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2話 森の街

<女>

「私たちは“モリタミ”。この世界の自然を守る戦士さ」


目覚めるとベットの上、僕を取り囲む4人組。

続けて女の人が喋る。


<女>

「初めましてだな。私はアスカ。この拠点の長、”頭領とうりょう”をやっている者だ」


凛々しくも美しい顔立ち。

頬には刺青があるが、それすら彼女の存在感を際立たせている。

髪を後ろで一つにまとめており、耳飾りが光る。

胸にはサラシを巻いており、首からはペンダントがかかっている。

羽織っているジャケットには頬の刺青と同じマークが刺繍されている。

まさに人を束ねる者の威圧を感じた。


<男の人>

「僕はサトウ。よろしくお願いします」


本を脇に抱え、メガネをかけている。

いかにも真面目そうな顔だ。

頭領さんの刺青と同じ紋様が刻まれている腕輪を付けている。


<女の子>

「あたしはエミー。ここの医療班だよ。君をちゃんと治してあげるからね!」


看護服に身を包んだ女の子。

ツインテールで声からも彼女が元気なのが伝わってくる。


<剣の男>

「ンで、さっきお前を助けたのが俺、ワタナベ裕平だ。よろしく!」


グッドポーズを自分に向け、自信ありげな態度を取るモヒカンの男。

頭領さんと同じジャケットを羽織っている。

持っている剣を床に刺して手でぐらぐらさせている。床は大丈夫なのだろうか?


<エミー>

「あんたは助けてないでしょうが!」


<ワタナベ裕平>

「拳が痛えって。なんで医療班なのにそんなに力強いんだよ」


<エミー>

「乙女に力強いってなによ!」


<アスカ>

「そうだぞ、モリタミは誰だって強い戦士なんだから。」


<ワタナベ裕平>

「お頭が肯定しないでくださいよ」


<サトウ>

「まあまあ。君の名前はなんて言うんだい?」


<エミー>

「あたしも気になる!なんて言うの?」


「僕は………分からないです」


<エミー>

「そっか…………それじゃああたし達で名前考えるのはどう?」


<アスカ>

「君はそれでもいいかい?」


少し悩む。見ず知らずの人間に名前を決められるのは。

現状自分の事はほとんど分からない。

生前は男で、死んでこの世界とは別の世界から来たこと以外は。


<エミー>

「それにしてもきれいな白髪!サラサラでふわふわ!」


エミーさんが僕の髪を撫でる。


<裕平>

「ライオンみてえだな。よしっ、ライオン丸にしよう。」


<サトウ>

「ふざけないでちゃんと考えて。大事な名前だよ。裕平が前に言ってた獅子舞?から連想するのはどうだろう?」


この人たち大丈夫かな………

っていうか獅子舞?そういえばあの男の人ワタナベって言ってた?日本人?


「あの、あなたたちは日本人なんですか?」


<アスカ>

「おっと、そうだ言うのを忘れていたよ。この三人は元日本人。君と同じ異世界から来た人間だ」



――――



4日後


こんな会話があった。


<アスカ>

「壁ばかり見ているのはつまらないだろう、傷もそろそろ癒えた頃だ。私たちの街を散策するのはどうだい?」


<エミー>

「じゃあ!あたしが一緒に行ってあげる!」


<アスカ>

「お前は今日当番だろう?」


<エミー>

「頭領~そんなの関係ないじゃん!」


<裕平>

「じゃあここは俺が」


<エミー>

「裕平だって今日訓練の日じゃん!」


<アスカ>

「サトウ。君が連れてってくれ。二人じゃ忙しなくて連れて行かれる方が大変だ」


<エミー>

「えー!私が行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい行きたい!」


――――


<サトウ>

「そ、それじゃあ、一緒に行きましょう」


という事で、町の中央通りに来ている。


<サトウ>

「エミーをなだめるのは大変でしたね」


「まあ、まあ」


あの後、駄々こねっぷりがとんでもなかった。

部屋の床中を転がりまくるエミーさんを必死にアスカさんと裕平さんが外へ連れ出していっていた。


<サトウ>

「おや?」


<八百屋の店主>

「採れたての、採れたての山菜はいかがかな?

揚げよし焼きよし煮るもよし!買った買った!」


<酒屋の店員>

「疲れてる体にこの一杯!喉ごし最高!風味爽やか!今朝完成したアカン酒造のビールはいかが?

ピルスナー、ベールエール、スタウト種類も豊富!ワイン、ウイスキー、リキュール、シャンパンもあるぞ!今日の夜に一杯どうだい?」


<肉屋の店員>

「いつでも焼き肉したいぜ!牛、豚、鶏、ラム、今おすすめは魔猪の肉!大特価250テオだよ!」


「おおーーーーー!市場だーーー!」


サトウ

「街の発展度はカカミトに負けるけど、賑わいは負けてません!」


街を取り囲むように巨大な樹木が横並びに生えている。

樹木の葉は街を覆い、木漏れ日が降り注ぐ。

街は中央に広い道があり、その道路沿いに数多くの市場がある。

街の奥には、湖と更に奥に巨大な光る石が見えた。

建物は2、3階立てがほとんどで、高層ビルがあるわけじゃ無いけど、あの街の同等の活気を、熱量を感じる。


サトウ

「初めてなのでいろいろ巡りましょう!」


「はい!」


        ―――――――――

          2話 森の街

        ―――――――――



初めての異世界の町

サトウさんに連れられた僕は、


<チョコレート屋の店員>

「春の新作チョコレート販売中です!ホットチョコや冷たいチョコドリンクもありますよ!試飲いかがですか?」


<サトウ>

「ありがとうございます。ほらあなたも」


「ゴクッ、あま―――――――――――い!」



本屋にて


「初めて見る文字だけど、なんで書いている意味がわかるんだろう?」


<サトウ>

「それは君に飲ませた翻訳薬のおかげだよ。この世界に来てすぐでも、薬を飲めば文字や言葉が分かる。それに飲んだら効果はずっと続く。すごいよね!」


「すごいけど、いつの間に飲ませてたの!?」



メイン通りに戻り


<タコス屋の店長>

「タコチュ――――――――――――――ズデ――――――――――――――――――イ!」


「うわああああ!びっくりした!」


<サトウ>

「今日も元気良いねハクチさん」


<ハクチ>

「ヤア!オ、見ナイ顔ダナ。君ニモコノ“タコス”ヲヤロウ!」


「むがむばむごがごがば」


タコス屋の店員?がおもむろに僕の口にタコスを突っ込んだ。


<サトウ>

「ハクチさん誰にもかまわず人の口にタコス突っ込むのやめた方が良いですよ。」


「んっ………………美味しい!」


<ハクチ>

「そうだろう!タコスは最も調和された料理。一口食べればそこは桃源郷。神々すら恍惚とした表情で召し上がる。至高の料理と言っても過言では無いっっっっ!タコスを信じる同士よ、もう一つ授けよう」


<サトウ>

「急にペラペラしゃべり出したよこの人」


「二つもありがとうございます!」


<サトウ>

「他の場所も見に行きません?またねハクチさん」


<ハクチ>

「マタクルトイイイイイイイイ!」


大通りを一通り歩いた先に、大きな広場が見えた。


<裕平>

「気合い入れろおめえら!貧弱な体、貧弱な技、そんなんじゃ他の”流派”の奴らにすら負けちまうぞ!」


<兵士たち>

『はい!!』


<裕平>

「ほらもう一度かかってこい!」


<サトウ>

「お、戦闘訓練か。裕平はこの町の戦士の教官をやっているんだ」


<裕平>

「なんだ、俺の噂でもしてたのか?サトウ」


<サトウ>

「その通りだよ。邪魔して悪いね」


<裕平>

「いいや。おめえら一旦休憩だ!お、坊主。良いもん食ってんな、タコスか」


「ハクチさんにもらったんだ。すっごく美味しいよ!」


<裕平>

「そりゃ良かった。ガキはよく食べよく遊びよく寝る、これが一番だ。ケガも治って良かったな」


僕の頭をポンと叩き、髪をわしゃわしゃしてくる。

自分の精神年齢?的には大人なはずなんだけどなあ。


――――


4日前


<アスカ>

「彼らも皆、君と同じ異世界転生人、”グレイト”なんだ」


<エミー>

「あたしは前世の記憶あるよ!病気で死んじゃって気づいたらこっちにいたの」


<裕平>

「俺もあるな、でもこんなにムキムキになって転生するとは思わなかったぜ。いや〜今日も惚れ惚れする筋肉だぜ」


<エミー>

「私も元気だった頃の姿で転生してたの。名前も覚えてて、裕平も前世の名前名乗ってるし」


<サトウ>

「僕は、あんまり覚えていないね。包丁で刺されて死んだってことだけかな、名前も記憶も無くて」


<裕平>

「エミーって本名だっけ?」


<エミー>

「そうだよ!知らなかったの!?」


<裕平>

「頭に助けられたときに、「さとう」って言ってたからサトウになったんだよな」


<サトウ>

「その話恥ずかしいからやめて」


エミーが手を叩きながら爆笑している。


<アスカ>

「彼らのように、転生後の姿も前世とはバラバラだし、覚えている記憶も個人差がある。君はどこまで覚えているんだい?」


「死んだのは覚えています。多分こんな子供の姿じゃ無くて、大人だったと思います。銃で撃たれて……でもそれだけで、それ以外は何も覚えていません」


<アスカ>

「そうか、転生して記憶を無くした者の中には、稀にだが記憶を取り戻した者もいる。もしかすればこの先記憶戻ることがあるかもな」


前世の記憶。

何も分からない今の自分を自分たらしめる唯一の情報。

いつか記憶は戻るのだろうか。

僕はこの世界で生きていけるのだろうか。


「…………はい。」


僕のそんな感情を悟ったのか、頭領さんはまるで元気づけるかのように


<アスカ>

「とにかくだ、彼はこうしてやってきた。新しく来た“異世界人グレイト”を私たちは歓迎する」


――――


<サトウ>

「彼、体は子供とは言え大人だよ。あんまり子供扱いしない方がいいよ」


<裕平>

「ん、そうだったな。でもガキ見るとこう、頭撫でたくなるんだよな~」


彼の手はゴツゴツとした戦士の手だったけれど、僕を撫でる表情も、手も優しかった。

こんなふうに頭を撫でられるのは久しぶりで、妙な安心感を覚える。


<サトウ>

「今日はゲートの当番だっけ?」


<裕平>

「あの任務暇だから好きじゃねえんだよな。だからこいつとはまた明日だな。おっとそういやまだ名前決まってなかったんだっけ?」


<サトウ>

「ネーミングセンス終わってるから、裕平のはパスで。」


<裕平>

「おい!まだ何も言ってないだろ!まあ今日はこいつと楽しんできな」


「うん!」


<裕平>

「じゃあな~!」




<宝石屋の店員>

「特別なあなたをより特別に!いつもの生活により彩りを!ルビー、サファイア、エメラルド!宝石、魔石、指輪、イヤリング、ペンダント!

イットリ宝飾店です!今ならアクセサリー作り体験もやってますよー!」


「僕やってみたいです!」


<宝石屋の店員>

「お二人様ご案内~」


「これが魔石ですか?」


<サトウ>

「そう。僕の着けてるこの時計も、眼鏡も車も家も、様々なに魔石が使われていて、生活に無くてはならないものなんです。湖の奥にある巨大な石も魔石なんですよ。」


魔石。初めて見る物に目を輝かせる。


<サトウ>

「おーい。僕の話聞いてますか――?」


サトウさんが手を目の前で振っていることに気づかないほど、魔石に夢中になっていた。



僕は耳飾りを、サトウさんは腕輪を作った。意外と上手く作れた気がする。前世は手が器用だったのかな。


<エミー>

「あーーー!来てくれたんだね!ここが私の職場だよ!」


エミーさんの職場、この街の病院兼研究所。

彼女の実務室にはMRIみたいなものやベット、医療器具や、医療ポット、机にはフラスコやビーカーが置いてある。なんか理科室みたいだ。


<サトウ>

「ごめんね、つい近くを通ったから。それに」


「治してくれてありがとうございます。」


<サトウ>

「お礼も言いたかったって。」


<エミー>

「いいのいいの!元気になって良かった!来てくれたからこれを見せてあげよう!」


空中にキーボードが映し出される。何やらカタカタ打ち込んでるエミーさん。


<エミー>

「それっ!」


扉が僕たちの目の前に現れた。


<エミー>

「入って入って!」


<サトウ>

「おお、装飾品集めてるのは知ってたけど、ここまでとは。」


部屋中に飾られている、指輪、イヤリング、ネックレス、腕輪。どれも宝石や魔石が使われていて目が眩しい。


「すごい、どこ見てもキラキラしてる!」


<エミー>

「でしょでしょ!私のコレクション部屋!秘密で作っちゃった。サトウ、頭領には内緒ね。」


<サトウ>

「黙っておくよ。エミーは異世界人グレイトの中でも魔術が使えるんだ。翻訳薬を作ってるのもエミーなんです」


<エミー>

「ただ既製品を複製してるだけだけどね。魔術は治癒と空間拡張くらいかな、もっと魔術が使えるとみんなの役に立てるんだけど、ってその耳飾りかわいい!買ったの?」


<サトウ>

「さっき宝飾店で作ったんだ。彼と一緒に」


<エミー>

「え――――――めっちゃセンス良いじゃん!私の部屋のコレクションにしたい!」


<サトウ>

「ダメだよ彼の物なんだから」


「そういえば僕や、エミーさん達のことを“グレイト”って言ってましたけど、それって」


<エミー>

「………異世界から来た人の事をそう呼べって王様が言ったの。」


エミーさんが言い淀むように話す。


「王様?」


<サトウ>

「なんでも“異世界”って言葉が差別的だってことで、400年前に反対運動があって、それから王様が異世界人の事を“グレイト”って呼ぶようになったんです」


<エミー>

「王様もこれに関してだけは良いこと言うよね、”敵”だけど」


「そうなんですか………………」


王様が敵?そういえばモリタミの人達は何と戦っているのだろう。


<サトウ>

「おっとまだ勤務中だったね。じゃあここら辺で。」


<エミー>

「えーもっといても良いんだよ?」


<サトウ>

「他にも巡るところあるから」


<エミー>

「じゃあ明日あたしと一緒に街散歩しようね!」


「はい!」


<エミー>

「またね~!」



キーンコーンキーンコーン

今まで見てきた店よりも少し高い建物から鐘が鳴る。

時間は夕暮れ。

赤い陽の光が木漏れ日から街に降り注ぐ。


<サトウ>

「あそこは異世界人向けの学校で、この世界に間もない異世界人達にここの世界のことをいろいろ教えているんです。明日行きませんか?」


「僕ももっとこの世界を知りたい!よろしくお願いします!」


<サトウ>

「そろそろ日も暮れてきましたね、今日はここまでにしましょうか。湖と魔石は学校に行った後でまた行きましょう!」


「はい!今日はありがとうございました!」


<サトウ>

「うん。家に帰りましょうか。今日の夜ご飯何だろな~」


夕日を背に大通りを歩く。

楽しかった気持ちをいっぱい胸に込めて、サトウさんと一緒に帰路についた。


* * * * * * *


とある駐屯地


<兵士>

「隊長殿、いかがされましたか?」


長太刀を佩き、隊員のもとへ歩く女。

端正ながら勇ましくもある顔立ち。

髪は黒髪のポニーテールの中に、所々赤い髪が混ざり映え、

耳には緑色の宝石をあしらった耳飾りが光る。

隊服には高官のみ許されている色付き、赤色の刺繡がされており、

高官用のマントが風になびく。


Aランク魔術師 連盟軍13番隊 

隊長 パレ・リブッカー


<パレ・リブッカー>

「王命だ。今すぐカカミトに向かい異世界人グレイトの保護に向かえと」


<兵士>

「カカミトと言えば先日”モリタミ”の目撃情報がありましたな」


<パレ・リブッカー>

「そうだ、厄介だがこれも王命だ。戦いの準備をしておけ、私も出る」



王宮


玉座には王が鎮座し、その横に女が一人、そして玉座への階段に腰掛ける女が一人。


<階段に座る女>

「王さま直々に命令とはね………それにカカミトって言ったら”迷いの森”があったよね」


<王>

異世界人グレイト数値の消失は、対象が”迷いの森”に入ったからであろうよ」


<王の横の女>

「あの森の結界は厄介と聞いていますが」


<王>

「そのための魔導具も送った。奴め、試作品と言えども高値で売りすぎた。」


<階段に座る女>

「また高い買い物したんだ」


<王の横の女>

「………モリタミはいかがなされるのですか?」


<王>

「見つけ次第“抹殺”と伝えてある」

☆いっしょに!なになに~☆


貨幣単位:テオ

第二次魔術大戦で活躍し、貨幣制度を導入した人物の名前にちなんで付けられている。


魔石

魔力に当てられた石などが変質したもの。

高濃度の魔力がそのまま魔石になる事もある。

属性も火、水、風、土等様々あり、無属性の魔石は魔術で属性を付与することで変化する。


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