第14話 助手契約
通りを抜けて、ミライアの家の前まで戻ってきた。
白い壁は、朝よりも少し陽に焼けて見える。
「じゃ、無事飼い主も見つかったことだし、もう帰るよ」
「何言ってんのよ。お茶くらい飲んでいけばいいじゃない」
「え?いいのか!じゃ、遠慮なく!」
ミライアからそんなこと言ってくるなんて意外だな。
俺は椅子に腰をかけた。
部屋には、トポトポとポットからお茶を注ぐ音だけが響く。
「そういえば、お母さんは?」
「んー? 今の時間なら花屋で働いてるわ」
そうか、今日は朝早くから動いてたから、まだ昼なんだ。
「はい、お茶」
「ありがとう。いただきます」
ズズッ。
……やばい、何話そう。
昨日出会ったばっかだし、お互いのこと全然知らないから話すことがない。
思ったより静かだなこの部屋……。
そうだ。
「ミライアは、なんで占いを始めたの?」
「そうね……まあ、あんたには秘密もバレちゃったし、教えてあげるわ」
クーッ、こいついちいち上から目線!
「朝、私とお母さんは血が繋がってないって言ったでしょ?
最初はね、お母さんのこと全然家族って思えなかったの。
お父さんが“本当のお母さんを捨てた”ように見えちゃって」
「……そうだったのか」
「でも4年前、お父さんが事故で亡くなって……
それからは、お母さんと二人きり。
家の空気が重くてね、私もよく外に出てたの」
ミライアの声が、ほんの少しだけ弱くなった。
「それで、ある日、道で大きな石を見つけたの」
「石?」
「そう、なんかすっごく蹴りやすそうだったのよ」
「いやどういう基準だよ」
「蹴りながら家に帰ったら、家に着く頃にはその石、角が取れて丸くなってたの」
「それと占い師に何の関係があるんだよ」
「うるさいわね。可愛くなってたから“イッシー”って名前をつけて、毎日磨いたの」
「……名前までつけたのかよ」
「今日も元気〜?って話しかけながらね」
「完全に友達いなかったやつじゃん」
「ちょっと!いちいち突っ込んでこないでくれる?
……そうしてたら、ある日イッシーが光ったの。
それで、未来が見えるようになったのよ」
「そんなファンタジー展開ある!?」
「本当よ。最初に占ったのはお母さん。
“花屋で働く姿”が見えて、それを伝えたら翌日ほんとに花屋さんに雇われたの」
「へぇ……」
「仕事が見つからなくて落ち込んでたお母さんが、すっごく喜んでくれてね。
それが嬉しくて、もっと人を占いたいって思ったの。
そしたらお母さんが、自分の貯金で小屋を建ててくれたのよ」
「……いいお母さんだな」
「でしょ? でもね、“10秒しか占えない”し、“同じことは次の日まで占えない”し、制限だらけ。
だから、つい見えてないことまで大袈裟に言っちゃうこともあるの。
でも……嘘になったら悲しむ人もいるでしょ?
だから、後から本当にしなきゃって、走り回ってるわけ」
ミライアは少し笑って、紅茶をひと口飲む。
その横顔は、めずらしく穏やかだった。
「へぇ……おまえ、意外と頑張り屋だな」
「なによ、“意外と”って」
ぷいっとそっぽを向くミライア。
その頬はほんのり赤い。
……あーやっぱ、こいつ可愛いんだよな。
残念な方向に全力なだけで。
「よし。お茶も飲んだし、そろそろ帰るわ」
「は?帰る? 助手契約、まだでしょ?」
「助手契約?」
「そうよ。あんた、もう立派な私の助手じゃない。
ちゃんと“雇用契約”結ばなきゃ」
「はぁ!? 俺、いつの間に雇われたんだよ!」
「だって! 私の秘密知ってるの、あなただけなんだし。
他の人に言いふらされたら困るもの」
「言いふらさねぇよ!」
「給料は一日7000イェーンでどう?」
「7000イェーン!?!?」
外壁掃除の2倍以上の金額じゃねえか!
これ、めっちゃ稼げる……。
「ゴクリ……やります」
「はい、じゃあ契約成立ね♪ さっそく明日の朝8時からよろしくね」
「あぁ、よろしくって……助手って具体的に何すんだ?」
「んーそうね。列整理と、あとは雑用全般ね。今日みたいな」
ミライアがにやっと笑った。
「はぁ? そもそもお前がインチキみたいな占いしなきゃいいだけだろ?」
「インチキって失礼ね!結果、本当になったんだからいいじゃない!
それにもう契約したんだから取り消しナシ! じゃ、明日よろしく〜!」
バタン
勢いよく背中を押されて、家から放り出される。
ガチャ
「あ、ちなみに明日来なかったら孫の代まで恨むからね〜!」
バタン
……おれ、安定した職に就くためにジリビーン村を出たのになにやってんだろ。




