透明な復讐者
PTSD。ぼくが長年苦しんでいる病気だ。
高校の時にひどくいじめられて、いつも殴られてた。
誰も助けてくれなくて、泣いてばかり。あいつは表向きは人格者で、親も立派だから、先生も味方してくれなかった。自分で自分を助けることもできなかった。家が貧乏で逃げ出すこともできなかった。高校卒業で解放されたと思っていたけど、こびりついたトラウマがずっとフラッシュバックしてくるんだ。
おかげで仕事も、人間関係もまったくうまくいかないし、向上心も芽生えない。誰も信用することができないし、引きこもってた期間も長いから、正社員になるのも難しい。毎日悪夢にうなされて目が覚める。定期的に自分でも制御のできない怒りが沸き出て、部屋中のものを壊してしまう。こんな人間と付き合える人は皆無だ。
十数年も、いじめられたことによるトラウマはぼくを苦しめつづけた。
向こうはぼくのことなんてもう忘れているのに、あのたった一年間がぼくの長い人生を完膚なきまでに破壊した。これからもずっと壊し続ける。もう奴らを裁く法律はない。仮に裁けたとしても懲役何年だ? まるで釣り合わない。千回殺しても足りないくらいだ。
ある時、スーパーの駐車場でぼくをいじめたあいつが歩いているところを見かけた。
家族連れで、幸せそうだった。
その時、腸が煮えくり返るような衝動に突き動かされた。憎い。憎い憎い憎い!
気付けば、ぼくは走り出していた。
殺してやる。殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!!!
奴の不意を突いて殴り倒し、首を食いちぎるつもりだった。
「え?」
でも、突き出した拳は当たらなかった。それどころか、すっと自分の身体ごと透り抜けてしまったしまった。
どういうこと?
ぼくは何度も奴に触れるが、結果は一緒。
駐車場に停まっているいる車の窓ガラスを見てみた。ぼくの姿は映らない。
「ぼくは……死んでたのか」
いつ死んだんだろうか。まったく思い出せない。けど、いいよ別に。
もう一度、憎しみを滾らせた。すると、バキッと音を立てて車の窓ガラスに亀裂が入った。
こっちの方が楽しめそうだから。




