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12章  お土産もついてきました 続き

*「……しこ。


 撫子」



和火の声だ。


体を軽くゆすられて、意識が軽く戻ってきた。


むき出しのふとももがひどく冷たい。


背中の下に腕がさしこまれているのを感じる。


どうやら、抱き起されているようだ。


すっと目を開けたら、時計が七時を指しているのが真っ先に見えた。


そして、抱き起してくれている和火の顔を見やる。


……時計!!


身を起こそうと手をついたら、冷たい床に指が触れた。


むき出しの木の床じゃない。


塗料が塗られた体育館の床。


足が冷たいのはこれのせいだ。


バスケットゴール。


電子掲示板。


むきだしの土壁はどこにも見当たらない。


胸が痛くなるほど、懐かしい。



「戻って……来れたの……?」


「みたいだな……」



和火は声と同じくらい不満げな表情だ。


撫子は安堵のあまり全身の力が抜けてしまったというのに。


なんでだろう。



「……なに、アレ」



和火の嫌そうな声に促されて、彼の視線の先にあるものを見やる。



「え……!?」



慧が床に転がっていた。


目を疑ったが、間違いない。


目は固く閉ざされている。


気絶しているようだ。


撫子が転送する時に撫子に触れていたせいで一緒に転送されてしまったのか。


急いで慧の元に駆け寄ろうとしたら、和火の腕がそれを阻んだ。



「……おまえ」



和火の眉間にものすごく深いしわが刻まれている。


これはなかなかに不機嫌な表情だ。



「おれが目を覚ました時に、アレの上に乗ってたんだけど」


「えっ、えええええええ!!」



もはや慧のことを、アレ、としか呼ばないところに、和火の怒りを感じる。



「私、慧の上で気絶してたってこと!?」


「……」


「ねえ、和火!!」


「………」


「……か、和火、まさかや」


「妬いてないから。少しも、ちっとも、全くやきもちとかやいてないから」


「……私、まだ何も言ってないよ」



その時慧がわずかに顔をしかめて呻いた。


意識が戻ってきたのかもしれない。



「慧……!!」



和火は舌打ちをすると、やっと腕を離してくれた。



急いで慧の元に駆け寄った。


遅れて和火もその後を追う。


慧の傍にしゃがみ込み、その顔をのぞきこむ。


慧は眉根をよせると、やがてうっすらと琥珀の瞳を開いた。


闇の中でも輝いて見えるその目がぼんやりとこちらを見た。



「……撫子……と、和火か……?」


「うん。


 ……慧。本当にごめんなさい。


 慧が、私の腕をつかんだまま転送されちゃったみたいで、


 一緒に私の世界に来ちゃったみたいなの」


「……本当か?


 ここが……?」



まばたきを繰り返す慧はまだ状況を飲み込めていないようにも思える。



「愉快よのう」



上から、美しい、明らかに面白がっている声が降ってきた。



「は、ハルナさん!?」


「ハルナ……?」



撫子と和火は同時に声を上げた。


一月ぶりに見るご先祖様である神様。


闇の中でも美しい金髪を風に遊ばせている。


せっかくの美人がニヤニヤで台無しだ。



「奇矯なことよの。


 あやまって別の者もこちらへ参るとは」



二人はそれを聞いて確信した。


ハルナはわざと慧をこちらの世界に連れてきたのだと。



「ああ、すまぬが、次の月が来るまでは、そやつ、帰れぬぞ」



全然すまなそうに思っていない口調。


ハルナのニヤニヤがさらに深くなる。


明らかにこの状況を面白がっている。


しかし、話が本当なら、慧は少なくとも、


あとひと月はこの世界にいなければならないということになる。


ようやくどうしてハルナが先程の転送の時に姿を見せなかったのかがわかった。


このニヤニヤを見られて、慧も巻き込む気なのを悟られないようにするためだ。



「わらわが知り合いの時の神に頼んで、そなたらがあちらに転送される前と


 まったく同じ日時に転送してやった。


 つまり、時は少しも経っておらぬ。


 わらわに感謝するのじゃな」



空中でふんぞりかえるハルナに、おずおずと聞いてみる。




「じゃ、じゃあ、慧が帰るときも、同じ日時に帰せますよね……?」


「さあ、どうであろうか。


 転送の術は、清き月光を媒体にするゆえ、


 月が雲などに隠れては転送の術をできぬよのう?」



(ハルナさん、絶対、天気の神様とかにお願いして、一か月後の上弦の月の日も


 雨降らせたりする気だ……!!)



なかば絶望すら感じていると、和火がすっと撫子のそばにしゃがみこんだ。



「ハルナ。


 ……こいつをなんでこっちの世界につれてきたわけ」



吐き捨てるような口調に、和火の怒りを感じる。


しかし、ハルナはそれに機嫌を悪くするどころか、ますます嬉しそうに笑った。



「慧とやらは、そなたよりだいぶと、はんで、とやらがあるからのう」


「はぁ?」


「ちと不憫に思ったのみの事。


 撫子も多少とはいえ、過去の記憶に引きずられたからのう。


 ……ああ、そういえば、空間のひずみにまぎれて、


 妖魔が数匹と悪霊もいくらあこちらの世界に侵入したようじゃ。


 討伐を頼むぞ。


 慧とやらの世話もしてやるがよいぞ」



そう言うと、じゃあね、と言うう感じでひらりと手を振ると、


ハルナはすうっと空気と同化するようにして消えて行ってしまった。


数秒の沈黙。


撫子は嘘みたいな展開にばたりとあおむけに倒れた。


















なめことわかめ、ふらいあうぇいしたら、あぶらあげがついてきました。


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