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助太刀とクロスオーバー

「ごめん、ちょっと用事思い出したから一瞬失礼!」


「ういー」

「なるはやで戻ってよ、えのもーん」


 アタシは仲良しグループから離脱し、廊下へ出る。

 ポケットからスマホを出す。こちらは自然に。

 財布から一枚のカードを取り出して、スマホの画面に重ねる。こちらは周りに見えないように慎重に。


 アタシはスマホを耳にかざし、誰かと電話するフリをして、

「急にブルブル震えてどうしたの? 一瞬ヤバい電話かと思ってヒヤヒヤしたんだけど」


『すみません、リョウカさん。さっきから、凄まじく嫌な予感がしまして……』


「え、何? なんか怪人的なの現れたの?」

 と、アタシはスコルケトの世界観に合わせて、ちょっとした冗談を言ってみた。


『ええ、そうです! 元の世界で敵が現れた時と同じような感覚を、今ひしひしと感じたのでございます!』


「当たってるんかい……で、アタシはどうすればいいの。やっぱり、それを確認しに行くべきだったりする?」


『可能であれば、細心の注意を払ってお願いいたします。万が一のときは、私がお守りいたしますので』

 可能であれば。とは言ったけど、この時のスコルケトの言うことはやたらと熱量が高かった。


 アタシはそれに突き動かされて、スコルケトが言う、悪い気配がする方へする方へと向かっていった。


 そうしてアタシは、一階と二階の踊り場にまで降りた。

「どう? あとどんくらいで着くの?」


『少々お待……いや、リョウカさん! ここで隠れて、待機してくださいッ!』


 アタシは階段の手すりのUターンしてるとこにしゃがんで隠れる。

 そこからスコルケトを持ちつつ、下の様子を覗く。


 階段を降りた先の廊下を、二人の一年生の男子が横切った。

 多分、起きた時そのままの髪型をしてるところから、クラスの中心にはなれてないタイプの人だと思う。


 けどそんなこと考えるのは失礼だし、気にするところはそこじゃない。

 二人とも、背筋をピンとさせ、一定間隔の歩幅で歩いてたんだ。まるで軍隊みたいに。

 そしてあの二人の目は、カラコン入れたくらいじゃ済まされないくらい、水色に光ってた。


 いつぞやの、スコルケトに取り憑かれたお兄さんみたいに。


「ねえスコルケト、あれってもし……」


『しーっ、お静かに! 今、私が感じた嫌な予感の根源が来ますよ!』


「それはごめん」


 アタシはより警戒して、階段下を覗く。

 次に廊下を横切ったのは、一年生の男子一人。


 中肉中背。男子にしては平均的な身長。これまたあからさまな陰キャっぽい男子だった。

 でもってこの人も、目が水色に光っていた。けどその明るさが強すぎる。

 そして、ガッツリ歯が見えるくらいの、自信満々な笑顔が、特に何もされたわけでもないのに怖かった。マジで全身の肌がピリついた。


 あの男子は、アタシたちに気づくことなく、廊下を真っ直ぐ歩いた。もう少し顔を出して、あの人の姿が見えなくなったとき、アタシは無意識に止めてた息を吸い直す。


「な、何だったのアイツは……」


『アヘビス……』


「あ、アヘビス……?」


 ここで一つ解説を入れてくれた。

 アヘビスは、スコルケトと同じエンヂェントパピルスの仲間。でもって同族でトップクラスの力を秘めている、トップクラスの嫌われものだという。


 あまりにも罪状が多いので一気に飛ばすけど、とにかく大昔から色々やらかして、異空間に放逐されたらしい。


 ところがアヘビスは持ち前のポテンシャルで、空間移動の能力を経て、どうにか帰ってきた。


 それからアヘビスは、自分が気に入った人に乗り移って、夏休みシーズンの中、唐突にイヌビスたち騎人バスターの前に現れて、大暴れしたらしい。


「で、そのアヘビスが、あの人に乗り移っていうわけ」


『左様でございます! あの姿は禍々しい気配は紛れもなくヤツでございます! ……あの騒動の時も基地に置き去りにされたままなので、自信ないですけど』


「じゃああの人の前に現れた二人は? 同じ雰囲気がしたけど?」


『あれはアヘビスに洗脳されたのでしょう。奴に触れられた者は洗脳されてしまうのです。それと、洗脳されたものにガッチリ掴まれた者にも。

 バスターの変身者など、一部対象外はありますが……』


 ここで、あの三人が向かった方向から、恐らく事務員だと思う、大人の悲鳴が聞こえて、その後はしーんとなった。

 悪い意味でタイミング良く、その力を実践してみせたんだ……


『……奴は、あの力を使い、奴は世界中の人間を奴隷にし、自分のみが得をする王国を築き上げようとしておりました……』


「つまり、ウォーキング・デッドみたいなこと!?」


『何のことだか存じ上げませんが、きっとそういうことです!』


「アタシも怖いのダメだから観てないんだけど……そうなんだ。ヤバすぎないそれ!

 て、ていうか……なんであんなヤバいヤツがどうしてここにいるの……!?」


 スコルケトはしばらく黙った後、急にアタシのスマホから離れて、サソリ形態になって踊り場に着地した。


『そうか、そういうことでしたか……!』


「どう、どういうことなの……?」


 これはあくまで私の考察ですが。と、前置きして、スコルケトは話した。

「リョウカさんは、私がこの世界にやってきた方法を覚えていますか?」


「変身者を探すため……いや、これが目的か。ええと、あれ、何だっけ?、わかんないな……」


「そう、わからなかったのです。私自身にも。

 ですがヤツの存在を知って気づきました」


 アタシたちの世界の番組『騎人バスターイヌビス』最終回と、あちらの世界での戦いの後日談において、イヌビスとかスコルケトたち、エンヂェントパピルスは、自分たちの力を悪用されないように、元あったピラミッドにまとめて封印された。

 その時、パピルスたちは一つのケースに並べて収納されてたんだけど、アヘビスとスコルケトは、偶然その端っこに隣接して置かれてたらしい。


「つまり、私はアヘビスの悪あがきの時空間移動に巻き込まれて、この世界にやってきたというわけです!」


「な、なんですとー!」


 マジで連続ドラマの終盤みたいな話になってきた。急に点と点が繋がって、線になっていった。

 けど、驚いてばっかじゃいられない。


「とまあ、とにもかくにも、アヘビスをどうにかしなくては。ここには私の世界のように、対抗手段が乏しいですから……」

 スコルケトも同感だった。


 あんな恐ろしい人(?)に立ち向かえそうなのは、スコルケトくらいしか知らない。というより、いるわけがない。


「じゃあ、まずどうするのスコルケト?」


「ヒーローたるもの、まずは一般人の無事の確保を急ぎましょう。

 というわけで、リョウカさん。近しい人に呼びかけて、学校から避難させてください!」


「了解!」

 アタシは持ってきたスマホを出し、仲良しグループにメッセージを送ろうとする。


「ちなみにだけどさ、アヘビスとその手下ってどんな感じなの。動くものに反応するとか、習性的なのでも何でもいいけど教えてくれないかな」


「アヘビスは残忍で加虐趣向が強い。人が悲しんだり苦しんだりとマイナスな感情を抱くことを好む最低のクズです。

 それ故、ヤツは変身者も地の底まで絶望したような人間を選んでおります。

 私の世界で暴れた時も、妻子を失った刑事を騙して乗っ取りました……」


「それはひどい……」

 と、相槌を打ったところで、アタシはメッセージを書くのを止めた。


 またまた点と点が線になった。ただ今度は、良くない方向に繋がった。

 思い出した。あのアヘビスが憑いた男子は、アタシがスコルケトを失くしてた辺りに、イカルガたち三人に詰められていた人だ。


 アタシと、それから真行寺さんみたいに、あの人もきっとイカルガたちに苦しめられたんだ。

 そこをアヘビスに付け入られて、ああなったんだ。


 別の点に、線が伸びる。

 真行寺さん。あの人は、アタシが三人をチクった後から、八つ当たりを食らっていた。

 昨日とおんなじで、どうもまた関わると余計なお世話になるような気がして、会ってない。けど、一気に状況がよくなってないのは何となく予想できる。


 また似たようなシチュエーションだ。

 練習試合で先輩を突き指させた時と一緒だ。

 良かれと思ってやったことが、罪のない人を傷つけた。


 アタシは、送ろうとしたメッセージを全部消して、スコルケトを通話中風の状態で持ち直して、一年生の教室がある五階に上がっていく。


『あ、あの……リョウカさん。避難は……』


「待ってて、今、どう言うか考えている」

 軽く嘘をついた。アタシは、避難させることを言うか迷っていた。

 スコルケトの言うことは信じてる。避難させたほうが絶対いいのは知っている。


 だけど、トラウマがどうも行動に移すのをブロックしているんだ。

 他の誰かが気づいて言ってくれたほうが、イカルガたち、学校の一軍に嫌われてるアタシなんかが言うよりもずっと効果が……


『リョウカさん。あんまり自分で抱え込まないでくださいよ』

 と、スコルケトは穏やかな声色で言ってくれた。


 また点が見つかった。

 これもくり返しだ。自殺しかけた時と似た感じだ。

 勝手にどうにもならないと思って、自分を悪者にして丸く収めようとする。でもって、ますます罪のない人を巻き込んでいく。


 こんな線は、もう二度と描いちゃいけない。全くアタシはバカだなぁ。

 自分を軽くたしなめるように、アタシはスマホの角を頭にコツンとぶつけた。


『あいたっ』

「あ、ごめん……」

 スマホの持ち方の関係で、スコルケトも結果ダメージを与えてしまった。


「でもって続けてごめん……今からアタシも、ヒーローになるよ」

 と、ちょっとクサい台詞を言いつつ、覚悟を決めた。


 この時、アタシは五階にたどり着いてしまっていた。

 もうここまで来たら、直線的にやったほうがいい。


 アタシは勢いのまま、

「大変! 今、一階から大勢の人が暴れてる! だから急いで避難して! あとこのことみんなに拡散して!」


「……お、おお……」

「どうした急に」


「……あ」


 アタシよりも五センチくらい背がデカい、金髪の子。

 その隣にいた、比較してぐんと背が低く見える(たぶん十センチ違う)オレンジ色の髪の子。

 同じ一年で、女子だけど、まるで接点のない二人組に声をかけた。


「あ、すいません! ちょっと人違いしました!」

 アタシは雑にとぼけて、この場から逃げる。


 すると、金髪の子がアタシの肩をガシッと掴んで、力ずくで百八十度向きを回した。


「にげられなかった!」と、オレンジ髪の子が合わせて言った。


「あ、あのー、本当にごめんな……」


 金髪の子がアタシを見つめて聞いた。

「今の話、マジなのか?」


 もうある程度白状するしかない、よね。

「ああ、はい……なんか色々あって。早くしないと、どんどん騒ぎが大きくなると思うので、急いだ方がいいです、絶対」


「そうか、わかった」


 金髪の子はアタシを解放して、

「オレからも皆に伝えとくよ。教えてくれてありがとよ」

 お前もとっとと行けよ。的な意味を込めて、手を払うジェスチャーをして見せた。


 アタシはそれに従わなかった。

「え、待って待って! 信じてくれるの、アタシの話!? その証拠を見てないのに!? 見ず知らずの人なのに!? 急に意味わかんないこと言ってきたのに!?」


 その金髪の子は、眉をギュッとひそめて、苦笑いする

「お前の言ってるその細かい御託の方がわかんねえよ。あれだけ切羽詰まって言ったんだから、適当に流せるわけないだろうが」

 続いてオレンジ髪の子も、

「そっそ。なんか二十年後の未来から来た息子だ、って話したトランクスぐらいの真剣さもあったし」


「け、けど……!」


 金髪の子は両耳に手を置いてゴシゴシしつつ、踵を返す。

「もういい! 先にオレたちが皆に拡散してやろう! てなわけで急ぐぞ、ピコリ!」

「よろしくでーす! コーリン姉さん!」


 そして二人は、横並びで速歩きして、廊下の曲がり角に消えていった。


『やはり、貴方の思う以上に、人間というのは悪い人ばかりではないのですよ』


「そう、だね……!」


 第一発見者は多分アタシだ。ならアタシこそが、誰よりも早く正確に、下で起こったことを伝える必要があるはずなんだ。


 アタシはまた振り返り、あの二人組と逆方向に進んで、片っ端から避難させようと歩き出した。


【完】


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