13章 スクールライフ ホームルーム
*今日の朝日もまぶしい。
「転入生の慧君です」
先生がいつもと変わらぬ調子でそう言った。
(しまったぁぁぁああああああああああっっ!!)
朝のショートホームルーム。
クラスメイト達は季節外れの転入生にざわついている。
主に女子が。
ヤバくない?超カッコよくない?というひそひそ声が飛び交っている。
なるほど……慧はカッコいい……らしい…………い、いや!!そうではなく!!
(慧の……名字考えるの……忘れてた……)
不覚である。
慧は捨て子で、どこの一族出身かもわからないので名字が分からない。
昨晩の一悶着のせいですっかり忘れてしまっていた。
しかし、ハラハラしている撫子とは対照的に、クラスメイト達は、
慧がただの「慧」であることになんの違和感も持っていないようだ。
恐るべし幻術の力。
「席は……水無月さんの隣がいいかしら。
佐藤君、変わってくれる?」
「はい」
ぎょっとして先生の顔を見たら、どこか目の焦点が合っていない。
席を移動しようとしている隣の佐藤君もだ。
これは幻術にかけられている人の特徴の一つだ。
なんでそんなどうでもいいところにまで幻術の力を使うのだ、と、
慧に避難の視線を送ったが、本人は眉一つ動かさずに撫子の隣の席に座った。
無駄なところに高等な幻術を使わないでほしい。
慧は現在、幻術で和火の制服をまねたものを身に付けている。
腰にセーターを巻き、カッターシャツも着こなしていて、
この学校の生徒にしか見えない。
……そのシャツの開放っぷりさえ除けば。
「け、慧!!」
ホームルームがまたいつものように始まる中、
小声で彼を呼び、あわてて彼のシャツの袖をひっぱり、こちらに向かせる。
「なんでボタンまた開けたの……!?
しかも四個も……!!」
「ぼたん……?
とにかく、この衣、窮屈で仕方がねえんだよ」
異世界でのゆったりとした着物を毎日着ていれば、確かにそう感じるだろう。
しかし、これは目立つ。
秋だというのにその腹筋が見えるほどにシャツを開放している。
もはや、服が服としての役割を果たしていない。
これでは風邪をひく。
というか目立ちすぎる。
「ボタン留めて……!!」
「これのことか……?」
ひどくたどたどしい手つきで慧がボタンに手を伸ばす。
そうだった。
慧はボタンもあまりとめたことがないのだった。
あの世界ではボタンなど存在していなかった。
「じゃあ、私がとめるから、慧、もうちょっとこっちに――――――」
めきょっ
背後から不気味な音が聞こえた。
慧のボタンに手を伸ばしかけた撫子は動きを止めた。
「お?
どうしたの和火?」
「……勇介、おれ、シャーペン折っちゃったから、一本貸してくれない?」
「え?
芯じゃねーの!?
本体折っちゃったの!?」
「ちょっと……胸糞悪い会話が聞こえてきたから、手に力が入っちゃって」
……今の背後の会話は聞かなかったことにしよう。
怖すぎて後ろを振り返れない。
撫子が意を決して慧のボタンを留めだすと、
今度は周囲から好奇の視線が突き刺さってきたのだった。