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*心がいうことをきかない




どうしようもない




どうしようもないくらいに




あなたが好きだ







頭では




決して届かないって




わかっているのに




目で追いかけてしまう








あなたには




―――――――――――結ばれるべき人がいるというのに

*こんばんは、巫女姫。



私だ。白夜だ。



…そう警戒なさらずとも、私は、まだなにもせぬよ。



目の下に濃き隈ができている。



今日もまた寝ないように一晩中起きようとしていたのか。



無駄なことだ。



何をしようとも、君は必ず眠り、私は君に夢をみせるというのに。



さて。



今宵からは、一番長い夢をみせるとしよう。



長いから、少しずつ区切るとしようか。



どんな夢かって?



……君が、『青那』だった時の記憶だ。







私の、婚約者だった時の、ね。
















*おれは、主となる少女がくるのを、廊下で正座をして待っていた。


どのような少女だろう。


そう考えていたら、いきなり目の前のふすまが勢いよく開いた。



「遅くなってごめんなさ…うわあ!!


 かっこいいひと!!


 ねえ、お兄さん。


 あなたが私の騎士になってくださる人?」



中から現れたのは、灰色の髪に綺麗な青い瞳をもつ可愛らしい女の子だった。


突然のことに呆けてしまったが、彼女が身に着けている巫女装束が目に入り、


おれはあわてて姿勢を正した。



「はっ。


 本日より騎士をつとめさせていただきます、タスクにございます」


「タスクっていうんだね。


 私はセナだよ」


「セナ…様…」


「うん。


 私、タスクのこと守れるくらい強くなれるように、言霊の修業頑張るから!


 これからよろしくね!」



そう言って愛らしい笑みを浮かべるセナに思わず頬がゆるんだが、その内容を聞いて、


おれはあわてて首を横に振った。



「い、いけません!」


「え、どうして?」



セナは不思議そうに首をかしげた。


どこか幼さを感じる言動からすると、おれよりも年下に違いない。


おれはそう思いながら言った。



「騎士とは、あなた様を守る者であり、守られるものではございませんから」


「それは、違うよ」



セナはおれの前にふわりとしゃがみこんだ。


澄んだ青い瞳がおれの目をまっすぐにみつめる。



「私はみんなを守る巫女。


 タスクは私がみんなを守るのを助けてくれる人。


 もちろん、私が守るべき人の中にタスクも入っているから、私がタスクを守るの!


 ね?正しいでしょう?」



そういって彼女は笑った。


彼女に見とれた。


情けないほどに。







その日から、彼女がおれのすべてになった。
















*タスクが私の騎士となってからは、毎日が夢のようだった。


あんなにかっこよくて優しくて素敵な人が私の騎士になってくれたんだって、


皆に自慢して回りたいくらいだった。


そのタスクはいつも両手に包帯を巻いていた。


幼かった私はその理由に気づけなかった。


そしてタスクが騎士となって一年以上たったある日。


私はとうとう見てしまった。


タスクが真夜中に、両手を血まみれにしてでも剣術の稽古を続けているのを。


全身の血が一気に冷え切った。


私はころがるようにタスクのもとへ駆けた。



「タスク!!」


「ひ、姫様……!?」



タスクが浅葱色の目を見開いて驚いたようにこちらを見た。


手にしていた木刀を放り捨てて、血相を変えてタスクはこちらに駆け寄ってきた。


目の色が浅葱色になってしまったのも、


こうして剣の握りすぎで両手が血まみれになっているのも、


全部、全部、私のせいだ。


やっとわかった。


私の騎士となるために、タスクはいろんなものを捨てたんだ。



「どうかなさったのですか!?


 お怪我は!?」


「手!手!」


「手?


 誰にやられたのですか?


 ……その者を半殺しにしてまいります」


「タスク!!」


「わかりました。


 そいつを半殺し……え、おれ?」


「タスクの手だってば……!!」



話しているうちにも、


赤い雫がぽたりぽたりとタスクの手から絶えず滴り落ちている。


もはや包帯が意味をなしていないほどの出血。


まめというまめがつぶれて、かさぶたもめくれてしまっている。


あまりに痛そうで目から涙がこぼれた。



「おれの、手……?」



タスクが心底不思議そうに自分の手を見やる。


いつもこうだ。


私のこととなると過保護すぎる程なのに、自分のことには無頓着すぎる。


――――――それを嬉しいと思ってしまう自分がたまらなく嫌だ。



「タスクのうつけ!


 うつけ、うつけ、うつけ!!」



涙がこぼれる。


わけもなく悔しかった。



「自分をもっと大事にしなきゃだめ!!」



だめだ。


どうしても言えない。


傷ついてほしくないから、騎士をやめてほしいと。


タスクは失えない。


どうしても。



「姫様、泣かないで。


 ……ありがとうございます


 おれは、とても嬉しいです」



なんで。


なんで、笑ってくれるの。


なんでお礼なんか言うの。


私のせいで、こんなに痛い思いをしているのに。



「姫様。


 おれは、あなたがおれを想って泣いてくださるのが、たまらなくうれしいのです」



タスクはそう言ってしわっと笑った。


おそるおそる、ふわりと私を抱きしめてくれる。


手の血が私の衣につかないようにそっと。



「おれは……あなたの幸せと笑顔を守れるのならば、命だって惜しくないのです。


 だからこのような傷、何ともありませんよ。


 ですからどうか……泣かないで。


 笑って下さい。


 それだけで、おれは救われる」





こんなにかっこよくて、優しくて、素敵な人だから、


私がタスクに恋をしてしまうのも無理もなかった。










「あなたの幸せと笑顔だけ。


 ……おれが望むのは……ただ、それだけです」








たとえ、おれがあなたの隣にいられなくても、


あなたが、それで、幸せに笑っていられるなら。


あなたの騎士になれただけでも、おれは幸せだ。


だから、それ以上のことを望んではいけない。




――――――望んでは、いけないんだ。



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