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Mr.NOBODY

「『見浦ゼン氏を返せ』それは、誰だ」


「とぼけるな」

 私は、校庭に設置された玉座に座す、見浦ゼン。の、内にいると思しき、アヘビスなる存在に返す。


「貴様は私の保護対象である見浦ゼンという少年を乗っ取り、この学校の人間の何人かを手駒として洗脳し、このような騒乱を起こしている。

 そしてこうした未知の秘術を準備しつつ、こうしてふんぞり返っている。違うか?」


「勝手な憶測はやめよ」


「勝手な憶測ではない。いくつかの根拠に基づく推察だ」


 ゼン氏には『やめてくれ』と言われてはいたが、万が一に備えて、私は制服の内部に盗聴器を仕込んでいた。

 私の胸ポケットにセットした魔力系エネルギー観測機能を備えたボールペンは、見浦ゼンからの膨大な数値を知らせている。

 それから、あらゆる異世界へ美術作品を回収しに行って得た、私の経験と直感……


 それらにより、ゼン氏が高城トラジに会った後、彼の身に何が起こったのかはほぼ推察可能だ。


「最低でも、見浦ゼンのような平均的な善良さを持つ一般市民に、このような尊大で傲慢なことは出来ない」


「それについては異論はない。平民に王の真似事などさせるものか。

 して、貴様は我に、この少年を返せと言ったな? その答えはこうだ。『何故我がそのようなことをせねばならぬ』。

 かような取るに足らない人間に左様な面倒をせねばならぬ」


「ではこれ以上の交渉は無意味とし、武力行使に移る」

 即刻、私は右手に一本のボールペンを持ち、そこから麻酔針を連射する。


「ハァッ!」

 アヘビスが裂帛の気合を放つ。七本の麻酔針が、空中で静止、地面に落ちて溶けた。


 この程度の威力の武器は効かないのか。私は素早く腰ポーチから、別のボールペンを取り出し、先程と同じくボタンを連打する。


 次に放たれるのは、エネルギー弾だ。


 アヘビスが、再度何らかのエネルギー波を放出する。だが、私の弾は止まらない。

 アヘビスは片眉を動かした後、気だるそうに両手を動かし払い落とした。


「これは油断ならざる敵のようだ……」

 両手を擦りながら、アヘビスは悠然と玉座から立ち上がる。

「我を感心させた褒美に、王に相応しき我が姿を見せてくれよう……」

 腰に、この世界における古代エジプトの遺跡の台座を彷彿させるバックルがつくベルトが、右手には、黒い下地に水色の禍々しい文様が輝くカードが出現。

「変、身……!」

 そしてアヘビスは、カードをバックルに押し込んだ。


 その間、私はエネルギー弾を連射した。だが、突如として奴の周囲に四角錐の光が出現し、それに阻まれる。


 その光が割れた時、見浦ゼン氏の姿は無く、同じところに、いたるところに蛇を巻き付けたような意匠が凝らされた、黒字に水色の線のアクセントが利いた鎧があった。

 これが奴の変身後の姿、または戦闘形態と呼ぶべき状態か。


「騎人バスターアヘビス。ここに降臨……」

 アヘビスは右手を虚空に突き入れ、蛇を一直線に引き伸ばしたような長剣を抜いた。

 それを斜め下へ、威厳を放つように構え、

「さあ、掛かって参れ」


 遠慮なく、私はアヘビスへ飛び込み、蹴りを放つ。

 アヘビスの左手が、靴裏を掴んだ。

 私は足首に装着されたままのボールペンを起動し、エネルギーを噴射する。相手の左手首にダメージを与え、足を解放させた。


 すかさず私は下ろした左足で踏み込み、右拳を力強く突き出す。

 しかしアヘビスは側転をくり返し、私との間合いを取って仕切り直す。


 私はアヘビスをめがけ、エネルギー弾を連射する。今度は奴の得物の剣で弾き落とされた。


「次は我の番だ、ハァッ!」

 裂帛の気合と同時に、私の全身に圧力がかかり、身動きが封じられる。アヘビスは刀身をいくつかの節に分割し、一本の紐で繋がったそれを伸ばす。


「フンッ!」

 と、私は叫び、全身に気合を入れる。身体に掛かった圧力が消え失せる。


 私は左手で新たなボールペンを持ち、ボタンをノックする。ペン先から、一直線に光が飛び出し、剣と化す。

 これを振るい、敵のうねる剣閃をいなす。


 アヘビスの剣は、持ち主の意のまま、まさしく蛇の如く、執拗に私へと斬りかかってきた。

 私はそれを適切に防御し続ける。同時に、一歩一歩、奴との距離を詰めていく。


「やるではないか。もう一ついいものを見せてやろう!」

 アヘビスは空いた左手を空へ掲げる。奴の周囲に、十本ほどの牙めいた円錐状の光の塊が出現。一斉に私に迫ってきた。


「それは望んでいない」

 私は右手にあるボールペンのボタンを連打し、十個のエネルギーの相殺爆発を起こす。


 アヘビスは渾身の一振りを繰り出し、一直線に伸びる剣閃を放った。

 私は軽々と跳躍して回避し、敵の得物の、一節の刃に着地する。

 

 反動でアヘビスの剣が元の直剣に戻ることを利用し、私は一気にアヘビスの手前に着いた。


 両手でレーザーブレードを構え、至近距離での剣戟を仕掛ける。

 敵の剣技は鋭く洗練されたものだ。が、私なら一撃一撃の度に、完全な防御、または一歩先の行動が取れる。

 私は冷静に敵の攻撃を止め、確実に、ダメージを刻んでいく。


「小賢しい奴め……!」

 攻防の最中、アヘビスは空いた左手に、水色の光を纏わせ、私の顔面へ突き出してきた。

 私は右肘で敵の左手首を打ち、上方向へ跳ね上げる。


 相手の上半身が反れた瞬間、私は両手を相手の側頭部に回し、一気に引く。その先に構えた右膝に、強く顔面をぶつけた。


 アヘビスの装甲が比較的薄い腹部に、右足で蹴りを食い込ませる。同時に、遠隔操作を起動。

 先程の剣戟の最中、一瞬のうちに足首に着装したボールペンから、エネルギー弾を持続連射可能な分だけ乱射し、アヘビスを五十メートル先までふっとばした。


 アヘビスはタンブルウィードの如く側転をした後、よろよろと起き上がる。

 複眼のような左右一対のバイザーがついたマスクを被っているため、その表情は伺えないが、細かい挙動が、奴の焦燥を物語っていた。


「何故だ……何故私が、生身の人間に土をつけられている……!」


「これも推察だが、貴様の世界ではその装備を身に纏ったものと、非武装の人間では雲泥の戦力差があるようだ。だが、私はその法則に当てはまらない」


「それは如何なる理由で……!」


「王に相応しい賢さで考えてみろ」

 私は離れたアヘビスへ、追い打ちのエネルギー弾を連射する。流石に、剣で弾かれたが。


 私はアルストリーノのエージェントとして、如何なる異世界でも、任務に対処出来るように訓練を施されている。


 時には全高数百メートルを誇る巨竜を屠った。天災を操る魔術師との一騎打ちを制した。星を砕く軍事要塞を攻略した。数千規模のヤクザトルーパーも壊滅させた。


 あのような神の如き武装を纏いし者にも、怯えはしない。

 見浦ゼンという素晴らしいアーティストの経歴に、『不幸の死』というピリオドを打たせはしない。するわけにはいかないのだ。


「王でも何でもない貴様が我を侮辱するな……!」

 アヘビスが剣を勢いよく振り、刀身を伸ばして遠く離れた私に突きを繰り出した。これはもう見た。


 私は必要最低限のジャンプをし、狙いをすまして、一つの刃の節に着地。

 そして刀身が縮む勢いに乗り、アヘビスへ接近する。


 最中、私は牽制のため、エネルギー弾射出のボールペンを構えた。

 そこで私は手を止めた。


「ええっ!? ちょ、なんか俺のこと撃とうとしてません! マンセルさん!?」

 アヘビスのマスクが消え、狼狽えるゼン氏の顔が現れたのだ。目も、輝いていない。

 ついでに、私の前にいるそれは、剣を手放しており、中途半端に伸びたままの剣とともに、私は着地した。


 私は右手のエネルギー弾用、左手のレーザーブレード用、どちらのボールペンの先を、正面から外す。

「ゼン氏、貴方はゼン氏なのか!?」


「なんですかそのロミオとジュリエットみたいな台詞? どう見たって俺は見浦ゼンじゃないですか!? まさか急に顔忘れたってわけじゃないですよね!? 今朝一緒にフレンチトースト食べてたじゃないですか!? ご丁寧にはちみつまでかけたやつ!」


 実際そうだ。私は今朝、ゼン氏とともに、ゼン氏のご母様が作った、ご丁寧にはちみつをかけたフレンチトーストを食べていた。

 私は判断する。このまま攻撃を続ければ、アヘビスではなく、見浦ゼン氏への攻撃になる。それは火を見るより明らかな任務に反する行動だ。

 いかにしてアヘビスの脅威を完全に取り除くべきか。


 と、考えている内に、ゼン氏が私の方へ左手をかざし、水色の光線を放った。

 私は己の感覚と瞬発力を発揮し、回避に全力を注いだ。

 そして私は、校庭の砂地に横たわり、激しく負傷した左脇腹を抑えた。


「王には気高さが必要だ。だが合わせて、時には敵を出し抜く狡猾さも必要なのだ……まんまと情に振り回されたな、マンセルとやらめが」


 アヘビスがマスクを再装備する。支配者然として、あえてゆったりと歩いて私に歩み寄る。

 その間に私は膝立ちまで体勢を回復する。

「だから貴様は我には勝てぬのだ!」

 そして私は、アヘビスにサッカーボールのように、蹴飛ばされた。


 一度宙を舞った際に見えた。校庭の土に描かれた文様の四割が、水色に輝いていた。

 この文様が如何なる効果を及ぼすかはまださぐれていないが、大いなる危機のため、急がねばならない。だが、私には奴に太刀打ちできる余力がない。


 私に反撃して、心の余裕を取り戻せたのか。アヘビスは私に目もくれず、玉座に再びふんぞり返った。


 アルストリーノからの援軍が来るのはまだまだ時間がかかる。ここは私一人でどうにかするしかない。

 脇腹から伝わる痛みと共に、私の頭の中に選択肢が増えていく。私と見浦ゼンと共に奴を仕留める術ばかりが、増えていく。


 だが、それは……したくない。あの作品の背景に、人の死という重いテーマを付随させたくないし、何よりも、見浦ゼンとマンセルの、たった二週間の賑やかな人間の日々を無に帰したくないんだ、私は……


「どこだ、どこにある……何も失わずに解決できる案は……!」


『いました! 奴がアヘビスでございます!』

「アイツか……! いかにも悪そうな奴だね!」


 私は仰向けのまま、首だけ回し、声がする方へ。

 そこにいたのは、背の高い快活そうな少女。その手には、彼女のスマホと、アヘビスのベルトに納まっているようなカードが握られていた。


【完】


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