5話 黎明
<魔王十七将 デボン・キャトルズ>
「ん、なんかつよそうなやついっぱいいるな。おでもまーぜーてーーーー」
僕たちの方に向かって飛びかかってきた!
<連盟軍兵士>
「魔王軍!なぜここに!とにかく打ち落とせ!」
連盟軍兵士が飛び上がるデボンに向かって銃を撃つ。
<デボン・キャトルズ>
「ん~じゃまだなあ、いけ!ドレパナスピスたち!」
腹から、魚が大量に出現する。
飛び出した魚が兵士達に襲いかかる。
<連盟軍兵士>
「があああああああ」
倒される兵士達。
ドン、とデボンが着地した。
「ん、魔王の手下か、なぜここにいる?」
後ろを振り返るとパレ・リブッカーがそこにいた。
<デボン・キャトルズ>
「てしたじゃないぞ、魔王十七将のひとり、デボン・キャトルズだぞ!」
<連盟軍兵士>
「隊長!我々も戦います!」
連盟軍の兵士達も集まる。
<アスカ>
「まずい、囲まれている、シリウス、その場を動くなよ」
静寂が周囲を支配する。
誰が一番最初に動くか機を伺っている。
動いたら最後攻撃されると分かっているからだ。
リブッカーが刀に手を添える
デボンが体勢を構える。
<アスカ>
「揺流」
最初に動いたのはアスカ。
<連盟軍兵士>
「その構えは!」
左足を上げ、手を胸の前で交差し、リブッカーを睨む。
<パレ・リブッカー>
「魔力が上昇している。これがモリタミの力か」
一瞬周囲がたじろぐ、その隙をアスカは見逃さない。
<アスカ>
「白凪召」
周囲が白い霧に包まれる。霧の中からアスカが、1人、2人、3人…………10人現れる。
<パレ・リブッカー>
「分身か」
揺流 白凪召は実体のある分身を生み出す。
最大で10人に分身でき、本体は3/4、分身は1/2の強さとなる。
本体をどれにするかは自分で設定でき、分身が倒されるごとにダメージが蓄積される。
連盟軍と魔王軍に5人、リブッカーに本体と3人、シリウスを逃すために一人分身を割いている。
<アスカ>
「今だ!」
アスカに担がれるレグルス。
<シリウス>
「アスカさん!」
<アスカ>
「君を出口まで連れて行く!」
<デボン・キャトルズ>
「おんながいっぱいいるなあ。連盟軍もいるなあ。それじゃあ、いでよ!アンモナイト騎士!」
デボンの手前に黒い水たまりができる。
そこからアンモナイトの顔をした筋肉ムキムキの兵士達が現れた。
<デボン・キャトルズ>
「いけ!」
<パレ・リブッカー>
「面倒なことになった。お前達は魔王の手下の兵士を、私がモリタミを仕留める」
<アスカ>
「舐められたもんだ、そう簡単にやられるか!揺流 揺刀!」
リブッカーの刀とアスカの手刀が重なる。
<パレ・リブッカー>
「チェンソーみたいだな。それにこの手応え、実体のある分身か」
<デボン・キャトルズ>
「おでもまぜてくれよ~ふん!」
デボンから両手が振り落とされる。
リブッカーとアスカはとっさに避ける。
<パレ・リブッカー>
「馬鹿力が…………」
地面にクレーターが出来ていた。
<アスカ>
「邪魔だ!揺流 波巾掌!」
<デボン・キャトルズ>
「うわあああああ」
デボンを掌底で吹っ飛ばすアスカ。
<パレ・リブッカー>
「隙だらけだ!」
リブッカーの剣戟を宙返りで躱す。
<アスカ>
「お前もな!震飛弾!」
指から波動の弾を飛ばす。
弾は刀に全て防がれていた。
<アスカ>
「チッ、だが!揺流 揺籠!」
分身3人から白い龍が繰り出される。
龍がリブッカーに巻き付き拘束した。
<パレ・リブッカー>
「ふ、廻炎」
戦地の中央に巨大な火柱が立つ。
<アスカ>
「っ、なんで火力だ。二人やられた!んっ、兵士用に割いてた分身も!」
一人がデボンの兵達に串刺しに刺され、一人が連盟軍にやられていた。
<アスカ>
「はあ、はあ、早く決着を付けないと!」
<デボン・キャトルズ>
「いけえ!ダンクレオステウスたちよ!」
巨大な魚が3匹こちらに向かう。
とっさに避けるアスカ。
<パレ・リブッカー>
「居合、火乱面断!」
斬撃が3匹を切り裂き、その直後、炎が斬撃の上を走った。
その炎はデボンに到達する。
<デボン・キャトルズ>
「ああああつううううううういいいいいいいいいい!」
<パレ・リブッカー>
「そこで焼き魚になってるがいい」
技を出し終えた隙をアスカは見逃さない。
<アスカ>
「脳震衝!」
<分身アスカ>
「波巾掌!」
本体と分身での挟撃。
アスカの攻撃が直撃し、パレ・リブッカーの体勢が崩れる。
今ここで畳みかける!
<アスカ>
「揺流―」
攻撃しようとした瞬間、リブッカーの耳飾りが目に映った。
その耳飾りと同じものを、私は今身につけている。
<アスカ>
「お前……ってまずい!」
<パレ・リブッカー>
「羽々練」
分身を2体倒すリブッカー。
攻撃を受けた直後、瞬時に回復魔術を使っていた。
<パレ・リブッカー>
「なかなかやる。全て本体であればまずかったな」
<アスカ>
「お前…………その耳飾りなぜ持っている?」
<パレ・リブッカー>
「これは元々私のだ。大事な任務の際に身につけている。それがどうした?」
<アスカ>
「あり得ない、それを持っているのは私の姉だけだ。姉を殺したのか!」
<パレ・リブッカー>
「私は殺した者から何も盗らん」
<アスカ>
「そんなの信用できるか!」
<パレ・リブッカー>
「信用も何もこれは私が5歳から身につけているものだ。盗るもなにもない」
<アスカ>
「じゃあお前は、私の…………」
<デボン・キャトルズ>
「あっっついなああああああゆるさないぞおおおお!」
リブッカーに襲いかかるデボン。
<パレ・リブッカー>
「羽々練」
<デボン・キャトルズ>
「あしがああああああああああああ!」
パレ・リブッカーがデボンの片足を切り落とす。
<パレ・リブッカー>
「片足立ちで丸焦げとはな。ずいぶん魚に近くなったんじゃないか?」
<デボン・キャトルズ>
「このおおおおおおお!」
<パレ・リブッカー>
「ついでにこれをくれてやろう。多爆粉」
火の粉がデボンを包む。
<デボン・キャトルズ>
「なんかきれいだな~ん、んんん、」
バチバチと音を立てていた火の粉が一瞬消え―
大爆発。
<デボン・キャトルズ>
「うわあああああああああああああああああああああ」
黒焦げになり、遙か彼方に吹き飛ばされるデボン。
<パレ・リブッカー>
「リーン、奴の回収を急げ」
<副隊長 リーン>
「承知いたしました」
<パレ・リブッカー>
「さあ、続きをしよう」
今は耳飾りのことを考えてる余裕はない。
こいつを倒して真偽を確かめる。
戦いに使える分身はあと2体。ここで決める。
<パレ・リブッカー>
「分身を自身に戻したか。何かするつもりか」
<アスカ>
「揺流」
手を地に着ける。
<アスカ>
「大地…………」
「お、おお、地震だ!揺れてる!」
地震の大きさは強まっていき、兵士達が次々と転倒する。
「立っていられない!」
兵士が地を這う中、リブッカーは不動のままだった。
<パレ・リブッカー>
「さあ、来るか!」
<アスカ>
「………揺巌!」
アスカを中心に衝撃波が繰り出される
周囲の大地は抉られ、兵士達を吹き飛ばす。
<パレ・リブッカー>
「がっ、この威力は………」
リブッカーが体勢を崩す。
立て続けにアスカが突っ込んだ。
<アスカ>
「揺流 大地揺巌!」
リブッカーを見つめるアスカ。
彼女の耳飾りが揺れる。
気にしないようにしていたはずだった。
考えないようにしていたはずだった。
考えてしまった、生き別れの姉のことを。
攻撃を避けられる。そして
<パレ・リブッカー>
「獅子灯」
獅子の形をした炎がアスカを襲う。
火柱は高く立ちのぼり、瓦礫の街を爛々と照らす。
<アスカ>
「お、ねえ、ちゃ、ん………」
<パレ・リブッカー>
「残念だが私に姉妹はいない」
<アスカ>
「はあ、はあ、はあ、外に出るよ!」
<シリウス>
「うん!」
アスカさんにお姫様抱っこされながら、ただひたすらに逃げる。
森を抜け、舗装された道へと出る。
<シリウス>
「出れた!」
<アスカ>
「ああ、まだ奴らが来るかも知れない。私について………」
<シリウス>
「どうしたの?ってアスカさん!足が、消えかけてる!」
白凪召の分身が全て倒されると使用者のダメージの総量を超える。
さらに本体が既に斃された。
残された分身が消えるのは時間の問題だった。
<アすか>
「私は連盟軍に敗れたらしい。本部に行くまでに私は消えるだろう。だったら」
手に持っていたスイッチを押す。
少し後方で爆発音がした。
<アすか>
「本部に行くゲートを破壊した。これで奴らは本部にはたどり着けやしない。すまない。君を連れて行くつもりだったんだけどね」
<シリウス>
「大丈夫です!それよりもアスカさんが!」
<アすか>
「私はもうじき消える。これはもうどうしようもないんだ。君には生き残って欲しい。だから、これを託す」
渡されたのはペンダント。
丸い装飾品が付いていて、中心に緑の魔石が埋め込まれている。
<あすか>
「このペンダントが君を本部まで導いてくれる。本部に着いたら、ラックという男を頼れ。きっと力になってくれる」
<シリウス>
「そんなこと………アスカさんも一緒に行くんです!」
我ながら子供じみたことを言っていると思う。
彼女を失ったら、サトウを、エミーさんを、裕平さんを、何よりあの街の全てを失うように感じて。
<あす―>
「私は、無理だ。奴らも時期来る。ある程度は倒したが、軍隊長は強かった」
<シリウス>
「もう終わりみたいに言わないで下さい!また会うんで……す」
頬を撫でられる。
<あ――>
「もう一つ君に託す。私の耳飾りだ。これを私と、いやみんなと思えば心強いだろう」
<シリウス>
「あ………あ………」
嗚咽が出る。涙が止めどなくあふれる。
<―――>
「逃げろシリウス。君は生きろ。私たちがいつでもついている」
指先が消える。体はほとんど消えかかっていた。
僕を見る顔はとても誇らしく、笑顔だった。
冷たく吹き抜ける冬の風。
彼女の姿はどこにもいない。
<シリウス>
「あ………ああああ………あああああああああああああああああああ」
<連盟軍兵士>
「隊長、大丈夫でありますか!」
<パレ・リブッカー>
「問題ない。回復はした。子供は逃げたか。まだ出口は開いているはずだ。私の後に続け!」
<連盟軍兵士>
「Got it!」
自分の無力さを呪う。
何も出来ずみんなが死にゆく姿を見ていることしか出来なかった。
ずっと誰かに助けられてばっかりだった。最後の最後まで。
僕の他にも生き残るべき人はいたんじゃないのか?
僕にみんなを背負う資格があるのか?
負の感情が自分を支配する。
自責の念で押しつぶされそうになる。
<シリウス>
「でも、歩かないと、逃げないと」
生き残らなきゃ、そんな前向きな理由じゃない。
今あるのはアスカさんが言った言葉に縋っているに過ぎない。
一歩、一歩と進む。
いろんな事を考えて、周りのことなんか気にしていなかった。
自分がモリタミの街に戻っていることに気づかずに。
<パレ・リブッカー>
「ん、さっきの子供か」
顔を上げる、剣士の女が立っている。
込み上げる感情、僕は彼女達に向かって言い放つ。
<シリウス>
「お前達は何なんだ!なぜ殺す、街を燃やした!ここに住んでいる人間はいい人ばっかりだった。何も知らない僕に優しくしてくれた。なぜだ!彼らは罪を犯したというのか!あの善良な人々をそんな作業みたいに殺せるのか!」
<パレ・リブッカー>
「そうか、新入りだったのか。ならば教えてやろう。あいつらはテロリストだ」
<シリウス>
「テロリストだと!」
<パレ・リブッカー>
「そうだ。あいつらは私達の生活を脅かす。奴らは自然を守るという名目で我々が住もうとした土地を奪った、武力で」
<シリウス>
「そんな………ありえない」
<パレ・リブッカー>
「ありえないだと?ここにいる者たちの多くはモリタミの戦いに巻き込まれ、家族や親族、友人、恋人を失っている」
<シリウス>
「だからといって殺して良い理由にはならない!」
<パレ・リブッカー>
「王が許可を出した。殺してもかまわないと」
<シリウス>
「その命令が間違っているとは思わないのか!一方的になんて間違ってる」
<パレ・リブッカー>
「一方的にではない。それに王は絶対に間違わない」
<シリウス>
「………狂ってる」
<パレ・リブッカー>
「何とでも言うがいい。お前も奴らと同じ末路を辿れ」
なんなんだこいつらは、何も知らない癖に、あの笑顔を、暖かな生活を知らない癖にこんな、全て殺すなんて………ゆるさない。
<パレ・リブッカー>
「何か言ったか?」
<シリウス>
「許さない!」
一瞬。
輝く体。
誰もがその光を見つめていた。
暖かな、しかし確かな力強さ。
この光景を見た者は誰もが確信する。ここに生命が誕生すると。
<シリウス>
「ああああああああああああああああああああああああ!」
金に輝く光は次第に黒い稲妻へと変わり、一つの形へと収束する。
<パレ・リブッカー>
「この光はなんだ!」
“男”がいた。
彫刻のごとき白き躯体。
髪の毛、目や口、足のつま先に至るまで全身が白く塗りつぶされている。
背丈も一回り大きくなり、筋骨隆々の体へと変化していた。
偉丈夫が一人、ここに降り立つ。
<パレ・リブッカー>
「成長した………たど………」
<シリウス>
「お前達は、僕が、殺す!」
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5話 黎明
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☆いっしょに!なになに~☆
流派
モリタミの戦士が使う戦闘魔術。
世界の事象と自身を疑似的に一体化させる事で
魔力や戦闘力など自身の力を底上げする。
流派に合わせた特定のポーズを取ることで発動。
習得が難しいため、一部の使い手に限られる。
揺流
アスカが使う流派。
振動を司り、人の波長を感じ取ったり、衝撃波で攻撃したり身を守ることが出来る。
ポーズは左足を上げ、手を胸の前で交差する。
比較的新しい流派でアスカは2代目。
先代が1年前に亡き後、アスカに頭領の座が継承された。
脳震衝
両手に振動を纏い、相手の頭部を挟むように打ち込む。
白凪召
最大10人に分身、本体は元の3/4、分身は1/2の強さとなる。
本体をどれにするかは自分で設定でき、分身が倒されるごとにダメージが蓄積される。
任意で分身を本体に戻す事で一時的に元の強さになる
本体が倒されると消え、分身が全部倒されると瀕死となる。
揺刀
手に回転する振動を纏わせることで相手を斬る。
波巾掌
両手に振動を纏わせて打つ掌底。
震飛弾
指先から振動の弾を撃ち出す。
10本同時に出したり、連射する事も可能。
揺籠
振動で魔力を龍の姿に変え、相手を拘束する。
拘束された相手は龍の振動によるスリップダメージを受ける。
大地揺巌
アスカ最大の技。
振動を極限まで圧縮し一気に放つ。
使用者を中心に衝撃波を放つ拡散型と
直接相手に叩き込む収束型がある。