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救出と決着




何とかして助けを呼ぼうにもどうすればいいのか。


大声を出して助けを求めた所でこの辺には人はいなさそうだし、もし通りがかったとしても人の家まで踏み込んで来るお人好しな人間は普通いないだろう。それにもし、そんな奇特なお人好しがいたとしても、男に雇われた者がいればそいつに消されるかもしれない。


良くて街の警備兵を呼んでくるってところだろうけど、その間に私は殺されるかどこかへ移されるだろうから意味はないどころかむしろ逆効果だ。


その上ここが男の自宅であれば、曲がりなりにも王族の家なわけで、それを知る者は面倒事を避けるためにここへは近寄らないだろう。


……手詰まりだ。


他の方法が頭に思い浮かばない。


「もっと苦しめ!泣き叫ぶがいい!はっはっはっは!」


体の自由を奪われ、抵抗できないまま一方的に嬲られる。誘拐されたりしてこういう危機的状況に陥った事は何回かあるが毎回おじさんが救ってくれていた。…だけど今回は助けには来れまい。攫われた事も知らず、外国にいてそうそう抜け出せないのだから。


襲われてからどれだけ時間が経ったのだろうか。小さな小窓から僅かな光しか入ってこないので良く分からない。でも陽の光が入ってきているという事は夜ではないだろう。襲われた時は確か夕方になる少し前くらいだった。もしかして、日をまたいでいるという事はあるだろうか。


手枷の魔力封じの効果は結構効いているみたいだが、今までつけた事が無いからどのくらいの時間でどのくらいの効果が出るのか比較のしようがない。


痛みと出血も相まって意識が遠のいていくのを感じる。


―――――――その時だった。ピカッとあたりに鮮烈な眩い光が溢れ、一瞬何も見えなくなった瞬間、男の叫び声が上がった。


「ぎゃあああああ!!??火が火がぁぁ!!」


光が消え去るとそこには服に這う炎を消そうと転げまわる男の無様な姿があった。


「……え?」


それに、ここにいるはずの無い存在。愛しい琉斗とウィルクがそこには立っていた。


「水よ水の精霊よ

 その偉大なる力を持って

 我に少しの水を授けたまえ!」


琉斗がまだ習得していないはずの呪文を唱え、男についた火を消してやると、すぐにウィルクが警戒しながら男に縄をかけていく。


「……さっきの光魔法も琉斗だったんだ。」


梨華は予測を超える突然の事態に呆然としてつぶやく。


「そうだよ!少し前からできるようにはなってたんだけど驚かせたくて秘密にしてたんだ。助けに来たよ!遅くなってごめんね。」


「琉斗……!」


「俺も一応、助けに来たぞ!あんまり役には立てなかったがな。」


男の懐を漁っていたウィルクはそう言うが、扉前の見張りを倒したのはウィルクだ。もちろん梨華は知らない。すぐに手枷の鍵を探し当てたウィルクは手枷の鍵を外し、崩れ落ちた梨華をそっと支えた。


「ありがとう、ウィルク。」


ふわっと辺りに花が咲いたような微笑みを浮かべて自分にお礼を言う梨華にウィルクは呆けた表情で見惚れてしまっている。その間にもウィルクを一旦放って梨華の状況確認は続き、琉斗と話を始める。


「ねえ一体どうやって抜け出したの?王城の警備は万全なハズだけど。」


まあ、万全じゃないから私はここにいるんだけど。


「あのね、みんなが寝静まった夜にこっそりベッドから出てお姉ちゃんの部屋に行ったの。それから転移魔法陣を使って城の外に出てウィルクを探してあの酒場に行ったんだ。場所は聞いてたからね。そしたらたまたまウィルクが帰る所で、僕はウィルクにお姉ちゃんを助けてってお願いした。僕の力だけじゃ助けられなかったから。」


琉斗は悔しそうに少し俯いた。


「あちゃー、それ使われちゃったか。また王妃様に怒られるな。今度からアイテムボックスに入れとかなきゃ。」


梨華の部屋にインテリアのごとく無造作に丸めて樽に挿してあった魔法陣だ。一々出し入れするのが面倒で置いておいたのが裏目に出たようだった。


「…勝手に使ってごめんなさい。でもどうしてもお姉ちゃんを助けたかったんだ。」


「分かってるよ。ありがとう。気持ちはとっっっても嬉しかったけどもうこんな事しちゃダメよ?」


「うん。分かってる。もうしないよ。だからお姉ちゃんも、もう攫われたりしないでね。」


「あはは。情けないねぇお姉ちゃんは。…うん。もう琉斗を心配させる様な事しないよ。」


「約束だよ!」


「うん。約束。…はい。」


そう言って小指を差し出すと、いつもの奇妙な指切りが始まった。それを見て不思議そうなおかしそうな顔をしたウィルクに、琉斗はニヤニヤとして言った。


「僕はこれでおしまい。後はウィルクに代わるよ。」


「お、俺は別に…」


恥ずかしそうに真っ赤にして顔をそむけたウィルクに近づいて、両手を頬にあてて顔をそっと正面に戻す梨華。


「ありがとうウィルク。…ほんとにありがとう。琉斗と…ウィルクがいなければ私はどうなってたか分からない。ほんとは怖くて怖くて仕方がなかったの。あれは魔術師にとって天敵の様な物なのよ。死神と言ってもいいくらい。その枷をあなたは私から外してくれた。ウィルク、あなたの事、大好きよ。」


「俺もだ、…その、愛して、る。」


じぃぃぃーーー


いい雰囲気になって顔が近づいた所で穴が開くほどの視線を感じて慌てて離れる。


「むぅ。二人の世界に入らないでよ。僕がいるんだからね!僕が大人になるまではダメ!」


「あ、そうだ。ウィルク。私、琉斗に琉斗が大人になるまで結婚しないって言っちゃったの。だから後10年待ってくれる?………それとも別れる?」


梨華は悲しそうな顔で、しかしそうなっても仕方無いと諦めた様子で問う。ノリは軽いし唐突だが、それは元来のうっかりが発動しただけで、その頼み自体は深刻に捉えている様だった。


「……俺はもう梨華以外と結婚する気は無い!どうせ一生独り身だと思ってたんだ。10年くらい何て事ないさ!」


「ウィルク……!もし嫌になったら途中でやめてもいいのよ?…でも、ありがとう。」


「それは無いと思うが…分かった。梨華も俺なんかでいいのか?俺は10歳も年上で、しかも老け顔でさらに5つは上に見える。梨華ならもっと若くて身分のある男にだって好かれるだろ?」


「それこそ10歳差なんて何てことないわよ!貴族や王族はみんなそんなものよ。平民だって年上の夫の方が多いじゃない。老け顔だなんて昔から知ってるわ。戦場で馴染みの顔だったもの。」


「そういえばそうだったな…初めて会ったあの頃はまだ梨華は5つくらいだったか。」


「そうね…」


「…ちょ、ちょっと待った!その話長くなるでしょ!?一応僕黙って出てきてるしお姉ちゃんの無事も早く伝えなきゃだし、二人とも思い出話はまた後にしてくれる?僕もゆっくり聞きたいし!」


「わあ!そうだったね。早く帰らなきゃ。……っと、うまく力が入らない…」


「大丈夫か!?」


魔力の流れを阻害された事により体全体に不調をきたし、ふらついた梨華に血相を変えて駆け寄り、支えるウィルク。


「…大丈夫、ちょっとふらついただけ。あ、そういえば傷もまだ治して無かったや。……んーー、ちょっとこれ、今すぐには治せなさそう。魔力が乱されてまだ元に戻ってないから上手く操れないや。」


「大変だ!早く城へ行かないと!」


血の気の引いた青い顔でウィルクが慌てて梨華を抱きかかえた。


「ちょっと待って、この男はどうするの?ここに置いといて逃げたりしない?」


「大丈夫だろ、そんな事より今は梨華の方が大変だ!気づいて無いかもしれないが結構な出血だ。速く手当しなきゃまずい!」


「そう……かもしれないわね。」


梨華は今まで痛みを感じないようにするため無意識に見ないようにしていた腕や胴体の傷を目にして認めざるを得なかった。


「じゃあとりあえずこの手枷をこいつにはめておこう。」


そう言ってウィルクは一度抱えた梨華をそっと降ろし、魔力封じの手枷を男にはめた。


「……そうだ!ねえポーションは?確かいつも持ってた筈だよね?」


「あ~、あれか。残念ながら昨日は魔物の討伐で全部使っちまった。その後家に帰る間もなくボウズが血相変えて来たもんでな。今は魔力回復薬しか持ってないが…意味あるか?」


「……無い。魔力はあるけど使えないだけだから。」


「すまん!」


「いいの、いいの!じゃあさっさと王宮に行って騎士様を差し向けて貰いましょう!帰ったら王妃様の怖ーいお叱りが待ってるよー」


「うわー!覚悟しとかなきゃ!」


二人して頭抱えて笑いながら王宮へと帰る。ウィルクに抱きかかえられて帰って来た梨華を見て、王妃様は叱るよりも先に根掘り葉掘り色々と聞き出したい!絶対におもしろい話に違いない!という欲求が出たが、そこはやはり王妃にまで上り詰めた女性なので軽々と押さえ込んでは、叱り始めましたとさ。




おしまい…とここでなったら良かったのだが、その後駆けつけた騎士が目にしたのは何者かに無残にも抵抗できぬまま殺害された末端王族の男の姿だった。


そしていくら探した所で手枷と一緒に盗まれた足枷が見つからず、梨華が思い出して酒場で絡んできた男が末端王族のその男だと証言した事により、徹底的な取り調べが行われ、男は何者かに指示されていたらしいと分かった。


それも男自身は自分が命令されて動いているなどとは思わず、あくまでも協力者や、逆に利用しているなどと思わされていたようだ。


さらにその酒場での出来事を報告する為に男が渡された魔道具は王族と大賢者、三賢者やごくごく一部の貴族にしか手に入れられない物で、普通は到底末端王族ごときに貸したりはしない物であった。


この事から黒幕は王族では無いかとの疑いがかけかられ、さらに今まで何か怪しいとは思われていたが一つも尻尾を出さなかった王弟の仕業では無いかと言われもしたが、結局今回も何一つ証拠は無く、表向きには男の単独犯という事で決着が図られたのだった。




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