第15話 勤務初日
翌朝。
冷たい風に吹かれながら、俺は占い小屋の通りに立っていた。
「まじかよ……」
時間10分前に到着した俺は、目の前の光景に絶望した。
営業開始は八時半からのはず。
それなのに、占い小屋の前には人・人・人。
列は小屋の前から通りの角を曲がるほどまで伸びており、さらに折り返している。
老若男女、みんな手に整理券を握りしめてソワソワしていた。
「恋愛運占ってもらえるかな」「仕事運優先したほうがいいかしら」なんて声がちらほら。
……まじで?
国一番の占い師って、ガチなんだな。
俺はみんなの視線を感じながら、そっと占い小屋の扉を開けた。
「あら、おはよう。ちゃんと来たのね、偉いじゃない」
そこには、昨日と変わらずいちいち軽口を叩いてくるミライアがいた。
「おはよう。すげぇ行列だな。いつもこうなのか?」
「まぁね。早速で悪いけど、整理券配ってきてくれる?
私もさっき配ったけど、また新しく並んだ人もいるだろうから。
ちなみに番号は五十番まで。それ以上は今日占えないから、配り終わったら“本日受付終了”の札をかけてね」
「おまえ、まじですげぇな……」
一日五十人も占うのかよ。
「前までは三十人で限界だったんだけどね。
助手もできたことだし、もう少し頑張ろっかなって」
「ええ……そんなに期待されても」
「勘違いしないで。整理券をもらえなくて悲しむお客さんがいるからそうするだけよ。
あなたに期待なんてしてないわ。とにかく馬車馬のように働きなさい」
ミライアはそっぽを向きながら、いつものように紅茶をすする。
頭の中でカチンと音がした。
ほんと、いちいちムカつく言い方するな。
「へいへい。そうですか、じゃあ整理券配ってきまーす」
ガチャ
ドアを開けた瞬間、朝の冷たい空気が頬をなでた。
さてと。馬車馬のように働きますか。
「おはようございまーす! 朝早くからお並びいただいてありがとうございます!」
俺は営業スマイル全開で整理券を配った。
――あいつに“役立たず”なんて思われたままで終わるかよ。
心の中で闘志を燃やしながら、一枚一枚丁寧に手渡していく。
⸻
気づけば、あっという間に五十番まで配り終えていた。
「あら、もう受付終わりなの?」
「せっかく来ていただいたのに申し訳ございません。
また次回よろしくお願いします!」
深く頭を下げて、扉に“本日受付終了”の札をかける。
ガチャ
「配り終えたぞー!」
我ながら、なかなか手際良くやれたんじゃないか?
「はーい。ありがとー」
ミライアは興味なさそうに返事をした。
……目くらい合わせろや。
「よし。じゃあ8時も過ぎたし、そろそろ開店するから、あなたはお客さんの案内とお茶出し。それから会計もお願いね。いまやり方を説明するわ」
ミライアがすらすらと手順を口にしながら、帳簿や茶器をてきぱき整える。
動きに無駄がなくて、思わず見とれてしまう。
こいつ、なかなかにシゴデキなのでは?
「なに、“意外〜”って顔してんのよ。これでも三年は一人でやってきてるんだから、これくらいできて当然よ。
あなたは初日からできるとは期待してないから、せいぜい頑張んなさいね」
「さっきから“期待してない”ばっか言って……言ったこと後悔させるくらい頑張ってやるからな〜!」
「はいはい。ぼうや、気力があるのは素晴らしいけど、焦ってミスでもしたら承知しないからね?」
「わかってるよ!」
「あっそ。じゃあ一人目のお客さんからご案内して?」
「……はいよー」
なんか腑に落ちねぇ。
でも、切り替えだ。切り替え。
これから頑張って見返してやる。
ガチャ
「一番目にお待ちの方、お待たせいたしました。
中へお入りください」
俺は営業スマイル全開で、一人目のお客さんを案内した。




