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7章  星祭です 続き

*心臓が痛いほど強く脈打った。


何でだろう。


和火の醸し出す空気が、そのまなざしが、声が、いつもと全部違う。


触れたら焦げ付きそうなくらいに熱いのに、とろりと甘い。


怖い。


こんな和火は知らない。



「もう少しっていうか、元の世界に帰ってから言おうと思ったけど、今言う」



怖い。


聞きたくない。


聞きたくない!!



「わ、私、水汲んでくるね!!」



急いで立ち上がろうとしたら、強く手首を掴まれて、


引かれて、和火の体の上に倒れこんでしまった。


あわてて和火の胸を手で押して少しでも距離を取ろうとしたら、


くるりと視界ががまわった。


背中に硬い地面。


遅れて、体勢が変わって、押し倒されているような状態なのだと気づく。


それでも逃げようとしたら、和火が両手首を簡単に拘束して、


撫子の上にのしかかるようにして彼女の動きを封じた。



「……逃げるな」


「やめて、和火……!」


「やだ。


 やめない」



本当は、ずっと前から思っていたけど、最近は考えないようにしていた。


和火が撫子に親切にしてくれるのは、和火自身の意志じゃなくて、


『タスク』の意志なんじゃないかって。


『タスク』は『セナ』を愛していたから、


その子孫である撫子にも好意的なんじゃないかって。



「聞きたくないの……」


「それでもおれは言いたい」



だって、おかしい。


普通、ただのクラスメートを化物から命がけで助けようとしたり、しない。


普通、明らかに危険人物だとわかる白夜にから、


ただのクラスメートを守ろうとしたりしない。


それらの行動は全部、和火が優しいからだって、必死にそう思い込もうとしていた。


でも、夢で知った。


過去の騎士たちの想いが強烈だということを。


騎士たちは、主の巫女姫を愛していたが、一度も結ばれることはなかった。


ただの一度もだ。


もし、その強烈な想いが、


主の巫女姫と結ばれたいという思いが和火に受け継がれているとしたら……?


撫子自身じゃなくて、『セナ』をみているとしたら……?


ああ。


優しく前髪を払ってくれる指が苦しい。


これも撫子じゃなくて、『セナ』への優しさなの?



「和火……」



紫の瞳の奥に、炎が揺れているのが見えた。


撫子はうめきに近い声でつぶやいた。



「お願い……言わないで」



私を見て。


私は、セナ、じゃないよ。


ねえ、気づいてよ。



「撫子……」



和火は苦しそうに紫の目を細めた。









「おまえが、好きだ」









目の端から涙がこぼれた。



撫子の目からこぼれた涙に、和火は驚いたようだった。


わずかに紫の目を見開いて、撫子の目尻からこぼれる雫を凝視している。


何故泣かれたのかわからないようだった。


やがて、和火が動いた。


その右手が撫子の目尻に――――――



「……なにしてんだよ……!」



和火が撫子から離れた。


両手の拘束と、のしかかっていた重みがなくなる。


驚いて和火の背後を見やると、慧が険しい表情で和火の肩を掴んでいた。


和火が迷惑そうにその手を振り落とす。


遅れて、慧が和火の掴んで、撫子から引き離してくれたのだと気付く。


あわてて身を起こしたら、すばやく慧が撫子の前に立った。


慧の背に隠れて和火が見えない。


ようやく慧が和火からかばってくれているのだと気付いた。


すべての思考が追いつかない程、感覚が麻痺していた。



「……こいつに、なにをした」



低く押し殺された声。


あまりの怒気に、自分に向けられたものでないのに肩がびくっとはねた。



「……別に、なにも」


「じゃあ、なんでこいつは、泣いている!?」



そう言われて涙が止まらないことに気付いた。


あわてて衣の端で瞼をこする。


慧、私、大丈夫。


和火は、悪くないよ。


そう言わなきゃいけないのに、のどが凍ったように言葉が出ない。


慧の背中はまだぴりぴりしたままだ。


一種即発の空気は変わらない。



「答えろよ……。


 なんで、泣かせた……」


「……泣かせるつもりは、なかった」


「じゃあ、なんでこいつは泣いているんだよ!?


 泣かせるような何かをやったんだろ!?」


「……事実を、言っただけだ」



一瞬の沈黙。


やがて、枯葉を踏みしめる乾いた音が聞こえた。


少しずつそれは、小さくなっていく。


やがて、慧がため息をついた。



「……行っちまった」


「ここから村まで、そんなに遠くないの?」


「ああ、まあな」



だから、和火は、徒歩で一人で帰るのか。


肩の傷を手当てしなくていいのだろうか。


それよりも、と慧は振り返った。


気遣うような色をした金色の瞳がこちらを見る。



「慧、けがは?」


「ねーよ。


 おまえは?」


「私は、大丈夫……」



慧がしゃがみこんで、まっすぐに目を見てきた。


きれいな目だなと思う。


混じり気のない琥珀のようだ。



「あいつになんか、言われたのか……?」


「う、ん……。


 で、でも、大丈夫だから……!!」


「触れてもいいか……?」


「……へ……!?


 う、うん……」



ささやく声に戸惑いながらも了承すると、


おそるおそるという感じで慧の手が伸びてきた。


慧の指先が頬に触れた瞬間、思わずびくっと震えてしまった。


その反応を見て、慧はすぐに手を引いたが、やがてまたそっと触れた。


優しく指の腹で触れられて、涙をぬぐわれているのだと気付く。


羽毛が触れるような優しい指に、また泣きそうになった。



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