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序章

執筆中の浅葱の夢見しにも関係のあるお話です。

これ単品でもいけますが、浅葱を読んだらより世界観をご理解いただけるかと思いますので

よかったらどうぞ……


それでは、いきます!!

よろしくお願いします!!




~小説カキコさんにも転載しております~

*かすかに朱が混じった半月の夜、撫子なでしこは昇降口を出た。


履き慣れたローファーに包んだ足を踏み出すたびに、小さく硬い音が闇に広がって消えていく。


とても静かな夜だ。


空気に溶けているキンモクセイの香りを少し吸って、とても大きな


イロハカエデの前を通り過ぎ、校舎の角を曲がった。


少しすればうすぼんやりと自転車置き場が見えてきた。


その奥の方に、自分の白い自転車が闇にひそむようにひっそりとたたずんでいた。


自転車置き場は明かりが少ない。


朝はなんとも思わないが、夜は少々薄気味悪い。


まとわりつく甘ったるいぬるい空気をかきわけるようにして、


いつもより長く感じられるコンクリートの道を早足で進む。


その時、撫子は、闇の向こうから誰かが近づいてくることに気付いた。



(……あ)



わずかな光に照らされながらこちらに向かって歩いてくるのは、


撫子の後ろの席の四条君だった。


部活帰りなのだろうか。


大きなスポーツバッグを肩にかけ、すらりとした長い脚を交互に動かしながら、無表情で歩いてくる。


くせのある真っ黒な髪がそれに合わせてふわふわ揺れる。


彼の紫を帯びた黒い瞳が一瞬撫子をとらえてわずかに揺れた後、すっとそらされた。


撫子も彼にならって、そっと視線をそらす。


もともと四条君だけでなく、男子とはあまり喋らないから


四条君とあいさつを交わせるような仲ではない。


彼とは必要最低限のことしか話したことがない。


彼のことを何も知らない。


だけど、今ひとつわかることがある。


撫子と反対方向に進んでいるということは、駅へと続く南門に向っているのだろう。


つまり、四条君は電車でないと通学できないような、学校から少し遠い所に住んでいるのだろう。


ささやかなことだが、こうやって人を知っていくのは嬉しい。


人と人との関係が薄いクラスだから、小さいことでもクラスメートのことを知れるのは、


撫子にとって大きなことだ。


唇に少しだけ笑みをのせて、撫子は四条君の横を通り過ぎた。





ゾクッ





背を冷たいものが走った。


振り返って見れば、そこには変わらず静かに歩く四条君の後ろ姿がある。


違う。


四条君からじゃない。


もっと遠く。


そのさらに向こう。


講堂のあたりだ。


確かに、そこから感じる。


異質で巨大な霊力を。


鈴虫が鳴く音のみがその場に響く。


少しずつ、四条君の背中が闇に紛れていく。


少しずつ、その異質な霊力に近づいていく。


彼は、霊力を感じられないのだ。


撫子と違って、普通の人間だから。


撫子は少し迷った後、四条君の背中に向かって駆け出した。


そして、彼の制服の袖をつかんだ。



「四条君!!」



彼は驚いたように素早くこちらを振り返った。


暗くて、彼の表情まではよく見えない。



「きょ、今日は、南門からじゃなくて、正門から帰ってくれない…?」



沈黙が落ちる。


…だめだ。


きっと彼は撫子とのことをあやしみまくっているに違いない。


(な、なにか、上手い言い訳を…)



「た、たまには、気分転換もいいかなーって思って…」


「…正門から帰るなら、途中まで一緒に帰ってもいいけど」


「…へ?」



苦し紛れの言い訳を言おうとした撫子は、思わず四条君の顔を見上げた。


月明かりに照らされた綺麗な瞳が、静かに撫子を見つめていた。


吸い込まれてしまいそうな錯覚。


一瞬、見とれる。


だが、すぐに再び背に冷たいものが走る。


四条君は、撫子が暗闇が怖いから無理に理由をつけて一緒に帰ってもらおうとしている、


と、どうやら勘違いしているようだ。


だが、もうそれにはかまっていられない。


異質な霊力がさらに濃く、大きくなったのだ。


まずい。


本能的に悟った。


このままでは、何か起こってしまう。



「違うの。


 一緒に帰ってほしいんじゃなくって――――――」



そこまで言ったところで、撫子は、彼の視線が自分の手に注がれていることに気づいた。


夜目にも見て取れるほど、彼の制服の袖口を掴む指は震えていた。


あわてて手を引っ込めたが、見られてしまったかもしれない。



「と、とにかく、今日は正門で帰ってね!!」



それだけ言い残すと、撫子は四条君の傍を離れ、講堂に向かって駆け出した。


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