微接近・後輩
目覚めて体を起こすと、暖かい日差しが僕の顔にあたります。
…今日はいー天気ですね〜…。こんな日は学校を休んでぐっすり寝てたいです。
ですが…そうはいかないのが学生…サボりはいけません。はぁ…家に引きこもれたらどれだけ楽か…
仕方ないので着替えを始めます。
まぁいいです。僕の今日のミッションは姉、妹以外のヒロインに近づく事です。当初の予定通り先輩、後輩ポジションの人に近づきますよ。
自分の部屋のドアを開け、廊下を歩いてリビングに向かいます。
…しかし、見つけられますかね?いつもべったりな姉妹とは違って、いつも一緒に居る訳じゃありませんし…結局あのやろーを尾行する必要があるんじゃないですかね…
…はぁ、気が重いですね…まぁ、いいです。頑張りま…?足の踏み場が無…
「のぉぉぉ!?」
ま…回るぅ!?世界が回っていますぅぅ!?
ゴロゴロゴロゴロ…ズドン!
「…ぐふっ…」
…階段に差し掛かっていたとは…迂闊でした…。
痛みに耐えていると、リビングのドアが開いて、中からお母さんが顔を出しました。
「フォレスタル〜?何今の音…また階段踏み外したの?大丈夫?」
「…なんとか。」
『また』って事は以前にもこういう事があったんでしょうね。なんかお母さんも落ち着いてますし。
…痛たたた…背中打ちましたかね…はぁ…
それもこれもあのやろーの所為です!全くもう!
「それよりご飯はなんですか?」
「ご飯と明太子よ〜」
朝から明太子とは…今日も1日頑張れそうです!
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あいたた…まだ結構痛みますね…
痛みに耐えつつ教室の扉を開き、自分の席に座る。そして本を取り出して読もうとした瞬間。
「フォレちゃんおっはよ〜!」
…という、とてもめんどくさそうな声が聞こえてきました。
彼女の名前はレナ、猫目とロングな赤い髪と八重歯が特徴的な僕の友達(多分)です。
ですが…
「レナ。毎回言っていますが…」
「フォレちゃんはやめろ!でしょ?知ってる〜」
「だったら何故…」
「フォレちゃんの困ってる顔が見たいからに決まってるじゃん?」
「はぁ…」
若干ドS寄りなのが欠点です。
「ところでフォレちゃん?そのアザは何?」
「あぁ、これですか?これは…考え事をしながら歩いていたら階段から落ちましてね。」
「…その、考える時に別世界にトリップする癖…直した方がいいよ?…マジで…死ぬよ?」
「…まぁ、昨日から下手したら3度程死んでますね。自分でも直したいとは思っているのですが…」
「3度って…」
大体、僕が考え事をする原因は全部あのやろーなんです。あのやろーさえいなければ僕が電柱にぶつかったり風呂で溺れたり階段から落ちたりする事もなかったんです!
…あぁ、なんか腹が立ってきました…もうあのやろーについて考えるのは辞めましょう…
「フォレちゃん?おーい?フォレちゃーん?」
…あぁ、そういえば今日は2人に接近しなくてはならないんでした…やれやれ。もう少し予備知識があったら楽なんですがねぇ…ポンコツですね。
「…ダメだ完全にトリップしてる…こういう時は…せいっ!」
そう言うとレナはフォレスタルに向かって手を伸ばし…
むにゅ。
胸を、掴んだ。
「わぅん!?…レナ。胸を揉むのは辞めて下さいと何度も言っていますよね?大体公衆の面前で堂々と揉むとかどういう神経をしてるんですか?」
「だって…フォレちゃんがまたどっか行ってたんだもん!」
「それは失礼…しかしですね?」
「それよりフォレちゃん。胸…ちょっと大きくなった?」
「そうですか?自分じゃ分かりませんが…」
「…くぅ…羨ましい!この普通乳!」
「普通乳ってなんですか!喧嘩売ってるんですかっ!?」
「普通乳は普通乳じゃん!小さくも大きくもなくて特に特徴の無い乳じゃん!」
「怒りました!もう怒りました!僕の拳法のサビにしてやります!」
「望む所よ!」
それから僕達の死闘は熾烈を極めました。殴っては蹴られ。投げられ、飛びかかり。正直教室でやっていいのか。という疑問はあります。しかし、負ける訳にはいかないのです。
「…またやってるよあの2人…」
「…なんかもう、いつもの光景って感じだよね。」
クラスメート達は、どうやら慣れているのか被害が及ばない所で観戦していた。
「…はぁ…はぁ…また少し腕を上げましたか…?」
「そっちこそ…新しい技を編み出したようね…」
そろそろ体力が限界なので、大技を決めたい所です。
「…ふぅぅぅ…ブックスラッシュ!(国語辞典)」
ブックスラッシュとは、本を相手の脳天目掛けて振り下ろす技です。単純ですが、本の重さに比例して威力が上がります。国語辞典の上位互換には卒業アルバムや六法全書があります。下手すると僕の手も痛いので諸刃の剣ならぬ諸刃の本なんです。
「ふっ…甘いよフォレちゃん!その技を何度受けて来たと思ってるのさ!その技の弱点はもう見切ってるよ!」
「…なっ!?」
そう言うとレナは僕に向かって突進してきました。もちろん僕が振り下ろした本は空振り…その重みと勢いでよろけてしまいました。
「はいキャッチ〜」
「むぐ…むむ…」
…ぬ…抜け出せません!
「く…この…」
ぽかぽか。
「こんな近距離じゃ威力も出ないよね〜…さてと…えりゃ!」
掛け声と共に僕の体が浮き…視界が反転して…
ガツン!
頭に鈍い衝撃が走り、視界がブラックアウトします。
「……きゅぅ……」
「勝った!…ふふん。どんな気持ちよ?」
「…ま…さか…あそこで…ジャーマンスープレックスとは…」
「フォレちゃん軽いからね〜。簡単だったよ!」
…あぁ、まだ頭がガンガンします…床に叩きつけられたんだから当然かもしれませんが…しかし、僕って結構丈夫ですね…
「…で?敗者のフォレちゃんは私に何か言う事があるんじゃないかな〜?」
「…ありませんね。」
舌を出してそう言うと、レナは僕を半回転させてうつ伏せの状態にし
グリグリ。
と頭を踏んできました。
「…倒れてる女の子の頭を踏むとかどんだけドSなんですか。痛いんですけど。」
「逆らってごめんなさい。でしょ?」
「逆らってごめんな…さいっ!」
足を掴んで投げるっ!足で僕の事を踏んだのが間違いでしたね!
「にゃぁ!?」
「…ふふ。形勢逆転ですね。そろそろ授業が始まるのでこの辺にしておきますが…いつでもリベンジは受け付けますよ?」
「…悔しい…」
はぁ…疲れました…疲れましたし頭が痛いです。なまじ男の頃の記憶が残ってるとどうしても筋肉に頼った戦い方をしてしまいますね…
…しかし、レナとこういう関係になったのはいつでしたかね?…そうそう。最初は犬派か猫派かでやったんでした。
「じゃあ…フォレスタルさん。ここの答えを」
あの時も激しかったですね…今は3勝2敗でしたっけ?
…因みに僕は断然犬派です。だって可愛いじゃないですか。尻尾ふってる所とか、主人に忠実な所とか、あぁ、犬飼いたいですね…
「…フォレスタルさん?」
もふもふしたいですねぇ…いやむしろ枕にしたいです。…僕のお母さんが犬アレルギーでさえなければ…くすん。
「…ダメですね。思いっきりトリップしてます。…レナさん。よろしくお願いします。」
「はーい。」
ズドン。
「ぎゃん!?…痛ぁ…」
…腰に打撃がぁ…
「レナさんありがとうございます。では、フォレスタルさん。ここの答えを」
「S=2です…痛た…」
「正解です。では次は…」
…ぐすん。クラスの中に1人位僕の味方が居てもいいじゃないですか…皆もう何時もの事として処理するので助けがきません…
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放課後になりました。さて、後輩ポジションのヒロインに近づかなくては…
などと考えながら椅子から立ち上がると、レナが話しかけてきました。
「フォレちゃ〜ん。今日ウチに来ない?」
友達からのお誘い…本当なら行きたいのですが…
「レナ…ごめんなさい。今日は用事があって…」
「用事?何の?」
「…まぁ、家の…ですかね。」
「そっか…じゃあ仕方ないね…また明日ね〜」
「さよなら。」
…はぁ。遊びに行きたかったですねぇ…
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さてさて…かなり不本意ですがあのやろーを探しましょう。後輩ポジション候補なんてたくさん居過ぎて一人一人確認する訳にはいきませんからね。あのやろーに近づいてきた人がヒロインでしょう。
で、あのやろーは…
おお、居ました居ました。結構早く見つけられましたね…さて、後はバレないように尾行して…
…というか、今日は姉妹居ないんですね。だったら姉妹の方に近づくという手も…?
いえ、当初の予定は完遂しましょう!このまま続行です!
…おお?来ました来ました…背が小さいのできっとあれが後輩ですね!名前は…うむむ。見づらいです…しかし、ここで近づくのは素人!ただのカカシみたいなものです!尾行の第1原則はバレない事…その為には多少の不便は我慢します!
…幸い僕は目がいいですからね。このくらいの距離なら…目を凝らせば…
見えました!名前は『ユキ』というようですね…
さて、今日はこれくらいにしておきますか。僕にだって用事があるんです。あのやろーにばかり構っていられません。
…今日の夕飯はなんですかねー。
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『フォレスタルノート』
ここにまた新たな1ページが刻まれます!
ユキ・後輩ポジション。たれ目で金髪のショート。栗みたいな口。
…おっけーです。
しかし…まだ首や体が痛いですね…念のため明日は安静にしてましょうか。
「今日のご飯はなんですかお母さん!」
「カレーうどんよ。」
「美味しそうです!」
家だとハネを気にせず食べれるのでいいですよね…