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11章 求めたもの 続き

*和火の目はただの紫色じゃなくなっていた。


光の加減によっては若干緑がかって見える。


とても綺麗だ。


ブドウとマスカットのキャンディーみたいだな、と思っていたら


すっとその目が伏せられる。


布団の上に横たわっている撫子の頬に和火の包帯が巻かれた右手が伸びる。


同じくいつも包帯が巻かれていたタスクの手とダブって見えた。



「……どこにも行かないよな」



いつもの和火とは違う頼りない声に、撫子は一瞬きょとんとした。


和火の指はその間もゆっくりと撫子の頬骨の上やあごのラインをなぞっている。


なにかを確かめるかのように。


不安にさせてしまったんだ、と気づく。


撫子は少し迷った後、そっと自分の手を和火のそれに重ねた。



「私は、ここにいるよ」



それでも、和火の目はまだ伏せられたままだ。



「ねえ、和火。


 私たち、次の上弦の月の夜に元の世界に帰れるよ。


 一緒に、帰ろうね」



そう言って笑いかけたら、和火がこちらを見た。


しかも笑いかけてくれた。


しかし、その眉間におそろしいまでの縦ジワが刻まれているのを見てしまった。


これは……笑いかけてくれているのではない。


……憤怒の表情だ……!!



「へええええええええええええええええええええ」



……元気になったのは非常に結構なのだが、


人のほっぺたを全力で容赦なくむにゅむにゅするのはやめてほしい。


さっきまでの優しい手つきはどこへいったのだ。



「元の世界に『おれだけ』帰すためだけに、一人で死のうとしたんだもんな。


 へえええええええええええええええええええええええええええええええええ」


「きゃずひ。きゃずひ。


 まじでいひゃいれす」


「うるさい黙れこの大ばかばかばかばかばかなめこ!!!!


 おれは今怒っているんだ!!!!」



限りなく控えめに言ったというのに、ものすごい剣幕で怒鳴られた。


ついでにほっぺたもむにゅーうっとされる。


めちゃくちゃ痛い。


ほっぺたちぎれる。ちぎれます。


痛い。いたたたた。


和火はしばらくなおも、むにゅむにゅした後、ようやくほっぺたを解放してくれた。


しかしそれでもまだ怒りがおさまらないらしく、


魂が抜け出そうなほど深いため息をつくと、自分の眉間をおさえている。


それだけ心配をかけてしまったと申し訳なくなったが、


それと同時にこれだけ自分を心配してくれる人がいることがとてもうれしい。



「……カゲミツキノミコトとかいう女の人から、


 おまえの夢の事とかだいだいのことは聞いた」



(ハルナさーん!!)



道理でハルナが具現化できないのだ。


霊力を有さない和火の精神に干渉して、


その精神内で存在を保つのに多量の霊力を消費したのだろう。


そこまでして彼女は何を和火に伝えたかったのだろう。



「……おまえ、おれが先祖の記憶とかのせいでおまえと一緒にいたりした


 好きになったりしたとか思ったわけ?」



(はっ、ハルナさーん!!!!???)



このおせっかいいらなさすぎる。


白夜との取引の事だけでなく、和火の事で悩んでいた事まで話したのか。


……今すぐ気絶したい。



「ばーか」



……き、気のせい。


きのせいだこれは。


徐々に和火の顔が近づいてきているとか。



「おれは、元の世界にいた時から、おまえのこと、気になってた」



……近い。


近い近い近い。


何故そういうことを鼻と鼻がくっつきそうな距離で言うのだ。



「あ、あの、和火、ちか……」


「改めて言う。


 おれは前からおまえのことが好―――――――――」



「せつどぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」






ドゴッ






肉をうつ鈍い音と共に、和火の体が残像を残して真横に勢いよく吹っ飛んだ。



「あ、茜!?」



和火がいた所にすちゃっと着地したのは、茜だ。


どうやら和火に向かってタックルらしきものをかましたらしい。


ごめんね和火でも私慧お兄ちゃんの初恋の成就を応援してるの、


とかわけのわからないことを床に突っ伏している和火に叫ぶと、


彼女は撫子の手をガシッと握った。



「撫子大丈夫!?


 どこまでされた!?」


「どっどこまで!?」


「……しようとしたら、ぶっとばされた」


「よし、じゃあ大丈夫だね!!


 よかったあぁ~」


「……おれは肉体的にも精神的にも大丈夫じゃない」


「撫子、痛い所とかはない?」



和火のことをガン無視である。



「か、体が少し重いだけだよ」


「それは霊力の消費のし過ぎだから、


 もう少し寝てろって慧お兄ちゃんが言ってたよ」


「そう言えば、慧は……?」



視線を動かしても、部屋の中に彼の姿は見えない。



「長老様のところに行ってるよ~」



まるでこの前の言い争いがなかったかのような対応である。


もしかしたら、慧が、撫子は茜を巻き込みたくなくて真実を言わなかったのだと


伝えてくれたのかもしれない。



「撫子、もう少し寝たら?」


「そう、しようかな……」



言っているそばから眠たくなってきた。


自分で思っていたよりも疲れていたらしい。


すっと瞼をとざすと、いつのまにか意識はなくなっていた。

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