申して、おおおおるっか?!」
日常を謳歌していた。
長慶は、それまでの居城を義興に譲った後、己の居城を堺や阿波などに近い飯盛山城に移していた。
この地は堺に程近く、長慶の本貫である阿波国に素早く移動することが出来る。
長慶はこの頃、隠居志向を強く持っていたとされる。
義興と言う、立派な跡継ぎがいることから、もうしばらく後見すれば任せてしまうことも不可能ではなかった筈だ。
しかしそうはならなかった。
なぜならば……。
「御立派な跡継ぎに恵まれ、御隠居を志すのは良いのですがね。」
右近允が許さないからだ!
なんだってー。
「まだまだ働き盛りでございましょう。ヒキコモリは良くないですぞ。」
御髪にもね。
などと呟く右近允を苦い顔で眺める長慶。
図星を突かれたからなのか、髪のことを言われたせいなのかは判らない。
どちらも一緒ではと言ってはいけない。
大事なことなので。
「堺が近いと言うのは良いですな。」
そしてシレッと会話を続ける右近允クオリティ。
「あ、ああ。そうだろう!地の利が良いのだ!」
それに巻き込まれるお人好しの長慶ぬくもりてぃ。
これで副王なのだから世の中判らないものである。
「堺に出て、珍奇なるものを探してみるのも良いかも知れませぬな。」
「うむ。南蛮渡りの妙薬など、求めてみるのも一興よな。」
妙薬(笑)
* ─ * ─ * ─ * ─ *
春から夏を過ぎ秋となり、季節はあっと言う間に冬となる。
そんな十一月のこと。
何かと騒がしい大和の国を松永弾正が平定した。
長慶は褒美として、大和北部をそのまま与えた。
松永弾正は感涙に咽び、忠誠を新たにしたと言う。
「我が大和。弟の丹波。長慶様と義興様をお守りするには良い場所だ!」
但し、大和南部には興福寺などを始め、隠然とした力を有する者たちが蠢いている。
松永弾正は、これらに対する抑えの意味も持っていた。
一方で長慶の側近たる右近允は、何かと暑苦しい松永弾正が遠くに行ってくれて喜んでいた。
「これで大分涼しくなるでしょう。従弟の方も益々調練を重ねて…おっと。」
相変わらず良からぬことを考え、実行しているようだった。
尚、その実害は長慶のみに行く。
「しかし、ふむ。少々気脈が乱れておりますなぁ。」
何かしら、不穏な気配が漂っていることをこの男のみは察していた。
常から不穏な言動を齎す者であるが故にこそ、それを感じ取ることが出来たのかもしれない。
「とりあえず、妙薬(笑)を求めて従弟らと調合を重ねましょうか。」
南蛮渡来の妙薬(笑)とは一体何なのか。
そして、右近允が言う気脈の乱れとはどういうことなのか。
事は風雲急を告げる。
待て次回!
続く!!
* ─ * ─ * ─ * ─ *
ある日、堺にて。
「オー!カミを信じナサーイ!」
キリスト教が伝来し、不況活動ないし布教活動を行っていた。
「カイシュウしてクダサイヨー!」
欧州で衰退苦境に陥ったイエズス会が、捲土重来を掛けて行っている東方見聞録である。
「Panem nostrum quotidianum da nobis hodie!!」
日本語でおk
そんなところにお忍びでやってきた長慶と右近允。
護衛もいるよ!
「あ奴らは何と言っておるのだ?」
「カミを信じよと言っておるようです。」
「ふむ。カミをか。」
「ええ。カミをです。」
「坊主ではないのだな。」
「坊主ではありませんね。」
「ふむ、カミか……。」
「ええ、カミですね。」
* ─ * ─ * ─ * ─ *
長慶はキリスト教の教えに触れ、感銘を受けたと言う。
彼は昔から熱心な日蓮宗信者であった。
そのため洗礼を受けることはなかったが、その教えに興味を持ち、保護することとなる。
その時長慶は、側近にこう語ったと言う。
「彼らはとても良い事を言う。寛容に接してやろう。」
超上から目線だった。
何様だ?
殿様だ!
* ─ * ─ * ─ * ─ *
生きとし生ける者、全て髪の僕
仏教は髪の敵
言葉や物事が、多少曲がって伝わるのは致し方の無いことです。
しゃみしゃっきり。
刺されないように気を付けます。