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壁人間  作者: 大窟凱人


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10/10

緊張しい

 冷汗が額に滲み、それが頬を伝う。体温が高くなっている。心拍数が上がっているんだ。息が苦しい。頭が真っ白になって……




「い、以上です……」




「やっぱりだめか」




 大学の卒業論文の発表を控えている私は、同じゼミの友人たちに発表の練習相手になってもらっていた。なぜなら、ひどいあがり症だったから。




「あんたがこんなに緊張しいだったなんてね」




「うーん。これじゃもったいないよ。それに、就職してから困るよ。今のうちに直した方がいい」




「もう何度も練習してこれだから、原因は他にあるんじゃない?」




 そうなのだ。論文の内容は並みだけどプレゼンはたくさん練習した。それなのにこうなってしまう。




 私は心理学を専攻している友人に聞いて、あがり症の人の心理を教えてもらった。


 いわく、無意識からくる防衛反応らしい。人前に出て発表するのは危険なことだと潜在意識に刻み込まれている。私が私を守っているんだという。


 子供の頃に、そんなことあっただろうか。大失敗したり、バカにされたり。




 小学校の頃の友達にも聞いてみた。




「そういうことはなかったと思うけど、昔っからだよ。発表するのが苦手なのは。よく人の真似してたりしてたじゃん。自分がないっていうか、見せたがらないというか」




 じゃあ、原因はもっと昔にあるのか。


 か……家庭環境か。




 たしかに、うちの両親は子供を6人産んでて、しかもそんなに裕福じゃなかったから、次女の私は弟や妹の世話を焼いてたし、両親にかまってもらった覚えもない。大学は奨学金とバイト代でギリギリ通えている。




 もう一度心理学の友人に聞いたら、「たぶんだけど情緒的ネグレクト」と言われた。普通の家庭では、幼いころから子供の気持ちや主張を親がきちんと聞いたり、発表させてあげるんだそうだ。




 なにそれ。そんな世界私は知らない。




 親に甘えたり、何かを言ったら、即座に否定され、自分で考えろ。の一言で済まされるのが普通なんじゃないの?




 お金とか、結婚しないといけない風潮とか、お父さんとお母さんにも同情できる部分はあるけど、私、あんまり愛されてこなかったんだ。あ……だんだん思い出してきた。断片的だけど。小さい頃はよくひとりで泣いてたな。実家のアルバムを見ても、両親と仲良く映っている写真はなかった。臆病な主人公が勇気を出して踏み出すみたいな映画で号泣するし。




 義務感で結婚した二人に、三歳くらいまでの誰でも可愛い時期だけ可愛がられて、そのあとは世間体だけ守った最低限のことだけされて、愛はそんなに。




 私の中に、小さな私がいる。話を聞いてほしくて、愛してほしくて、理解してほしくて、でもそれを拒まれて、何を言っても「おおげさ」「考えすぎ」って否定されて、何も言えなくなって、苦しくて、憎しみにまみれている真っ黒な化物みたいな私が。




 こっちを睨んでいる。


 唸っている。


 叫んでいる。


 泣き喚いている。


 狂ったように。




 弱ったな。卒論発表に間に合わせるのはとうてい無理だし、それどころか一生の課題ができてしまった。




 私は、この子を愛してあげられるかな。

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