素敵なプレゼント
誕生日会が終わって、
二人は、ドレスと正装から、
部屋着に着替えて部屋でくつろいでいる。
「・・・ん〜!
うまい事いってよかったね〜!」
ソファーにもたれてくつろぐ梨華は、
ホッと一安心したと同時に、
少し疲れたような様子で
両手を組み、その手を前に目一杯伸ばして
筋肉の凝りをほぐすようにして言う。
「うん!ホントに!
びっくりしたよ!
あんなにお姉ちゃんの『知り合い』がいるなんて!」
琉斗はその横で、少し興奮した様子で話している。
「うん。
それはホントにお姉ちゃんもびっくりしたよ!
あんなに来ると思わなかったもの。
せいぜい居ても四、五人くらいで、
その中でも、協力を取りつけられるのは
一人か二人くらいしかいないと思ってたんだもの。」
琉斗の言葉に先程の事を思い出した様子の
梨華も笑いながら頷く。
「そうだったの?
でも、たっくさん居たよね!
お姉ちゃんてすごいんだね!
あんなに、偉い人達と『知り合い』だなんて!
しかもたくさん!」
「いや〜
けっこう長い間色んな国を周ってたからね〜
おじさんにくっついて
色んな国の王族とか宰相とか
お偉いさんに会って、
その時に色々問題解決したりしてたら
けっこう人脈出来てたみたいでね。
けど、さすがに私が覚えてないくらい
小さい頃に会った人にまで
覚えられてたとは思わなかったよ。」
梨華は、キラキラと輝く瞳で問う琉斗に
苦笑しながら返す。
「うん!
お姉ちゃんが三歳の頃から
外国に行ってたっていうのには驚いたよ!」
琉斗は、梨華の言葉で
大使達から聞いた話しを思い出した様子で話す。
「あ〜、それね。
どこかの国で魔物の大発生が起こってね。
それで、冒険者ギルドから
冒険者はみんな呼び出しがかかって、
でも、お姉ちゃんは
まだ、その時三歳だったから、
家に置いてく訳にはいかないでしょ?
だから、しょうがない〜って、
戦場まで連れてって、
おじさんったら、
私を肩車しながら魔物を倒しちゃったのよ!」
梨華も説明しながら、その時の事を思い出して
クスクスと楽しそうに笑う。
「え〜!?すごい!
そんな事あったの〜!?」
それを聞いて、琉斗は目を丸くして驚く。
「そうよ〜!
それからおじさんは
私の事を連れてあちこちに行くようになったの。
まあ、けっこう周りから
せっつかれてたのもあったしね。」
「どうして?
なんでおじさんは急かされてたの?」
梨華の言葉に、琉斗は不思議そうな顔をして聞く。
「う〜ん、それはね・・・
おじさんって色んな事やってて
けっこう忙しい人なのよね。
魔道具とか本とか
おもちゃとかの商品を作ったり、
冒険者ギルドの依頼を受けたり、
戦争とか紛争の調停役をしたり、
難民とか孤児とかの対策したりって・・・
それはもう忙しいんだよね。」
梨華は、そこまでをひと息に言って
もう一度息を吸って説明を再開する。
「けど、それを他の人に任せたりとかして
私を育てるためにほとんどお休みしてたのよね。
だけど、それも三年目になってくると
早く戻って来てくれーって、
あちこちから催促されるようになっててね。
私の事はおじさんが運営してる
孤児院にでも入れればいいって
色んな人に言われてたんだけど
おじさんは断ってたのよね。」
そう言って苦笑する梨華は、
ここで一端区切ってさらに続ける。
「まあ、でもさすがにそろそろ
ダメかなって思ってたみたいで、
良い機会だからっておじさんに言ったら、
危険だからって、
たくさん防御魔法とか、治癒魔法とかの
効果付きの魔道具持たされて
ようやく一緒に行く許可が出たのよ!」
やっと説明し終わった梨華は、
その少しばかり長い説明で、
少し切らしてしまった息を整える。
「・・・そっか〜!
おじさんって、そんなに忙しい人だったんだね。
そこまで色々してるなんて知らなかったよ!
あ~!
でも、こないだ会った時も
オルレイン帝国にいるって言ってたっけ。」
琉斗はそう言いながら、
少し遠い目になって思い出す。
「そうそう。
おじさんが調停役として色々やって
今はオルレイン帝国は停戦の準備中って噂よ。」
「うん!僕もこないだ聞いたよ!
すごいよね!
ホントに戦争止めて来ちゃうなんて!」
「そうよね〜!
ほんとにつくづく無茶苦茶な人だと思うわ〜。」
琉斗の興奮した言葉に頷く梨華は、
そう言いながら苦笑する。
「うんうん!
それに、心配性って言うか・・・
お姉ちゃん思いって言うか、そんな感じだよね!
魔道具たくさん持たせるって・・・」
琉斗は、さっき梨華が言った事を
思い出して笑いながら言う。
「そうよ〜!
何があるか分からない戦場だから
ちょっと過剰に守りを固めるくらいで
丁度いいんだけど、
それでもあれは過剰装備だったわよ。」
「え〜!?
どれぐらい持たされたの〜?」
「えーっと、腕輪に指輪にネックレスに
イヤリングに髪留めでしょ。
それから、魔法陣の書かれた羊皮紙と、
靴もそうだったわね。
あと、伊達メガネも。
それから・・・・・・」
琉斗が興味津々といった様子で聞いてくるので、
梨華は、思い出せる限りの範囲で
指折り数えながら教える。
「えええっっ!!!!???
そんなに!?
・・・・・・ほんっとに、すっごいね!」
すると、琉斗が若干引いたような反応をしたので
慌てて撤回&弁明する。
「いやいや。
まあ、さすがにおじさんも
冗談で出して来てたみたいだけどね。
結局持って行ったのって、
小さい指輪と腕輪と羊皮紙と靴くらいよ。」
「・・・それでもけっこう多いよね!
それってどんな効果がついてたの?」
梨華の必死の弁明が功を奏したのか
どうかは分からないが、
琉斗は話題を変えて別の質問をしてくれる。
「えっとね、確か指輪が治癒魔法、
腕輪が防御魔法、羊皮紙が転移魔法で
靴には浮遊魔法がかけられてたかな。
・・・他の持って行かなかった奴に
かけられてた魔法は忘れちゃったや。」
「へ〜!
・・・あれ?でも、
他は魔道具だから分かるんだけど、
羊皮紙は自分で魔力を
こめなきゃ発動しないと思うんだけど。」
魔道具とは、魔法が使えない者や
魔法を使うのがうまくない者のために
作られた物なので誰かが先に
魔力をこめておけば使えるようになっている物だが、
魔法陣は、使いたい時に自分で魔力を流さないと
魔法が使えない物なので、
まだ三歳で魔法が使えなかったはずの
梨華がどうやって使ったのか、琉斗は気になったようだ。
「ああ、それはね。
実はその時には魔法が使えたのよ。
それで、難しい転移魔法でも、
魔法陣の補助があったら使えたってわけ。」
「えっ!!!???
三歳でもう使えたの!?」
その何ともなさそうに簡単そうにする説明に
びっくりした琉斗は叫び声のような驚きの声を上げる。
「うん。おじさんもそれがあったから
三歳までは家から離れなかったって
言うのが大きいんだよね。」
「あ~、そっか!
魔力の暴走!」
梨華の説明を聞いた琉斗は、
納得したような声で手をポンと叩いて頷く。
「うん。そう!それよ!
一般的に魔力が多い人ほど
魔力の暴走は激しくなって、
魔法が使えるようになる年齢が早い人ほど
魔力の暴走が起こるのも早くなるのは知ってるよね?」
その確認に、琉斗はコクリと頷く。
梨華はそれを見て話しを続ける。
「それで、正式に魔法が使えるようになったって
認められるのが、基本魔法のうちの
どれか一つが出来るようになる事
だから、私の場合は三歳で・・・
魔力の暴走は正式に魔法が使えるようになる
年齢のおおよそ半分くらいって言われてるから〜
一歳半に魔力の暴走が起こったって事になるね!
まあ、実際はそんなにきっちりは
いかない事の方が多いから、大体だけどね。」
「それで、王族が
魔法を正式に使えるようになるのは
十歳くらいって言われてるから、
王族の魔力の暴走は大体
五歳の時に起こるって事になるわね。」
「うん!
そうなるね!」
「うん!
それで魔力の暴走って言うのは、
まだ習ってもいないのに、魔法を使い始めて、
それも詠唱もせずに何となくで使えちゃう
って状態の事なんだけど。
大体ひと月から半年で治まるんだけど、
その間が大変なのよね。
まだ小さいのに魔法でどっかに行っちゃったり
魔法で火をだして火遊びしちゃったり、
水魔法で家中びしょ濡れにしちゃったり、
風魔法で風を起こして家具を倒しちゃったり、
土魔法で、家の中で泥遊び始めちゃったりで、
それはそれはもう大変なのよ・・・。」
「そんなに大変なの・・・?」
梨華があまりに
実感のこもった様子で言うので、
琉斗が不思議そ〜うな顔で聞く。
「そうよ〜。
だから、魔法使いじゃない親の元に
魔力の強い子どもが生まれると
対処のしようが無くて、暴走の期間だけ
魔法使いの元へ預けてしまうとか、
捨てられてしまう事もあるんだ・・・」
「そうなんだ・・・・・・」
今度は悲しそうな顔で言う梨華に、
琉斗も同じような顔になる。
それを見て、梨華は慌てて楽しい話題に変える。
「・・・まあ、それは置いといて!
覚えてる?
琉斗は、二歳四ヶ月の時に暴走したんだげどね。
雪の絵が描かれた絵本を見て
雪を振らせちゃったりしてね!
そのあとは、雪合戦と雪だるま作って遊んだんだよ!
部屋の中でやったから
後でそうとう叱られたんだけどね。」
そして、暗い話題を変えるために話した物が、
途中からその時の事を思い出して
本当に楽しくなって来て笑いながら話す。
「うん!何となく覚えてるよ!」
その梨華の様子と、思い出話に、
琉斗も楽しそうに笑って言う。
「そっか!
じゃあ、海と砂浜の話しをしたら
琉斗が砂をいっぱい出して来て、
二人で砂のお城作ったのって覚えてる?。」
「うーん・・・ううん。
それは覚えてないや!」
琉斗は、その問には首をかしげて少し考えて、
首を横に振る。
「そっか〜!
あの頃は、まだ小さかったもんね〜!」
なつかしそ〜うに目を細める梨華は、
実にしみじみと言う。
初めて会った時、まだ一ヶ月だった琉斗。
毎日のように刺客が襲って来て、
乳母であるアンの食事にも平然と毒が仕込まれ、
何度も危機的な状況に陥りそうになったあの頃。
あの頃は、琉斗は五歳まで生きられないだろうと
王宮内でも貴族達の間でも言われていた。
そんな琉斗が今日、五歳の誕生日を迎え、
これから味方になってくれそうな人も出来た。
「・・・・・・ほんとに!
あの小さかった琉斗がこんなに大きくなっちゃって!
・・・・・・ほんっとによく大きくなったわね!」
これまでの事を思い出して
感極まってしまった梨華は琉斗をギュッと抱きしめる。
「・・・どうしたの?」
琉斗はその梨華の急な行動に、不思議そうな顔で聞く。
「ううん。何でもないの。
・・・ただ、嬉しかっただけなのよ。」
「嬉しかった・・・?」
「うん。嬉しかったの!
琉斗がこうやってちゃんと成長してくれて。
ありがとう、琉斗!
それから、お誕生日おめでとう!」
「・・・・・・!
うんっ!ありがとう!」
言葉通りに、嬉しそうな笑顔で言う梨華に、
琉斗も不思議そうだった顔を、
笑顔に変えて抱きしめ返す。
二人はそうしてしばらく抱きしめ合い、
しばらく立ってから梨華が思いだしたように言う。
「・・・ああ、そうだ!
誕生日プレゼントがまだだったわね!
ちょっと待ってなさい!
今持ってくるからね!」
「うん!」
梨華はそう言うと、
座っていたソファーから立ち上がり、
棚からプレゼントを取ってくる。
「はい!
お誕生日おめでとう!」
梨華は、戻って来るとそう言って、
柄の入った包装紙に包まれ、
リボンが付けられているプレゼントを手渡す。
「ありがとう!
開けて見てもいい?」
嬉しそうにお礼を言う琉斗は
待ちきれないといった様子で尋ねる。
「もちろんよ!
どうぞ開けて見て。」
その様子に梨華も嬉しそうに
ニッコリと笑って勧める。
「うん!」
琉斗は頷くとすぐに包装紙を綺麗に破き、
中のプレゼントを取り出す。
「・・・わああ!?凄い!」
プレゼントの中には、
六十色もの色鉛筆とスケッチブック、
それに、絵日記帳が入っていた。
琉斗は、驚きの声を上げて
色鉛筆が入れられている缶ケースの蓋を開け、
中で、きっちり綺麗に揃えられている
色とりどりの色鉛筆を触る。
「・・・・・すっごく綺麗!
いっぱいの色がたくさん並んでる・・・!」
琉斗は、そう感動した様子で言った後、
色鉛筆を何本か取り出して、
しばらく無言で眺める。
「どう、かな?」
梨華は、琉斗の意識が
こちらへ戻って来るのを待ってから、
少しドキドキしながら聞く。
「・・・使って見てもいいかな?」
琉斗はそれに、答えの代わりとして
そう聞いて、応える。
「うん!もちろん!」
梨華がそう言って頷くと、
琉斗はすぐに何本かの色鉛筆と
スケッチブックを持って、
何故か梨華に、描いている絵が
見えないようにして描き始める。
梨華はそれを不思議に思いつつも
琉斗が描き終わるまで
琉斗の真剣そうな顔を黙って見ている。
しばらくすると、時折チラチラと
梨華の事を見ながら描いていた
琉斗がその手を止める。
「描き終わったよ!
これあげる!」
そして、スケッチブックから
絵が描かれたページを一枚綺麗に破って
そう言って琉斗が差し出して来た
一枚の絵を見た梨華の顔は、驚きの表情に変わる。
「・・・・・・・・!
・・・・・・これ・・・!?」
そして、次の瞬間には感動の表情に変わり、
目を嬉し涙で潤ませる。
「・・・・・・ありがとう・・・
すごく上手く描けてるよ!
ほんとに感動しちゃったぁ・・・!」
梨華は、そう言いながら
その、自身の似顔絵が描かれ、
その下には『ありがとう』という文字が書かれた
その絵を大事そうに、
くしゃくしゃにならないようにそっと胸に抱える。
「喜んでもらえてよかった!」
自分が描いた絵を大切そうに抱える梨華に、
照れて恥ずかしそうにしながら
琉斗は綻ぶような笑顔で言う。
「うん!本当に嬉しいよ!
・・・琉斗の誕生日なのに
お姉ちゃんの方が素敵な
プレゼントを貰っちゃったような気がするなぁ。」
いいのかなぁ?といった雰囲気で
首をかしげてそうつぶやく。
「いいんだよ!
だって、お姉ちゃんのお誕生日を知らなくて
お誕生日祝い出来なかったもん!」
だから、そのプレゼント!
そう、笑顔で言う琉斗に、
そういえばそんなことも有ったと思い出す。
そういえば、この間琉斗に初めて
誕生日を聞かれて、しばらく自分でも忘れてた
って事に気づいたんだよね〜
それで教えてあげたら、
もう今年の誕生日は終わってるって知って
琉斗は残念そうにしてたっけ。
そっか!それで。
「ありがとね〜!
ちゃんと覚えててくれたんだ!
お姉ちゃんもっと嬉しくなっちゃった!」
梨華はニコニコと笑ってそう言いながら
琉斗の頭を優しく撫でる。
「えへへ。
僕も嬉しかったよ!
絵日記帳も大事に使うからね!」
「うん!
そうしてくれるともっともっと嬉しいな!」
こうやって琉斗の五歳の誕生日は
最後は和やかに終わった。




