第18話 赤髪のメイド
お久しぶりの更新です
「……全然来ねえじゃん。」
俺はあくびをかみ殺した。
占いでは“昼頃に現れる”とか言ってたけど、もうすでに日が高く昇っている。
人通りは増えてきたけど、
それっぽい“赤髪のメイド”なんて全然見当たりやしない。
ミライアのやつ、また適当なこと言ったんじゃないだろうな。
「やってられるかっての」
アイツの言うことなんて気にせずなんも言わずに帰ってやろう!
俺はベンチから立ち上がった。
でもな…
あいつ、悲しんだりするのかな。
ミライアの困ったような、悲しんでいるような顔が頭に浮かんで、妙な罪悪感が胸に残る。
「……あー、もうしょうがねえな!」
俺は再びベンチに腰掛けた。
「はあ〜…」
あたりを見渡してみると、やっぱり首都は賑やかだ。
ジリビーン村じゃ、顔馴染みのじいちゃんばあちゃんしかいなかったのに。
知らない人だらけの街って、ちょっと寂しい気もするよなあ。
ていうかほんとは俺、銀行とか役場とか
もうちょいお堅い職に就きたかったのにな。
「……なんで今、インチキ占い師の助手なんてやってんだろ」
背もたれに体を預けて、空を見上げたその瞬間――
「すみません、ちょっとお隣いいですか?」
「あ、はいどぞ……っ!!」
膝下まである黒のメイドドレスに、真っ白なエプロン。
ふたつに垂れた赤髪の三つ編みが光を受けてきらめく。
ま、まさか……!?
こ、この人がヨルンさんの“運命の人”!?
「あの……お邪魔でしたか?」
赤髪のメイドが不安そうに首をかしげる。
「い、いえ! 俺、田舎出身で……
メイドさんなんて初めて見たから、つい見惚れちゃって……すみません!」
「えぇ〜!? 見惚れちゃうだなんて、そんな……」
頬を赤く染めて、恥ずかしそうに笑う彼女。
か、かわいい……!
ヨルンさん、羨ましすぎるぞ……!
「お仕事中なんですか?」
「ええ、市場にお使いを頼まれてて。今は少し休憩中なんです」
「そうなんですね!
ちなみに、どんなものを買ったんです?」
「今日はこれを買いに来たんです」
そう言って、彼女がバスケットから取り出したのは――
透き通った瓶に詰まった、丸い氷砂糖のつぶ。
陽の光でキラキラと輝いて、まるで宝石みたいだ。
「ふふっ、初めて見ます? これは“キャンディス”って言って、氷砂糖をシロップやリキュールに漬けたものなんです。紅茶に入れると、とっても美味しいんですよ」
微笑みながら彼女が言った。
田舎者丸出しすぎて恥ずかしい。
「へぇ! 初めて見ました。カラフルで綺麗ですね」
「でしょ? ティアナ様もこのキャンディスが大好きで――」
……ティアナ?
「もしかして……君、ティアナ様のメイドなの?」
「あっ……! く、口が滑っちゃいました……!」
両手をぶんぶん振って真っ赤になる彼女。
うわ、やっぱりそうか。
よくみると彼女は、襟元に王家の紋章が描かれたピンバッジをつけていた。
田舎者の俺でも流石に知っている。
ティアナ様とは、ノーウェル王国第一王女の
ティアナ・ノーウェル様のことだ。
さすがに実物はみたことないけど、
新聞に載っていた肖像画は見たことがある。
一言で言い表すと、
"金髪のすっげぇ美少女"なんだよな。
ティアナ様はその麗しい見た目から国民の人気も高く、王家に仕えるのは狭き門だがティアナ様に使えるのはまたさらに難易度が高いらしい。
「ティアナ様のお付きのメイドだなんて、
すっごく優秀な方なんですね」
「いやいや!わたしなんてそんな…運良くなれたようなもんですから…って、もうそろそろ行かなくちゃ
すみません、長話なんてしちゃって」
「え!もういっちゃうんですか?」
周りにはまだヨルンさんは見当たらない…
「せっかくのご縁ですし、もう少しお話ししたいんですけど…」
「え?…もしかしてナンパですか???」
彼女の目が一気に曇った。
「ち、ちがっ! 違います!!」
慌てて両手をぶんぶん振る俺。
やばい、完全に誤解された。
「えっと、その……あなたが“運命の人”かもしれないんです!」
「は? う、運命……の人?」
メイドがきょとんとする。
だめだ、余計に怪しい。
「い、いや違う! 正確には、運命の人“かもしれない人”を探してて!」
うわーもう、墓穴を掘ってる気しかしない。
メイドの視線がどんどん冷えていく。
まるで「この人通報した方がいい?」みたいな目だ。
やばい、ほんとに通報される!
「ち、違う! 俺じゃなくて! 友達の話で!!」
もう何言ってるか自分でもわからない。
頭の中がぐるぐるする。
その時――
「ペルノ〜! なに口説いてるのよ〜」
柔らかくもよく通る声が響いた。
俺が顔を上げると、噴水の向こうからミライアが颯爽と歩いてくる。
日差しを受けて、ふわりと揺れる黒髪。
風になびくカーディガン。
その笑顔は、なんかもう反則級に綺麗だった。
「えっ、ミライア!? ち、違っ、これは――!」
「ふふっ。違う違う、冗談よ」
ミライアは俺の腕を軽く取って、にこりとメイドに向き直る。
「こんにちは。彼は私の助手なんです。ちょっと人探しの依頼をしてて、失礼な言葉があったらごめんなさいね?」
その口調がやけに落ち着いてて、妙に大人びてた。
メイドの表情もほっと緩む。
「そ、そうだったんですね……すみません、早とちりして」
た、助かった〜!!!
ミライアは俺の救世主だ…!!




