1 黒井高校におじゃまする
勢いで書いたぜ
虚偽の報告をした者は何らかの罰をうけてしかるべきだが、今回に限っては免除してやりたい気もする。
僕がこの黒井高校進学を決めた理由は単純で、中学時代の同級生が「夢木! 一緒に黒井高校に行こうよ」と誘ってきたからだ。夢木とは僕の名前。
将来に対して特にコレという夢も希望も抱いておらず、進める高校ならどこでもいいやと思っていた当時中学三年生の僕は(当時といいつつ今もなお中学三年生かもしれない。というのも今は中学卒業後の春休なので、あなた何学生ですか? と問われても答えづらい立場なのだ)誘ってきた同級生が僕と同じくらいの学力であることは知っていたので、こいつとなら同じ高校行けるなーと二つ返事で了承してしまったのだ。
よくよく話を聞いてみると、受験は出張会場なる便利制度により中学にいながら受けられるし、様々な手続きも卒業後に済ませればOK、しかも入学金は全額免除というから驚いた。なんて素晴らしきかな黒井高校。
受験内容はごくごく簡単なもので、オール3から殆どぶれない成績を中学三年間にわたって取り続けた僕でも手応えを感じられた。そして、結果は合格。勉学なんざ楽してナンボ! と思ったものだ。
その後、残った中学生活をなあなあと満喫し、校長の三時間に亘る長話により足の筋肉が痙攣したことで涙を流した卒業式を経て、晴れて高校生になるべく黒井高校に手続きに向かったその目的地で、衝撃的光景を僕は目の当たりにしたってわけだ。
なんというザマだろう。楽観的になりすぎて高校見学などまともにしていなかった。特に進学する気も無い自宅近くのフツーの高校を30分見ただけで高校という物の全てを知った気でいた。僕は馬鹿だ。
折れそうな精神を何とか建て直し敷地内に踏み入る。
踏むごとに到底マトモとは思えない軋み音を上げる縁石を歩き、黒井高校の玄関を目指しヒヤヒヤ進んでいく。校門には尋常じゃないデカさの蝙蝠が張り付いていてゾッとしたが、中庭には無数のトカゲが闊歩していてゾワっとする。みな一様に黒っぽい、不気味だ。
僕は涙目になりながら思い返す。親友である同級生の言葉を。
「一緒に黒井高校に行こうよ」
今思えば、即答で拒否すべきであった。いやいや、誘ってきた同級生は昔からの幼馴染なので恨みはしない。恨みはしないし目くじらも立てたくはないが、でもやっぱり腑に落ちない部分がある。
なにせ、僕は黒井高校のこの概観をひとつも聞かされていなかった。
「楽しくてメルヘン要素がテンコ盛りらしいんだよ!」と聞かされたりもしたが、その言葉からは微塵もこの黒井高校の風体など想像できないではないか。
不勉強だった僕も悪いが、親友よ……こりゃぁないぜ
そしてついに僕は玄関に辿り着く、が……扉が閉まっている。
その扉はガラス戸なんて薄らペッたい代物でなく、コールタールがベッタリ塗られた頑強な木戸であった。錠も落ちておりとても開けられそうにない。
僕はしばし途方に暮れる、が……間も無く人間の声を聴いた。
その声にはとても聴き覚えがある、そう。僕をこの学校へと誘った女の声。
「いらっしゃい、夢木。私が案内するわよ。付いてきて!」
やけに快活なその声は場の雰囲気に全くそぐわない。でも僕は彼女の声を聴いてこの日初めて安堵した。とりあえず……付いていくとしよう。
ね…ねむい