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第2話 旅立ち

「父さん、母さん……ちょっと話があるんだ」


夕飯を食べ終えて、食卓の上のランプが小さくゆらめいている。

いつもなら妹が食器をカチャカチャ鳴らしてる時間だけど、

今日はなぜか静かだった。


「どうした、ペルノ。そんな改まって」


父さんが首をかしげる。

俺は少しだけ息を吸って、腹をくくった。


「……おれ、首都に行こうと思ってるんだ」


母さんが驚いた顔をした。

「首都に? ノーウェンに行くの?」


「うん。ずっと前から決めてた。

 村を出て、ちゃんと働いて、金を貯めて……。

 それで、家に仕送りしたいんだ。父さんたちにも、楽してほしいから」


一瞬、沈黙。

薪のはぜる音だけが、ぱちん、と鳴った。


父さんが、ゆっくり笑った。

「……そうか。ようやくこの日が来たな」


「もし、父さんと母さんがよければ――

 明日にでも出たいって思ってる」


母さんは少しだけうつむいて、それから小さくうなずいた。

「寂しいけど……ペルノなら大丈夫ね。どこに行っても、きっとやっていける」


「母さん……」


父さんが言葉を継いだ。

「無理はするな。お前はもう、立派な男だ。

いままで我慢して働いてきた分、これからは自分のために生きなさい。

仕送りだって考えなくていいんだからな」


俺は笑った。

胸の奥が、ぽっとあたたかくなった。


「母さん、父さんありがとう。

でも、いい職に就いたら__絶対に仕送りするよ」


妹が口をもぐもぐさせながら言った。

「にいちゃん、おみやげも忘れちゃだめだよ」


「……おう、任せとけ」


このちゃっかり者の妹のたわごとを聞くのも今日で最後になるかもと思うと少し寂しくなった。



___次の日の明け方。

俺は家族がまだ眠っているうちに、そっと家を出ようとしていた。


玄関の柱にもたれかかった鞄には、母さんが用意してくれた干し肉と黒パン。

それに、妹が夜中にこっそり入れたであろう、ヘタくそな手紙。

“がんばれ にいさゃん”って、


「ちが逆になってるぞ、ばか」


思わず笑いながら、それを胸ポケットにしまった。


家を出る前に、ふと居間を振り返る。

昨夜まであんなに賑やかだったのに、今はランプも消えて真っ暗だ。


「行ってきます」


声に出すと、家の木の壁が少しきしんだ。

まるで「気をつけて行ってこい」と言ってくれてるみたいで、胸がじんわり熱くなる。


ドアを開けると、朝靄がうっすら広がっていた。

畑の土の匂い。羊の鳴き声。

どれもこれも、今日でしばらく聞き納めだ。


「……よし」


鞄の紐をぎゅっと締め直して、俺は一歩、外の世界へ踏み出した。


ペルノ・サエナー、十四歳。

人生初の旅立ちである。



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