第13話 猫の飼い主
俺たちは角にある赤い屋根の家へ向かった。
「そんで?どうすんの?家の中に入るのか?」
「まさか!そんなことしないわよ」
「じゃあどうすんだよ」
「あなた、そこの窓から覗きなさいよ」
「はあ?そんな犯罪者まがいなことやらねえーよ!」
「わたしの占い小屋のぞいてたくせによく言うわね」
「……グゥ」
「なにグゥの音は出るのよ。いちいちムカつくわね」
「てか普通に少し離れたとこから隠れて、その女の人が見えるのを待つのが一番だろ。ほら行くぞ」
そう言って、ミライアの腕を引っ張って路地裏に入る。
家の角がちょうど見える位置だ。
──てか、やばい。勢いで女の子の腕掴んじゃったよ。細い。柔らかい。うわぁ……。
「ちょ、ちょっと! なにすんのよ! 腕掴まないでよ!」
慌てて手を離す。
「……ごめん」
「許可なく女の子の腕掴むとか信じらんないっ!
……これだからぼうやは」
ミライアは少し苛立ったように言ったが、
耳が赤く染まってる気がした。
なんだよ、こいつもちゃんと女の子っぽいとこあるじゃん。
ていうか、まじまじと見るとやっぱりかわいい。
そばかすのない白い肌に、長いまつ毛。
薄い唇は血色がよくて、やわらかそうだ。
キスとかしたら気持ちよさそうだなあ……って、
きもいきもいきもい!俺なに考えてんだよ!変態か!
「あんた、さっきから百面相してるけどどうしたの? きもいんだけど」
「おまえ、いちいち辛辣だな」
「事実を言って何が悪いのよ」
ミライアがじっとこっちを見つめてそう言う。
風が少し吹いて、黒髪がふわっと揺れた。
……口は悪いのに、こういうときだけ絵になるんだからずるい。
「あっ! あの女の人!」
赤い屋根の家から、青いストールを巻いた女性が出てきた。
心なしか、疲れたような暗い表情をしている。
「ほんとだ、青いストールしてる! あの人で間違いないのか?」
「ええ、間違いないわ。この家で確定ね」
「じゃあ、このあと猫を連れてきて渡せばいいのか?」
「はぁ?何言ってるの?それじゃあ占い通りにならないじゃない」
確かに、ミライアのインチキ占いでは“明日の朝に猫が戻る”と伝えていた。
「でも、あの人……あんなに辛そうな顔してんだぞ?」
「それはわかってるわよ。でも、もし占いを疑われたりしたら……」
ミライアは眉を八の字に下げ、うるんだ瞳で俺を見上げた。
はぁ……しおらしい顔しやがって。
「俺にいい考えがある。一旦、家に帰るぞ」
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「一体どうするつもりなのよ」
「たしかに占いでは“明日の朝”って出たけどさ。
一日早く戻ったところで、飼い主は喜ぶだけだろ?
早まる分には誰も疑わないよ」
「……それも、そうね」
ミライアは小さくうなずくと、ちらりと俺を見る。
「でも、猫ちゃんはどうやって渡すの?」
「いい考えがあるって言っただろ?」
俺は茶色い紙袋を二枚、得意げに掲げた。
「え?……ま、まさか」
ミライアは頬をひくつかせる。
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コンコンコン。
「すみませーん」
ガチャ。赤い屋根の家の扉が開いた。
「近くで首輪をつけた猫を見つけたんですが、あなたの家の子ですか?」
「あぁっ!……ミオちゃんっっ! 無事でよかった……!
私ずっと探してたのよ。ありがとうございます、本当にありがとうございます! うちの子なんです、数日前から行方不明になっていて……」
「いえいえ、とんでもないです」
女性が涙ぐみながら猫を抱きしめる。
……その優しい光景の中、俺たち二人は紙袋を被っていた。
「あの……ところで、なぜ紙袋を被っているの?」
「最近ハマってるファッションでして」
「そ、そうなの……? よければ、お茶でもどうですか?」
「いえ、お構いなく! じゃ、失礼します!!」
駆け足でその場を去る。
後ろから、呆れた声が飛んできた。
「ねえ! これ絶対あなたひとりでよかったわよね!?」
「……まあ、終わりよければ全てよしだろ!」
「全然よくないわよ!」
ミライアの怒鳴り声が通りに響く。
俺は小さくため息をついた。
やべ、たしかにミライアがいる必要はなかったかも……。




