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11章 求めたもの 続き

*映像が消えた途端、込み上げる感情を抑えきれず、


撫子はあおむけにばたりと倒れた。


それでも興奮を抑えきれず体をごろごろと左右に転がした。



「きゃーっきゃーっ!!


 なんなんですかあのリア充は!!!!」


「……りあじゅうという言葉の意味は理解できぬが、


 なんだアレはという意見には心底同意してやろう………」



げっそりとした声。


撫子とは対照的に、ハルナは今にも吐きそうな顔をしている。



「なんでハルナさん嫌そうな顔をしているんですか!?


 二人は結ばれたんですよ!!


 幸せになったんですよ!?


 両想いですよ!?


 超ラブラブですよ!?


 嬉しくないんですか!?」



一時的とはいえ、セナの心情をこの身で体感した。


だから、喜びもひとしおだ。


どんなにセナが幸せか、誰よりもよくわかる。



「……不憫だと思った。


 ……幸せになってほしいとも願った。


 ………じゃが、なんじゃあの糖蜜をまぶして


 むしろただの糖蜜の塊と化している言葉の数々は!?」



ハルナも力尽きたようにその場に倒れた。


でもその口元はなんだかんだ言って笑っていた。



「白夜さんも……幸せになってほしいなあ……」



ぽつりとつぶやくとハルナに鼻で笑われた。


それもとびきりえらそうに。



「何を案じているのじゃ。


 あやつには蝶がおる。


 それはもう……大切にするぞ」


「そっか……」



たとえこれから先、


セナのように白夜をまっすぐに見て愛してくれる女性が現れずとも、


蝶姫がいれば大丈夫だろう。


彼は、愛されているのだから。



「幸せといったら……そなたもじゃな」



手をついて身を起こすと、ハルナも起きたところだった。


ハルナが笑ってこちらを見ている。


ただ何故だろう。


その笑みは悪役のような笑みにしか見えない。



「そなた、和火とかいう男に想いを告げられたであろう?」



にやり、とハルナの笑みが深くなった。


撫子は行動を停止したあと、一瞬で顔を真っ赤にした。



「な、ななな、なんで急にそんなことを!!!???」


「しかも、そやつが自分を想ってくれているのは、


 あやつの先祖の想いに引きずられているだけで


 そなた自身を好いているわけではないと思っていると」



撫子は呆然とした。


どうしてそんなことまでわかっているのかと問い詰めようとして、悟る。


ハルナは、神、という存在なのだと。



「そう、ですよ。


 だってそうでしょう……?


 和火は……」


「簡単に言うと、そなたは勘違いをしておる。


 和火は、そなたをまことに好いておる。


 あやつは、霊力をその身に有さぬ。


 故に、そなたや白夜のように先祖の記憶に引きずられることもない」



まるで医者がカルテを読み上げるかのように、


ハルナの整った唇が淡々と言葉を紡ぐ。


和火が、私のことを、『撫子』のことを好き……?


じゃあ、今までの行動、助けてくれたことも、


好きだって言ってくれたことも、全部和火の本心からのもの……?



「刀を握ったときに、目が緑になったのは……?」


「あれか?


 刀に元々宿っておる微量の霊力があやつ自身に流れる血が反応して、


 その霊力が手を伝って目に宿っておるだけじゃ。


 案じずとも、先祖の記憶などは一切流れ込んだりしておらぬ」


「……そ、そうですか」



徐々に内容を理解していくと同時に、猛烈に顔が熱くなってきた。


込み上げる感情がなんなのかわからない。



「話は以上じゃ」



ハルナがにやにやしながら言った。


恥ずかしいやらなんやらで撫子は声も出ない。



「そなたの魂をそなたの体に返してやろうぞ」


「こ、これ、夢の中ですか」


「さような。


 わらわは具現化するには少しばかり力が足らぬゆえ、そなたの夢の中におる。


 そなたは気絶しておるからな」



ハルナがそう言った時、一面浅葱色のどこまでも続くはずの空間に、


大きな黒いひびがはいった。


硝子が割れるような音があたりに響き渡る。


見覚えのある現象。


カエデとの逢瀬の時の終わりを告げた時とひどく似ている。


ひびはあちこちに枝分かれして、徐々に広がっていく。



「次の上弦の月夜でまた会おうぞ。


 そなたを元の世界に帰してやろう。


 わらわは少しばかり眠る」



ハルナがすっとまぶたをとざした。


その姿が黄金の霧へと化し、空気に溶けるようにしてサラサラと崩れていく。


そして、ついに撫子の足もとが崩壊した。


人生で二回目のこの浮遊感。


闇の中に浅葱の欠片と共におちていく。


黒を背景に舞い散る花弁のようでひたすら美しい。


まるで幻のように。


おやすみなさい、ハルナさん。


そう呟いた瞬間、意識は真っ黒に塗りつぶされた。

















ぐっと、あるべき所に戻ったような感覚。


戻ってきたのだろうか。


瞼がひどく重い。


体も重い。


でも、起きなくては。


目を開けた。


今、一番会いたくて、会いたくない、和火がすぐそばにいた。



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