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22話 岩流

立ち上がったのは頭領の中でも一際筋肉のある男だった。


<岩流 ラック>

「おいみんな!!」


<宙流 オオケン>

「どうしたのラック?」


ラック…………………アスカさんが頼れって言っていた頭領!


<アスカ>

――このペンダントが君を本部まで導いてくれる。本部に着いたら、”ラック”という男を頼れ。きっと力になってくれる――


<岩流 ラック>

「嘘か嘘じゃねえかとか、殺す殺さねぇとかぐちぐち話しても終わらんだろめんどくせぇ」


頭領達の目線がラックさんに集中する。


<岩流 ラック>

「”決闘”だ、俺が()()()()()()()()、でいいだろ」


決闘って、僕がこの人と戦うってこと!?


<璃流 ウェンウェン>

「でもそれじゃ」


<岩流 ラック>

「こいつが仮に連盟軍と繋がってるって話になったらだろ。そしたら俺は責任とってこいつを殺して死んでやる」


その目には自分の命すら賭けようとする覚悟が現れていた。


<岩流 ラック>

「アスカは元々俺の弟子だ。弟子の不始末は師である俺が責任を取る。大将、お願いします」


深々と頭を下げるラックさん。


<頭首 フナク>

「…………………私は構いませんよ、みなさんもそれで良いですか?」


フナクさんは少し考える仕草をすると、呼吸を整えて冷静に告げた。

静寂が円卓を包む中、その判断に決して逆らってはいけない異様な雰囲気が流れていた。

頭領の誰も彼に反論する者もいなかった。僕ですら反論してはいけないような気がした。


<岩流 ラック>

「じゃ決まりだな。ユム、訓練場ってどこか空いてるか?」


空中にディスプレイを映すと、スクロールしながらテヲカーリの施設状況を検索している。


<巫女 ユム>

「今ですと、Cが空いてるかと」


<岩流 ラック>

「じゃあそこで。お前達も見に来たきゃ見ててもいいぞ、観客席は用意してやる」


<巫女 ユム>

「フナク様、本当によろしいので?」


<頭首 フナク>

「構わないよ。この話が終わらないとみんな気が気でないだろう?」


ラックさんと戦うことが決まってしまった。

自分が助かるには、生き残るにはこの人と戦って勝たなければならない。

アスカさんの師匠…………………僕は勝てるのだろうか…………………


<頭首 フナク>

「期待しているよ、シリウス君」


頭領達が扉へと向かう中、フナクさんは反対方向へと歩いていく。


<尾流 コア>

「頭首殿、何処へ?」


<頭首 フナク>

「ちょっとお茶の誘いにね」





テヲカーリ 訓練場C


訓練場はまるで洞窟のような所で、中央には闘技場のようなフィールドが設けられている。

僕は磔のまま運ばれ、フィールドの上にラックさんと対面する形で置かれた。


弓矢、剣、銃、槍、盾、銃。

様々な武器が僕の前へと無造作に放られる。


<岩流 ラック>

「勝負は簡単だ。俺を戦闘不能にするか、お前が戦闘不能になるかだ。戦闘不能の判断は10カウント以内に起きなかった時とする。もしくはこのフィールドを囲ってる線の外に出た方の負け。そこにある道具使っても使わなくてもなんでもいい、手段は問わない」


僕を運んでくれたマクイルさんが拘束具を外してくれた。

久しぶりに地に足をつけたせいか、立ったときに体勢がよろける。


<減多流 マクイル>

「大丈夫か?兄貴は強えが、俺は応援してるぞ!」


他の頭領達は訓練場全体を一望できる観覧席で二人の様子を見守っている。


<翠流 チャリクエ>

「しかしあんな子供相手になかなかきつい条件では?」


<煙流 トラティ>

「お前は気づかなかったのか、あいつからすげえ力を感じないか?」




<岩流 ラック>

「時間そんなにかけてられねえ、さっさとやるぞ。覚悟は、いいな?」


戦う覚悟か――


シリウス運搬中


<減多流 マクイル>

「捕まえた手前言うのもあれだが、悪かった。」


<シリウス>

「いえ、侵入者であることは変わらないので」


<減多流 マクイル>

「この戦いはお前が生き残る戦いでもあるが、アスカの想いを証明する戦いでもあると思うぜ。一緒にいる時間は短かっただろうが、お前はアスカの忘れ形見であることは変わらねえんだらかよ」


――


僕は生き残らなきゃいけない。自分自身のために、

アスカさんの、あの街の人達の想いを繋ぐために!


左腕の袖を思いっきり捲ると、ソウルウオッチャーが腕から出現した。


<シリウス>

「熱く躍れ、魂の鼓動よ――」


<岩流 ラック>

「魔術詠唱か!何する気だ?」


<シリウス>

Mind(マインド) ON(オン)!」


金色の光を放ちながら体が膨張する。

服が張り裂け、光は次黒い稲妻へと変わり白い巨躯が顕わになる。


<シリウス・バレル>

「うおおおおおおおおお、ハッ!」


<岩流 ラック>

「姿が変わった!それがお前の本気か。いいねえ、面白くなってきた!」


彼は首をならすと仁王立ちで僕を待ち構える。

隙だらけだというのに、堂々とした姿は僕の攻撃など意を返さない余裕が感じ取れる。

手を強く握りしめ彼に思いっきり殴りかかった。


<岩流 ラック>

「力任せなパンチだ、だかそれじゃ俺に届かない!」


<シリウス・バレル>

「なんで!パンチが当たらない!」


拳の連撃を攻撃をいとも容易く避けるラック。

パンチを避けると空振りの腕を掴み、投げ飛ばされた。


線の外まではまだ距離がある。

一回転して着地すると、近くに落ちている剣と盾を持ってラックに飛びかかった。


<シリウス・バレル>

「うおおおおおお」


<岩流 ラック>

「やけくそか。子供みたいな振り方だな」


叫びながら剣を振るうも、簡単に手で払われてしまう。

体勢が崩れた隙を狙われ、拳が打ち込まれる。

咄嗟に盾で防御するも、威力に耐えられず粉砕されてしまった。


<シリウス・バレル>

「剣でも届かない!なら」


今度は槍を持ち、ラック目掛け突撃する。


<岩流 ラック>

「得物が長ければ当たるというのは浅い!」


槍の突きを悉く避けられる。

ラックは一気に間合いを詰め、殴りかかってきた。


まずい、攻撃が当る――

やったこと無いけど一か八か、やるしかない!!


<シリウス・バレル>

「解除!」


掛け声と共に子供の姿に戻った。

急に体格が縮んだ事でラックの拳が的を失い、空を切る。


<シリウス>

「もう一回!Mind(マインド) ON(オン)!」


<岩流 ラック>

「うおっ」


再び変身した僕を見てラックが一瞬驚く。

その隙に持っていた槍を突き刺しにかかるも、彼はは白羽取りで槍の先端を抑えた。


今だ!腕に魔力を込めろ!

爆発するイメージで!


<シリウス・バレル>

「パイル・バスター!!!」


魔弾は拳を通り抜け、槍の先端まで走る。

ラックの顔面で炸裂した魔弾は彼を槍ごと吹き飛ばした。




テヲカーリ 郊外 路地裏


<頭首 フナク>

「お茶でもいかがですか?」


声をかけたのは、これからどうしようかと思案している女。

”ファリア”だった。


<ファリア>

「誰じゃ?」


<頭首 フナク>

()()()()………………400年ぶりですかね、お久しぶりです」


<ファリア>

「あの時の小僧か。それにその魔力、見違えたな」


<頭首 フナク>

「今はモリタミを束ねております」


<ファリア>

「なるほど賊の頭とは、ではな」


特に興味が無いのか、ファリアは会話を断ち切ってこの場を去ろうとする。


<頭首 フナク>

「お待ちください。()()()としてあなたの潔白を証明したいのです」


彼女を引き留めようと声をかける。

ファリアは彼の言葉も聞かず、杖を出して魔術を編み始める。


<頭首 フナク>

「逃げようとしても無駄ですよ。私ならどこに隠れてもすぐ見つけられますし。

それに、あの子がいなければここから出る事はできません」


<ファリア>

「そうか――Coda(コーダ)


フナクの前から消えるファリア。


<ファリア>

「これで巻いたか。しかし大雑把に決めたせいで変なところに飛んでしもうたの」


着いたのは広大な畑が広がる土地。

本部の街ではあるようで、遠くにさっきいた街が見える。

辺りを見ようと後ろを振り返る。


<頭首 フナク>

「ファリア殿、ご同行していただけますか?」




テヲカーリ 訓練場C


<シリウス・バレル>

「ゼェゼェ」


再変身したせいで、体力を思ったより使ってしまったみたいだ。

いつもならパイル・バスター1発でこんなに疲れないのに。


<岩流 ラック>

「ほう、これがお前の技か。悪くない。ならこちらも見せてやるか」


ラックも袖を捲ると、ファイティングポーズを取りこう呟いた。


       ――――――――――

         22話 「岩流」

       ――――――――――    


<岩流 ラック>

「――火山岩かざんがん まだら


左目の下に灰色の丸く大きな斑点が浮かび上がる。

斑点は身体を這うように左半身に次々と浮かんだ。


岩流!アスカさんとは違った!


<岩流 ラック>

白岩はくがん 流紋突き」


速い!

ラックが蛇行しながらこちらに迫る。

僕は咄嗟に手で防御した。


<岩流 ラック>

「右手でよく受けたな」


<シリウス・バレル>

「っ…………………」


手刀はシリウスの手を貫通し、腹に突き刺さる。

手と腹から血が垂れる。


<岩流 ラック>

「ああ、認識違いなら悪いんだが、戦闘不能には”殺し”も含まれてるぜ」


その言葉は僕にこの戦いが殺し合いであることを認識させるには十分だった。

一瞬腰が引く。

瞬時に突き刺さった手を引き抜くラック。


<岩流 ラック>

灰岩はいがん 安山打衝あんざんだしょう


両手で放たれた掌底が、攻撃を受けた腹に響く。


<シリウス・バレル>

「ぐはっ」


<岩流 ラック>

「まだまだ!」


掌底の連撃を喰らい続け、吹き飛ばされる。

まずい、線の外に出るっ!

必死に足に力を入れて踏み留まった。


一旦態勢を……………………………!!

攻撃に勘付き咄嗟に身体を捻ると、空気の層が顔を掠めた。


<シリウス・バレル>

「あの掌底飛ぶのか!」


次々に飛んで来る衝撃波を避けるも、ダメージの蓄積で体が鈍くなる。

避けきれず次第に攻撃が当っていく。


<シリウス・バレル>

「ハァ、ハァ、ハァ…………………」


<岩流 ラック>

「よく動く、だかこれで終わりだ」


ラックが空中に飛び上がると、手を上に掲げた。

黒岩が手上に次々と形成され、集まり、巨大化していく。


<岩流 ラック>

黒岩こくがん 玄武北降げんぶほっこう


フィールドを覆い尽く程巨大化した黒岩が落ちてくる。

これは…………………無理だ………………


<シリウス・バレル>

「パイル・バス――」


技すら出させる事無くシリウスを押し潰した。

訓練場中に地響きが鳴る。


その光景を見つめる頭領達。

その中にはついさっき戻ってきたフナクとファリアの姿もあった。


<頭首 フナク>

「このままでは負けてしまいますよ。少し助言をしてみればよろしいかと」


<ファリア>

「だが――」


<頭首 フナク>

「ルールには抵触しません、手段は問わないので」




<巫女 ユム>

「10、9、8――」


カウントが戦いの終わりを告げようとしていた。


<璃流 ウェンウェン>

「ラック!ちょっとやりすぎなんじゃ!」


観客席から声をかけ、フィールドに降りるウェンウェン。

この状況を問題視する頭領達も何人かいたようで、シリウスを助けようとウェンウェンと共にチャリクエとリーツァ、ゴフセンが降りる。


<岩流 ラック>

「お前ら手出すな!これくらいで死ぬようならそれまでだ。それにこいつが軍のスパイだったら死ぬのは有り難え事だろ」


<璃流 ウェンウェン>

「そうだけど…………………ん?」


<巫女 ユム>

「5、4、3、2」


カウントが近づくにつれ、黒岩にヒビが入っているのを頭領達は見逃さなかった。


<巫女 ユム>

「1――」


<シリウス・バレル>

「はああああああああっっっ!!!」


0を数えきる前に中からシリウスが飛び出した。


<岩流 ラック>

「ギリギリだったな、まだ立てるとは」


<シリウス・バレル>

「はあはあ…………ここで死ぬわけにはいかない!」


<岩流 ラック>

「そうか。だがそんな満身創痍の体で何ができる?」


シリウスが左腕を突き出すとソウルウォッチャーが出現し、赤く輝き始めた。


<岩流 ラック>

「なんだその魔力は!」


<シリウス・バレル>

()()()、たった一つできる事が」


<岩流 ラック>

(口調が変わった?)


突き上げた左腕を胸の前に掲げ、魔術を唱える。


<シリウス・バレル>

「――IdentiΦ(アイデンティファイ)


次回は8月3日になります!

☆いっしょに!なになに~☆


ソウルウオッチャー


シリウスが変身するための補助として作られてた魔導具。

ファリアがシリウスの変身を二度観測したことで、変身の仕組みを解明し、そのデータを元に作られた。


シリウスはホムンクルスの体に魂がくっついている存在であり、魔力源も魂にある。

通常格納されている魂の魔力を強制的に引き出し、シリウスの闘争本能をトリガーとする事で、戦いたい時にいつでも変身できるようになった。


変身時の詠唱は「熱く躍れ、魂の鼓動よ――Mind(マインド) ON(オン)!」

度重なる戦闘により、短縮詠唱や詠唱破棄での変身も可能となった。

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