20話 頭領結集
<巫女 ユム>
「モリタミ総本部より通達いたします。
各頭領は本部円卓の間にお集まり下さい。繰り返します、各頭領は本部円卓の間にお集まり下さい」
総本部の街にユムの声が鳴り響く。
それを聞きつけ、集結せんとする”十七”の影あり。
モヒカンの戦士もその中の一人。
彼とその部下達はファリアを捜索しに街に下りていた。
<モヒカンの戦士の部下>
「頭領!」
<モヒカンの戦士>
「分かってるよ!もう少し探してから行く!」
円卓の間
樹海の部屋が揺れる。
地響きが鳴る。
奥の通路から現れたのは20m程ある巨人。
――煙流 モリタミ副司令――
巨人族 トラティ
<煙流 モリタミ副司令 巨人 トラティ>
「ふぅ、今日も煙草が不味い。こりゃ失敗だったな」
巨大な葉巻を咥え、煙が部屋に充満する。
<煙流 巨人 トラティ>
「って今回は俺が1番か」
<………>
「ごへごへっ、違うよ!違うよ〜」
トラティが下を見ると、蝶の羽を持つ男の子の妖精がちょこんと円卓に座っている。
<妖精>
「ボクが最初だよー!」
――宙流 妖精族――
オオケン
<煙流 巨人 トラティ>
「おお悪ぃオオケン。ちっちゃくて見えなかったわ」
<宙流 妖精 オオケン>
「むー!魔力探知でわかるでしょ!ボクの事ちっちゃいってバカにして〜」
二人が話していると通路から大きな溜息が聞こえてきた。
現れたのは、地面に付きそうなほど長い髪を持った”女龍人”。
<女龍人>
「ハァ………そいつはタバコの吸いすぎで能力も頭もバカになっちまったんだよ」
<煙流 巨人 トラティ>
「あ゛?何だとアルテカ!」
<宙流 妖精 オオケン>
「えっそうなの?」
<女龍人 アルテカ>
「そうそう。その無駄にデカい図体の癖に煙草キメたせいでアタシらのことなんて全然感知できなくなっちまったのさ」
――磁流 モリタミ副司令――
龍人族 アルテカ
<煙流 モリタミ副司令 巨人 トラティ>
「そんな事無えさ。オオケンの魔力は馬鹿に出来ねえ。だが悪ぃ、お前の魔力なんて1ミリも感じられなかったわ。”弱すぎて”」
<磁流 モリタミ副司令 龍人 アルテカ>
「あ゛?馬鹿にしてんのか?やっぱアタシより”弱い奴”に何言ってもバカだから分かんねえよな!」
<煙流 モリタミ副司令 巨人 トラティ>
「あ゛?てめえより弱いなんて聞き捨てならねえなあ。やんのか?」
<磁流 モリタミ副司令 龍人 アルテカ>
「ここで会うのも久々だからなあ!どっちが”真の副司令”か決めるか。あ゛?」
<宙流 妖精 オオケン>
「あわあわあわわ」
突然と始まる修羅場にオオケンはあたふたする。
そんな彼らの間に一人のナース服の女が割って入った。
<ナース>
「2人ともオオケンが困ってるじゃないですか!今日何のために集まったのか忘れたんです?優秀な副司令殿は頭も冷やせないんですか!」
<磁流 龍人族 アルテカ>
「すまん、テトラ」
――香流・治流――
テトラ
<香流・治流 テトラ>
「謝る人が違いますよ!もう!」
<煙流 巨人 トラティ>
「ごめんなオオケン」
<宙流 妖精 オオケン>
「いいよ〜そんな~助けてくれてありがとうテトラ!」
<香流・治流 テトラ>
「いいのよオオケン、それよりこれが終わったら私の施術また受ける?」
<宙流 妖精 オオケン>
「いいの!?あれやると気持ちいいんだよね〜」
フン、と互いにそっぽを向くトラティとアルテカ。
二人のいがみ合いなど気にせずオオケンとテトラが話していると、通路からやってきたのは杖をついた老婆。
<老婆>
「いつの日も元気があるのは結構。元気は若さの象徴じゃ。まあやりすぎには注意じゃがな」
<煙流 巨人族 トラティ>
「シュッテンの婆さん」
――異流――
シュッテン
<異流 シュッテン>
「ほれアルテカ、前に頼まれてた絵じゃ」
懐から自身の倍以上もある絵画渡すシュッテン。
色鮮やかな星々の動きを描いたスタートレイルの絵画。
<磁流 龍人 アルテカ>
「シュッテン、ここではちょっと」
<煙流 巨人 トラティ>
「何だお前、絵とか飾るのか?」
<磁流 龍人 アルテカ>
「ん゛?アタシが絵飾っちゃ悪いか」
何気ない会話から一瞬にして空気が張り詰める。
二人の殺気を感じ、テトラが椅子から立ち上がろうとする。
<煙流 巨人 トラティ>
「…………いや意外だったもんでな。芸術は普通に良いもんだろ」
粗暴な見た目とは裏腹に芸術への造詣があったトラティ。
テトラはほっとしたのか肩をなで下ろした。
<煙流 巨人 トラティ>
「俺の仮面も婆さんに作ってもらったもんだし」
<磁流 龍人族 アルテカ>
「てかお前さっさと縮め。みんないるのに話しづらいだろ。あと煙臭くなるし」
へいへい、と言いながら左部分が欠けた面を被るトラティ。
彼の身長はするすると縮んでいき、人間大の大きさになった。
<………>
「あっ、”師匠”!久しぶりー!」
シュッテンに元気に挨拶をしたのは、中華風のお団子ヘアの女の子。
<異流 シュッテン>
「ウェンウェンか、今日も元気じゃの」
<ウェンウェン>
「うん!さっき二人とも会えたしね!」
――璃流――
ウェンウェン
シュッテンと話していると、彼女を追いかけるように走って来る男女がいた。
一人はオールバックの女の子。
もう一人は両目を隠した男の子。
<オールバックの女の子>
「ちょっと先行かないでよウェンウェン」
――緋流――
リーツァ
<メカクレ男の子>
「はぁはぁ、ウェン姉速いって」
――翠流――
チャリクエ
<璃流 ウェンウェン>
「ごめんって」
<緋流 リーツァ>
「師匠お久しぶりです」
先にシュッテンの元に着き、お辞儀をするリーツァ。
チャリクエはというと、彼女達の元へまだたどり着かずヨレヨレと走っている。
<璃流 ウェンウェン>
「ほら早く~!たった本部100周しただけじゃん!」
彼女はチャリクエの元へ駆け寄り、彼の両手を優しく握る。
<璃流 ウェンウェン>
「一緒に挨拶しに行こ!」
太陽のような笑顔に目を奪われるチャリクエ。
呆然と立つチャリクエをウェンウェンは強引に手を引いていった。
<璃流 ウェンウェン>
「師匠〜!チャリクエ連れてきたよ!」
<翠流 チャリクエ>
「ちょっウェン姉!手、手が……………」
<璃流 ウェンウェン>
「手がどうかした?」
<翠流 チャリクエ>
「手…離して…………………」
ずっと握られている二人の手。
チャリクエは照れているのか顔を真っ赤にしてウェンウェンに目を合わせないように言った。
<璃流 ウェンウェン>
「ごめん!これじゃ挨拶出来ないね!」
彼の言葉に咄嗟に手を離すウェンウェン。
<緋流 リーツァ>
「もう、うちの弟を拐かさないでよね」
<璃流 ウェンウェン>
「ん?拐かすって?」
彼女らの光景を遠目から見つめているテトラとオオケン。
<香流・治流 テトラ>
「ああいうの良いわね。なんかこう、心が洗われるわ」
<宙流 妖精族 オオケン>
「どうしたのテトラ?」
ようやくシュッテンの元へ行き、挨拶をするチャリクエ。
<翠流 チャリクエ>
「お久しぶりです」
<異流 シュッテン>
「研鑽は積んでいるかい?」
<翠流 チャリクエ>
「はい、毎日鍛錬は欠かさず」
<異流 シュッテン>
「にしては本部100周でくたばってたようじゃが」
<翠流 チャリクエ>
「ぐっっっ」
<緋流 リーツァ>
「それはその前に戦闘訓練もやってたからですよ。”うちの弟”、ウェンに誘われて昨日からずっと戦闘訓練やってその後にランニングしてるんですよ」
<異流 シュッテン>
「あの子の体力は底なしだね」
<緋流 リーツァ>
「たまには止めてやってください、私も”同じ舎弟”とはいえ疲れますよ」
<異流 シュッテン>
「ほれウェンウェン、戦闘も良いけどまたみんなで絵でも描くかね」
またもや通路からやってきたのは、半魚人の男の子を引きずる雌豹の獣人。
人間の顔に近いアルテカとは違い、殆ど豹の顔を残している。
その横に長身の男性が一人。
<雌豹の獣人>
「みんな!」
――豹流 獣人族――
ペト
<半魚人の男の子>
「めんどくさい、帰りたい、研究室に閉じこもってたい…………………」
――毒流 半魚人族――
ナナカ
<豹流 獣人 ペト>
「ほらウジウジすんな、頭領だろうが」
<煙流 巨人 トラティ>
「何で引きずられてんだよ。ナナカ」
<豹流 獣人 ペト>
「入り口に着いたらこいつが帰ろうとしてたから、無理矢理でも連れて行こうとしたんだけど……………駄々こねたから?」
まるで悪気の無いみたいに話すペト。
それを見てナナカが体育座りで縮こまる。
そんな彼を見てチャリクエとリーツァが駆け寄った。
<翠流 チャリクエ>
「ナナカ、お前は頑張ってるよ、だから一緒に頑張ろうな、な」
<毒流 魚人族 ナナカ>
「うん……………」
<緋流 リーツァ>
「そうそうナナカは頑張ってるよ」
<毒流 魚人族 ナナカ>
「うん………………ありがとう」
一方ペトの横にいた長身の男性に気づいたのか、アルテカが急接近する。
すり寄るように顔を近づけ、匂いを嗅ぎ始めた。
<磁流 龍人 アルテカ>
「おい”トルトラ”、ちょっと酒飲んでねえか?緊急召集だってのに良いご身分だこって」
<長身の男 トルトラ>
「………アルテカ殿、文句はペトに言ってください。私は吹っ掛けられただけですよ」
――流流――
トルトラ
<磁流 龍人 アルテカ>
「おい、また召集前に酒飲んでんのか」
<豹流 獣人族 ペト>
「何か悪かったか?これは儀式みたいなものだぞ。神の前に立つ前の禊だ」
<磁流 龍人族 アルテカ>
「ずるい、次は私も混ぜろ」
<………>
「何々?いい酒の話かい?どんな店行ってたの?」
ペト達の会話の中に、優しい声が差し挟まれる。
彼女らの後ろにいたのは誰よりも横幅の広い肉付きの良い大食漢。
<璃流 ウェンウェン>
「あっダディ!」
<ダディ>
「ウェンウェン!久しぶりだね!」
――登流――
ゴフセン(通称ダディ)
<璃流 ウェンウェン>
「ダディ〜!」
彼を見るやいなや、ウェンウェンとチャリクエ、そしてナナカは彼の大きなお腹に飛び込んだ。
<璃流 ウェンウェン>
「ぽん!」
<翠流 チャリクエ>
「ぽん!」
<毒流 マーマン ナナカ>
「ぽん!」
ブスッ
何かがゴフセン(ダディ)に刺さる音がした。
<登流 ゴフセン>
「今ブスッて」
<毒流 マーマン ナナカ>
「あ、針引っ込めるの忘れてた」
<登流 ゴフセン>
「う………なんだか気持ち悪くなってきた」
<璃流 ウェンウェン>
「あー!ダディ!」
血色の良かったダディ(ゴフセン)の顔がみるみる青ざめていく。
<毒流 魚人族 ナナカ>
「ごめんゴフセン。すぐ解毒剤あげるから」
手から取り出した解毒剤を一気に飲み干すゴフセン。
<………>
「おい人気者でいいなあ、ゴフセン」
<登流 ゴフセン>
「う……う、そうかい?」
ゴフセンの横から現れたのは、彼とは対照的な筋肉の詰まったような大男。
――岩流――
ラック
さっと挨拶を済ますと、円卓の脇にひょっこりと現れた巫女の元に行った。
<大男>
「よっユム」
<巫女 ユム>
「ラック様」
――モリタミ総本部 本部長――
巫女 ユム
<岩流 ラック>
「なあユム、今度俺とご飯でも――」
<巫女 ユム>
「お断りします」
<岩流 ラック>
「がくっ、そんな…………今日で何回目?」
<巫女 ユム>
「38回にございます。ラック様からの誘いを断った回数」
膝から崩れ落ちるラック。
そんな彼らの様子を微笑ましく見ていたローブの男が一人。
<ローブの男>
「あまりユムを困らせないでおくれよ」
<岩流 ラック>
「”大将”!?これは、その…………」
<ローブの男>
「ハハハ分かっているよ。モリタミ内の関係をとやかく言うつもりは私にはないからね。まあ”親心”としてはちょっと言いたいものがあるけれど」
<岩流 ラック>
「申し訳ない!」
倒れ込んだ勢いでロープの男に土下座で謝り倒すラック。
<ローブの男>
「あと揃ってないのは――」
そう言いかけた瞬間、忽然と席に現れたのはまるでロボのような見た目の忍者とゴスロリ風の衣装のツインテールの女の子。
<ロボ忍者>
「コア、此処に」
――尾流――
コア
<ゴスロリ少女>
「ヨルト、既に席に着いております」
――霊流――
ヨルト
<尾流 コア>
(ヨルト殿、さすがの身のこなしようだ)
<霊流 ヨルト>
(私もダディに”ぽん”って飛び込むやつやりたいな)
<ローブの男>
「まだ来てない子も一人いるようだけど先に始めようか」
<尾流 コア>
「"頭首"殿!あと一人というのは!」
<ローブの男>
「今日はその話の為に、みんなに集まってもらったんだから」
――モリタミ総本部 総司令――
頭首 フナク
<巫女 ユム>
「フナク様」
<フナク>
「じゃあ改めて確認しようか。みんな!そろそろ始めるよ」
フナクの一声で頭領達の談笑がピタリと止んだ。
彼らは襟を正すと、各々の席に座った。
<巫女 ユム>
「出席を確認いたします。
頭首 フナク様
煙流 副司令 トラティ様
異流 シュッテン様
登流 ゴフセン様
岩流 ラック様
流流 トルトラ様
豹流 ペト様
香流・治流 テトラ様
尾流 コア様
璃流 ウェンウェン様
緋流 リーツァ様
翠流 チャリクエ様
毒流 ナナカ様
霊流 ヨルト様
宙流 オオケン様
磁流 副司令 アルテカ様
あともう一方は――」
<モヒカンの戦士>
「悪りぃ、遅くなった」
――減多流――
マクイル
<巫女 ユム>
「減多流 マクイル様。”これで全員”、で宜しいですかフナク様」
<頭首 フナク>
「それを今から聞こう、だよねマクイル」
マクイルが通路から運んで来たのは磔にされ、気絶したままの”シリウス”だった。
<磁流 アルテカ>
「その子は?」
<減多流 マクイル>
「こいつが本部に入った侵入者だ」
次回は7月20日になります!