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23話 赤き怒り

少し前――


<シリウス・バレル>

(パイル・バスターで入れた亀裂でなんとか埋められずにすんだけど、耳がゴワンゴワンする。カウントがなんだか遅く聞こえる)


<巫女 ユム>

「10――」


<シリウス・バレル>

「早くしないと……負けになっちゃう」


<ファリア>

(何やっとるんじゃ、被検体よ)


岩に埋もれているというのに女の声がはっきりと聞こえる。


<シリウス・バレル>

「どこ行ってたの?!こっちは大変だったんだから!それにどこから話して――」


<ファリア>

(今は割愛じゃ。お前が負ければ妾もこの場所から出られないからの)


自分が負ければ女も出られない?

僕をこんな事態になるまで放っておいた報いとして、それでもいいかもしれないと思った。

……いや違う!

その前に僕がやられる!


<ファリア>

(お前にソウルウォッチャーを渡した時、新しい”素体も”入れておいた)


<シリウス・バレル>

「新しい素体?」


<ファリア>

(今のホムンクルスの素体だけではいずれ限界がくると思っておったからの)


前の魔王軍との戦い――

女の魔術で巨大化した魔弾を撃った時、強すぎる力に体が付いていかなくて治療されるまでずっと腕を痛めていた。


<ファリア>

(強大な力を奮っても難なく耐えられる素体じゃ

お前のその体から魂だけ移動し、新しい素体に乗り換える)


<シリウス・バレル>

「魂だけ移動?それって大丈夫なの?」


<ファリア>

(初めてやるが多分大丈夫じゃろ。準備は出来ておる、後は唱えるだけじゃ)


<シリウス・バレル>

「おい!それダメなやつでしょ!それに唱えるって言ったって詠唱なんて――」


僕が女に反論しようとした時、ソウルウォッチャーが赤く眩き、光が僕を包みこんた。


<シリウス・バレル>

「ここは……」


辺りを見回しても何も見えない。

でも知ってる。

ミスガイと魔力の感知の練習してる時に一瞬入った事のある世界だ。


<………>

「よお」


<シリウス・バレル>

「誰!」


真っ暗な空間に響く男の声。

でもとても聞き慣れた声のような気がする。


<………>

「あんまり時間が無ぇから言いてえ事言っておくぜ」


僕の質問を意に返さず話を続ける男の声。


<………>

「テメェは怒っていい。自分がこれまでされてきた事、悔しかった事、許せない事、その全てに怒って怒って怒り続けていい」


<シリウス・バレル>

「僕の怒り……」


<………>

「テメェはそういった感情を溜め込んじまうから発散したっていいんだ。それが人間なんだ」


<シリウス・バレル>

「でも発散って言ったって人を傷つけるだけじゃないか」


魔王軍の魔族、奴らは自分の欲望に忠実で、欲望を押さえ切れなくて、どいつもこいつも人々を傷つけ、悲しませてきた。


<………>

「そうかもしれねえ。でもな、怒りは時に力に変えることだってできる。女も言ってだろ、力は正しく使えばいいってな。あいつの事は許せねえがな」


<シリウス・バレル>

「怒りも生き抜く力に変えればいいってこと、かな」


<………>

「そういうこった!とりあえずまずはあいつを倒さねえとな!」


僕に近づく足音が聞こえる。

段々と人の形が見えてきて、その姿が顕になる。


僕は驚愕した。

そこにいたのは全身が真っ赤な僕の姿だったからだ。


<赤い僕?>

「シリウス、握手だ」


反射的に手を握ってしまった。

瞬間、体に何かが流れ込む感覚。

それは全身を駆け巡って、自分が何かに支配されるようなー


<シリウス・バレル>

「う、ぅううああぁああああああああ!!」


息が苦しい。全身に激痛が走る。

同時に唐突に湧き上がる感情。


何で捕まんなきゃいけないんだ。

何で疑われなきゃいけないんだ。

何であいつと殺し合いしなきゃいけないんだ。

でも今一番腹が立ってるのは、こんなになるまで放置した女の方だ!


押さえていた怒りが、怒りが、怒りが止まらねえ!!


<巫女 ユム>

「3――」


目覚めると聞こえてきたのは死を知らせるカウントダウン。


<シリウス・バレル>

「まだ死んでねえぞ!早くこの岩を退けねえと!」


パイルバスターを立て続けに打ち込み亀裂を広げる。


<シリウス・バレル>

「もう少し」


<巫女 ユム>

「2――」


亀裂が石全体に広がり、俺は勢いよく飛び出した。


<シリウス・バレル>

「おりゃあー!」




そして――


<シリウス・バレル>

「あるぜ、たった一つできる事が」


<ソウルウォッチャー>

――Soul Watcher――


天に左腕を突き上げると、ソウルウォッチャーが出現し魔力が収束する。


エレキギターの音がソウルウォッチャーから流れる中、俺は詠唱を始める。


<シリウス・バレル>

「強き体、力欲するならば、我が心喰らいて怒れ!」


<シリウス

「――IdentiΦ(アイデンティファイ)


叫ぶと同時に意識が途切れ、”俺”は小さな球体へと変化した。


<璃流 チャリクエ>

「ちっちゃくなった!」


球体は中心からじんわりと赤き光が放たれている。

光は段々と強まり、体の形を成した。

胸、胴、手足、そして顔が段々と見えてくる。


髪は胸の高さまで伸び、背丈もひと回り大きくなっている。

筋肉もさらに肥大化して、そしてとにかく体が赤い!

顔は覆面レスラーの意匠を模るように目と口周りが黒く染まる。

正に赤鬼の如し!


<ソウルウォッチャー>

――With a furious heart, a warrior rages like a Leo,Wielding the power of destruction――


<シリウス・バレル>

Red Custom(レッド カスタム)



       ――――――――――

         23話 赤き怒り

       ―――――――――― 


<シリウス・バレル Red Custom>

「これが”俺”の新しい体か。面白え、力が湧き上がるってのはこういう事か!どんなもんか試してみるかあ!」


有り余る力を早く振るうべく、ラックに向かって突撃する。


<岩流 ラック>

「姿だけじゃない、さっきから口調まで変わってるよな。威勢がいいのは悪くないが、さっきよりも大ぶりだな!」


<シリウス・バレル Red Custom>

「そうかよ!」


力の入った一撃は易々と避けられてしまうも、空振りの拳は風圧を起こし、ラックを吹き飛ばした。


<岩流 ラック>

「おっと、俺を飛ばせるとはな」


冷静に着地し、すぐに攻撃に転ずるラック。


<岩流 ラック>

白岩はくがん――流紋突き」


手と腹をを突き刺した手刀が来る!

咄嗟に両腕を交差しガードするが、次々と腕に穴をあけられる


<岩流 ラック>

(刺さりはするが貫通はしない。さっきよりも肉が詰まった感じだな)


<シリウス・バレル Red Custom>

「痛えなあ!!」


顔に殴りかかるが、背を反って避けられてしまう。

ラックは避けた反動でバク転し、頭突きを繰り出す。


<シリウス・バレル Red Custom>

「がっ」


<岩流 ラック>

「姿も力も全く違うみたいだが、さっきよりもスピードが落ちてるぜ」


<シリウス・バレル Red Custom>

「ちっ、クソが!」


ラックに殴りかかるが悉く避けられる。

当たらねえ、どうすりゃ当たる、何すりゃ――


魔弾を纏い、拳を振るうも手で簡単に弾かれる。

空振りの拳は地面を叩き、衝撃波で小さなクレーターが出来ていた。


<岩流 ラック>

「一発だけでこの威力、侮れないな!」


衝撃波…………これか!


左手を右拳に当て構える。

俺は手に纏わせた魔弾を圧縮し、腕にスライドさせた。


<シリウス・バレル Red Custom>

「装填。1!」


ガコンと魔弾が音を立てる。


<シリウス・バレル Red Custom>

「2!」


再び魔弾を圧縮し、腕に装填する。

圧縮した魔弾同士は融合し、膨張していく。


<岩流 ラック>

「何をしようと攻撃は当たらねえ。これで終いだ。黒岩こくがん――玄武北降げんぶほっこう


ラックが地面に手を置くと、周辺に無数の黒岩が現れ、俺に飛んでいく。

さっきよりも小さい。なら、まだ溜められる!


<シリウス・バレル Red Custom>

「3!」


黒岩の猛攻が足、胴、頭と体全体を襲う。

数の暴力!マズイっ意識がっ飛びそうだ。

足に力を入れろ!

まだだ、まだ耐え続けろ!


<シリウス・バレル Red Custom>

「4!」


<岩流 ラック>

「これで最後!」


黒岩の猛攻が止むと、今度は巨大な黒岩が真正面から飛んで来る。


<シリウス・バレル Red Custom>

「うおおおおおおおお!」


必死に左手で岩盤をめくり上げ、黒岩と衝突した。


<岩流 ラック>

「目眩しか、だがそんなものでこの俺を倒せるか!――灰岩 安山打衝あんざんだしょう!!」


岩ごと俺を吹き飛ばさんとラックが突っ込んで来る。


<シリウス・バレル Red Custom>

「5!装填完了!」


魔弾は五つ重なった事で風船のように膨張した。

ギュウギュウと圧縮音が鳴り、いつ炸裂してもおかしくない。

早く打たなきゃ自爆する!


<シリウス・バレル Red Custom>

「観測者よ掌握せよ!我引くは大いなる弓張月!歪力渦巻き潮引き満ちよ!」


拳を再度握りしめる。

腕に纏った巨大な魔弾は拳へと移動し、今まさに爆発しようとしていた。


<シリウス・バレル Red Custom>

「ホプキソン・クラッシュ!」


歯を食いしばる。

魔力を装填、圧縮した渾身の一撃。

魔弾は拳を振り切ると同時に炸裂し、肥大化した衝撃波は岩盤と黒岩を貫通し彼へと届く。


<岩流 ラック>

「これは、まずい――」


轟々と立ち上る砂煙。

爆音と共にラックは彼方へと吹き飛んでいった。


<煙流 トラティ>

「ヒュウ、いい煙だ」



<シリウス・バレル Red Custom>

「はあはあはあ」


(くそっ、全力で殴ったのに場外まで吹き飛ばせなかった)


膝から崩れ落ちる。


<豹流 ペト>

「ラインギリギリだな」


<異流 シュッテン>

「10カウントまでに立てるかの?」


<巫女 ユム>

「10、9、8、7――」


<シリウス・バレル Red Custom>

(立つので精一杯だ、これで目覚めなきゃ俺の勝ちだ)


<巫女 ユム>

「6、5、4、3、2――」


ラックの目が開く。

さっきの攻撃など効かなかったようにスッと立ち上がった。


<岩流 ラック>

「いや〜中々良い拳だったぜ」


<シリウス・バレル Red Custom>

「マジ……かよ」


<岩流 ラック>

「本気を見せてくれたんだ、こっちだって見せなきゃ不公平だろ」


ラックは手で服の砂を払い、準備運動をするかのように屈伸を始めた。


<岩流 ラック>

「お前、名前は」


<シリウス・バレル Red Custom>

「シリウス」


<岩流 ラック>

「じゃあシリウス、相手がすばしっこくてパンチが当たんねえ時ってあるだろ」


今の戦い、変身後も一度たりとも拳は当たらなかった。


<岩流 ラック>

「俺ならこうするのさ」


股を大きく開き腰を深く落とす。

右肘を右膝につけ、左手を左膝に添えた。


あれは、ポーズは違えどアスカの時と同じ魔力の上昇!


<ラック>

「”巌流(がんりゅう)”」


(って姿が見えな)


<巌流 ラック>

「燕――」


左足による強力な踏み込み。

半分抉れた盤上に巨大なクレーターができる程の衝撃ー


(意識がっ)


<巌流 ラック>

――返し」


(拳が来る…これは避けられな)


拳を受けたのか、はたまたその前だったのか。

シリウスは気を失い、轟音と共に壁まで吹っ飛ばされた。


次回は8月17になります!

☆いっしょに!なになに~☆


・シリウス・バレル Red Custom


シリウスの強化形態

ソウルウオッチャーを起動し、”IdentiΦ(アインデンティファイ)”と唱える事で形態変化する。

詠唱は、「強き体、力欲するならば、我が心喰らいて怒れ」


全身が赤く染まり髪が伸びただけでは無く、体に黒いラインと顔にレスラーの覆面のような刺青が入っているのが特徴。

全体的に頭身が上がり、筋力が向上。腕を一振りするだけで風圧を繰り出せるようになった。

代わりにスピードは元のシリウス・バレルより落ちる。


ホプキソン・クラッシュ

Red Cusutomの魔術。

戦いの最中、魔弾を纏った拳が衝撃波を生むのを見て考案。

魔弾を圧縮、腕に装填するのを繰り返すことで、巨大な魔弾を構成。

殴ると同時に魔弾を飛ばし、炸裂した衝撃波で敵を倒す。

その威力は凄まじく、頭領のラックをあと一歩の所まで追い詰めた。


変身音はこちら!

https://x.com/hiratakemame/status/1951976635978416483?s=46&t=s2OaQw5SnmcNhWQZwuHPkQ

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