冬を愛した日
「冬なんて大嫌い」
少女は吐き捨てる様にそう呟いて、首を竦めてマフラーを巻き直した。
「どうして?」
少年は不思議そうに尋ねる。車椅子の車輪に薄く積もる雪を払って、少女に微笑みかけた。
「だって……」
少女は知っていた。少年の命が、もう少しで尽きてしまうことを。
少年も知っていた。少女の命が、少年の亡き後も続いていくことを。
二人はそれきり押し黙り、その沈黙を破ったのは少年のほうだった。
「僕は冬が好きだけどね」
穏やかな笑みだった。
「どうして?」
少女が尋ねると、少年は笑みを深くさせた。
「だって、僕達が出逢ったのもこんな雪の日だったろ」
少年は冬の空を見上げて、「だから僕は冬が好きだよ」
少女ははにかみを押し殺すように下唇を噛んで俯く。そしてしばらく口を紡いで俯いたあと、涙を溜めた目で少年を見つめた。
「……いなくなっちゃ、やだ……」
強気な少女の弱音だった。
少女は少年を愛していた。
少年は少女を愛していた。
少年は少し俯いて、やがて顔を上げた。
「僕は君を忘れない。君は忘れてもいいよ。ただ、僕と居た冬を否定はしないで」
少年はそう言うと、少女の手を握った。少女も小さな手できつく握り返す。
「……絶対、忘れない」
少年は満足そうに頷いた。
「それで十分だよ」
*
彼女――かつての少女はひとりで五回目の冬を迎えた。
机の上で微笑む少年の写真を大事にダンボールの底にしまい、彼女は立ち上がる。
彼女は今日、あの頃の彼女が知らなかったひとと結婚する。
彼女は彼を忘れなかった。
彼女は彼を否定しなかった。
それでいいんだよね? ――答えは、聞こえなくても知っている。
だから彼女は部屋のドアを開け、その先に待つ婚約者に「おはよ」と笑った。
「じゃあ、行こうか」
背の高い婚約者はそう言って笑う。
彼女も微笑んで、婚約者と手を繋いだ。
描写や説明が足りないのは、想像を膨らませてほしいからです。おかげで作者にもよくわからない作品になりました(苦笑)