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24話 戦いの後で

目を覚ます。

目の前には真っ白な天井が見え、僕はベットの上で寝そべっていた。

辺りを見回すと複数のベットが置かれていて病室のようだった。

そこに僕を見つめるナース服の女が一人。


<女の声>

「目が覚めました?おはようございます」


<シリウス>

「ここは…………………」


<女の声>

「ここは病院です。私直々に治療するなんて滅多にないのですから感謝しなさい」


高圧的な態度のナースさんは僕の包帯を取り替え、治癒魔術をかけていた。


<シリウス>

「ありがとうございます。貴方は…………………」


<香流・治流 テトラ>

「わたくしはテトラ。この病院の院長、香流・治流の長、そしてモリタミの全ての医療を統括している者ですわ」


<シリウス>

「すごいんですねテトラさん。改めてありがとうございます」


テトラさんと話すのに気を取られ、僕がどんな状態か忘れていた。

自分の体を見ると全身包帯にぐるぐる巻きにされ、片目も包帯で見えない。

そうだ。ラックさんと戦って、赤い姿になってそれから…………………


<シリウス>

「………そういえば僕って!」


<香流・治流 テトラ>

「ラックに吹っ飛ばされて壁にめり込んでましたわよ。私が助けなかったらどうなっていたことか」


勝利条件は戦闘不能にして10カウント以内に目覚めないか、訓練場の線の外に出すか、だったっけ。

というと僕はどっちも――


<シリウス>

「じゃあ殺されるんですか!」


叫ぶと同時に病室のドアが開いた。

そこにいたのは魔法使いの女とラックさんだった。


<ファリア>

「どうやら、そうでもないようじゃよ」


<シリウス>

「どこ行ってたの!」


<岩流 ラック>

「おお!!!!起きたかシリウス!!!!」


<香流・治流 テトラ>

「声大きいですよ、うるさくしたら殺しますからね」


<岩流 ラック>

「悪かったって」


<シリウス>

「ラックさん……………でも僕負けたんじゃ」


<岩流 ラック>

「俺は()()()()()()なんて言ってないぜ。認めなかったら殺すって言ったんだ」


<ファリア>

「そういう事らしい、妾も一本食わされたわ」


<岩流 ラック>

「それにもう一つある」


<岩流 ラック>

「さっき生き残りがこっちに来てシリウスのこと話したんだよ」


<シリウス>

「生き残り?」


その時一人の女の子がこちらに走ってくるのが見えた。

それは見覚えある顔、一度失ったと思っていた人。

その姿がはっきり分かると僕の目から自然と涙が溢れていた。


<エミー>

「シリウスー!」


<シリウス>

「エミーさん!あぁ………ああああああああああ」


<エミー>

「良かった!生きてて良かった!」


互いに抱擁を交わす。

その光景を微笑ましそうにラックさんもテトラさんも見つめていた。


<シリウス>

「でもあの時建物の下敷きになったんじゃ」


<エミー>

「それがね!間一髪の所で助けてくれたんだ」


<シリウス>

「誰に?」


またもや病室に入ってくる人物がいた。

ラックさん並にガタイが良く、ちょび髭を生やした金髪の男。

その面影を何処がで見たことがある気がする。


<………>

「よっタコス食うか?」


<シリウス>

「あ!タコスの人!」


見覚えのある顔の人の名はハチクさん。

アスカさんの拠点を見て回った時、僕とサトウにタコスをくれた人だ。

大分テンションの高い人だったと思うんだけど、素はこんな気さくな人だったのかな。


<エミー>

「ハクチさんがあの時、倒壊する病院から助けてくれたんだ!」


<岩流 ラック>

「ハクチは俺の兄弟子でな、アスカが街開発する時に助けになってたんだ」


<シリウス>

「なるほど!お強いんですね!」


<ハクチ>

「でも全員は無理だった。連盟軍に隠れてエミーと一緒に数人だけ本部にたどり着くことができたんだ」


<シリウス>

「その中に………………サトウもいますか?」


<エミー>

「………生きてはいるよ。一緒に来てこの病院で見てもらってるけど、意識不明で目覚めるかも分からないって」


<シリウス>

「そうですか…………でも生きてて良かったです」


<ハクチ>

「アスカの事は済まなかった。お前の弟子を守れなかった」


<岩流 ラック>

「そんな事はないさ、誰も悪くないなんて皆分かってる」


重い空気が病室を包む。

感傷的な気持ちの中、長身の男が病室に入ってきた。


<………>

「失礼、シリウス殿はいるか」


<シリウス>

「あなたは」


<流流 トルトラ>

せつは流流、トルトラと申します。先程は無礼な物言いをした。あなたの身の潔白は証明された。私情に任せて言を発した事を謝罪したい」


<岩流 ラック>

「こいつは故郷の街を連盟軍に滅ぼされてるのさ。今じゃ地図にも載ってやしねえ」


モリタミの中には連盟軍に迫害されてここにいる人も多いと聞いた。

僕を責めるような言い方をしていたけど、その言葉には軍に対する恨みや自責の念もあったように思う。


<流流 トルトラ>

「本当に申し訳ない。済まなかった」


<シリウス>

「いえいえ、同じ立場だったら僕も同じように言ったと思いますよ」


<流流 トルトラ>

「あなたは強い方なのですね」


<岩流 ラック>

「そんな事は無えさ、俺に吹っ飛ばされてるからな」


<流流 トルトラ>

「それは今の話でしょう。あなたはどんどん強くなれる、それを忘れないように」


強くなれる、か。

自分にはまだ強くなれる余地があると思うと、なんだかやる気がこみ上げてきた。

今度はラックさんに勝てるように、そして。

――次に会ったとき、あの”刀の女”を殺せるように――


<岩流 ラック>

「よし!傷は治ってるか、治ったな!そんじゃ今から特訓だ、ほれいくぞ!」


<香流・治流 テトラ>

「まだ彼は怪我してるんです!殺しますって言いましたよね!」


<岩流 ラック>

「あ、あっちに怪我人が!」


<香流・治流 テトラ>

「え!」


テトラさんが目を離した隙に、ラックさんが包帯まみれの僕を担いで猛ダッシュで病室を出た。


<岩流 ラック>

「じゃあな〜」


<香流・治流 テトラ>

「勝手にもう!ここの男共は本当にっ!」


<宙流 オオケン>

「大丈夫?元気出して」


<香流・治流 テトラ>

「オオケン!あなたは例外よ。ありがとう落ち着いたわ。あなたがいなければラックを殺していた所だったわ」


<宙流 オオケン>

「とりあえず落ちつこ!特製のお茶入れてあげるから~!」


オオケンになだめられて病人のいない部屋を後にするテトラ。

ラックに担がれ去っていくシリウスをファリアは遠目に見つめていた。

その横に忽然とフナクが現れる。


<頭首 フナク>

「行ってしまいましたね。ファリア殿、あのことは――」


<ファリア>

「言っておらんよ。言うつもりも無いがの」



訓練場での戦闘前――


<頭首 フナク>

「貴方の身の潔白を証明するに当たって確認しておきたい事が二つあります」


<ファリア>

「二つもあるのか。さっさとしてくれるかの」


<頭首 フナク>

「アスカのいた所、迷いの森の結界は”貴方が作った物”ですよね?しかし私が来た時にはなかった。貴方が結界を消したのではないですか?」


<ファリア>

「確かにアレを作ったのは妾であるが、疑っておるのか。あそこに軍を招き入れたのは妾だと」


<頭首 フナク>

「そう思いたくはないですが、私達はあの事件の全貌を知らなければならないのです」


<ファリア>

「だと言うのなら心外じゃ。妾の結界を、作品をそう易々と消すものか。妾は奴らが麓に来ていたから、拠点を変えようとしただけじゃよ。それに結界を破ったのはあやつらなのは間違いない。変な魔導具を使っていたようじゃし」


<頭首 フナク>

「そうですか。貴方の結界を破るとは、予想以上に軍の兵力が上がっていると見える」


<ファリア>

「いや、あの魔導具は王の差金じゃと思うがな。妾の結界を破るなんて芸当、有象無象の魔術師にできるものではないからの」


<頭首 フナク>

「そうですか。ではもう一つ、なぜあの場所に軍が来たのか、なぜ魔王軍も居たのか。それはシリウス、貴方のホムンクルスがいたからではないですか?」


<ファリア>

「どういうことじゃ?」


<頭首 フナク>

「連盟軍は逸れた異世界転生人グレイトの保護も行っています」


<ファリア>

「そうなのか」


<頭首 フナク>

「あの子からは他の異世界転生人グレイトとも違う魔力を感じます。貴方もそれを分かっているのでしょう。彼の特殊な魔力を軍が感知してあの場所にやってきた」


<ファリア>

「あやつが軍を引き寄せたと」


<頭首 フナク>

「あくまで可能性の話ですが、貴方も詳しくは知らないと」


<ファリア>

「単純にお主らを殲滅しに来たという線の方が強そうじゃがな。一つの可能性か」


<頭首 フナク>

「とりあえずこの話は彼には他言無用でお願いします。推測の域を出ませんし、転生したての彼に重荷を背負わせたくはありません」


<ファリア>

「これで良いか、妾はそろそろここから出たいのじゃが」


<頭首 フナク>

「あ、そうだ。彼今から頭領と決闘するんですが、あの子が負けるとここから永遠に出られないので」


<ファリア>

「なにっ」


<頭首 フナク>

「一緒に見に行きませんか?」


――――


<頭首 フナク>

「あの子が戻って来るまでは時間がありますし、我が本部を見て行かれては?実験室もお貸ししますよ」


<ファリア>

「実験室じゃと!…………なら少しくらい付き合ってやるかの」




テヲカーリ 円卓の間


ラックさんに背負われ、僕は円卓の間に戻ってきた。

そこでは何人かの頭領達が歓談している。


<岩流 ラック>

「おい!ヨルト!お前暇だろ特訓付き合え!」


<霊流 ヨルト>

「暇じゃないんだけど」


<璃流 ウェンウェン>

「私は平気!チャリクエもだよね!」


<翠流 チャリクエ>

「えっ僕は今から姉さんと移住者の話を…………」


<緋流 リーツァ>

「行って来な。仕事はこっちでやっておく」


ウェンウェンがチャリクエの手を引っ張り、ラックの方へとかっ飛んで行った。

勢いについていけず、チャリクエが凧のように飛んている。


<翠流 チャリクエ>

「えっわああああ、ウェン姉えええええええ!」


僕を担ぐラックさんとウェンウェン達は訓練場へと走って行った。


<岩流 ラック>

「お前パンチする時親指握ってるだろ、それじゃパンチした時に親指痛めるぜ。

力はあるのに技術がねぇんだ、まずは基礎から叩き直す!」



そして僕は修行の日々を送った。

ランニングや筋トレといった基礎的な事だけじゃなく、戦うときの体の扱い方や、心構え、技の受け流し方や受け身の取り方、パンチの繰り出し方や体力の使い方なんかを教わった。


頭領達との組み手や互いに技を繰り出す実戦経験だけじゃなくて、他の頭領達の稽古姿を見たり、頭領達の弟子達と一緒に武術や戦術の稽古を受けさせて貰った。


初めての事ばかりで体が追いつかなくて毎日死んだように寝ていたけど、とても有意義な時間だった。


戦闘訓練の休憩中――


<シリウス>

「そういえばモリタミの魔族の皆さんって理性的な方ばかりなのは何でなんですか?」


<登流 ゴフセン>

「魔王軍と何回か遭遇したんだっけ、ならそう思うのも仕方ないよね」


<宙流 オオケン>

「魔族は本来僕達と同じように穏やかなの性格をしていたんだ」


<煙流 トラティ>

「種族によってはまちまちだがな、俺の種族やケンタウロスは血の気が多い奴がそこそこいる」


<流流 トルトラ>

「だが第二次魔術大戦の時、魔王が魔族達を襲撃し強制的に眷属にしてしまったんだ。それによって魔族は自らの欲望に忠実な化物になってしまった」


<登流 ゴフセン>

「魔王は次々魔族を襲ってね、遭遇すれば血を受け入れるか死ぬかの二択を迫られたみたいなんだ。今じゃ全魔族の八割は奴の眷属になってる」


<磁流 アルテカ>

「魔王の眷属になってない魔族は”原種”《オリジン》って呼ばれてて、彼らの保護も我々の使命のうちの一つなのさ。お前ももし遭遇するような事があれば俺達に言ってくれ。力になるから」


病院に行ってサトウとは再会できた。

けど、昏睡状態のままで治療室の外から見つめることしか出来なかった。


横にいたエミーさんとそこでまた号泣して、見舞いの後にハクチさんも交えて今は無き街の話をたくさんした。他にも生き残りがいたみたいでその人達も入って宴みたいになっていた。もちろんタコスを食べながら。


ファリアは研究室で何やら魔術の研究やら珍しい魔術品や道具を見て周ったらしい。

休憩がてら様子を見にいくと、やたらルンルンしていたのを覚えている。

よほどここでの生活を気にいったらしい。


そして何週間か過ぎ――

☆いっしょに!なになに~☆

原族オリジン


魔王の眷属になっていない魔族の総称。

レヴィリオン世界では大まかな知的生命体の種別を人類と魔族で分けている。


これは遙か昔、魔力を持たない存在を”ヒト”とまとめて呼称していたことに起因している。

誕生初期の人類は魔力を認識できなかった為、ヒトと呼ばれていた名残が「人類」という言葉のルーツであるとされている。


魔力を持つ存在は、その力を誇示するかのように”魔族”と自身を呼称していたが、

ヒトとは違う容貌、能力を有している者が多かった事(スライムといった不定形な存在、巨人やエルフのような遙かに人類の枠組みに収まらない存在)もあり、多種族間で定着した。

”ヒト”は昔、蔑称として使われていたという文献も一部存在する。


第二次魔術大戦の折、魔王によって大量の魔族が魔王の眷属と化した事で、魔族の呼称は”魔王の眷属”という意味合いが強くなってしまった為、まだ魔王の眷属にされていない魔族を原族オリジンと呼称している。命名者は現在のレヴィリオンの王。


モリタミは勿論の事、連盟軍も原族の保護を行っているが、モリタミがいち早く原族の保護に乗り出した為、保護数は圧倒的にモリタミが上である。

頭領達に原族たる魔族が多いのもこの理由である。

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