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13章 スクールライフ  三時限目 サボり

*教室の戸を閉めて、廊下を走って角を曲がり、一気に階段を駆け下りる。



「……二人してどっか行こうとする理由そろそろ教えてくれる?」



和火が口を開いたのは、校舎を出たあたりの時。



「悪霊が、いるの


 ……私たちの後ろから追いかけてきてる」





走る速度を少しも緩めず答える。


とはいえ、背中に剣を背負っている時点で、


和火もある程度状況は理解しているのだろう。


悪霊の気配は背後に感じる。


これでは、今から和火を教室に返しても悪霊とはちあわせするだけだ。


このまま一緒に行動した方が和火も安全だろう。


中庭の噴水を通り過ぎたあたりで、慧が小さく舌打ちをした。


悪霊が追いかけてくるスピードが思ったよりも早いのだ。


どうやらこの世界に存在する者よりも性質たちの悪いもののようだ。


おそらくハルナが言っていた異世界から紛れ込んでしまった悪霊たちに違いない。


異世界のの濃密な霊気を吸ってきたものたちばかりだからこそ、


こうして昼間から行動できるし


移動スピードも、おそらくその他の能力も数段普通のものよりも強いのだろう。


もたもたしてはいられない。



「どこに悪霊どもをおびきよせるつもりだ?」


「体育館っていう建物の裏。


 そこなら人目もないと思うし」


「体育館だと、他のクラスが体育をしているかもしれないだろ。


 道場にしたら?」



なるほど。


放課後まで道場に寄りつく人はそういない。


剣道部だからこそ出来る発想だ。



「そうする」



進行方向を変え走り続ける。


そうして、剣道場についた。


他には誰もいない。


和火の髪の毛先が陽光を浴びて白く透けている。


視線を感じたのか紫の目がこちらを見た。


真正面から目が合ってどきりとする。



「撫子、何?」



目をそらす。


まっすぐは見られない。



「和火は……その目と髪の色、他の人からなんか言われなかった……?」



すぅっと和火が目を細めた。


撫子は聞いたことを後悔した。


聞かれたにきまっている。


特に家族の人がほっとくはずがないだろう。


和火が口を開いた。


しかし、撫子はそれを自分でさえぎることになった。



『跳躍!!』



両隣にいる男子二人の腕をひっつかみ、強く地面を蹴って跳ぶ。


数秒のち、撫子たちがいた地面を黒いモノがえぐった。



撫子は道場の屋根の上にふわりと着地した。


視界の端を銀色になった自分の髪がよぎる。


おそらく目も鮮やかな青に輝いているだろう。


この姿を人に見られる前に終わらせないと。


地面に視線をやると、やはり黒いマルモのような悪霊がいた。


それも5、6体いる。


思っていたよりも多い。


しかし、これでこちらの計画通り、ここまでおびきよせることができた。



「すまねえ」


「大丈夫だよ」



慧に返事をし、ざっと周囲に視線を走らせる。


よし。人はいない。


やるなら今だ。


しかし、そこで、和火がこちらをじーっと見つめていることに気付いた。



「な、何、和火?」


「おまえの目、なんかちょっと青っぽく光ってない?」


「……あ、うん。


 言霊を『話し』た後はいつもこんなかんじ」



目を伏せる。


言霊を『話し』た前後のこの自分の見た目はあまり好きじゃない。


そして、気付く。


今まで和火の前で何度も言霊を『話し』てきたけれど、


それはいつも緊迫した状況の時ばかりだった。


白夜に襲われたとき。


妖魔に襲われたとき。


だから、撫子の見た目なんかに注意を払う余裕なんてなかったんだろう。



「綺麗。


 その色、好き」



唐突な言葉に撫子は目を見開いて、和火の目を見た。


生まれて初めて自分の容姿を褒められたので、


どう反応すればいいのかわからず戸惑う。


どうしよう。


すごくすごく嬉しい。


胸がぎゅっとなってほわほわと温かい。


和火の目は、陽光の光の加減で、今は少し緑がかって見える。


自分が変えてしまった和火の容姿。


その目の色、私も好きだよって言ったら、和火は怒るだろうか。



「和火、ありが――――――」





ドフォッ





慧の左回し蹴りが炸裂し、和火の体が勢いよく吹っ飛び屋根の下に落ちた。



『げ、減速!!』



反射的に言霊を『話し』、


和火の体が重力に逆らってふわりと地面に着地したのを確かめてから


慧に向き直った。



「何するの慧!!


 危ないじゃ……って、なにその顔!!


 なんで慧が怒ってるの!?」


「……しるか、うつけ」



シュリン、シュリン、と二度刀を抜く鋭い音が聞こえた。


見れば和火が刀の鞘をそっと地面に置いたところだった。


和火の目が鮮やかな緑色に輝くのが遠くからでも見えた。


悪霊が和火の刀のわずかな霊力に反応してそちらにゆっくりと近寄っていく。


もう、撫子は和火にやめて、と言うことをやめていた。


どうせ止めても和火は撫子を助けてくれる。


むしろ止めた方が無茶をするに違いない。


それならば、自由にしてもらった方がいいだろう。



「……おれは、先に行くぞ」


「うん」



慧はバチチッと甲高い音を立てて右手に両手に電光を這わせると、


一瞬で雷の霊力でできた短槍を生み出した、。


それを握りしめると屋根を蹴り、すぐにその姿は屋根の下に見えなくなった。


いつみても、鮮やかな手並みである。


悪霊退治には慣れているからこそ、あんなになめらかに一連の動作が出来るのだ。


慧に減速の言霊は必要ないだろう。


まるで軽業師のような身のこなしができるのだから。




『精製』




脱力感と共に、倦怠感が全身にまとわりつく。


代わりに、身の内にあった霊力が浅葱色の霧となって具現化し、


撫子の右手に吸い寄せられ何かを形作りはじめた。


優美な弧を描く三日月だ。


うっすら浅葱を帯びた刀は、月のごとき輝きを放っている。


陽光をとらえてまぶしく輝く刀身に目を細めて、ぐっと刀のつかを握りしめる。


そして、下の様子を覗き込むと、ちょうど慧がド派手な電光を


寄ってきた悪霊にお見舞いしようとしている所だった。



「ちょ……!!


 派手なことはしないで!!」



ここはまっ昼間の学校だ。


万が一でも音に気付かれて、


誰かがこちらに様子を見に来たら色々と面倒なことになる。


撫子もあわてて屋根を蹴って減速の言霊を『話し』て、下へと舞い降りた。



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