家なき狂人
ホームレスを続けてきてもう15年になる。社会福祉士の方やボランティアの方たちに施設入りを勧められているが、なかなか決心がつかない。のっぴきならない理由があるのだ。
「池さんおはよう」
「おはよう。調子はどうかね?」
「実はなあ、そろそろ引っ越そうとしててな」
友人の原田さんは照れくさそうに言った。彼もとうとう、施設に行くようだ。正直、うらやましい。年を重ねるごとに冬の寒さが骨に染みる。
原田さんと最後の晩餐と称して、近所のごみ箱から拾ってきた弁当の残りを肴に、酒を飲んだ。
「じじいども。昼間っから呑気なもんだな」
どこぞの若造が絡んできた。
「てめえらがいる公園はな、俺たちが血反吐を吐くような思いで働いて稼いで払ってる税金で作ってんだよ!」
異様なほど表情が歪んでいる。仕事でミスして上司にでも叱られたか?
「ああ、こんなクズを養うために毎日毎日……! 死ねや」
若造は原田さん目掛けて蹴りを繰り出した。
私はそれをとっさにかばおうとして身を投げたが、蹴りを顔面に浴びてしまった。まずい。
「あーあ。スーツが血で汚れちまったぜ。弁償しろ……うぐっ!?」
若造は私に首根っこを掴まれて持ち上げられた。正確には違うのだが。
「ギャハ! ギャハハハハハ! ガキィ!!! 礼を言うゼ! 《《やっと代われた!!》》」
私のもう一つの人格が、目を覚ました。
ヤツは若造の顔面を左手で十数発殴る。
あっというまに彼の顔は真っ赤に膨れ上がった。
「礼と言っちゃなんだが、もっと受け取れ! ギャハ! これがホントの血反吐だぜ! わかったか!?」
さらにヤツは若造を殴った。もうすでに気を失っているのに。
こいつが《《いる》》から、施設入りはもとより、他人と深く付き合うことができないのだ。
凶暴で凶悪な人格。邪悪なサディスト。気を抜いたり、ショックを与えられると入れ替わってしばらくもとに戻らない。
「まだ足りねえな! 原田ァ!」
「このガキバラすから、いい場所ねェか? ついでに臓器も売り飛ばすぜェ!」
「え、えっと、向こうの方に廃墟が……」
「案内しろ」
「は、はい!」
すまない原田さん。
施設入りは、やっぱり今年も見送るよ。




