魔法と王妃様
自室から一番近い王宮の庭園に向かった二人は、
その広大な庭園の開けた場所に到着すると、
梨華が明るく弾んだ声でそう告げる。
「・・・うん!ここら辺で大丈夫かな?
じゃあ、さっそくだけど見せてくれる?」
「うん!いくよ!
『火よ 火の精霊よ
その偉大なる力をもって
我に小さな火を授けたまえ』!」
琉斗は、その言葉に軽く頷くいて了承すると、
魔法の中で一番簡易な魔法である
基本魔法の一つである火属性の魔法の呪文を唱える。
すると、琉斗の手から手のひらサイズの小さな火が出て、
「うわあ!すごいじゃん!
琉斗が魔法で火を出してるよぉぅ〜!」
梨華は感嘆の声を上げ、
あまりにも驚きすぎて
最後には変な喋り方になってしまっている。
まだ詠唱省略や無言呪文を使えないために
正式な呪文の詠唱をしているが、
それもまだ幼い声で
この長くて難しい言葉を使っていることにも
感動し、涙まで溜めている。
「へっへーん!
すごいでしょー!」
琉斗は、その感動っぷりに嬉しそうにして、
火を消して、腰に手を当て胸を張る。
「うん!・・・うんっ!
ほんっ・・・とに!すごいよ・・・!」
梨華は、感極まって琉斗に抱きつき、
頭や背中を撫でながら抱きしめる。
「わ!ちょっとお姉ちゃん!
喜びすぎ〜!」
琉斗は、そう唇を尖らせて言うが
自分も嬉しそうに頬を赤くしている。
「だってうれしいんだもん!
あんなに小さな赤ちゃんだった琉斗が!
もう、魔法まで使えるようになってるんだよ~!
すごいじゃな~い!もうほんっとに!」
梨華は、琉斗の頭を
くしゃくしゃと撫でて興奮気味に言う。
「もうっ!大げさだよ〜!」
むぅ。っとさらに唇を尖らせる琉斗を
「そんなことないって〜!ほんとに成長したね〜!」
むぎゅーと抱きしめていると、
「あ!」
と、突然琉斗が声を上げる。
琉斗を前から抱きしめているので、
私の背中方向を見ている琉斗は、
私よりもいち早く気づいて少し間抜けな声を上げる。
そして、琉斗はこんなことを言う。
「王妃様だ!」
ピキン
その言葉に凍りついた私は、
ギギギと音を立てそうな感じで振り向いた。
「あら、どうされたのですか?
お二人ともこんなところで。」
するとやっぱり、
息子で第二王子の翔斗を連れた王妃様がいた。
「え、ええっと・・・これはその・・・」
王妃様に何かを尋ねられると
何も悪いことや不都合なことをしていなくても
何故か言いよどんでしまう。
「・・・?何かされていたのですか?
私に言えないようなことを?」
そう、訝しげに問いかける王妃様。
そんな風にじっと見つめられると
悪いことをした気になって
全部白状してしまいそうになってしまう。
いや、今回は別に、
何も悪い事とかした訳でもないんだけども。
ここは、素直に言ってしまおう。
「えっと、ちょっと喜びすぎてしまいまして。
それというのも琉斗が
魔法を使えるようになって
それを見せてくれたからなんですけど・・・」
うん。これでよし。
琉斗が魔法を使えるようになった。
なんて事はすぐに王妃様の耳にも入るだろうし。
(なにせ魔法の家庭教師は王妃様陣営なもんで。
魔法はきっちり教えてくれるが、
その代わりと、琉斗の授業での様子を
逐一報告しているのだ。
まあ、実害はないし許容範囲なので見逃している。
というか、まだ全然マシな方だ。
他の方々が送ってくる奴は冗談抜きに命に関わる。)
という訳で、別に今伝えても大丈夫のはず。
「あら!まあ、そうなのですか!?
それは素晴らしいことですわ!
もう陛下にはご報告なされましたか?」
王妃様は、口元に手を当てて目を見開いて驚き、
そう聞いてくる。
「いいえ、まだですけど・・・
そのうち伝わるのではないでしょうか?」
「ええ、そうでしようが
こういう事は出来るだけ速く伝えた方がよいのですよ。
陛下もお喜びになられるでしょうし。」
「そういうことなら・・・
えっと・・・・・・」
私が伝えればいいの?
琉斗と一緒に?
それとも、誰かに伝えてもらえばいいの?
「・・・どうすればいいのでしょうか?」
「・・・そうですね・・・」
王妃様は、しばし考えてから
「・・・今から陛下に会いにいかれてはいかがですか?
この時間は、何も予定がないはずですよ。」
ニッコリと微笑んでそう提案してくる。
「えっ・・・!と、約束もなしに
王様にお会いしに行ってもいいのでしょうか?
その・・・琉斗だけならまだしも
私は、今は控えるべきではないのでしょうか?」
琉斗達が、もうすぐ王太子を選ぶ年齢の
五歳になる今は、政情が安定していない。
そんな時に不審な行動をとれば、
貴族や王族達が動き出してしまうのではないか。
そんな不安を王妃様に伝えてみる。
「いえ、大丈夫ですよ。この場合は。
とても、大切で大事なことですから。」
そんな不安をかき消す様に、
諭す様に言われてしまえば反論はできない。
まあ、元々反論するつまりなんてなかったんだけど。
「・・・それならいいんですげど・・・
ちなみに、今王様はどこにいらっしゃるのですか?」
「おそらく、謁見の間だと思います。」
「謁見の間・・・ですか。」
うわぁ・・・あそこ苦手だなぁ
そう思いながらもこう言うと、
「・・・分かりました。
では、今から向かわせて頂きます。」
「ええ。いってらっしゃいませ。
琉斗王子、父上にたくさん褒めてもらうのですよ。」
王妃様は、今度は琉斗に目線を合わせ、そんな事を言う。
「はい!分かりました!王妃様!」
琉斗は、外行きの声と笑顔でそう答える。
「・・・では、行ってきます。」
私は、それを見届けると
そう王妃様に告げて琉斗を連れて立ち去ろうとする。
「・・・あの・・・兄上。
おめでとうございます。」
そこへ、今まで黙って見ていた
第二王子の翔斗が、おずおずと口を開く。
「ありがとう!翔斗!」
「・・・あ、兄上!
えっと・・・その・・・
僕にも兄上の魔法を見せてくれませんか?」
上目遣いにチラチラと琉斗を見ると
翔斗は、ためらいがちに尋ねる。
「いいよ!」
「本当ですか!?」
すぐに頷き、了承した琉斗の言葉に、
驚きと期待の入り混じった声と表情で聞き返す。
「うん!もちろん!」
それに琉斗は、再度大きく頷き答える。
「・・・それじゃあ少し離れてくださいね。
危ないですから。」
本当に危ない。
もし、怪我でもさせたら、というか怪我させなくても、
でっちあげられでもしたら大変だ。
「はい!分かりました!」
翔斗は、そう言うと王妃様と共に後ろに下がり
琉斗から離れる。
「じゃあいくよ!
『火よ 火の精霊よ
その偉大なる力をもって
我に小さな火を授けたまえ』!」
先程と同じ様に琉斗の手から小さな火が出る。
「・・・うわぁ・・・!すごい・・・!
兄上!すごいです!」
「・・・本当に素晴らしいですわ・・・!」
「えへへ・・・そうかな?」
その感嘆の声に照れ笑いしながら言う琉斗に、
「ええ、とても。」
王妃様は、微笑んでそう答え、
「はいっ!とってもすごくてかっこよかったです!
僕も兄上みたいに早く使えるようになりたいです!」
翔斗は、目をキラキラと輝かせて言う。
「それなら、魔法の授業を
しっかりと受けなくてはいけませんね。」
「はい!母上!がんばります!」
「ええ。そうしてください。」
大きく頷き決意を表明する翔斗にそう答えると、
「それでは、私達はこれで失礼いたします。」
王妃様は、そう告げる。
「ああ、はい。
私達もこれから陛下の元へ行ってまいります。」
「ええ。それでは・・・」
王妃様は、優雅にドレスの裾をつまみ、
軽く持ち上げ挨拶をする。
「はい。それじゃあ・・・」
二人はそう言うと、それぞれ
「では、翔斗。行きますよ。」
「はい、母上!」
「じゃあ行こうか。琉斗。」
「うん、お姉ちゃん!」
そう言って手を繋ぎ別々の方向へと歩いて行く。
はぁ・・・つかれたぁ・・・
しっかし・・・・・・
・・・本当に王妃様は何を考えているか分からない。
やっぱ苦手だなぁ・・・
梨華は、そんな事を思いながら
琉斗と共に謁見の間へと向かう。
そこで、重大な出来事が待ち受けているとも知らずに・・・




