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第17話 バジルの香りと胸のざわめき

翌朝。

占い小屋の前に立っていたミライアを見て、俺は思わず足を止めた。


「……誰?」


いや、ほんとに一瞬わからなかった。

髪はいつものように下ろしていなくて、白いクリップでふわっとまとめられてる。

キャミワンピに薄いカーディガン。

首元がすっきりしてて、普段よりずっと大人っぽい。

朝の日差しの下で、まるで別人みたいに見えた。


「……おはよう」


声をかけると、ミライアがくるりと振り返る。

ぱちっと目が合う。

光に透けた黒髪がきらきらして、

一瞬、言葉が出てこなかった。


「おはよう。なに? 見とれちゃった?」

くすっと笑いながら、ミライアが首をかしげる。


「い、いや! 別に!」


「ふふ。そう? でもその顔、完全に見とれてたわね」


「ち、ちげーし! なんかいつもと違うな〜って思っただけだって!」


「へぇ〜。“かわいい”とは言わないのね?」


「言うかそんなもん!!」


ミライアがクスクス笑いながら歩き出す。

くそ、からかわれてるのに、顔が熱い……。


「で、どこ行くんだよ」


「ちょっと、ついてきてほしいところがあるの」


──着いた先は、パン屋だった。


「……まさか」


「ちょっと、ここでカンパーニュのオープンサンドを二つ買ってきて」


「……絶対、昨日占いに来てくれたパン屋見習いの店だろ」


「そうだけど何? 早く買ってきて。お腹すいちゃった」


「へいへい、買ってきますよ」



ドアを開けると、ベルがチリンと鳴った。


「あっ! 昨日の占いの人……!」


そばかすの少年がすぐに俺に気づく。


「はは、偶然ですね」


「あのあと試作をして師匠に食べてもらったら、販売の許可をもらえたんです! 本当にありがとうございます!」


と、少年は頭を深く下げた。


「いやいや、俺は何もしてないし……」


「よかったら、このパン持っていってください!」


「いやいや、お金は払うよ!」


「いやいや、ぜひ受け取ってください!」


「いやいやいや!」


───


「またのお越しをお待ちしております!」


結局、押しに負けてパンをもらってしまった。


「次はちゃんと買いに来よう……」


外に出ると、ミライアが腕を組んで待っていた。


「遅いじゃない」


「まあ、いろいろあってさ。あの人、すっごく喜んでたよ」


「そう。よかった」


ミライアの口元が、ほんの少し緩んだ。


「で、どこで食べるんだ?」


「こっちにいい場所があるの」


ミライアが歩き出し、俺はそのあとをついていく。


──たどり着いたのは、役場前の噴水広場だった。


「ここよ」


って……ん?

まさか、な……。


「たしか、今日の昼にヨルンさんの“運命の人”が現れるって場所じゃなかったか?」


「そうだけど?」


「なんでここに……?」


「決まってるじゃない。運命の人が現れたとしても、ヨルンさんと出くわすとは限らないでしょ?

その人が現れたら、すぐどこかに行っちゃわないように、どうにかするのよ」


「どうにかって、どうすんだよ」


「それを考えるのが助手の務めでしょ?」


「はぁ!?」


「ま、いいわ。まずは冷めないうちにパンを食べましょ。……ムグッ、美味しい〜!

お肉が入ってないのに食べごたえあるわね」


……ゴクリ


俺も一口。


「うま!! ジェノベーゼとナッツって合うんだな!

ニンニクとバジルだけだとガツンとしそうなのに、

ナッツの甘みでまろやかになってる。あと、このカンパーニュ美味ぇ」


「ふふっ。朝からニンニク食べちゃったわね」


「たしかに。ま、いいんじゃね? 俺は気にしないし」


「でも、キスするときに匂い気になっちゃわない?」


ミライアがグイッと顔を近づけ、上目遣いで言った。


「は!?!? き、キスなんてするわけないだろ!!」


「アハハッ、耳まで真っ赤よペルノ。冗談に決まってるじゃない、あーおっかしい」


ミライアが腹を抱えて笑う。

その笑い声が透き通るみたいで、思わずつられて笑ってしまった。


「……そんな顔するから、からかいたくなるのよ」

ふっと息を整えながら、ミライアが微笑む。


「バカにしやがって〜! くらえ! ニンニクブレス!!」


俺は思いっきり息をふきかけた。


「ちょっ、やめてよ! ほんとにニンニク臭いじゃない!!」


ミライアが手で顔をあおぎながら、笑いすぎて涙を浮かべる。


「ふふ、あんたってほんとバカね」


そう言って、また笑った。

その笑顔はさっきまでより、ほんの少し柔らかく見えた。


風がふっと吹いて、ミライアの髪が俺の頬にかかる。

バジルと石鹸の混ざったような香りがした。

……なんかもう、距離の近さにドキッとしてる自分が情けなかった。



「……さてと、食べ終わったことだし。

私はちょっと買い物してくるから、あとはお願いね〜。少ししたら戻ってくるから」


「え? 俺一人?」


「そうよ〜?」


「せめて、そのヨルンさんの“運命の相手”の特徴をもうちょっと詳しく!」


「赤い髪を二つに結ってるわ。

服装は……王家に仕えるメイドさんって感じね。

じゃ、あとはよろしく〜」


「おいおい待てって──」


ミライアはひらりと手を振って、あっという間に人混みの中に消えた。


「……えぇ……」


時刻はまだ朝の九時。

昼までここで張り込みって……アイツ、鬼上司かよ。


噴水のそばに腰を下ろして、ため息をつく。

ミライアの笑い声がまだ耳の奥でくすぶっていて、

……やっぱり、あいつのこと考えると妙にドキドキしてしまう。




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