心ないヒト
精神科医なるものをやりはじめてはや十年。ほんとうに世の中には苦しんでいる人が多い。私の力が一助になればいいのだが。
今日も笑顔で優しく、患者が安心するように心がけて職務にあたる。
やってきた子は、クラスに上手くなじめなくて不登校になった女子高生だ。まずは話を聞いてあげたが、薬に頼るのは少し早いかもしれない。とはいえ、次の予約はずっとあとになってしまう。医者に対して患者の数が多いのだ。病んでいるねこの国は。仕方ないから薬を処方しよう。
次の日は会社でひどいカスタマーハラスメントにあった男性がやってきた。聞くと、上司は顧客至上主義で、行き過ぎた客に迎合したらしい。ひどい。ダブルバインドを喰らうと人は普通に壊れてしまう。診断書を出すから訴訟しようね。
仕事が終わって同業の飲み会に行ってきた。そしたら、来月で精神科医を辞めるらしい。なんでも、患者が自殺したり、うつ病が長引いたりして、自分の方がしんどくなったらしい。ここではよくある話だ。
噂をすれば。今日やってきた男性の患者を診断したら、うつ病だった。睡眠障害も併発している。職場の人間関係のこじれだ。よくここまで耐えたね。ゆっくり休もう。
次の患者は風俗嬢をやっているらしい。病んでしまうのは、想像に難くない。
男子中学生が来た。いじめを受けたみたいだ。犯罪だそれは。診断書を書くので親御さんと協力しよう。
幻覚を見るようになった女性がやってきた。統合失調症の前触れだ。しばらく通院してもらおう。長くかかりそうだ。
毎日毎日こんな感じだ。
よくない知らせも多い。
この間来た女子高生の彼女が自殺した。
カスハラとパワハラに悩んでいた会社員も自殺。
いじめを受けていた子は、事件を握りつぶされたらしい。
同業の友人が無力感にさいなまされてしまったのもうなずける。
私はどうかって? さいわい、私は生まれつき人間の感情ってのがよくわからないからね。所謂、サイコパスだよ。脳が少しおかしいんだ。
この仕事は天職だといえる。どんなに病んでいる人がいても、私にはデータの一つに過ぎない。別に珍しいことじゃないよ。医者や経営者にそういう人は多い。私ほどじゃないかもしれないけどね。
さて、次の患者が来たようだ。




