第8話 アイデンティティが重要そうな雰囲気だからって、逆張りして自分は興味ない振りしてるやつの何と多いことか
夕陽が照っていました。
窓から差し込む斜陽の光は橙色で、教室の中に哀愁とか、希望とか、そういった本来は感じない何かしらの情緒を与えていました。また、『カー』とどこかでカラスの鳴き声もします。
「私だけ、か」
田中千夏さんは、黄昏ていました。自分に浸っている、と言い換えてもいいでしょう。
「やめろ、痛い人みたいだろ」
と、痛い人は言いました。
「おい。喧嘩売ってんな?」
おつむが悪いわけではないようですが、言葉選びが終わってるので頭が悪いように見える不思議ですね。
「おい。高みの見物なんかせずどうどうと姿を出せよ! ナレーションだって言っても肉体ぐらいあるだろ?」
ナレーションと同じ次元にいないのだから、会えないのは当たり前では?
「次元が違う?」
あぁ、確かにそうですね。あなたは架空の人物で、私は実在する人物なので、次元が云々ではなく、もはや立ち位置的にこちらが上というのは明々白々たる事実でしたね。
「……お前が実在する人物だって? なんでそういう設定だとは考えないんだ?」
考えるだけ無駄ですね。たとえそうだとしても、この世界において事実ならば、設定だとか架空であるだとか語ってところで“無粋”でしかありませんよ。
「無駄じゃない! なぜって、それが私たちが自らのアイデンティティを支えるものだから!」
……薄っぺらいアイデンティティですね。
「そもそも、人間ってのは、自分が生きる意味だとか、なんだとか言ってるけど、私たちにはこの小説の登場人物であるっていうのがあるから、むしろ私たちの方が上じゃない?」
「ねぇねぇ、ちいちゃん。それは読者に対する侮辱になってないかい?」
「あれ? みいちゃん。いつからそこに?」
「いや、ずっと廊下で聞いてたけど」
「どうして出てくれなかったの?」
「いや、面白そうな話をしてたから。つい」
「も〜。あっ、みいちゃんにアイデンティティってある?」
「ふふふ。秘密」
そのみいちゃんの笑みは、とても邪悪でした。
「ナレーションよりみいちゃんのほうがマシだよ!」
「ありがと、ちいちゃん」
「みいちゃんっ……」
あ〜。うぜぇ。




