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ヒーローの端くれ

「それで、その後どうなったの?」


「……何が?」


 正面に母さん。斜向かいに父さんが座っていた。

 ものすごく、アタシを心配そうに見てきていた。


 周りの背景に違和感があった。

 このナチュラルな内装、布部分が座面以外無いのに妙に身体に合う椅子。二つくっつけた丸テーブル。

 どうやらカフェにいるみたいだ。全体的に明るいから、よく抹茶ラテとか飲みに行ってる『クライマックス』じゃないな。


 というか、考えるのはそこじゃない……

「……あれ……アタシ、死んだはずじゃ……」


「リョウカ。あなたはまだ死んでないよ。臨死体験とか天国手前とかでもないよ」


「タダカツとかタケヒロが不謹慎な茶々を入れてくるから、家の近くのカフェに来たんだけど……これは相当参ってしまったみたいだ……」


 母さんと父さんの言っていることが理解できない。

 最近の世界史の授業みたいだ。マッカーサーが来たと思ったら、ニクソン大統領が辞職したとかみたいな。

 いや、ドラマを一話飛ばしてみたってほうがアタシに似合うか。

 いや、どっちでもいい。


「待って待って! アタシなんで急にワープしてるの? アタシ確かついさっきまで部屋にいた感覚なんだけど?」


「わかったわかった。今から私と父さんが説明する」

「まあとにかく一旦落ち着いて、これ飲むか、これ食べて……」


 アタシは父さんに差し出されたコーヒーと、パンの耳を揚げたヤツっぽいお菓子を一本いただいてから、極力落ち着いて聞き直す。

「で、アタシが部屋にいた時からこのカフェに来るまでに何があったの?」


 二人は顔を合わせる。

 数秒間見つめ合った後、父さんがどうぞとジェスチャーして譲って、母さんが説明する。

「始まりはこう。

 あなたが大急ぎで一階に降りてきて、私たちに『あやうく自殺しかけました』って言いに来たの。

 私と父さんはすぐにその訳を聞いたら、『貴崎イカルガとその仲間たちに半年間いじめられてて、それが今日一気にグレードアップした』とか『母さんが芸能人だから、もし学校にチクったら大スキャンダルになりそうで怖かった』とか話してた」


「さっき言った通り、弟二人が空気の読めないことばっかり言ってくるから、途中からこのカフェに避難したんだ。

 あの二人が、リョウカの部屋の電気に延長コードが引っかけてあったのを見つけたのはありがたかったけど……」


 そうそう。と、母さんは父さんにうなづいてから続ける。

「相当メンタルがやられてたみたいだったしね。別に馬鹿にしてるわけじゃないんだけど、リョウカにしてはあまりにも時系列が整理されていて、理路整然とした説明だったし、語尾が『でございます』とか『あります』とか敬語風になったりしていたし……」


 でございます……あります……

 アタシはこのうさんくさい喋り方で、全て繋がった。


 スコルケトが、出会った初日にお兄さんにやったみたいにアタシに乗り移って、代わりに説明したんだ。

『ご名答であります!』


「うおっ!」


 急に背中から声がしてびっくりした。

 そこを掻くふりをして、私服(これも配慮して着といたのかな)の襟元に触れると、スコルケトが内側にしがみついていた。


『本当にギリギリのタイミングでした。アナタが宙に浮く寸前にどうにかカバンから飛び出て、乗り移り、自力でコードの結び目をほどいたのでございます』


 今ここでスコルケトと会話すると、ますます不安がられる。アタシはどうしようか迷った。


『失敬。この状況では私と会話は不可能ですね。では、後の説明はリョウカさんご自身で、正直にお願いいたします!』


 そう言って、スコルケトは黙った。

「どうしたの、急に黙っちゃって?」

「やっぱり、家でゆっくりしようか。それか……」


「ご、ごめん。ボーッとしちゃって……」

 この説明だけじゃ足りないだろうから、アタシはどうにか辻褄を合わせるために、右の靴と靴下を脱いで、

「今日怪我したここが痛くてさぁー」

 内出血を起こした右足の人差し指を見せた。


「まあ、ひどい」

「さてはこれも、そのイカルガって子にやられたのか?」


 アタシは、言葉に詰まった。

 前のように、気持ちががくんと下向きになって、死にたくはなくなった。

 けど、やっぱり怖い。いじめのことを学校に伝えたら、イカルガたちが正論を振りかざし始めたら、ネットとか週刊誌にこのことが見つかったら……母さん、父さん、きょうだいみんなが……


「……リョウカ。私がバレー選手を辞めたのって前に話したっけ?」


 どうだろう、覚えていない。いつだか講演会に行ったときも、バレー選手になれた後のサクセスストーリー以降は全部ゴチャついてる。


「ごめん、覚えてない……」


「そりゃそうだよ。講演会とかインタビューでも詳しく話してないから。

 簡単に言うと、バレー選手としての責任から逃げたんだ」


 母さんが何度か世界大会に出て、結果を出せなかった時、帰国してすぐに目にするのは、ニュースや新聞による、自分たちの技量をやんわりと貶す記事だった。

 何故優勝できなかった? と、帰ってくるごとに言われるのがずっと辛かった。こちらはこちらなりに頑張ってきたのに。


 そして母さんは、それなりに年齢がいってきたタイミングで、衰えを理由に引退した。


「アタシはある程度はどうにか出来たけど、一度行っただけでも、世界の大きさと重圧を知りすぎちゃって、温かい故郷にまで逃げ帰ったチームメイトもそこそこいた。

 他のスポーツとかで、いかなる逆境にも負けずに世界で活躍する選手とかゴロゴロいるけど、アレは人の心を失ったバケモノだと思うんだ。

 ちょっとバレーが上手いだけの、ちょいバケモノの私からすれば、ね」


 そして母さんは、アタシが父さんに渡されてたパンの耳を揚げたヤツを一本取るという茶目っ気を出してから、

「だからリョウカ。あんまり自分で抱え込まないで。あなたまでバケモノになったり、なり損なって死んだりしちゃダメ。

 芸能人の娘って、メディアが都合よく考えた、冷たい種族にもならないで。

 あなたは私たちの娘、榎本リョウカのままでいて」


 父さんも続いてパンの耳を揚げたヤツを一本取って、

「あと、きょうだい三人のことも抱え込まないでくれよ。

 マサヒデはどうにかやっていけるとして、下二人ついては父さんがここで謝る。長くいる親なのに、野放しにしてごめん」


 母さんと父さん。二人の言葉を受けたアタシは、しばらく頭を回転させた後、残りのコーヒーとパンの耳を揚げたヤツを勢いよく口にいれてから、

「アタシもごめんなさい! みんなのこと守るふりして、こんなに迷惑かけて!」


「「かけてない、かけてない」」 

 と、二人は首の横フリ具合いまでハモって言ってくれた。


「……じゃあ、ごめんの代わりに、話の続きを聞かせてくれないかな?」


「『貴崎イカルガの同格みたいな悪童、高城トラジがお父様の作った照り焼きチキンを勝手に食べた挙句、「味が薄い」と侮辱したのでございます』ってところから、思い出せる範囲でよろしく」


「う、うん……」

 スコルケトの奴め。こんな中途半端なシーンで交代してくれて……全く。



 一時帰宅。足の指の応急処置。タダカツとタケヒロの全力謝罪。大学へのお兄さんの迎え。アタシを元気づけるための焼肉。これらのイベントを経て、アタシは夜九時くらいに、あの部屋に戻ってきた。


 延長コードは弟二人が元の位置にセットし直してくれていた。

 なんであんなことしたんだろう。

 スコルケトといっしょにこの世界に来ていた、敵キャラが乗り移ってきたのかと思うくらい、あのことが本当に恐ろしく思えてきた。


 そうだ、スコルケト。

 アタシは首裏に手を回し、ここで大人しくしていたスコルケトを引っ張り出し、机に置く。

 ドアに耳をかざし、部屋付近に人がいないことを確認してから、椅子に座る。


『どうされましたか、リョウカさん』


「……まず、さっきはありがとう。おかげで助かった」


『礼には及びませんよ。ヒーローの端くれとしてすべきことをしたまでです。

 元々、イカルガが激化した事の発端は、私でございますから』


「じゃあ余計にありがとう」


『どういたしまして。では、「次に」はございますか?』


「ある。アタシがあなたを持ち歩いてたことはどう説明してたの?」


『それは貴方の言っていた通り、弟にプレゼントしようとしてたダッサイオモチャということにしてあります。

 流石に私が異世界から来た喋る、動く変身アイテムと知られてはまだ困りますから』


「まだ……やっぱり変身者探しは続ける気?」


『それはそうですとも。生憎、まだ元の世界に帰る術も見つかっていませんもの……ただ、今後このことがないように、貴方の元からは離れたいと思います』


 それは助かる。と、アタシは言いかけたけど、すぐやめた。


 スコルケトがイカルガに見つかって、今日の自殺未遂につながったのは確かだけど、これは時期が早まっただけだと思う。

 どうせあの性悪女子のことだ、他の理由をつけてアタシをいじめ倒したに違いない。もう少し後に、似たようなことが起きて、アタシは死のうとするに決まってた。


 けど、もしその時、スコルケトがいなかったら、アタシは未遂じゃ止められなくなった。

 

 ああ、でもやっぱり、喋るおもちゃがずっとついて回るのはどうかなぁ。


 って、アタシが優柔不断をやっていると、

『ただし、頃合いを慎重に読んでですがね。特に今の貴方は、まだ問題が解決していませんし、ぶり返す恐れもありますゆえ』


「それは助かる」

 意味は違うけど、結局言ったじゃんかアタシ。


 ここでコンコン、と、無難なノックが聞こえた。

「リョウカ。今ちょっといい?」


「母さん。いいよ、入って」

 

 スコルケトは、放置されていたノートの下に、カードになって隠れてくれた。


 母さんは少し開けたドアから顔を出して、

「明日土曜日だけど、あなたの学校に先生っている?」


「うん。うち私立だから、誰かしらはいると思う。とりま女子バスケ部の顧問は確定でいるはず」


「そっか。じゃあ病院よってから行こうか」


「いやいや、まだそこまで心配しなくていいよ。この通り元気だから」


「メンタルの方もいずれは行っといた方はいいと思うけど……私が言ってるのは整形外科の方」


「ごめん、早とちりしてた。そっちね」

 そうだ、アタシ、右足人差し指を内出血してたんだ。実のところ、バスケやってるから三年間隔でどっかしら内出血やってたから、ちょっと慣れてた感あった……てか、

「まさか母さん。明日すぐに先生に相談しにいくの?」


「そう。だって私は日曜までしか家にいないから。明日行かないと」


「けど、子どもの喧嘩に親が出る感じがして嫌なんだけどアタシ……月曜、アタシから先生に言うのはダメ?」


 母さんはドアを全開に開け放って入室し、アタシに詰め寄って、目を三角にして叫ぶ。

「ダメ! あのイカルガとかいう子たちがしたのは実質殺人なんだから! 親も怒らないと深刻度が伝わらないでしょ!」


「た、確かに……けど、貴重な休みの日を使っていいの?」


 母さんはすぐに顔色を優しい方に戻して、

「いいよ。日曜にダラダラすればいいから。じゃあ、整形外科は十時に予約したから、八時には起きてね」


「おっけっけー」


 母さんが部屋から出ていった後、アタシはいつもの寝る時間――十一時まで、机で動画を見ながら過ごした。

 新しいNBAのハイライト動画を順に見た。今はなんとなく、新しいことを楽しめる気になれてたから。


 翌日……土曜日。

 アタシは八時にセットしたアラームで目が覚めた。


 足の指のこともあるので、いつもの五時半からのランニングはする気もなかったし、そこのアラームも今日は切ってあった。

 けどまさか、アタシが八時までぐっすり寝られるとは……なかなか驚きの出来事だった。


 朝ごはんと身支度をして、母さん父さんと一緒に形成外科へ行き、三年ぶりにテーピングと薬を貰った。

 そこからすぐに高校へ行き、週五で通ってても基本は通れない来客用玄関を通って、先生を呼んでもらった。バスケ部の顧問と、たまたまいたアタシのクラスの担任。


 二人の先生はアタシたちの話を一通り聞いた後、「リョウカさんの申し出があったとはいえ、放置して、ここまで問題を大きくしてしまい、申し訳ございませんでした」と謝った。

 一瞬、もみ消されたらどうしようと思ったけど、優しい先生たちだった。

 だからアタシは、「こちらこそ、本当に申し訳ございませんでした!」と、それを飛び越えるくらい心を込めて謝った。


 それから先生たちは、早急にこの件を解決することを約束して、アタシたちを見送った。


 日曜日。

 母さんが久々にいるという状況でも、それぞれダラダラ過ごした。


 どうせ最低二週間後にはまた帰って来るから、そんなに惜しむ必要はないんだ。

 アタシも、色々と疲れたから、たまには何もしないことも必要だろうし。ね



 月曜日。

 アタシは八時十五分くらいに学校に着いて

「ういー」

 いつもの女子高生基準では礼儀正しい挨拶を、クラスの仲いいグループに送った。


 するとその中のひとりがアタシを手招きする。

 アタシはカバンを持ったまま、そちらの机周辺へよると、

「先週はごめんね、えのもん」

「朝もお昼休みも無視しちゃってさぁ」

「私たちまでイカルガに睨まれるのが怖くて……」


「いいよ別に。アタシもあの日はだいぶメンタルやられてて、誰とも話したくなかったし……」

 危うく死にそうになったとは決して言わない。仲いいとはいえ、ここでまで超心配されたくないもの。


 そこからアタシたちは、金曜に出来なかった分の雑談を一気に消化して、朝のHRが始まる一分前に自分たちの席に散った。

 

「あ、同じクラスだったのですね」


 その道中、アタシは見覚えのある顔に会った。

 金曜日、階段を降りてる最中に怒鳴った、ソフトボール部の女子だった。


 同じクラスでもここまで馴染みない人って、まだいたんだ。

 アタシは急に照れくさくなって、頭を掻きながら、

「だったよう、だね……その、先週はなんかごめんなさい。アタシその時……」


 アタシが珍しくゴモゴモ喋ってる間に、その女子は目尻を下げて言った。

「元気になってよかったです」


「……はい、そうですね」


 そしてアタシは、チャイムの最初のキーンの音と同時に着席した。



 昼休み。三日ぶりに仲いいグループとご飯を食べようとしたところ、担任の先生が来て、第三会議室とかいう札以外見たことない部屋に案内された。


 中には既に、一年の学年主任、女子バスケ部の顧問、教頭先生までもいた。

 それと、担任の先生がわざわざ呼びに来たことから察してたけど……上流さん、高城さん、そしてイカルガがいた。


 会議室には、長机がカタカナの『コ』の字に並べられている。アタシは入口から遠い、コの下線部分に一人座る。正面にはしぼんだ感じの三人。横には先生陣が並んでいる。

 部屋の殺風景具合からして、まるで裁判所だ……多分これからする話も、実質そういうものだろうし。


 しばらく先生たちが『誰が先行く?』的な話をゴソゴソやった後、アタシたち四人がクラスがバラバラということなので、ひとまとめで物言いできそうな学年主任が口を開いた。


「先日、榎本さんからのご相談を受けまして、私たちは関係者を一人ひとり呼び出して、聞き取りを行いました。すると、この三人が最も一件に関係しているとのこと。

 女子バスケ部内でのものと、その規模が拡大して起きた、高城さんと上流さんも加わった先日金曜日での暴言。そちらについてさらに質問したところ、三人とも事実を認めました」


 認めました。と学年主任が言ったタイミングで、三人がペコリと会釈する。


「中心人物の貴崎さんは、中学校の頃にキャプテンとして女子バスケ部をまとめていました。

 そのことから、スポーツ選手の家に生まれた恩恵を受けて、自分よりも先に活躍した榎本さんに嫉妬してしまい、あのようなことをしたとのことです。

 悪口も暴力もよくないと思っていましたが、榎本さんも周りも止めようとしてなかったので、これならいいかと思いこんでエスカレートしてしまった。距離感を間違えた。若気の至りだったとのことです」


(ガワだけのいばりんぼが使いそうな言い訳でありますね)

 と、スコルケトが言いそうなことを口に出さずつぶやいてみた。万が一イカルガたちが全否定したときに、キレて能力とか変身とか使わせないように、今回はカバンの中で留守番してもらっているんだ。


「高城さんは、榎本さんと貴崎さんの関係がよくわかってなく、その時の印象だけで『だらしない怠け者』と判断してしまった。自分自身、ストイックで厳しい性格なので、榎本さんが許せなくなり、辛辣なことを言ってしまった。

 上流さんは、そこまで本気で責めるつもりはなかったのですが、場の空気に合わせてあんな態度を取ってしまったとのことです」


 正直、この言い訳パートいる? とも思ったけど、あの人たちが素直に自分の罪を認めることもないし、学校サイドも片方ばっかり擁護するわけにはいかないだろうから、アタシは七割くらい受け止めて聞く。


 この後、担任と、顧問の先生が、自分たちも生徒の動向をちゃんと把握できなかった。榎本さんの複雑な事情があったとしても、もう少し良いやり方があったはずだった。と、謝罪してくれた。


 教頭先生から、

「我が校は地域社会から信頼されている以上、いかなる理由があったとしてもいじめは決して許されません。

 今後は教師陣一丸となって、対策を行います。榎本リョウカさん、この度は心苦しい思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした」

 と、いかにも学校の上位陣らしい、誠意のこもった謝罪をした。


 そして、学年主任から「じゃあ貴方たちからも、言いたいことをどうぞ」と、遠回しに命令されて、

「……長い間、嫌な思いさせたみたいで、ごめんなさい……」と、イカルガ、

「この前は『死ね』とか『消えろ』とか、キツイこと言ってしまって、すみませんでした……!」と、高城さん、

「今まであまり会ったことのないあなたに、何も考えずにあんなこと言って、周りを怖がって何も助けてやれなくて、本当に申し訳ございませんでした!」と、上流さんは言った。

 三人とも、角度の異なる礼をしながら。


「こちらこそ、すみませんでした」

 と、アタシは悪者にならないように、一応の礼を返した。


 最後に、学年主任が、

「先ほど、教頭がおっしゃった通り、今回のことは先生たちで共有して、対策に活かします。ああそれと、三人の親御さんにはしっかりとお電話させていただきます。

 今後は同じ学校の一員として、穏便にお願いします……では、以上です。榎本リョウカさん、お戻りください」


「ああ、はい。ありがとうございます……」


 アタシは、わざわざ集まってくれた先生たちに一通り会釈して、スタスタと第三会議室から出た。


 教室に戻るまでの間の、中庭側の廊下から来る陽の光と、芝生の青々しさが、なんとなくアタシの心をよりさわやかにしてくれた。


「やっと、終わった……」

 これからは、どうしようか。

 今日の部活はどうしようか。というより、また心機一転してバスケ部にいられるかどうか、全くわからない。

 けど、なんとかなりそうな気がする。

 今ならなんでも出来そうな力が湧き上がってくるから。


 廊下では走らない。学校での基本原則を意識して、アタシは少しだけ腕を広げて、笑顔でちょい早めに歩く。


 その横を、アタシよりも速く歩いて、イカルガと高城さんが通り過ぎた。

 そして斜め右で立ち止まり、揃って振り向き、睨みつけてから、

「このメンヘラ女が、面倒よこしやがって……!」

「少し傷つけられたくらいで騒ぎやがって……覚えてろよ上級国民!」

 と、オオカミとかライオン系のおっかなめの動物がうなるような声で、アタシに言いつけてから、速歩きを再開した。


 中庭から見える外の景色は、まだ晴れ模様だった。けどアタシは、急に曇り空になった気分だった。


「し、失礼しまーっす……」

 二人から遅れて、上流さんが、アタシの右横を、恐る恐る通った。

 ……すれ違うだけなら、謝る必要ないってば。


 けど、これでますますわかった。

 ボコボコにされて、そのくらい凹んだ上流さんとは対照的に、あの上からのスタンスを崩さないイカルガと高城さん。

 あの二人は、相当性格がねじれた悪者なんだろうって。


 流石にアタシにはもう、アレだけのことはしようとはしないんだろうけど。多分アイツらは、また誰かになんか悪さするんだろう。


 教頭先生とかが言っていた『今後の対策に活かす』。それが本当になってくれたら、アタシは本当の意味で、みんなのことを守れることになるのかな。


 天気予報では晴れなんだけど、一定間隔で曇り空に切り替わる、ああいう感じの天気が、今のアタシだった。


【完】


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