第16話 常連とパン屋の少年
「おはよう〜今日も占いよろしく〜!」
軽い調子で入ってきたのは、
いかにも“町の陽気な農民”って感じの男だった。
「あっ、ヨルンさん! 今日も来てくださったんですね〜」
ふわりと胸元まで伸びた黒髪が揺れて、光を受けて艶めいた。
肌は透けるように白くて、唇はほんのり桜色。
いつもは口が悪いくせに、笑うとやけに優しく見えるんだよな……。
……俺にはそんな笑顔向けたことないのに
「今日から新しく助手を雇ったんです。ペルノ、挨拶して?」
ニコッと俺の方を見て微笑むミライア。
うわ、かわいい。反則だろ
「は、初めまして! ペルノと申します。
今日から助手としてお世話になります。よろしくお願いします!」
「よろしく、俺はヨルン!
運命の相手を探してて、ミライアちゃんに何度か
占ってもらってるんだけど、なかなか見つからなくてね〜」
「ヨルンさんの理想が高いんですよ〜」
ミライアがくすっと笑う。
ふーん、けっこう仲良いんだな
「この前の子にも会いに行ったんだけどね〜、
なーんか違う気がしてさ。じゃ、今日も頼むよ!」
「はい! 任せてください。次こそは運命の相手を見つけてみせます!」
ミライアは自信たっぷりに言って、
水晶――もとい、“イッシー”に手をかざし、目を閉じる。
「……見えました。
役場前の広場、噴水のベンチに座る赤髪の女性。
今日のお昼ごろに行けば、出会えるでしょう」
「おっ、それっぽいこと言ってんな〜」
俺が思わず口に出すと、
ミライアが無言で足を踏んできた。痛っ。
「なるほど…噴水前の赤髪の女性、ね。わかった! 今日こそは運命の子だといいな〜」
「上手くいくように願ってます」
「また外れたら、運命の相手はミライアちゃんってことかも?」
そう言ってヨルンは、ミライアの胸元まで伸びた髪先に指を伸ばした。
「ちょ、ちょいちょいちょい!!」
俺は咄嗟にその手を掴む。
「うちは“お触り厳禁”なんで!」
「もう、ペルノったら〜」
ミライアが困ったように笑う。
「これはいつものヨルンさんの冗談よ」
「あらら、ごめんごめん。
ペルノくん、好きな子触られたら嫌だよね〜?」
「そ、そんなんじゃねえっ……!」
ケラケラと2人に笑われる。
…ちょっと可愛いなって思ってるだけで、好きとかそういうのでは無いし。うわあ、恥ずかしい
「…お会計、800イェーンです」
「はい、丁度ね。
…ミライアちゃんのことはそういう目で見てないから安心してよ?」
コソッとヨルンさんが耳打ちしてきた。
「もう!そんなんじゃないですって!
……ありがとうございます。お気をつけて!」
「またね〜」
手を振りながら出ていくヨルン。
……いや、また来たらダメだろ!
ガチャ
「にしても、あの人何者なんだ?」
「何者って…普通に調子のいい農家さんじゃないの?」
「普通の農家が1回800イェーンもする占いを何回も受けに来るか?」
「儲かってるんじゃないのー?時間ないから次の人どんどん通して」
「はいよー」
農家の割には靴も綺麗だったんだよなあ
……ま、いいや仕事仕事。
ガチャ
「お待たせしました。次の方どうぞ〜」
ーーー
今日もミライアがインチキ占いをしてしまうんじゃ…とヒヤヒヤしたが、
大抵の相談は仕事愚痴や恋愛について、はたまた今日の献立についてなど
平和な内容が多く、ミライアがテキパキと占いで解決していった。
そして、あっというまに50人目のお客さんになった。
「次の方どうぞ、大変お待たせしました」
「失礼します…」
入ってきたのは、そばかすがよく似合う少年だった。
見た感じ、真面目で人の良さそうなタイプだ。
「自分、パン屋の見習いでして……」
少年は少し緊張気味に頭を下げた。
「師匠から“新商品の開発”を任されてるんですけど、何を作っても許可が下りなくて……」
「それは大変ね」
ミライアは顎に手を当てる。
「ちなみに、どんなパンを作ってるの?」
「カンパーニュです。
でも普通のじゃつまらないから、全粒粉を混ぜて香ばしくしてみたり、オレンジピールを混ぜたりいろいろ試してるんですけど、うまくいかなくて」
「カンパーニュか!定番だけど美味いよなあ〜」
実家にいた頃は良く、夕飯にでてたなあ
薄くスライスしてスープに浸しながら食べると美味いんだよな
「ちょっと、あんたヨダレ垂れてるわよ
…まあ、占ってみましょう」
おっと、いけない。
ミライアが水晶に手をかざし、瞳を閉じる。
今日50回目の光景だけど、見ていて飽きないもんだな。やっぱり顔がいいから絵になる。
「…見えました。あなたが、厨房の裏で賄いのようなものを食べている姿が」
「おい、それお前が腹減ってるだけじゃ…
「それってもしかして、自分が賄い用につくったオープンサンドのことかも知れません!」
え、そうなの?
「オープンサンド??」
「はい!余ったカンパーニュをスライスして、
バジルソースとニンニクとナッツを混ぜたペーストを塗ってチーズをかけて焼いたものです!」
…なにそれ、超うまそう
「たしかに、あれは売れるかもしれない…
ありがとうございます!さっそく師匠に食べてもらいます!」
「ふふ。よかったわ、きっと上手くいきますよ」
「ほんとうに助かりました!ありがとうございます!」
ガチャン
少年は目をキラキラと輝かせながら、会計をし
足早に去っていった。
「……腹減った」
「そうね、もう17時過ぎてるものね」
「えっもうそんな時間?」
「50人も占ってたらこんな時間にもなるわよ。
はいこれ、今日の報酬10000イェーン」
ミライアが金貨を手渡す。
「え?7000イェーンのはずだろ、多いんじゃ…」
「いいのよ、思いのほか頑張ってくれたし。
初日からかなり役に立ってくれたからお礼よ。
これは素直に受けとってくれる?」
「ミライア…おまえ、太っ腹だな」
ちょっとジーンときた
今日1日頑張ってよかったぁ。
「かわりといっちゃなんだけど、明日ちょっと用事に付き合ってもらうわよ」
「用事?」
「ええ。明日店は閉めるけど、今日と同じ時間にここへ来て」
「ああ、わかった」
「じゃ、残りの締め作業は今日だけ私がやってあげるからぼうやは早く帰りなさいよ」
「ぼうやじゃねえっての!…ま、お言葉に甘えさせてもらうよ。今日はありがとな」
「こちらこそ、助かったわ。じゃあ、お疲れ様」
「おつかれ」
ガチャン
外はすっかり薄暗くなっていた。
ポケットには、さっき貰った金貨が一枚。
冷たい風が吹くけど、
ミライアに少し認めてもらえた気がして――
心は、やけに温かかった。
「さてと、今日は久々にカンパーニュとスープを食べようかな」
俺は宿へ向かって歩き出した。
明日、ミライアに会うのが少し楽しみになっていた。
2025/10/18 少し修正しました<(_ _)>
次回からは、少しずつラブコメ要素も増やしていこうと思います。
ペルノとミライアの距離がどう変わっていくのか、楽しんでもらえたら嬉しいです!
「ちょっとでも面白い」「続きが気になる」と思ってもらえたら、
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