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7話 魔法使い 

<ファリア>

「者共よ、戦慄(わなな)け、戦慄(おのの)け、戦慄せんりつせえ。妾の名はファリア。“魔法使い”、じゃ」


<連盟軍兵士>

「魔法使いだと!世界に8人しかいない世界最強の称号をもつ、頂点に立つ魔術師!それが!」


<連盟軍兵士>

「学校で聞いたことのある名前だ。……初めて見た………」


女の発言に辺りはざわめきを隠せない。

兵士達の動揺を断ち切るように、パレ・リブッカーはファリアに話す。


<パレ・リブッカー>

「その名前、知っているぞ、第四次魔術大戦の英雄、その後レヴィリオンを去ったという偏屈な魔術師と」


<ファリア>

「意外じゃったな。妾の名がここまで広がっていようとは。しかし、偏屈呼ばわりとは………あの王の言いそうなことじゃ」


呆れた声で呟くファリア。


<ファリア>

「さて、欲しいものは返して貰ったからのう、お前達と談笑してもよいが、お前達が暴れたせいで新しい住処を探さねばならぬのじゃ。ここらでさらばと――」


<パレ・リブッカー>

「待て、その子供は王より捕獲命令が出ている。置いていって貰おうか」


<ファリア>

「ほう、妾を魔法使いと知ってその啖呵とは、なかなか気骨のある魔術師じゃ。しかし見るに連戦で魔力と体力を相当消耗しておるようじゃし」


強者を目の前にしているのもあるだろう。連戦に次ぐ連戦の疲労でパレリブッカーの手は震え、刀からカタカタと音がしている。


<ファリア>

「それにあの王が興味を示すものを妾がみすみす渡すまいよ」


<パレ・リブッカー>

「侮るな、これでもAランク。貴方に届かなくてもその子供だけを取り返す事くらいは出来る!」


疲労をもろともせず、すぐさま刀構えるパレ。


<ファリア>

「やってみるか?」


<パレ・リブッカー>

「王命は必ず守る。狩威かりい!」


低姿勢からファリアに突っ込み、刀の峰でシリウスのみを払おうとする。


<ファリア>

「さらばじゃ。Da Capo(ダ・カーポ)


一瞬にして姿が消える。刀が空を切る音だけが静かに響く。


<パレ・リブッカー>

「転移魔術!………逃したか」








* * * * * * *



ここは上空1000mの地点。

今までの顛末を見つめるものが一つ。

1つ目に悪魔の羽が付いたような生物。


魔王軍の使い魔である。


デボンが爆縮する前、彼の目から分離し、一連の顛末を目撃していた。

そしてその目は“魔王”に繋がっている。



レヴィリオンの大陸より距離約7000kmの地点。

周囲に鋭い岩盤が生え、空には巨大な雷雲が佇み、生物がいるかすら分からない絶海の孤島があるという噂がある。

幾度となく上陸を試みようとも誰一人として成功者はおらず、また帰ってきた者いない伝説の島。


否、その実情はオーストラリアと同等の面積を誇る大陸である。

見えていた部分は大陸のほんの一部でしか無く、常に大陸には暗雲が立ち込め、外から中の様子を見る事さえままならない。


名を魔王大陸

総数約”1億”の魔王軍配下が生きづくこの大陸。

中央には城が構えており、その頂上にある玉座に鎮座する者、それが――


「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」


邪悪な笑い声が城中、大陸中を震撼させる。

世界征服を成さんとする魔族の軍団。その頭目、


魔王である。


<サキュバス>

「どーおしたの?魔王様」


<魔王>

「いや、あの女がついに動き出したからな。お前も覚えているだろう?かつて俺を殺したあの女、大戦後400年の間一切表に現れなかったというのに、ついに、ついにこの手で!」


<サキュバス>

「むー私以外の女の事考えるなんでつまんない~」


顔をぷくっとさせ、むくれるサキュバス。


<魔王>

「フハハハハ!嫉妬するのも無理もないな。こっちに来い!」


<サキュバス>

「キャー魔王様♡♡♡♡♡♡」


魔王に抱きつくサキュバス。


バニーガールのような蠱惑的な格好のした女。

出るところは出ていて、腰はキュッと引き締まっている。

頭には水牛の如く立派な角が生え、辺りに甘ったるい香りを発している。


魔王軍総督 ”サキュバスの女王”

ハビニア・ファタ・シードランド


<ハビニア・ファタ・シードランド>

「魔王様今日も素敵♡」


<魔王>

「俺は常に完全だ。ところで、17将を1人失ったな、ハビニア」


上機嫌だった様子から一転、冷たい声色でハビニアを詰める魔王。


<ハビニア>

「ごめんなさい」


怒られてシュンとなるハビニア。


<ハビニア>

「でもあいつアホだったし、”サブジェク”の調整が悪かったんじゃないの?」


言い訳をよそにペタペタと何者かが歩いてくる音がする。


<………>

「いやいやこれは手厳しいネ。だが実験に失敗はつきもの。魔王軍のさらなる発展の為に君にも実験の手伝いをしてもらえないかネ?」


黒い外套を羽織ったゴブリン。

長杖を立て、片手にはおどろおどろしい色の液体が入ったフラスコを持っている。

顔はあまり見えず、ニヒッと不適な笑みを浮かべる男。


魔王軍化学班班長 サブジェク



<ハビニア>

「それ手伝いじゃなくて実験台になれってやつでしょ。ぜーったいお断り!それに私改造しなくても強いし」


<魔王>

「来たなサブジェク。という事は――」


<サブジェク>

「はい、”新型MOT-D”は現在最終段階に移行しておりますヨ。将が戻り次第すぐに取り替えの準備を致しますネ」


<魔王>

「良い調子だ。ハビニア、今侵攻している軍全てを下がらておけ」


<ハビニア>

「はーい。オンズちゃんはどおします?」


甘えた声で返事をするハビニア。


<魔王>

「いや、”魔女”のあいつはそのままでいいと伝えろ。デボンを見て分かったが、最近の連盟軍はさらに力をつけている。サブジェク、取り替えと同時に17将の再調整もやっておけ」


<サブジェク>

「畏まりました。ところで君は魔王様との蜜月を楽しまなくていいのかネ」


魔王を抱きしめていたのを止め、玉座から降りるハビニア。


<ハビニア>

「せっかく魔王様と2人きりでいる所を邪魔されて萎えちゃった。仕事に戻ろ〜っと」


<………>

「そうだ、こいつは仕事をしていた方がいい。うるさい嬌声を聞かずに済むからな」


<魔王>

「帰ってきたか、ヒョウガ。」


茶色いコートを羽織り、中折れ帽子を被る人の顔をした長身の男性。

冷徹な目線を帽子越しにハビニアに向け、

カツカツと革靴を鳴らす。


魔王軍特殊工作部隊 隊長 

ヒョウガ


<ハビニア>

「ダーリン~!また私のことバカにしてー!」


<ヒョウガ>

「ダーリン呼びはやめてくれ。そういうのは魔王様にでも言っておいてくれ」


<ハビニア・ファタ・シードランド>

恋人ダーリンと夫婦は違うものでしょ?私は魔王様のお嫁さんになるの!」


<魔王>

「悪いなヒョウガ。こいつは俺の嫁だ。」


<ヒョウガ>

「冗談はよしてください魔王様。こいつといるとペースが乱れる。」


困ったように帽子を外し、頭を掻くヒョウガ。


<魔王>

「帰ってきて早々だが仕事ぶりを聞こうか。」


<ヒョウガ>

「はい、首都への侵入は成功。サブジェク殿の魔術で一度も魔王軍だとは悟られませんでした。首都のマッピングは既に済んであります。」


<魔王>

「よし、新型MOT-Dの取り替えが終わり次第、首都侵攻を開始する。お前達、戦いの用意をしておけ。」


魔王の命を受け、玉座を後にする3人。


<魔王>

「派手に皆殺しと行こうじゃないか。」




解散後


<ヒョウガ>

「君、ここにくる前ヤッただろ、オークの匂いが取りきれてないぞ」


<ハビニア>

「可愛かったからつい食べちゃった!必死に私を求めてたのに段々恐怖に染まっていく顔、溜まんない~」


恍惚の表情を浮かべ、ヨダレが垂れるハビニア。

それを見てドン引きしてヒョウガ。


<サブジェク>

「ではワタシは実験の続きと、MOT-Dの準備を。君たちも一つどうかネ?」


<ヒョウガ>

「失せてくれ」

<ハビニア>

「失せなさい」


2人の声が重なる。


<サブジェク>

「ワタシ達仲間なのにつれないネ」


背中を丸め、トボトボと歩いていくサブジェク。


<ヒョウガ>

「彼の実験に関わると碌な事が無い」


<ハビニア>

「同感ね」



魔王軍 管制室


<ハビニア・ファタ・シードランド>

「今侵攻している魔王軍全軍にに告ぐ、今すぐ兵を引き、大陸に戻りなさい。十七将は全員サブジェクの元に行くこと。各兵は大陸で傷の手当とレヴィリオン侵攻の準備を」


勇ましい声で魔王軍に命を出すハビニア。


<ハビニア・ファタ・シードランド>

「オンズちゃん」


<オンズ>

「はい、ハビニア様」


<ハビニア・ファタ・シードランド>

「あなたはそこに残って目的を遂行しなさい。期待しているわ」


<オンズ>

「ケヒヒヒ、御意に」


奇妙な笑い声を残し、通信を切るオンズ。


<ヒョウガ>

「こうしていると様になるのだがな」


<ハビニア>

「褒めてくれるなんて!ねぇえ~魔王様とデキなかったから~今日はダーリンが慰めて♡」


<ヒョウガ>

「嫌だ」




玉座で足を組み、大陸の様子を見ながら思案する魔王。


<魔王>

「あの女もついに動き出した。いずれ世界の均衡は崩れる。ファリア、そしてレヴィリオンの王、お前達は今度こそ俺が終わらせてやる」


魔王の昂りに呼応するかのように大陸中に雷鳴が轟いていた。






* * * * * * *




カカミト山間部近郊 モリタミ・魔王軍戦跡地


王に通信を開くパレ・リブッカー。


<パレ・リブッカー>

「申し訳ございません、子供を取り逃しました」


<王>

「良い、あの女がいたのなら仕方あるまい。まずは状況報告だ」


<パレ・リブッカー>

「はい。先の戦闘で我々の部隊は半数以下に減少、負傷者、怪我人も多数、カカミトに駐屯していた医療班にも応援を要請し対処しております」


<王>

「"読み"以上の被害が出てしまったか、続けよ」


<パレ・リブッカー>

「我々、モリタミ側両陣営の死者は火葬、モリタミの街にあった魔石は回収できるものは回収しましたが、街中央にある巨大魔石は我々だけでは運ぶ人数が足りず、難航しております」


<王>

「それはこちらで考える。街だった部分の再利用もカミトトの市長と考えねばなるまい。部隊の再編成、死者縁者への補償は”ミミナ”に一任する」


<階段に腰掛けていた女 ミミナ>

「はーい、いつものやつだね」


<王>

「爆発の件はどうなっている?」


<パレ・リブッカー>

「汚染処理班に調査を依頼、爆発があった周辺地点、爆発付近にいた私含めた兵士に魔術汚染がないか見てもらう予定です。子供の件は僅かですが調査隊を派遣しております」


<王>

「良い手際だ。汚染の調査報告は余も欲しい。処理班に伝えておけ」


<パレ・リブッカー>

「承知しました。………」


膝をつき淡々と報告をするパレ・リブッカー。

しかし、その声色は固まり、言い淀むような表情を浮かべている――


<王>

「何か言いたげだな、言いたいことがあるなら良い、申してみよ」


<パレ・リブッカー>

「………失礼ながら申し上げます。子供の件、私に一任して頂けないでしょうか?」


<王>

「何を言い出すと思えば、元からそのつもりだ。奴の確保の件、お前に一任する」


<パレ・リブッカー>

「はっ」


決意を込めた声で返事をするパレ。


<王>

「しかしファリアか。捜索に手はかからんだろうが、あの女が側にいるとなると拿捕だほするには少々面倒だな」


<パレ・リブッカー>

「いかに魔法使い、大戦の英雄と言えども必ずや捕まえて見せます。私の名にかけて」


<王>

「まあそこまで気張らずでも良い。かつて英雄と持て囃されてはいたが、今奴は魔法使い《《ではない》》」


<パレ・リブッカー>

「そうなのですか!」


驚嘆の声を上げるパレ。


<王>

「その力を失っている。だが力を失ったとしても実力はSランク程あるだろう。奴への対抗策は余が用意しておく」


<パレ・リブッカー>

「有り難きお言葉。承知いたしました。失礼いたします」


通信を切るパレ・リブッカー。


<王>

「あやつが今更外に出た所で大局は変わらぬが……念の為というのもあるか」


足を組み何か思案する王。


<王>

「”ホロノア”、奴を呼んでおいてくれ。余はしばし”瞑想”する」


<王の隣の女 ホロノア>

「承知いたしました」




    ――――――――――

      7話 魔法使い

    ――――――――――




カカミト山間部近郊 モリタミ・魔王軍戦跡地


<連盟軍兵士>

「隊長、捜索隊からの報告です。ここから10km南の地点で”空飛ぶ家”の存在を確認したと」


<パレ・リブッカー>

「空飛ぶ家?」


<連盟軍兵士>

「はい。航空管制局に連絡した所、その時刻に航空機や車を飛ばす許可はしていないとの事で」


<パレ・リブッカー>

「どこへ向かった?」


<連盟軍兵士>

「方角は南西の方と」


<パレ・リブッカー>

「その先にある目立った場所と言えば………アヴィーチェか。

よし、準備が整い次第、南西に向けて出発。周辺地域を捜索しながらアヴィーチェに向かうぞ」

☆いっしょに!なになに~☆


魔法使い

魔術連盟が認定しているSランク以上の魔術師の称号

魔術師のランクはE~Sまであるが、その規格に収まりきらない絶大な力を持つ魔術師を言う

現在までに8名確認されており、各々が単体で世界を滅ぼす力があるとされている

その影響力を鑑み、魔術連盟は全世界に全員の名前を公表している

(ある種の指名手配のような扱い)



魔王軍

統一国家レヴィリオンを滅ぼし世界征服を企む魔族の軍団

全世界の約8割の魔族を従えており、その総数は1億程


序列は頭目である魔王、

総督であるハビニア・ファタ・シードランド

その下に魔王十七将がおり、その下に無数の魔族がいる構成。


その他、サブジェク、ヒョウガ等が所属する特殊部隊もおり、

ハビニア、サブジェク、ヒョウガで三幹部と呼ばれている。


レヴィリオン大陸から約7000kmの地点にある大陸に拠点を構えており、魔王大陸と呼ばれている

第四次魔術大戦後、突如現れた未開の大陸を誰よりも早く魔王軍が抑えた事により、オーストラリア大陸と同等の広大な面積を誇る拠点を手に入れた。




汚染処理班

連盟軍の特殊部隊

汚染、呪い、疫病、大気中の異常魔力等を解析、処理、浄化する部隊

第四次魔術大戦後の衛生管理の醸成と共に設立され

魔王軍との抗争後、汚染された環境の復興や

暴走した呪術の沈静化等に大きく貢献している


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