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13章 スクールライフ  一時限目

実は少し前から、『十六夜の宴』というお話を掲載しております。

とはいえ、この物語の一部を抜粋したものなのですが……

よかったら読んであげてくださいませ。(ぺこり

*一時間目は古典だ。


慧は教科書を持っていないので、撫子と机をくっつけて教科書を見せてもらうことになっている。


こうして机をくっつけることなんて小学校以来だ。


なんだか慧との距離が妙に近く感じられて少しどきどきする。


動揺を隠すように教科書を手早く二人の机の間に開き、


シャーペンとルーズリーフ数枚を慧に手渡す。


慧はシャーペンに興味津々だ。


異世界では筆で字を書いていたから珍しく映るのだろう。



「これは……かんざしか?」



意外な発想に目が点になる。


どうやら、シャーペンのツヤと派手な色合いでかんざしだと推測したようだ。



「違うよ。


 これはね、シャーペン」


「しゃーぺん……?」


「この世界の筆みたいなものだよ」


「……へえ。


 随分と派手な装飾の筆だな。


 それに、こんなに上等の紙、使ってもいいのか」



異世界では和紙が主な紙だ。


表面がツルツルしているルーズリーフは上等な紙に見えるらしい。



「どうぞどうぞ


 ……あ」



チャイムが鳴った。


見ればいつの間にか先生が教卓の前に立っている。


起立、という号令がかかり、あわてて隣の慧の腕を引っ張って立ち上がらせる。


礼、と号令がかかると、見よう見まねでおずおずと慧も頭を下げる。


そんな慧がなんだかかわいい。


着席、の声がかかり、今度は慧の袖を引っ張って座らせる。



「……授業の前には今みたいに皆で礼をするんだよ


 挨拶みたいなものだから。


 先生によろしくお願いします、っていう意味でやるの」


「……わかった」



二人が小声で話す間に授業が進んでいく。


今日の授業は枕草子をやるはずだ。


しかし、困った。


慧にはさっぱり内容がわからないだろうから、


授業を聞いていてもつまらないだろう。


どうしよう、と思っていたら、慧がちらりとこちらを見やった。



「……教師があの緑の壁に書いているものを、この紙に書き写せばいいのか?」


「え、う、うん……」



わかった、と低くつぶやくと、


慧は静かに黒板に書かれている枕草子の本文を書き写し始めた。


異世界では槍を握った手が今はシャーペンを握っているのが不思議なのと同時に


妙に様になっていて思わず唇に笑みが浮かぶ。


どうせわからないから後でノートを写させろとか、諦めて寝るとか言わない。



「……慧のそういう所、好きだよ」



何気なく思った言葉が自然と口をついて出た瞬間。




どんがらがっしゃーんっっ




背後からけたたましい音がして、撫子はびくっと肩をはねさせた。


慌てて振り返ると、そこには椅子ごとひっくり返っている和火の姿があった。



(え、和火!?)



「おい、四条!!


 正しい姿勢で座らないからそうなるんだ!!


 ちゃんと椅子ぐらい座れ!!」


「……すみません」



和火は先生に返事をしたが、なぜかひっくりかえったまま動こうとしない。


和火が勇介と呼んでいた隣の席の田中君が


彼を助け起こそうとそっと差し出した手をぺしっとはたき落としてまでだ。


その視線はなぜか撫子に固定されている。



(……た、助けろよ、ってことかな)



先生がこちらを見ていないのを確認すると、撫子はしぶしぶ席をたって


和火のかたわらに膝をついた。



「……かず……じゃない、四条君、だいじょ……!?」



腕を引っ張って起こそうとしたが、逆に腕を強く掴み返されて、


おもいっきり和火の上にのしかかる体勢になった。


あわてて和火の胸あたりに手をついて離れようとしたが、


その手は放してくれそうにもない。



「ちょ……!!」


「……なんで、四条に戻ってるわけ、呼び名」


「いや、ここ学校だから呼び捨てはまずいでしょ、っていうか、放して……!!


 今、授業中だよ……!!」


「それがどうした。


 ……ああ、そっか。


 つまり、授業中じゃなかったらこうしてもいいってこと?」


「違うし……!!


 顔近っ!!


 近っ!!」



ぐぐぐぐぐぐと近づいてくる和火の顔が不意に離れた。


お腹にたくましい腕がまわってふわりと体が浮き、


ぽすんと自分の席に座らされる。


見れば、ちょうど慧が撫子からひっぺはがした和火の胸ぐらを掴み、


無言で彼を床から起こしている所だった。


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