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6人

 ざっと二週間前。

 あのアヘビスとやらが引き起こした一連の騒動は、アルストリーノのエージェント方と、アリュシストという所の導霊方、異世界の人たち協力のもと、『よくわからんけどとにかくヤバい感染症が校内で発見されたことによるパニック』ということになった。


 マンセルさんがうちの高校に留学生として入ったときのように、各関係者の記憶も必要最低限にいじって、物理的証拠も全部消して、齟齬が生まれないようにしてもらった。


 なお、俺たちは改ざん前の記憶を持ったまま。

 忘れるか、外に漏らさないか。の二択を突きつけられて、全員後者を選んだわけだ。


 洗脳された俺と、ミハルさんとリョウカさんたちとの戦いは金曜日に起こったので、土日を挟んで週が変わったときには、比較的フツーの高校生活に戻った。


 これと同時に、俺のあのイラストが無事アルストリーノに収蔵確定となった。

 これにてマンセルさんは、日曜日がホームステイ最終日ということになり、カナダに帰った……という体で、異世界に帰還した。

 その餞別にと回転寿司に連れていってもらったのが嬉しかったけど、マンセルさんとの別れがキツくて、あまり皿を重ねられなかった。


 初対面の時とか、思い返すと常識外れで迷惑を被ったことが多いけど、やっぱりいざお別れとなると……とにかくしんどかった。

 せめて報酬渡す時に顔出してくれないかな。ていうかアレいつ来るんだ。早く新作ゲーム機を買いたくてしょうがないんだよ。


 個人的な話をし過ぎた。

 ここからは皆さんが興味がありそうな話からしてくとする。


 まず、高城トラジ。

 アイツはリョウカさんやミハルさんとかにひどいことをしたことをキツく教師陣に絞られたことはもちろんのこと。この悪名が校内のネットワークで広まり、一年の三大将の座から滑り落ちた。

 俺は義理堅く、アイツにされたイジりを黙っていたが、多分他の人からの証言があって、俺も先生を交えての謝罪会に呼ばれた。

『なんか野球部の先輩とか、親とかの関係が上手くいってなくて、ムシャクシャしてやった』

 と、クソみたいな理由をのたまって、赤ベコみたいに謝ってた。

 以来、アイツは今まで俺がいたようなポジション――宮廷道化師枠に落ちて、散々嘲笑われながら、どうにか陽キャグループに留まっている。

 

 次に、貴崎イカルガ。

 いちいち説明するまでもなくリョウカさんをあれだけいじめたこと。トラジが生贄代わりに暴露したその他の細かい悪事を先生にチクったこと。

 これでイエローカードが二枚出来上がり、学校に来れなくなった。まさかトラジ以上のワルだったとはな。

 退学にはまだなってないだろう。けど、戻ってきたとしても、もうこの学校ではまともに過ごせないはず。

 アイツの取り巻きも、生贄の入れ子構造で先生に絞られた挙句、『反省期間を設ける』っていう理由で女子バスケ部という帝国が活動停止となってしまった。

 イカルガが戻ってきたら、ワンチャン殺人事件とか起こるかもしれない。そうはならないことを切に願う。


 それと、大野と駒井はあれから話していない。

 あんなことされてもまだ同盟を保持してやるほど俺は出来た人間じゃないし、アイツらも自分の過ちを認める器じゃない。

 たまに二人で飯食ってるところを通り過ぎることがあるが、『バーチャル配信者の闇事情』とか『SNSで話題なだけのこれまで興味なかったヤツの芸能スキャンダル』ばっかり話してた。どうでもいいけど。


 ごめん、話しやすさの観点から、また俺の話をする。

 あのしかみ絵をリメイクしたイラストは、月曜日でPV数の伸びが止まった。

 俺の構図を真似たミームも、ここまでに五十枚現れてたが、その日にバタリと途絶えた。


 危うく俺はそれと同系統のイラストを描こうとしていたが、優柔不断が良い方向に働いた。

 クリエイターが過去の栄光にすがりまくるのは、戦争を勃発させることの次に恥ずべきことだもの。

 

 次の作品は、マンセルさんと別れた後の土曜日に投稿した。

 マンセルさんとの経験を踏まえて構想した長編漫画だ。

 ミア・ロマネスク様がヒノモトで戦うために旅立つ際の、自国にいる不良の少年との別れを描いた感動作だ。

 あのメガヒット作の次ということで、それには到底及ばなかったが、俺にしては上出来のPV数とコメントが集まった。『普通にやればできるじゃん!』っていうコメントが個人的に気に入ってる。

 フフン。どうしよっかなー。次も感動路線で行こうかな。けどやっぱ、過去の栄光にすがりまくるのはよくないもんな……うーん、悩むなぁ。


 さて、ここからは皆さんお待ちかね。僕と同じ異世界との遭遇を果たした人たちのその後だ。


 榎本リョウカさんは、女子バスケ部が活動停止になる直前に、自分から辞表を叩きつけた。

 自分は運動神経高いから、他のスポーツでも活躍できるはず。最悪、大学に入ったらまたバスケ頑張る。

 っていう、体育会系特有のポジティブさでこの決意に至ったらしい。

 でもって、あの人は、女子テニス部に移籍した。

 常に走りまくって身体のバネを働かせまくることは共通しているので、始めたばかりにしてはかなり強いらしい。有言実行してんじゃん。

 おまけに、たくさんいる兄弟とは多少は上手くやれるようになった。弟二人からはイタズラは可愛くなって続いてるらしいけど。


 そして、真行寺ミハルさん。

 彼女は……百聞は一見に如かず。

 

 今日は日曜日。俺はミハルさんのタワーマンションに来た。

 プライベートで通学路を歩くと変な気分になるな。という気持ちは、その入口の立派さにふっ飛ばされた。

 俺は品位不適格で隠しライフルでド頭ぶち抜かれないかとヒヤヒヤしながらエレベーターに乗り、十二階まで昇った。

 そして当人の部屋のドア前に立ち、口座番号を入力する時(口座持ってないからわかんないけど)並に、この部屋が合ってるか確認してから……インターホンを鳴らした。


「はい……ようこそ、ゼン君」

 数秒後。中から小柄な女子が分厚いドアを開けた。

 この人は当然、真行寺ミハルさん。

 学校のビシッとしたブレザーにスラックスの男装スタイルと打って変わって、やわらかカーディガンにキュロットパンツの、可愛らしい格好だったから頭がバグりかけた。


「プライベートだとそんな恰好なんだ、ミハルさん」


「父さんから送られてきた新作を着ただけだから」

 そうだ。そういえばこの人の父親、チェルクロのそこそこ上の人だった。


 俺はミハルさんに案内されて、広々としているリビングに入る。


「二番目はお前か、ゼン先生」

 と、そこにあるソファの右側に座った男――上流オウマが言ってきた。


 オウマも三大将として、二人の処罰に巻き込まれて、先生たちに絞られた。

 けど、二人ほど過激なことはしてなかったし、みんなに誠意を持って謝ったおかげで、イエローカード一枚で済んだ。

 事の処理が終わった後、同盟相手を失った俺の元に近づいてくれた。

 そこからは友達っていうほどずっとそばにいるわけじゃないけど、まぁ、仲良くしている。

 

「じゃあ一番目はアンタか、オウマ」


「それはそうでしょ。僕は元々家にいるから〇番目だもの」


 俺は、ソファの左側に座り、隣の人が読んでいる本を覗く。

「美術の本読んでるんだ」


「俺も勉強しておいたほういいと思って。へぇ、モナ・リザって盗まれて有名になったんだなー……」


「一般人には雑学程度にしか使えんけどね」


 数分後、インターホンが鳴った。

 ミハルさんが玄関に行って戻ってくると、三人の女子がついてきた。


 一人目は榎本リョウカさん。説明はさっきした通り。至近距離で見るとデケェ。

 二人目……金髪のよりデケェ女子は、満月コーリンさん。リョウカさんの女子テニス部のちょい先輩。あの騒動の時に協力した縁で、新しい友達になったらしい。

 三人目はその妹のピコリさん。あの騒動の時、コーリンさんと一緒にいたらしい。


「なんかウチの解説雑くない!?」


 あの騒動……ここまで連呼するならそろそろ固有名詞用意した方がいいかもな……以来、俺たちは、真実を知る関係者団体的な感じで自然と集まり合うようになった。


 特に目的などない。強いて言うならば、集まること自体にあると思う。やっぱりさ、同じような人がいると安心するんよ。


 先週日曜日は、思い切って六人でショッピングモールに行った。で、今週はさらに思い切って、誰かの家で遊ぼうという話になった。


 そこで電光石火にミハルが「僕の家に来て……!」と立候補した。

 俺たち他の五人はその勢いに気圧されて、お言葉に甘えた。そして現在へ……というわけだ。


 閑話休題。

 オウマはソファの背もたれに片腕を置き、もう片腕で指し示す。

「皆、あっちの部屋見てみろよ。プチ図書館があるぞ」


「それ僕からまず言いたかった……破いたり汚したりとか論外なことしなければ、ここに持ってきて、お好きに読んでいいよ」


「マジか。ちょっと見てみようぜ」

「ちょうどテニスの入門書とか読みたかったんだよなぁ。ないかなぁ」

「ギリテニプリあるくらいでしょ。ミハルさんの趣味的にさ」


 女子三人は、すぐにプチ図書館へ行った。

 俺は……ソファ前に置いてあった小説にふと目が止まり、それを手に取る。


 表紙はライトノベルっぽい。男装した少女が二人のイケメンに挟まれてるヤツだ。

「それオススメだよ。序盤の人間関係とか、時々の詩的な描写がややこしいけど」


 ミハルさんは、ダイニングテーブルに座って、書き物をしていた。

 僕はソファに座ったまま尋ねる。覗くと失礼だし、何となく読めるから。

「それ、文芸部の課題ですか?」


「うん。何でもいいから短編小説描いてこいって言われて」


 アヘビス騒動の後、ミハルさんも部活を変えた。帰宅部から、文芸部に。

 もしあれば読書部に入りたかったが、どうもうちの高校はだいぶ前に文芸部に併合されていたため、課題が出ることを覚悟して、転部した。


「ちなみに今、何を描こうとしてるか、教えちゃったりできます?」

 オウマも読んでる本を一旦閉じて、

「俺も興味あります。ミハル先生」


「先生って言うほどじゃないよ僕は……とりあえずその場しのぎ的に、今ゼン君が手に取った小説の二次創作をしようとしてた」


「もっと詳しく教えてください」

「俺も俺も」


「……その小説の続き。多分商業的な理由で、これから大決戦ってところで終わってるから。

 ……うん、そうだね。僕なりに、続きを見たいと思ってね……」


「それはすごい意欲だ。けど、いいのか? 一からの創作じゃなくて?」


「うん。賞に出そうとかしなければ。って、顧問の先生から許可を貰ってる。ゼン君とおんなじ感じだよ」


「へー、そうなんだ。文芸部って俺たちと違ってガチガチなんだと思ってた」


「僕も意外だった。いざ入ってみると全然ゆるかったよ。ガチの人もいるにはいるけど」


 この後、その女子三人がプチ図書館から戻ってきて、そこから五人全員で本をパラパラ読んだ。

 で、謎のノリで、自分の読んだ本の感想を話す、ビブリオバトルもどきをした。


 俺は、ミハルさんが前置きしていた通り、序盤の人間関係の複雑さを咀嚼するのに時間がかかってしまって、まともな感想が言えなかった。


 その後はミハルさんが買いだめしていたという冷凍パスタを食べたり、ダラダラ近況を話したり、また本を読んだりして、夕方まで過ごした。


 全体を見るとものすごくグダグダな時間の使い方だったなぁ。


 冷静に考えてみると、事の発端は、俺とミハルとリョウカが、異世界から来た何かと遭遇したことにある。

 それがあれこれイベントを挟んで、こんな深くもなければ浅くもない、なんとも形容し難い人間関係に変わった。


 何ていうか、割に合ってるのかこれ……

 と、俺は思った。けど、嫌じゃないならいいか。別に。


 そして俺たち五人は、ミハルにあの豪華な玄関まで見送られて、それぞれの帰路についた。

 やっぱり、プライベートで通学路を歩くのは違和感があるよな。


【終わり】










 文字に起こし難いけど、何らかの言葉だってのは分かる。

 俺はそんな音で、目を覚ました。


 なんか動画観てる最中に寝落ちして、自動再生が暴走しまくった結果、変な動画が垂れ流されたのかと思って、枕元のスマホを手に取る。


 〇二:二〇……時計機能のあるシンプルなロック画面だった。

 全く、明日はまた地獄の月曜日が始まるっていうのに、こんな中途半端な時間に起きてしまうなんて……


 とりま結論。動画など垂れ流されていない。


 記憶をさかのぼると、俺はちゃんと歯を磨いて、スマホを閉じて目をつぶってた記憶がある。


 というか、未だにその音が聞こえてきている。スマホじゃなくて、部屋にあるクローゼットの中から。


 何がどうなったのかさっぱりわからないが、俺はベッドのはしごを降りて、クローゼットを開けた。

 すると俺の制服が、ハンガーから落ちて、なんかムームー言いながら、モゾモゾ動いていた。


 これやったらますます二度寝のチャンスが無くなる。けど、背に腹は代えられない。

 俺は意を決して、部屋の電気を点けた。


 クローゼットからモゾモゾ動く制服を抱えて出し、優しく優し〜く制服を剥がす。

「ふう〜、た、助かりましたぁ〜!」


 するとその中には……なんかいた。

 何だろう。ピンク色のネコっぽいけど……ネコじゃない。

 頑張って表現しようとすると、この世で乱発されまくってるネコキャラのどれからもパクリ疑惑をかけられないように、慎重に慎重にデザインした結果、かわいらしいけどネコとは言われないとわからないくらいになった動物。

 ……長いなぁ。ミハルさんとかならもっとスリムな表現出来るんだろうなぁ。


「あの、聞いてますか!」

 そのネコ(仮)は、二足方向になって、前足をブンブン振っていた。肉球が音符の形をしてる……じゃあ普通のネコではないな。


「ごめん、聞いてなかった。もっかい聞かせて?」


「はい、いいですよ! こんな夜中に押しかけてすみません!」


「本当にそうだよ」


「ボク、『フラッタピア』から来ましたオトマルのコードです!」


「急に知らん用語三つも出さないでくれ」


「フラッタピアは人間さんたちに音楽を通じてワクワクを分けてきた、音楽の国です!

 オトマルはそこで生まれる動物で、陰ながら人間さんたちに音楽を教えてきました!

 コードはボクの名前です!」


 ご丁寧にご説明どうも。と、喉まででかかったが、『その礼儀正しさを時間調整に使ってくれ』という怒りで相殺された。

 代わりに俺が言った台詞はこちら。


「で、その音楽講師アニマルがなんで俺に来たんです?」


「いきなりごめんね! けどどうか真面目に聞いてください!」


 じゃあ相当突飛した話をするんだな。俺は何が来てもいいように、心の中で肉のカーテンみたいな構えを取る。


「お願いします、上流オウマさん! ボクと契約して、魔法少女アイドル・ミラキリーになってください!」


「……は?」


 これ、誰がまともに受け止められるんだ。

 今の時代、本来はこんなこと言っちゃいけないことだろうけど……まず俺、男子高校生なんだけど。


 そうか。これか。きっとこれだ。ゼン先生とミハルさんとリョウカさんが味わったのは。


【終わり?】


あとがき


 ここまでご愛読いただきまして、ありがとうございました。


 本作は突如として第14回ネット小説大賞が12月開催になったことを受けて、新たに書き下ろした作品になります。

 2025年3〜7月に開催されていた第13回用に新作を書き上げたばかりですので、今作は短くコンパクトな話に仕上げました。

 根本的なアイデアも、これまで何となくどっかで使えたらいいな。という雑多なネタを野菜炒め式にぶっこんで作ったものですし。


 今作は私初の、人間ドラマを軸とした青春小説と自称しております。色々と慣れないながら作ったものながら、上手いことまとめられたなと思いました。


 とにかく、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。コメントや評価、あるいは誤字脱字報告、気になる点などがございましたら、よろしくお願いします。











 P.S.

 別作品のあとがきに『六人の娘が異世界から帰ってくるだけの話』のシーズン4を『2025年12月頃に連載する』とか言ってたにも関わらず、別作品に手をつけてしまい申し訳ございませんでした。しかも、よりによってネット小説大賞を言い訳にして。


 そちらは大至急取り掛かります。最悪の最悪でも、今年2026年のGWまでに間に合わせます。


 それと、早い話ですが、シーズン4の次はまた新作の予定です。今抱えてる作品のネタ3つのうち1つを引っ張り出してみます。


 さらに早い話ですが、その新作が終わったら、アイツらの話の続きを書きます。

 今、『エンティティ・ファントム』の学校に行ってるアイツらです。


 P.S.が上の本文並みに長くなりました。ではここで強引気味に失礼します。それではまた。


 作者より。

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