2×3の解き始め
イカルガたちとの一件が落ち着くまで女子バスケ部は荒れているだろうし、そもそもアタシは足の指を怪我しているので当面はあんまり運動できない。
なのでアタシは月曜日以降、放課後直後、罪悪感も軽めにスーッと下校できていた。
ただ今日に限ってはハプニングがあったので、寄り道することになった。
ああ、別に早く帰れるのを邪魔されたとかまっったく思ってないよ。比較、比較としてだよ。
「あれが僕の家、です……」
「へ、へぇ……本当に学校で徒歩で帰れるんだ」
真行寺ミハルさん。
今日の昼休み、高城トラジっていう一年内で偉くて嫌な奴に、大勢の前で暴言を浴びせられた女子。格好はなんかファンタジーものの少女漫画の男子っぽいけど。
でもって、そのトラジに一発パンチをお見舞いした勇敢な子だ。
ただ今はものすごく足取りがフラフラしていて、アタシが支えて、その子の家まで送ってあげている。
トラジのカウンターを受ける寸前に、アタシが避難させた後、真行寺さんは極度のストレスで力が抜けてしまった。それも午後ずっと保健室で休むくらい。
今はマシになっているし、真行寺さんも「一人で帰れる」と言っているが、アタシも保健室の先生も、どうみてもダメそうと思ってるので、アタシがついているんだ。
学校から出て五分くらい後、真行寺さんの家があるタワーマンションがはっきり見えてきていた。
そこで真行寺さんがアタシに聞いてきた。
「……あの、トラジはあの後なんかしてた?」
「なんとなくだけど、先生から質問くらってたっぽかった。逆に真行寺さんは、保健室で休んでる時に、なんか聞かれなかった?」
イカルガと同じくらいの性格の悪さを持つトラジのことだ、きっと自分のことは丸々隠して、『真行寺さんが一方的に殴った』的なことを言ってたはずだから、一瞬真行寺さんが責められてただろう。
「……いや、保健室の先生以外会ってない……」
けど予想は外れてた。
多分あそこでマジックショーやってて、観客イコール関係者が多すぎて情報の整理ができてないから、まだ真行寺さんへの追求が始まってないんだろう。
あるいは、味方の多いトラジが上手いこと、証言をごちゃごちゃさせているのかもだけど。
「ところでさ、余計なこと聞くかもしれないけど、トラジとは一体何がどうなってあんなことになったの?」
真行寺さんは数十歩くらい無言で歩いて、ようやく言った。
「トラジが僕のリュックを隠した挙句、昼ごはんのお弁当を捨てた。それを注意したら、あんな風に怒鳴り散らした」
それもこれまでのか細い声とは打って変わって、スラスラとした感じで。
「ええ、じゃあもしかしてランチ抜きにさせられたの!? それはもう洒落になってないよ!
ちなみにこれっていつから!?」
「……月曜日から」
月曜日……アタシがイカルガたち三人と、先生たちと裁判じみたことしてもらった日だ。
……まさか、トラジ、八つ当たりで真行寺さんのリュックを隠したんじゃ。
アタシは、第二のアタシを生まないためにも、真剣に質問する。
「これ、先生には相談してる?」
「……してない」
やっぱりか。わざわざ直接言うって手段取るくらいだもんね。
「じゃあ、次学校行った時に相談しなよ。組織束ねてるトラジは厄介かもしれないけど、ちゃんとした人に相談したら多少はマシになるって……」
「……今、僕の家の前なんだけど」
話に夢中になりすぎてた。透明のはずなのに黒光りして見えるガラスの自動ドアとか、入口からして格式高い雰囲気のマンションが、アタシたちを見下ろしていた。
「ああ、ごめん。部屋のドア前まで送る?」
「そこまでしなくていい。これくらい自分で歩ける」
真行寺さんはアタシの肩に回していた左腕を外し、ゆっくりゆっくり自動ドアに歩いていった。
アタシはダメ押し的に、真行寺さんへ叫ぶ。
「次学校に来たら、先生に相談しなよ! もしよければアタシも同席するから!」
よく見たら二重になってた自動ドアの外側を抜けたところで、真行寺さんは振り返り、
「大抵の問題は、部外者がああだこうだ口出しするから面倒になるんだよ!」
あまり大きい声はないけれど、これまでの真行寺さんが出せそうになかった声だったので、アタシは背筋を無意識にピンと伸ばし、意識を飛ばしかけた。
ハッとすると、もう真行寺さんはアタシの前から消えていた。
もしかしたら、アタシは今、迷惑をかけたのかも。
しつこく先生への相談を勧めたのもそう。だけどもっとひどいことしていた可能性もありうる。
さっき思ってた通り、アタシのせいで、トラジの怒りが真行寺さんに向かってしまった。
アタシが良かれと思ってしたことが、罪のない誰かを傷つけた。
……このシチュエーション、あの練習試合のキラーパスと一緒だ。
なんだろう、心の中の不安の量が、一週間前に戻ったようだった。
翌日の昼休み。開幕すぐ、アタシは諸々謝りたくて、真行寺さんに近寄ろうとした。
けど、どうもあの人の周りに、おっかない妖精的な何かがいるような、近寄り難い感じを覚えて、何も出来なかった。
*
大急ぎで靴を脱ぎ捨てて、キッチンの冷蔵庫へと向かい、コップに麦茶を注ぎ、一気に飲み切る。
さまよっていた魂が肉体に帰れたような気分だ。ようやく僕は生きた心地がした。
「……テメェは本当に見ててヒヤヒヤさせるよな」
と、隣に立ったギルフォードが皮肉らしきことを言ってきた。
「……どういうこと?」
「トラジをぶん殴った時は、たった一週間での成長に喜んでたってのに、その後からここに着くまで、差し引くとお釣りが来るくらい情けないザマ見せやがって……」
「だってしょうがないでしょう! トラジは肉体的にも人脈的にも僕よりも桁違いに強いんだもの!
それに、あの時のは、僕も感情的になり過ぎてていただけ! この世界じゃ今はもう、どんな理由があっても人を殴っちゃダメなんだから!」
「そこの怖気づいたとこもそうだが、オレ様が一番言いたいのは、味方にまでつっけんどんな態度を取り続けてたことだ。
二時間くらい、お前のことを心配してちょくちょく声かけてくれてた保健の先生を無視したのもそう。
あの榎本リョウカとかいう女子がアドバイスしてやってるってのに、あんな冷たい場違いな正論振りかざしやがって……
お前、月曜日の話覚えているか? 榎本リョウカみたいな優しい人が手を差し伸べてくれた時のためにも、空気穴を空けとけって言ったよな!?」
僕は、その場でしゃがんで、目線をシンク備え付けの収納の、木目調の板にまで下ろす。
「わかってる、わかってる……けど……やっぱり怖いんだよ……人と関わること……というより……勇気を出すこと全般が……!」
何の勝ち筋もないくせに出した勇気は勇気じゃない。蛮勇だ。
僕がトラジにしようとしていたのは、まさしくそれだ。
僕の両親が他人の保護者にやったことを、因果は巡るように、僕自身が同級生にしてしまった……
今日のことでよくわかった。
僕はやはり、羽を広げて飛んでいい鳥じゃない。
両親がしでかしたことを繰り返すような人間が、復讐だとか報復だとかいう大志を抱いちゃいけないんだ。
気がつくと、すぐ傍でギルフォードもしゃがんでいた。常に強気な彼らしくない、哀しげな目をしていた。
「……なあ、ミハル。オレ様、あの日にもう一つ
言ったことあったよな。
その時はその時で、オレ様と一緒に考えようぜ。みたいなこと」
「わかってる、わかってる」
「わかってるんだったらさっさと立ち上がるなり、制服から着替えるなり、もう一杯お茶飲むなりしろ。あの小説を呼んだ回数ぐらい、こんな立ち直らせるやり取りしたいのか?」
「したくないに決まってるでしょう。けど、僕はそれだけ傷ついてるんだから」
「じゃあ早くこんな窮屈なことしてないで、もっと気の晴れることしろ」
と、言いながら、ギルフォードは僕を猫みたいに持ち上げて、無理やり立たせた。
「……わかった。じゃあ部屋で着替えてくる」
正直、今の僕の中ではまだ、昼休みでのトラジとの記憶が僕を締めつけている。
けれども、今はどうにもできない。だから僕は、ギルフォードの言葉に従うことにした。
空気穴は空けておく。何でもかんでも嫌々言わず、せめてギルフォードの言うことくらいは受け入れないと、僕は駄目になる。そんな気がしたからだ。
「やっぱり成長はしてるじゃねえかよ、ミハル」
僕はキッチンからのギルフォードのつぶやきに反応して振り返る。
「なんか言った?」
ギルフォードは一度氷水に突っ込んだ程度に、顔を赤らめて、両手をバタバタ震わせて言った。
「お前の空耳だ! 気にするな!」
半分、自分が何か言ったことは認めたようなものだ。けど指摘しても恩恵がないので、僕は無視することにした。
そういえば、空耳で、思い出したけど、榎本さんが僕を校舎内に避難させた後、彼女でもギルフォードでも、言わずもがな僕でもない、誰かの声が聞こえてきたような気がしたけど……これは極限状態に陥りかけたが故の幻聴だろう、恐らく。
この日の夕食は、ギルフォードが特別に許可すると言って、冷凍パスタを買ってきた。
別に頻繁に食べてただけで、好物じゃないとは言いつつも、食べ慣れた味に僕は、実家がある人が実家に帰ってきたときのような安心感を感じた。この程度か僕にはわからないけど。
翌日は、ギリギリまで行くか行かないか迷った。
けど、あの件があった日の次の日に休むと、何かやましい事情がある。と、トラジ陣営に解釈されるかもしれない。という戦略的事情で登校することにした。
幸いにも、トラジたちがまた僕に嫌がらせをすることはなかった。それどころか、僕が報復と同等に恐れていた、先生たちからの暴力について詰問すら無かった。
大方、それを訴えようものなら、自分の事情も明かさなければいけないから、あえて耐えているのだろうと思う。
何はともあれ、その日は久々に、以前のように誰とも最低限しか接さずに学校で過ごすことが出来た。
けれどもこれは平穏なんてポジティブな言葉でくくりたくない。
昨日お世話になった榎本さんに、僕の身勝手な非礼を詫びることができなかったからだ。
僕の方から、あちらへ伺って頭を下げるつもりではあった。
ところが、この日はどうも時間割が噛み合わず、どちらかが座学の間に、どちらかが体育館や美術室などに行っている。というすれ違いが多発してしまった。
昼休みなら何分かは教室にとどまっているだろうと、思った。
けど、僕が1−B教室に向かおうとする前に、あちらから1−D教室に来てくれた。
しかし、僕を一瞥してすぐ、彼女は怯えるように立ち去った。と、ギルフォードの目撃談にあった。
改めて、僕は昨日、ひどいことをしたと反省した。あんな快活そうな人に、それだけの恐怖心か嫌悪感を植え付けてしまったなんて。
だから僕は榎本さんに謝ることを躊躇して、放課後を迎えてしまった。
当然、あちらからの再チャレンジはなかった。
あと、午後になっても、トラジたちの僕への動きは何もなかった。
やはり今日は、平穏じゃなかった、不穏だ。
……果たして、明日、僕はどうなるのだろうか。
この久々の孤独な時間は、どちらに転がるんだろうか。
嵐の前の静けさなのか、『汝平和を欲さば、戦への備えをせよ』の逆のようなものなのか。
人一人に頭を下げることを躊躇するような僕に、そんな深い思慮をするような資格はないのだろうけれども。
*
絶賛盛り上がり中の某海賊漫画でもおなじみ、手配書。
キャラの顔画像、桁数の多い懸賞金、最上部にデカデカとある『WANTED』の文字。だいたいの人はアレが思い浮かぶだろう。
現実では、ああいうタイプの手配書は、19世紀末期――写真技術が広まり出したころに、存在したらしい。
当然、リアル大海賊時代こと黄金時代(1650年〜1730年あたり)にはない。大量印刷は文字の活版が限界だったし。
その画像付き手配書の黎明期における、最も有名な被害者(因果応報だけど)はワイルドバンチ強盗団だという。
彼らは銀行強盗を成功させ、有頂天になった時『自分たちの偉業を後世に残そう!』と思い立ち、キッチリ身なりを整えて写真を撮って貰った。
その写真があまりにも出来が良かったので、写真館の主人が仕事例のサンプルに飾っていたという。
するとそれをピンカートン社という当時米国最大の探偵会社が見つけて複製し、各所にばらまいたという。
この驕りによって生まれた指名手配書の原型が、ワイルドバンチ強盗団の致命傷となった。
こうしてメンバーは散り散りとなって、亡命したり、逮捕されたり、処刑されたり、薄暗い余生を過ごすことになったり、過去を隠して裕福になったり、二匹目のドジョウを狙って死んだり、異世界に漂流したり……とにかく色々あったらしい。
それで、何を言いたいのかというと……今の俺は、まるで懸賞金をかけられた悪党のような気分になっているからだ。
学校に来てみると、俺の1−A教室のいたるところに、俺が描いたイラストが、セロテープ一切れで雑に貼られまくっていた。
それも、俺がしかみ絵としていた、あのヘッタクソなイラストが。
俺はまず、駅から歩いてややしんどかったので、やや重たいカバンを、自分の机横にかける。
そっから、自席に近い壁から、しかみ絵を一枚引っ剥がす。
PPC用紙……そりゃそうだが、これは俺のイラストをコピーしたものだ。
いつ見てもやるせなくなる下手な絵だが、俺の家にある原本と違って、この滑らかな紙質が量産感を醸し出し、悪意というメッセージが付与されている気がする。
いや、確実に悪意がこもってる。
原本にはおろか、ネットにリメイク版に添えてたデータにもついていない、『作者:1−A 見浦ゼン』の文字が、左下に小さく、ゴシック体フォントで書いてある。
ここでイヤホンを外した直後のように、周りからのざわめきが耳に入り始めた。
「うわー、気持ち悪いイラスト」
「共感性羞恥すぎんだろアイツ」
「なんでこんなの貼りまくってるの? ナルシ?」
正直、今すぐマジでイヤホンをつけたかった。案の定、教室にいる他の奴らは、俺への悪口をコソコソ言っていた。
けど、生憎俺のイヤホンはノイキャン機能が無い。『ベイビー・ドライバー』みたいにつけながら歩いて、人にぶつかりまくりたくないからだ。
俺は、剥がしたイラスト一枚を自分の机に置き、それを見下ろしつつ棒立ちし、どうすればいいか考える。
その途中、マンセルさんが机の右サイドからボールペンを伸ばし、全面をなぞるようにその上の空間で振る。
「何してるんですか、マンセルさん……」
マンセルさんは、普通の喋り方が出来ることをクラスメートに知られないよう、ものすごく小声で言った。
「指紋鑑定だ。これを教室に貼った犯人をあぶり出す」
そして一通りなぞり終わった後、マンセルさんはスマホ代わりの端末に、ボールペンを重ねた。
画面には、結果として、『見浦ゼン』の名前が出た。
「それ、俺がさっき引っ剥がした時についたのですよ」
「理解しているとも。君はこういう周りを顧みない承認欲求を持っていないことくらい」
「ですよね」
となると、犯人は、ゴム手袋でもつかってキチンと足がつかないよう、これを教室に貼りまくったんだろう。無駄に丁寧な真似をしやがって。
犯人を捜したい気持ちも山々だが、俺にはそれよりも優先すべき責任がある。
「マンセルさん、このまま壁四面に俺の絵がある状態で授業が始まったらまずいですから、急いで全部剥がしましょう」
「そうだな。これ以上ゼン殿を事情も知らず非難させるわけにもいかない」
というわけで、俺とマンセルさんは、今いるところから、一枚一枚、しかみ絵のコピーを剥がし始める。
するとそこで、
「おい、見浦ゼン殿!」
「うわぁおッ!?」
俺の近くに、生徒会長が立っていた。
この人は、ルール上は問題ないとしても、俺と同じ一年生のくせして立候補し、現在の地位にいる、正義感の強い女子として有名だ。
彼女は、力強く剥がしたせいで半分クシャついてる俺の絵のコピーを見せて、
「この個性的なイラストは貴様のものか!?」
半分正解、半分ハズレ。なんて余裕ぶっこいた台詞は、この人には言えない。
「これは俺が描いたものです、けど! ばら撒いたのは俺じゃないです!」
「は……どういうことだ?」
マンセルさんが援護射撃してくれる。
「ミーたちが登校した時点で、こんなウエスタンの酒場みたいになってたんデース!」
「そ、そうなんです! 信じてくださいよ生徒会長!」
俺はスムーズにその場で正座し、手を合わせて生徒会長に懇願する。
と、生徒会長はため息をついて、
「……わかった。信じる」
行きも帰りも同じ。俺はスムーズに起立し、目を見開く。
「ほ、ホントですか……!」
「貴様たちにHR開始前に全て撤去していただきたい故、おちおち追求などやってられないからな!
というわけでだ、見浦殿、マンセル殿! 急いで作業に取りかかれ!」
「は、はい!」
「イエッサー!」
貴方が来る直前から始めてたんですけどね、これ。
俺はマンセルさんと生徒会長の協力も受けつつ、大慌てで、コピーを剥がしていく。
途中、ふと周りを見てみると、電車の中で騒いでいるヤツにやるように、俺を絶対に視界へ入れないようにしている。
それがベタな2Dアクションゲームの、壁使って弾を跳ね返らせてくる不規則攻撃みたいでキツイ。正々堂々縦横で撃ってくれ。
よそ見してないで作業に集中しろ! とか生徒会長のまだ言ってない台詞が頭によぎったので、俺は目線を壁に戻す。その最中、俺はある一人と目が合った。
自分の席でスマホをいじっていた、上流オウマさんだ。
その目には、他の連中が隠そうとしている上辺だけの憐れみではなく、申し訳なさがあるようだった。
とか思ってると、生徒会長もそちらへ向いて、
「おい、上流殿! 黙って眺めている暇があるなら手伝え!」
「は、はい! ただいまッ!」
こういうの、今は創作物でも珍しいよね。生徒会長が一番強いっていうの。
オウマさんは生徒会長に脅されて、剣をぶっ刺されたように席から勢いよく離れ、俺の隣に立って、剥がし作業を手伝い始める。
……せっかくなので、俺は聞いてみた。
「あの、オウマさん。これ貼ったの、貴方たちじゃないですよね?」
どうして俺のしかみ絵の存在を知れたんだ、という引っかかりなどが多いが、こんな大掛かりなイタズラが出来るのは、陽キャ三大将とその眷属くらいしかいない。
だから俺はその一角、オウマさんに、まともに答えてもらえないことを覚悟して、聞いた。
ところが、俺は大きく予想を裏切られた。
「ああ、俺たちのせいだ」
「……え」
「……言い訳かもしれないが、俺は自分の意志でやってない。サッカー部の朝練へ行く前に、トラジが紙束抱えて待ち構えてたんだ。
で、『十分くらい時間くれ』って頼まれて、いつものメンツと一緒に、誰も来てなかったこの教室で、ひたすらこれを貼りまくったんだ」
「……自白はっや」
「言っておくが、これは本当だからな。俺は今でもなんでこんなことしたのか意味わかってないからな。結局自分で剥がしてるところも含めて」
「……わかった。ありがとよ」
「待て、それはまだ早い。先回りして忠告しとく。最近、トラジさんはメチャクチャ気が立ってるから、迂闊に関わろうとするなよ……」
「わかった」
実際はわかってない。
これで、昼休みにやることが決まった。
そのことを考えて、俺はしかみ絵のコピーを剥がす手を早めた。
「そこ! 見浦殿、上流殿! コソコソ喋ってないで急げ!」
「「はい、すみません!!」」
お互い、生徒会長が怖いしさ。
【完】




