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奏者日誌 前篇

ノリと勢いだけで作成。また、本文は日記風となっています。

ある日、とある旧家の納戸より一冊の古ぼけた冊子が発見された。

その表題は『私本 修理大夫観察日誌』

著者は右近允という人物のようだ。


紙の状態からして、かなり古い年代に書かれたものと思われる。

表題から推察するに、右近允という人物が修理大夫という人物を観察した日記であろう。

文化面で新しい発見があるかも知れない。

非常に興味をそそられる。


では早速、中を覗いてみるとしよう。



********************************************



『私本 修理大夫観察日誌』



********************************************




 端書


 本書は、著者たる我の我による我のための私本である。

 我の許可なく本書を閲覧することを禁ずる。


 もっとも、我が閲覧許可を出すことなど有り得ないのだが。


 まあ、我の死後四百年くらい経てば閲覧するのも苦しからずと言っておこう。

 それまで本書が残っていればの話であるがな。


 上記を守れぬ愚か者には、我が全精力を以て末代まで呪うことを約束しよう。

 髪無き一族の家祖と成りたくなければ、約束は守るが良いであろう。



                        修理大夫奏者 右近允



********************************************



◆大永元年十月

 兄の病死に伴い、若年ながら急遽家督を継ぐことになった。

 これを機に日誌を付けていこうと思う。


 私が仕える三好家は、それはそれは愉快な人々が沢山いる。

 古くより仕える当家は、彼らの内面を良く知っている。

 お使えする家の人々の情報は、当家相伝の家宝と言えよう。

 当然、全て胸の内に仕舞うことも仕事の一環である。


 とりあえず、叔父上の後見があるので幾分気は楽だ。



◆大永二年二月

 三好筑前守元長様に御嫡男・仙熊様が誕生。

 叔父上が元長様に付き、私が仙熊様に付くよう仰せつかった。

 なんとも元気な赤子である。

 将来が楽しみだ。

 


◆大永三年五月

 仙熊様が初めて明確に喋った。

 その言葉は元長様ではなかったとだけ記しておこう。

 大の大人が揃いも揃って悔しそうな顔を。

 なんとも珍妙なことで思わず俯いてしまった。



◆大永五年七月

 仙熊様はすくすくと成長なさっている。

 文芸に興味があるようだ。

 あと日陰が好きらしい。

 私も叔父上から様々な技法を学ぶことに余念がない。

 早く一人前になりたい。



◆大永七年十二月

 叔父上から一人前にお墨付きを貰った。

 非常に嬉しい。

 但し、常に向上心と好奇心を持ち続けるよう薫陶も受けた。

 仙熊様のお付きもしているのだ。

 慢心や増長をせぬよう自戒しよう。



◆大永八年八月

 改元の勅。

 享禄という元号に変わった。

 仙熊様は槍が嫌いである模様。



◆享禄三年四月

 一族の越後守政長様が訪ねてきたが、頬を染めて仙熊様を見ていたのが気になった。

 奴は要注意だ。

 仙熊様の視界に入れぬ様頑張った。



◆享禄五年六月

 一向一揆との戦により、元長様が亡くなった。

 政長様が仙熊様を預かろうと申し出たらしいが、僅差で阿波へ脱出できた。

 仙熊様の貞操が危ない所だった。



◆同年七月

 改元の勅。

 様々な凶事も多かったことだし、次は良い年となるよう願うばかりだ。

 新しい元号は天文という。

 仙熊様も気分を一新して、ちゃんと表に出て欲しい。



◆天文元年八月

 改元早々大事が起こった。

 山科にある本願寺が焼き討ちされた。

 宗門のことは良く分からぬが、まあ坊主共がやらかしたのだろう。


 仙熊様に覇気が見られない。



◆天文二年六月

 仙熊様は阿波に逼塞していたが、御母堂様にせっつかれて表へ出てきた。

 当人は「嫌だー、嫌だー。日陰が良い。引き篭りたい。」などと妄言を吐いていたが。

 仕方がないので、有能な家臣に指示すれば良いと助言をしてみる。

 晴れ晴れとした顔で指示をしていたのが実に印象的だった。



◆同年七月

 仙熊様は元服し、孫次郎利長と名乗った。

 当人は「まだ子供でいたい!」とゴネていたが、御母堂様に逆らえる者はいない。



◆天文三年八月

 三好家の主君・細川管領様と戦に。

 孫次郎様は、相変わらず「仙熊は戦、したくない!」と言っていた。

 御母堂様に御報告。

 翌朝には「この孫次郎利長、いざ出るぞ!」となっていた。



◆天文五年七月

 一向一揆との戦に漸く区切り。

 政長らの支援を得ての勝利であった。

 仇の手を借りることに孫次郎様は嫌な顔をしていたが、これも世の常だ。


 また、戦勝の宴で「政長が嫌な目をしていた」とボヤいていた。

 しかし孫次郎様。

 あれは嫌な目ではなく、厭らしい目だと思います。

 まだ諦めてなかったのかあの変態オヤジ。


 孫次郎様の御髪に危険な兆候が見え隠れ。



◆天文七年四月

 孫次郎様には相変わらずやる気が見えない。

 そして御髪に危険な兆候が半ば確定的に。

 準備を進めておこう。



◆天文十年九月

 孫次郎様、名乗りを伊賀守範長と改名。

 周囲には「今後の活動を更に祈願するため」と言っているが、私は知っている。

 御髪が危機的状況となったので、守と髪をかけて祈願したことを。


 伊賀髪様、準備は万端ですよ。



◆天文十一年三月

 木沢左京亮長政が太平寺にて討死。

 結構好き勝手していたが、ツケを払わされたか。


 御髪が……いや、まだ慌てる時間じゃない。



◆同年六月

 伊賀守様に御嫡男が誕生。

 兄弟揃って大はしゃぎであった。


 でも伊賀髪様。もとい、伊賀守様。

 祈願は成寿しませんでしたね、お労しや。



◆天文十三年二月

 もうダメだ。

 完全版の制作に取り掛かろう。



◆天文十五年十二月

 足利左馬助義藤公が僅か十一歳かそこらで将軍となられるらしい。

 実権狙って混乱を招く残念な将軍様でないことを祈るばかりだ。

 まあ暫くは父君である義晴公の後見を受けた、言わば傀儡であろうが。



◆天文十六年一月

 遂に完成した。

 一応、その旨お伝えしてみる。

 微妙に泣きそうな表情が非常にそそられる。



◆天文十七年八月

 伊賀守様が改名し、筑前守長慶様と名乗られた。

 建前はともかく、実態は何故なのか。

 今更言うまでもない。


 お労しや。



◆天文十八年一月

 周囲にバレ無し。

 当家相伝の技法に隙はない。


 筑前守様は「働きたくない。引き篭りたい。」などと呟いていた。


 働かないなら必要ないよな……

 

 そう呟いたら、精力的に働き出した。

 全く、世話の焼ける。



◆同年六月

 慶事である。

 変態オヤジこと政長を討ち取ることが出来た。

 筑前守様も、大分溜飲を下げた御様子。

 御髪についても問題ない。


 政長めは最期の時、首を渡すことならぬ!と喚いていたそうな。

 見苦しい。



◆天文二十年八月

 周囲にバレ無し。

 流石は当家秘伝の技法である。


 周防の大内介が遭難したらしい。

 いよいよもって末法の世よな。



◆天文二十一年十二月

 筑前守様の御嫡男が元服、孫次郎慶興様となられた。

 実に立派な若武者ぶり。

 どこかの殿様にも見習って欲しいものである。



◆天文二十二年一月

 将軍様が近江の朽木に落ちたらしい。

 京は筑前守様の天下と噂されているが、当の本人は「これで食っちゃ寝できるかな」などと呟いている。


 孫次郎慶興様の為に頑張り過ぎて、流石にお疲れのご様子。

 ある程度は目を瞑ろうと思う。



◆天文二十三年六月

 今年は雨が多い。

 雨に濡れても大丈夫。

 流石は秘伝の技法。

 そろそろ後進の者らこれらを伝えるべきか。



◆天文二十四年十月

 安芸の厳島で大内介の仇討ちが行われたとか。

 新しい領主が良い領主であることを望むばかりだ。


 上記の戦後、改元の勅。

 弘治元年となった。



後編に続きます。

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