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狂乱の三筑 西

主君より、その嫡子への側近を付けるよう求められ、断る家臣。

普通有り得ぬ。


だが、これが有り得るのが長慶と右近允と言う爆竹の友である由縁と言える。


尚、爆竹の友とは、Aが爆竹を以てBで遊ぶと言うような危険な仲を意味する。

そして遊ばれるのは長慶で間違いない。


「なぜだ右近!?」


まさか断られるとは思っていなかった長慶。

悲壮な顔で右近允に詰め寄る。


「我が嫡子はまだまだ未熟なれば。」


それに何の感情の波を浮かべることなく返答する右近允。

しかし、如何に弱みを握っているとはいえ、常に鞭で接していては信用される筈もなく。


「そこで、熟練の我が従弟をお付け致したく。」


偶には飴も投じているのである。


「お?おぉ、そうか。そうかそうか!うんうん。ならば良し!」


これだけでアッサリと丸めこまれ、機嫌を直す長慶。

人が好いと言うか、頭が弱いと言うか。


あ、頭が弱いと言うのは髪が云々ということじゃないですよ。


因みに、右近允の従弟が以前、長慶の宿敵・三好政長に仕えていたことは伏せられている。

右近允は気遣いの出来る男なのだ。

本当だろうか。



* ─ * ─ * ─ * ─ *



永禄三年一月、三好長慶は足利幕府の相伴衆に任ぜられる。


相伴衆とは、宴や接待などで将軍に随伴し、御相伴に預ることが出来る、大変名誉で役得な職位である。

余りにも名誉且つ役得であるため、任命される者は僅かな者に限定される。

言わば限定版。

皆大好き限定版な地位であった。


これを得た長慶は殊の外喜び、様々な宴を催したり祝いの席を設けたりしたようだ。

本末転倒ではなかろうか。


そしてまた、この喜びを共に分かち合おうと屋敷の中を渡り歩いていた。


「右近を見なかったか?」


今回は走ってない。

流石に落ち着きを持ち出すお年頃である。


「右近允殿であれば、調度品の整理に蔵へお出ででしたが。」


「そうか。分かった。」


家臣の言に気を良くし、蔵へ向かって意気揚々と歩く長慶。

だからこそ、家臣が小声で呟いた言葉に気付かなかった。


「はて。殿は二人羽織でもなさっているのか……?」


その家臣は首を傾げながら、まあ見間違いだろうと見当を付けてその場を去った。

これがその後、大いなる悲劇を呼ぶことも知らずに。


* ─ * ─ * ─ * ─ *


「ここかな?」


蔵に辿りついた長慶。

見れば確かに入口が開いており、中に人の気配もする。


「右近。右近はおるかー!」


入口から声を掛けるも返答はない。

しかし、確かに中に人の気配がある。

或いは随分奥の方である為、声が届いていないのかもしれない。


長慶はそう思い至ると、ふと嬉しそうな表情になる

普段から驚かされている右近允を、逆に驚かせる機会ではないかと思ってしまったのだ。


早速、長慶は心持ち足を忍ばせ、蔵の中に入って行くのであった。


* ─ * ─ * ─ * ─ *


そうして蔵の中を散策すること暫し、漸く人影が見えてきた。

成程、確かにこのような場所であれば、入口から声が届かぬも道理。

そのように考えた長慶は、益々気配を消し、足音を忍ばせる。


やがて、その背中が見えた。


(よしよし。このまま行き、突然大声を上げれば、さしもの右近であれ……ククク)


獲らぬ狸の皮算用。


長慶は、己の策が成功し、右近允が驚く様を見せることを疑っていなかった。

そして遂に、長慶は右近允(仮)の背後に立つ。


(よし、行くぞ。。)


軽く深呼吸をして、大声を出す為に息を思い切り吸い込む。

その姿は、傍から見ると何とも滑稽なものであったが、残念ながら当人は大真面目である。


「うknぎゃああああぁぁぁぁぁーーーーーーーっっっ!!?」


長慶が大声で右近允に声を掛けるその瞬間、背中を向けていた人物の髪が長慶目掛けて吹っ飛んだ。


長慶から見ると、驚かそうと声を掛けたら、その人物の髪が自分目掛けて迫ってきたのだ。

驚くなと言う方が無理と言うものであろう。


思わず絶叫して仰け反る長慶の後頭部を、柔らかく生温かいものが襲う。


ぬめり。


「ひぎぁゃあぁぁぁーーー!?!?」


前にも後ろにも行けなくなった長慶は、已む無く左に倒れ込んだ。

左側には壁がある様に見えたが、紙で偽装されたものであり、そのままスッテンコロリン。

気付けば、長慶は虚空を見詰めていた。


「……知らない天井だ。」


「黙らっしゃい。」


突然、前方から聞きなれた声が聞こえて、はっとして長慶はそちらを見る。

そこに佇むのは、己が驚かすつもりで逆に驚かされた元凶。

毎度御贔屓にどうも。

右近允でした。


「右近……。なぜそこに?」


「探されていたとお聞きしまして。」


「いや、先ほどそこに居た背中は…」


「ここには私しか居ませんよ?」


「え?」


首を振り、左右を確認する長慶。

確かに右近允が言う通り、己が倒れていた周囲には誰もいない。


「私を探していたと聞きまして、蔵に入ると何やら絶叫が聞こえまして。」


「……え?」


「そう言えば、この蔵にはモノノケが出るとか言われてましたね。」


「………。」


「何やら、髪の長い……おや、どうしました?」


長慶、物言わぬ抜け殻となってしまった。


右近允に伝えるべきこと、喜びと昂り、人の気配と右近允の申し様。

鑑みて思うのは、深く考えるべきではないという結論。


「は、ははは。」


空笑いをして、仰向けに倒れる長慶。

それを呆れた風に眺める右近允。


残念ながら、爆竹の友である二人には見慣れた光景である。


その中で右近允は、

(少しやり過ぎましたかねぇ)

などと考えていた。


どんどはれ。


渾身の駄作というアルカディア。

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