総本部#2
解散後 魔王城廊下
<ハビニア>
「それにしてもあいつと一緒にいるあの子供、中々良いわね、食べたくなっちゃう!」
画面を映し出し、舌なめずりをしながらシリウスの戦いを閲覧している。
<サブジェク>
「確かにあの子には興味があるネ」
<ハビニア>
「うわびっくりした!いきなり出てこないでよ!」
<サブジェク>
「良い茶葉が入ったんだよ、魔王との逢瀬の前に一杯どうかネ」
<ハビニア>
「それ絶対変なの入れてるでしょ?お断りよ」
<サブジェク>
「そんな事言わないでくれたまえヨ。滋養強壮、精力増強、魔力増大、催淫効果まである優れものダ」
<ハビニア>
「まぁ、それなら?魔王様に喜んでもらえるし?一杯付き合っても良いけど?」
<サブジェク>
(キミが魔王とヤると大陸中がうるさくなるのでネ。ちょっと静かにしてもらうとするヨ)
魔王城 ヒョウガの部屋
ヒョウガがドアを開けると、壁に寄りかかって立っている人狼が一人。
彼はヒョウガを見るやないや、コーヒーを淹れ始めた。
机には鉛製のマグカップ。それにコーヒーを注ぎ入れると疲れ果てた顔のヒョウガに渡す。
<人狼>
「お疲れさん」
――魔王十七将 第十六席――
魔王軍特殊工作部隊 副隊長
人狼 セズ
<ヒョウガ>
「誰が飲むか。あいつらと話すのは疲れる」
<セズ>
「魔王様の魔力重圧の中に居れるだけでもすごいと思うがね。」
跳ね除けられたコーヒーを一気飲みするセズ。
ヒョウガは帽子を壁にかけると、木製の硬い椅子に腰掛けた。
<セズ>
「疲れてるだろ?夜酒場でも行くか!行きつけの店に良い酒があるんだ……ってお前は酒の味も分からないんだったけな」
<ヒョウガ>
「……お前は呑んでばかりだな。十七将の勤めを果たしたらどうだ」
<セズ>
「それは明日からだろ。今日は侵攻祝いって事で。頼む!」
拝み倒すセズ。数秒の沈黙の後、
<ヒョウガ>
「……………一杯だけだぞ、明日に響かない程度にはな」
<セズ>
「よっしゃ!てかお前酔わないだろ」
<ヒョウガ>
「お前が酔うと面倒くさいんだよ。コンディションが崩れる」
<セズ>
「いつも助かってますわ」
ウキウキで部屋から出ようとするセズ。
ヒョウガも後を追うようにかけ足で彼の横につく。
<ヒョウガ>
「………その店つまみは何があるんだ?」
街 郊外
<神輿を担いでいた人々>
『本当に助けてくださりありがとうございました。』
<ファリア>
「奴が死んだ事で他の奴らも解放されているだろう」
<兵士>
「はい。これで故郷に帰れます。」
彼らは皆デーヴに捕まりずっと奴隷のような生活をしていたらしい。
中には転生直後にたまたま遭遇してしまい、この世界を事を殆ど知らずに生きてきた人もいたみたいだった。
<シリウス・バレル>
「じゃあね~痛っ」
僕は彼らに手を振り見送ると、腕に突き刺すような激痛が走った。
両腕には複数の痣が残っていた。
<ファリア>
「先の戦いで放った魔弾、あれの威力に腕が耐えられておらんな」
<シリウス・バレル>
「早く家に戻ろう。痛っっっっ」
幸い魔導具店からワープした場所は同じ街の中だったようで、街のはなれに置いた家にすぐ戻る事ができた。
僕は子供の姿に戻り、女が回復魔術をかけるとみるみる痣が消えていった。
<シリウス>
「痛みが消えた!…………ありがとう」
こいつからは”被検体”と呼ばれ、時には放逐されたり、事あるごとに人体実験をさせられそうになる。
だが、共に生活をしていく中で女に何度も助けられてきたのは事実だ。
感謝の念と嫌悪感の狭間でもどかしい。
<ファリア>
「礼には及ばぬ。魔導具の調子も問題ないようじゃったから妾は満足じゃ」
僕の感謝などどこ吹く風。
女は僕の左腕に着けている時計状の魔導具を見る。
街に来る前――
<ファリア>
「被検体よ、前回の戦闘でどうしたらあの姿になるのか解析できた」
<シリウス>
「ほんとに!?」
<ファリア>
「お前は恐らく妾のホムンクルスに魂のみが転生した存在じゃ」
<シリウス>
「魂だけ?他の人は違うの?」
<ファリア>
「転生者は先に魂がこの世に現れ、魂から肉体が再構成される事で転生する。これは魔力の源泉が魂だと言われておるからじゃ。
じゃが被検体は肉体が構成される前に先にホムンクスルという体を持ってしまった。自分ではないものと無理やり結合したせいで肉体と魂がうまく繋がっていない。じゃから子供の姿では魔力を使えない」
本来魔力が
ホムンクスルの体⇄自分の魂
なのが、
ホムンクスルの体 |←自分の魂
という事のようだ。
<シリウス>
「だったらあの変身は――」
<ファリア>
「変身に成功した時、敵を殺したいって思ったじゃろ」
<シリウス>
「あ」
最初に変身した時もアヴィーチェの時も許せない、敵を殺したい、とそう願った。
<ファリア>
「妾との実験で変身しなかったのは殺意よりも生存本能に感情が寄っていたからじゃろう」
女が僕の左腕に腕時計のようなものを取り付けた。
中には星空をそのまま詰め込んだようなキラキラと輝く宝石に懐中時計の緻密な意匠が彫られていた。
<シリウス>
「これは?」
<ファリア>
「魔導具じゃ。その名も”ソウルウォッチャー”。被検体の殺意、戦闘意識に同調し、強制的に魂の魔力を呼び覚ます事で、お前が戦いたい時いつでも変身できるようになる代物じゃ」
付けた感触はただの腕時計。何かを感じる訳でもない。
この時はこれが変身する鍵とは全く思えなかったけど、結果はご覧の通りである。
<ファリア>
「さすが妾、天才なだけはある」
いつにも増してドヤ顔してるなこの魔法使い。
ーーーーー
<ファリア>
「さて、怪我も治ったし向かうとするか」
<シリウス>
「ペンダントの点滅が早くなってるからもう近いと思うんだよね」
点滅する光は、街の外れの森の中を指していた。
<ファリア>
「恐らくそこが目的地じゃろ。先のようにワープしても困るし、家は持って行こうかの」
女は家を縮めて懐に入れ、僕達は森へと向かった。
一時間後
持っていたペンダントが急速に点滅する。
前を見ると女がやっと入れる大きさの洞窟があった。
中へ入っていくと、広い空洞があり、周りには巨大な魔石が大量に壁から生えていた。
<シリウス>
「きれい………」
点滅していた光はやがて一本の線へと変わり、洞窟の中央で止まった。
すると空間が捻れ、巨大な渦へと変化した。
光はその渦の中へと吸い込まれている。
<シリウス>
「ここに入れって事なのかな?」
<ファリア>
「進んでみる他ないじゃろ」
この先が本当にモリタミの本部なのか………
期待と不安がせめぎ合う中、僕達は意を決して渦の中へと入っていった。
* * * * *
<シリウス>
「ここは……………………」
目を覚ますとそこは先の洞窟よりも遥かに広い空間。
壁は巨大樹で覆われており、見上げても果てが見えない程高い。
<シリウス>
「ここが本部?」
空間の中央には巨大な円卓が一つ。
席が十八。
<シリウス>
「確かラックって人を見つければ――」
アスカさんが言っていた。
――このペンダントが君を本部まで導いてくれる。本部に着いたら、ラックという男を頼れ。きっと力になってくれる――
しかし辺りを見渡しても人影一人もいなかった。
<………>
「アスカの気配がすると思って来てみれば、知らない奴がいるじゃねえか」
突如後ろから冷徹な声。
振り返ると”モヒカン頭の男”が僕達の首元に槍を突きつけていた。
ファーの付いている銀のジャケットを羽織り、顔には特徴的な入れ墨。
形状は少し違うが、アスカさんと同じ系統の服――
逃げようと後ろを振り返るといつの間にか槍を持った兵士達に取り囲まれていた。
<モヒカンの戦士>
「手上げな、そこを動くなよ。お前達は何者だ」
少しでも動けば首が槍に刺さる。
僕はゆっくりと手を上に上げた。
女は全く動じず、左手で杖を取り出そうとする。
<モヒカンの戦士>
「魔術を使うなよ、魔力を感じたら即殺す」
動きを止める女。
空気が張り詰める。女もゆっくりと手を上げかけた瞬間――
<ファリア>
「To Coda」
<モヒカンの戦士>
「まじか!消えやがった!魔力を感じなかったぞ」
女が一瞬にして消えた。
あいつ僕を置いて逃げたな!
<モヒカンの戦士>
「侵入者警報を鳴らせ!」
部下の兵士に命令すると部屋中にサイレンが鳴り響いた。
<モヒカンの戦士>
「そこのガキ、聞きたいことは山程あるがとりあえず拘束させてもらう」
僕は彼と目が合うと眠るように意識を失った。
<モヒカンの戦士>
「会議には少々遅れると言っておいてくれ、これは俺の責任だ。気配は覚えた、見つけ次第殺す。」
路地
<アナウンス>
「侵入者警報――総本部に侵入者あり。特徴は女性、セミロング、ジーンズのジャケットにチノパン。耳飾りをしている。身長は173cm見つけ次第連絡――」
逃げたファリアはというと老婆の姿に変身し、人気のない路地にいた。
先のアナウンスが延々と鳴り響いている。
<ファリア>
「この姿では見つかるまい。なんとか逃げられたが、なんちゅう魔力濃度をしておるのじゃここは」
何処かに隠れようと一歩踏み出そうとした時、足元が少し崩れた。
崩れて出来た隙間は遙か下まで続いており、ファリアはその穴を覗く。
奥を見ると、元の遥か下に海が広がっていた。
そして海から何本もの木の根が競り上がっている。
<ファリア>
「ここは一体なんなんじゃ?」
プランクトンから深海魚まで、生命息づく海。
その海から伸びる巨大な木の根の群れ。
岩石や魔石が絡み付き、伸びる木々は一定の高さで横に広がり大地を作る。
大地には建物が並び、街を作る。
中央に一際そびえ立つ巨木、大地を覆い尽くさんとする木の葉が生い茂る。
巨木には窓があるのか、点々と明かりが灯っている。
更に外を見やると海から競り上がる巨大な岩山が2つ。
空は青々と澄み、雲は高々と登る。
ここは自然を守る戦士達、旧き世界を慈しむ者達の最後の砦。
モリタミ総本部 テヲカーリ
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19話 総本部
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総本部 祭壇
苔の生えた石造りの巨大な祭壇。
そこで祈りを捧げるローブの男が一人。
その横には巫女の格好をした女が佇んでいた。
<ローブの男>
「これは懐かしい気配がしますね。ユム、そろそろ頭領達を召集しようか」
<巫女 ユム>
「畏まりました」
次回の更新は7月6日になります!
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