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エンヂェントパピルスはどこへ

 翌日。アタシはいつも以上に早起きした。

 いつものモーニングルーティンをこなし、学校へ行く。

「忘れ物をしました」と、朝練中の男子バスケ部に断って、備品倉庫に入る。

 そこでアタシは厚めのカード一枚が入ってそうなところをあららこちら探した。


 途中、アタシはアタシなりに推理して、スコルケトが自力で歩いてどこかへ行ったのかな。とも考えた。

 だとしたら、学校内の他の誰かに見られてるだろう。

 そもそもこの倉庫の戸が、スコルケトに開けられそうにない。昨日見せてくれた単独変身状態も数秒しか持たないらしいし、勝手に戸が開いてたとかの怪奇現象騒ぎになってたはず。


 あーあ、もしアタシにコナンやガリレオくらいの賢さがあったらヒントの一つ二つは見つかるんだろうなぁ。


 結果、総あたりくらいまで探したけど、どこにもない。


 教室へ戻る際、男子バスケ部のギリ話せる人に、「エンヂェントパピルスっていうおもちゃ見てません? 弟が好きなんで買っておいてた奴なんですけど……」っていう、成立してんのかわかんない言い訳と、スマホの画像を添えて聞いてみた。


「いや、俺知らないなぁ……」

 その人は首を傾げて答えた。でしょうね。こんな都合よく見つからないよね。


 それからアタシは休み時間が来る度に、体育館でする他の部活の、信頼できる一年の知り合いに、おんなじ質問をして回った。

 

 答えも『知らない』。こちらもみんなおんなじだった。

 相変わらず授業もまるで頭に入らないし、アタシは午前中を丸々無意味に過ごし、昼休みがやってきた。


「えのもーん! 今日もこっち来るー!?」


「ごめーん! ちょっと用事があるから無理っぽい!」


 机を固めている友達に手を合わせて言ってから、アタシは教室を出る。


 スコルケトを見つけるべく、アタシは最後の手段を使うことにした。


 ――女子バスケ部の人に聞く。他の部活の人に聞き回った今、できるのはこれしかない。

 ここでも気をつけなきゃいけないのが、誰にそれを聞くかっていう話。


 アタシがさっきまで信頼できる人に聞いていたのは、イカルガを恐れてのことだ。

 貴崎イカルガさんは学園ドラマのヒロインでも張れそうなくらいのルックスと、なかなかの運動神経、いつの間にかとしか言いようがない人脈作りパワーで、あっという間に一年女子の一軍に上り詰めた。

 しかも男子の陽キャや先輩たちとも交流があったりする。


 そのせいなのか、そのおかげなのか、どっちでもいいけど……あの人はものすごくプライドが高く、気に食わない人には容赦しない。


 その裏の顔が一番わかりやすいのは、アタシへの当たり方だ。

 あのアタシの最初で最後の他校との練習試合の時、イカルガはアタシが交代に入ったことについてかなり嫉妬してたらしい。

 あれだけ先輩とコネがあるのに。なんでアイツが先に……!

 そういう態度が、アタシがベンチから立った時の表情と舌打ちからわかってた。


 それで、アタシがあの事件を起こすと、イカルガは両手を挙げて大喜び。その日以降、イカルガは心底嬉しそうに、色々な人に『榎本リョウカが三年生を試合中に潰した』と嫌な誇張をして回った。


 全員が全員、それを真に受けてアタシのことを嫌ったわけじゃないけど、あの人の取り巻きであるカースト上位の人たちは、漏れなくアタシのことを厄介者扱いし始めた。


 特にキツイのは、同じ女子バスケ部の人たち。

 先輩・同級生含めて、イカルガと波長の合う人が多いから、みんな寄って集ってアタシへ嫌がらせをした。練習中にわざと怪我させるようなことをしたり、一切ボールに触れさせなかったり……


 顧問の先生とかもやめろとは言ってたことはある。けど、アタシをかばって部内の過半数を占めるグループを敵に回して、部活が成り立たなくなる可能性もあった。それこそ顧問の先生として困るからっていう理由もあって、あまり積極的にはなれなかった。

 そしてアタシは先生公認の、『部活に毎日来なくていい人』になった。

 アタシはなんか申し訳ないから、月に二、三回はボール磨きとかの雑務をやっている。けど、もう練習はかれこれずっとやっていない。


 ずっとやってたバスケを高校でもしたい気持ちはある、絶対。けど、できないんだ。イカルガはどうにもできないから、絶対。

 

 もうアタシに出来る手段は何もない。味方として頼れそうな友達もいない。顧問の先生もあの通り勝てっこない。母さん父さんなんか特に……


「おっと……!」


 っていう悲しい振り返りと、女バスの誰にスコルケトのことを聞こうかと考えてたら、アタシは迂闊に立ち寄っちゃいけないとこに来ていた。


 廊下の途中で一箇所くぼんでいる、いくつかのテーブルが置いてあるスペース。

 ここは昼休みになると、一年生の上級者の集合場所に使われがちなんだ。

 でもって今日も、ガチガチの陽キャたちがゲラゲラ笑いながら集まっていた。


 アタシは刑事みたいにベタっとならないくらい、自然に角に張り付いて隠れて、ここの様子をうかがう。


 その中にはあのイカルガもいた。男子サイドのトップにいる、サッカー部の上流さんと、野球部の高城さんまでいる。


 三人は、見た目からしてあからさまな陰キャの男子を、正面に座らせていた。

 周りがうるさいからわかんないけど、相手の腰と首の曲がり方からして、絶対キツイことされてるんだろうなぁ。と、同情した。


 ……ここの人にスコルケトのことを聞けるわけがない。事実を捻じ曲げてまたアタシが悪者になるように言いふらすに決まってる。


 アタシは自然にスーッとこの場から逃げた。

 それからしばらく考えて、アタシは1−Aの教室に入った。


 用があるのは、ただいま机に座ってスマホをじーっと見てる女子。

 昨日、スコルケトが『素質あるかも』と言ってた、ピンク色の髪の色白の子だ。こんな偶然あるんかい。


「あの、すみません、今ちょっとお時間よろしいですか……」


「ん? おおっ! 何スか急に!?」


 その子はおもきしスマホを抱えるように隠しつつ、アタシをガン開きした目で見てきた。


「ごめんなさい、急に驚かせて。あの、昨日、倉庫でこれ見てなかった? アタシの弟のプレゼントに買っておいたんだけど……」

 アタシは自分のスマホに、エンヂェントパピルスの商品ページを見せつつ聞いてみた。


「ああ、そういう話ね……全然知らないっスよ」


「え、本当に?」


「本当っス。アタイはこんなどうでもいいところで嘘ついて意地悪しない主義っスから」


「そう。わかった。邪魔してごめんね」


「はいはい。それじゃまたっス」


 ここでも空振りか……アタシはトボトボと1−A教室を出て、お隣の1−B……アタシのクラスの教室に戻った。


「ごめんみんなお待たせー! 途中参加でいい?」


「うん、いーよ、えのもん!」


 スコルケトならあの隠しきれない根性で、きっとどうにかなるだろう。それか、昨日のはなんか変な夢だったんだ。疲れてたんだ。


 アタシはいくつかの言い訳を頭に浮かべつつ、カバンから、お弁当箱を取り出し、確実に仲良しの女子グループの方へ行こうとする。


 その途中、

「いやあやっと会えたよ。君、ちょっといい?」


 なんか私よりちょい下くらいの高身長で、なんかすごいスラーっとしてスタイルのいい赤髪の女子が、アタシの前に立った。同じクラスの人なのは覚えてるけど……あれ、名前なんだっけ……?


「はい。大丈夫ですよ」

 さっき私も急にあんまり絡みのない人のとこに押しかけたんだから、断るのは人としておかしいもんね。


 その子はブレザーの胸ポケットから、一枚のカードを手渡した。この紫色ベースに金ラインが入ったヤツ……スコルケトだ!

「ああ! これアタシが探してたヤツ!? どうしてあなたが?」

 おかしいな、体育館でする系の部活の人には聞いて回ったはずなのに……


 その赤髪の子はニコニコして答える。

「私は女子サッカー部なんだけどさ、昨日通り雨があったから、急遽、他の部活から体育館の隅のスペースを借りて基礎トレーニングをすることになったんだ。そのタイミングでこれを、ね。

 君に見せようとずっと思ってたけど、君があっちこっちに行くものだから、なかなか機会に恵まれなくてね」


 アタシは感極まってベタにパーにグーを乗せた。

「なるほどねー! どおりでみんな『知らない』って言うわけだ! 女子サッカー部は完全にノーマークだったよ〜!」


「それで、君が探していたらしいものはこれで合っているのかい?」


「はい! 合ってます!」

 アタシはその子からスコルケトを受け取り、

「よかったー、これで弟が喜んでくれますー」

 最後の最後まで油断せず、言い訳を張っておいた。


「それはよかったよかった……じゃあ私はここで失礼するよ」

 赤髪の子は、アタシと友達の合流を邪魔したことについてペコリと軽めに謝って、クルリと振り返る。

 と、その前にアタシは一応聞いてみる。

「そういえばなんですけど、このカードってどこに落ちてたんですか?」


「ん? いや、私は知らないよ」


「え、あなたが見つけてくれたんじゃないんですか?」


 赤髪の人は向きを戻して、親切に教えてくれた。

「そうだね。ちゃんと説明してなかったね。

 通り雨が降った、体育館に避難した時、女子バスケ部の貴崎さんが『あんた1−Bでしょ? 同じクラスの榎本リョウカって人にこれ返してやりなさい!』って押し付けられたんだよ」


 しばらく、アタシとこの人の間で無言の時間が発生した。


「だ、大丈夫かい……なんか血の気が引いている気がするよ……」


 気がするどころじゃない。マジで今、自分の血管の中の動きが全部止まったような感覚に襲われた。

 榎本リョウカが、騎人バスターのおもちゃを学校に持ち込んだ。

 こんな話を、あの貴崎イカルガが記憶にしまっておくはずも、一切の料理もせずに出すこともない。


 アタシは、これからどういう悪口や嫌がらせが襲いかかるのか、心配で不安で怖くて震えて……『死』の文字が頭によぎった。


【完】

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