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第19話 振り出しに戻る



「もしかして、あなた国1板の占い師って噂のミライアさん!?」


と、赤髪のメイドが尋ねた。

おお、やっぱミライアって有名人なんだな。


「そうよ。で、こっちが助手のペルノ。

よかったら、あなたの未来、占ってあげましょうか?」


ミライアが軽く微笑む。

その表情はどこか得意げにも見える。


「え!いいんですか!お願いします!

 ……そうだな、恋愛とか気になります!」


おお、これはいい流れだ。

これなら、ヨルンさんに自然に繋げることができる。


「もちろんいいですよ」


ミライアはゆっくりとカバンの中から

水晶――“イッシー”を取り出した。

昼の光が反射して、水晶の中にかすかな光がゆらめく。

……てか、いつも持ち歩いてんのかよ


「ちょっとペルノ、そこどいてくれる? 私が座るから」


ミライアが鋭い視線を向けながら言う。

俺は肩をすくめて後ろに下がった。


「へいへい」


さっきまでメイドさんには笑顔だったくせに

俺にもうちょい優しくしてくれてもいいだろ……


ミライアがメイドの隣に腰掛けた。


さすが美少女。

ベンチに腰掛けるだけでも絵になる。


「きれい…」

隣に座るメイドもミライアに見惚れているし。


美少女っていいよなー。

俺も生まれ変わったら美少女になりてえよ。


「それではあなたの恋愛面での未来を占いましょう」


ミライアは水晶に手をかざし、目を閉じる。

指先が触れると、水晶の中の光がゆらゆらと明滅した。

ほんの数秒、空気が張り詰め、あたりの音が遠のいていく。


……あれ?

よく見るとミライアの眉がぴくぴくしてる気がするんだが。


「……ん? んん? ……見えたわ」


「え!? な、なにが見えたんですか!?」


メイドが思わず身を乗り出す。

ミライアはゆっくりと目を開け、言葉を紡いだ。


「幼い子を腕に抱くあなたと、隣には短髪でガタイのいい男性……」


「……短髪で、ガタイのいい男性?」


ヨルンさんの特徴からはかけ離れているような…


「えっ、あの! その人って、腕に傷があったりします?」


「そうね、確かに腕に傷があったわ」


「やっぱり!!」


メイドの顔がぱぁっと明るくなる。


「わたし、いま庭師の人とお付き合いしてるんです! その人、火傷の跡が腕にあって……!

これって、その人と結婚できるってことですよね!?」


「まあ、そういうことみたいね」


「わぁ〜っ! すごいすごーい!」


メイドは立ち上がってぴょんぴょん跳ねた。

その無邪気さが可愛くて、こっちまで少し笑ってしまう。


……いや、ヨルンさんの話どこいった。


「コソッ おい、ヨルンさんはどうしたんだよ」


「んー……え、えーっと……あとでちゃんと説明するから」


目そらした。絶対なんかごまかしてる


「ほんとうにありがとうございます!

とっても幸せな気分になれました!

これ、良かったらひとつ貰ってください!」


メイドは興奮冷めやらない表情で

キャンディスの瓶を1つ渡してきた。

光の角度で色が変わるその粒が、宝石みたいにきらめく。


「まあ、ありがとう。嬉しいわ」


ミライアが微笑むと、メイドはルンルンと足取り軽く広場を去っていった。


……そう、去っていってしまったのだ。


「おい!どうすんだよ!俺がずーっとここで粘ってたのに!!」


ぜんぶ水の泡じゃねえかよ!!


ミライアの肩をがくがく揺らす。


「ちょ、ちょっと!やめなさいってば!ちゃんと話すから!」


「なんだよ!早く教えろ!」


ミライアはため息をついて、イッシーを指先で軽く叩いた。

カツン、と澄んだ音が響く。


「……メイドさんの横に、未来の旦那さんがいたのは確かなんだけどね。

その“横”にはちゃんとヨルンさんがいたのよ」


「え、どういうことだ?ふ、二股?」


「違うわよ!ばか!

…もしかしたら、今回はニアピンだったのかも。

ヨルンさんの“運命の人”はメイドさんじゃなくて

――あの、メイドさんと深く関わる人とか」


「とか、ってなんだよ。めちゃくちゃ曖昧じゃねーか」


「曖昧じゃないわよ! 長年占い師をやってる勘よ! 

……それに、ぼやけててよく見えなかったけど、ヨルンさんの隣にも女性がいたような……」


「ほんとうか〜?」


「なによ! その疑ってる顔は! 本当よ!」


「なーに喧嘩してんの!」


軽い声が飛んできた。


その声の主にふりむくといつの間にか目の前に

ヨルンさんが立っていた。


「「ヨルンさん!」」


俺とミライアの声が重なる。


「なんか、その様子だとまたダメだった感じ?」


ヨルンさんは少しだけ笑って、首の後ろをかいた。

いつもの軽い調子の中に、どこか疲れを隠すような笑みだった。


「すみません。いつも来てくださってるのにうまくいかなくて」


ミライアが少し眉を下げた。


「いやいや、いいんだよ。俺が好きで占いをしてもらってるんだ。ミライアちゃんは悪くないよ」


「すみません、なんでヨルンさんは“運命の人”にこだわるんですか?

ヨルンさんくらいの人なら、普通に出会って結婚できそうですけど」


俺は、つい気になってヨルンさんに聞いた。


「お、そこ気になっちゃう?」


ヨルンさんは肩をすくめて笑う。

けれど、その笑いはどこか照れくさそうでもあった。


「実はさ、親から“そろそろ身を固めろ”って言われててね。

『さもなくば、こっちで相手を決めるぞ』って脅されてるんだよ」


「へぇ〜……」


たしかにヨルンさんは見た感じ20代半ばって感じだし、親御さんがそろそろ身を固めてほしいっていうのも、わかる気がする。


「でも俺、こう見えてピュアだからさ。ちゃんと好きな人と結婚したいんだよね」


「ぴ、ピュア……?」


思わず声が裏返った。

ミライアが吹き出しそうになるのをこらえて、口元を押さえる。


「いやほんとだって。外見だけで判断しないでくれよ」


ヨルンさんはおどけたように言いながら、ベンチにどっかり腰を下ろした。


「今日も“あともうちょっと”って感じだったんですけど…」


ミライアは膝の上の水晶イッシーを軽く撫でた。

光がかすかにきらめく。


「そうなの?」


「はい、ーーーーーー」


ミライアが赤髪のメイドさんとの出来事をヨルンさんに説明した。


「…そっか、でもそのメイドさんの横には俺と女性がいたんだね」


「はい。いままでも何回かヨルンさんの運命の相手について占ってきましたが、今回初めて女性側を占った時にヨルンさんがみえたんです。

おそらく、あのメイドさんと関わりのある人かと。」


「つまり、王宮にかかわる人…か」


俺は顎に手を乗せ考えた。


「王宮に関わる人って、貴族のお嬢様の場合だってあるだろ?その場合、もし運命の人だとしても

身分差で結婚を認められないって可能性もあるんじゃないか?」


「!…たしかに、そうね」


ミライアがハッとした。


「もしかしたら身分差で結婚できるかどうか怪しいからはっきり相手のお顔が見えないのかもしれません」


なるほど、そういうこともあるのか。

それならなんだか腑に落ちる。


「身分差ねぇ……」


ヨルンさんがどこか遠くを見つめて言った。


「ただの農家じゃ、そんなお相手と結婚できないもんな……。」


ヨルンさんは小さく笑ってから、ぐっと拳を握った。


「よし……。やることは決まった!」


「なにをするんですか?」


「んー、まだ内緒。とにかく!今日はありがとう!

またなにかあったら占いをお願いするよ!

じゃあ、気をつけて帰ってね!」


ヨルンさんがどこかすっきりした顔で去っていった。


「…よかった、のか?」


「まあ、本人がいいならそうなんじゃない?」


「まーた、適当なこと言って…ってさっきから思ってたけどお前何買ってきたんだ?ずいぶんと大荷物じゃね?」


ミライアの足元には大きな紙袋があった。


「ああ、これね。…はい、あげる」


ミライアはそれを俺に差し出してきた。


「え?なんだよ、こわい」


「こわいってなによ!失礼な。…プレゼントよ。」


「プレゼント!?なんか怪しいもの入れてるのか?」


「もう!いいから開けなさいよ!」


「はいはい」


俺は紙袋の中に入っていたものを取り出した。


すると、中にはしっかりとした生地のシャツやジャケットなどの服が入っていた。


まって、これデザインはシンプルだけど生地からして

ちゃんといい服なんじゃ…?


「遠慮せず受け取りなさいよ。

これは私個人からのプレゼントじゃなくて、雇用主として仕事道具を与えてるんだからね」


「ありがとう、めっちゃ嬉しい。俺、服とか無頓着なから」


「見たらわかるわよ。仮にも国一番の占い師の助手がクタクタな服着てたら困るからね。

今度からはこれ着てきなさいよ?」


「おう…大切にする。」


なんだか照れくさくて、俺は目を逸らした。


「大切にしすぎて、毎日おんなじ服着たりしないでよねー?ばっちいから。」


「失礼な!ちゃんと毎日洗濯するわ!」


「フフッ約束よ? じゃあ今日は帰りましょうか」


「ああ、そうだな」


家路につきながら、紙袋の中の服を改めて見下ろす。


……絶対これ、高いやつだよな。


「なあミライア」


「なによ」


「この服っていくらしたんだ?」


「ハァ、乙女にそんなこと聞いちゃう?

金額はあんたのプライドのためにも内緒にしとくわ。」


「ハハ…すみません。」


そんな他愛ない会話をしながら、

俺たちはいつもの道を歩いて帰った。

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