18話 友達といっしょに
同時に魔術を放つトライアスとミスガイ。
スナイドルの首が飛ぶ。
カントの束縛が切り飛ばされ地面に落ちる。
周囲の化け猫兵も灰となって消えていく。
<ミスガイ>
「大丈夫!?」
<カントフォン・アヴィーチェ>
「ん、っ君は………………」
<ミスガイ>
「ミスガイだよ、助けに来たよ!」
<カントフォン・アヴィーチェ>
「助けに来た……………はっ!ここは!」
<ミスガイ>
「君が捕まってた地下室だよ!」
<カントフォン・アヴィーチェ>
「そうか………早く装置を止めなくては!!」
十字のオブジェから降り、すぐに制御装置の方へ向かうカント。
<ミスガイ>
「カント君!みんなが水路に沈められてて!」
<カントフォン・アヴィーチェ>
「分かってる。全員助ける!」
制御装置を操作し、手を装置にかざした。
<カント>
「よし!緊急浮上発令!」
<アナウンス>
『緊急浮上警報発令、アヴィーチェ全域におきまして水路内部の床が浮上いたします。水路には近づかないで下さい。』
アヴィーチェ全体が振動すると、水路の底から床がせり上がる。
溺れていた市民達も床といっしょに道路に打ち上げられた。
市民の無事をモニターで見届けると制御装置を停止させた。
<トライアス>
「しかしよくやった。やっぱ使えるじゃねえか、オレの魔術!」
<ミスガイ>
「見よう見まねというか、全力でやったらなんとかね。」
<カント>
「シリウスさんですよね。こんなに大きくなるとは………ミスガイこの方は?」
<ミスガイ>
「説明が難しいんだけど、彼女もボクなんだ!」
唖然とするカントさん。
実際の所そう説明するしかないのが悔しいけれど、言葉にするとなんとも奇妙な感じ。
<シリウス・バレル>
「流石に死んだよね。」
敵の屍体を確認する。
胴体はピクピクと動いているが、こちらに攻撃しようとする意思は見られない。
<ミスガイ>
「外へ出よう。まずはカント君のの治療をしなきゃ。」
部屋から出ようとしたその時、後ろから異様な魔力を感じるトライアスとカント。
振り返るとオンズアーシの胴体が立ち上がっていた。
<オンズアーシ・ファタ・スナイドル>
「こ…の程度、このテイドでアタイがコロされるとオモッテイルノカアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
胴体から首が生え、切り飛ばされた頭と融合する。
<トライアス>
「こいつまだ生きてんのか!」
<ミスガイ>
「首を切っだけじゃ死なないなんて!」
トライアス修道院
入り口の方へ歩いていくファリア。外には宝石店の店主が待ち構えていた。
<ファリア>
「さて。宝石ジジイ、さっき頼んだ物は?」
<アビドス・アライド>
「突貫工事だったがなんとか出来たぞ。お前さんから貰った魔石の余りも活用させてもらった。」
空中に手をかざすと掌から一つの大剣が現れた。
ファリアは大剣を浮かせ修道院の屋根に登る。
<ファリア>
「大体ここら辺かの。」
大剣を真上に打ち上げる。
剣が落下してきた所に杖をかざし、魔術を放つ。
<ファリア>
「―Coda」
大剣がが風を切り、城の地下に向けて勢いよく飛んでいった。
<ファリア>
「舞台は整えた、決着をつけよ。」
アヴィーチェ城 地下
<スナイドル>
「ハアハア。ココマデ追イ詰メラレタノハ初メテダ。賞賛シヨウ。ヲ前達ハ素晴ラシイ。素晴ラシイ。ケヒャヒャヒャヒャヒャァァァァァァァ!!!!!!」
首をくねらせながら気が狂ったように高笑いをするスナイドル。
<スナイドル>
「だからそのまま死んでくれよ。」
戦慄。
全身の血の気が引くような殺意を向けられる。
血の気の多いトライアスですら、奴の殺意に足が震えていた。
誰も身動きが取れない。
音も無く巨大な触手がすぐ目の前まで迫る。
刹那、触手を切り裂き、轟音と共に砂煙が巻き上げられる。
その衝撃で叩き起こされるように体が動いた。
<ミスガイ>
「ごっはごっほ、今の何!」
煙の中から現れたのは、虹色に輝く大剣。
<シリウス・バレル>
「もしかして、これを使えってやつなんじゃないかな!」
<スナイドル>
「ナンダ!アレハ!」
驚く敵に目をやるミスガイ。
奴の体が段々透けて、何かが脈動しているのが見えた。
<ミスガイ>
「あそこなんか光ってる!猫の額!」
<トライアス>
「見えるのか?敵のコアが!」
<ミスガイ>
「赤く光ってる!みんな見える?」
<シリウス・バレル>
「僕には見えない。」
僕と同時に首を横に振るカント。
<トライアス>
「オレもだ。だから、お前がやれ!」
彼女は刺さった大剣を持ち上げ、ミスガイの杖と交換した。
<ミスガイ>
「えっ僕がやるの!」
<トライアス>
「心配すんな、オレとシリウスが道開いてやるよ。お前は魔力をその剣に貯め続けろ!最大出力で奴を殺す!」
<カントフォン・アヴィーチェ>
「私も行きます。みなさんだけに戦わせる訳にはいきません。それに奴は私から全てを奪った怨敵です!ここで必ず殺します。」
シリウスとトライアスが前方をその後ろにミスガイ、カントが付く。
<カントフォン・アヴィーチェ>
「行きます!」
<スナイドル>
「魔女ノアタイを殺セルとオモウなアアアアア!」
<トライアス>
「走れ!」
無数の尻尾と箒、蛇が襲いかかる。
<トライアス>
「光輪分断!」
<シリウス・バレル>
「パイル・バスター」
攻撃を全て相殺するも、背後からも化け猫兵と触手が迫る。
<カントフォン・アヴィーチェ>
「空間指令―スプリッター!」
後方に魔術を放つカント。
空間が捻れ、触手と化け猫兵の群れ共々ひねり殺した。
<シリウス・バレル>
「すごい!」
<カント>
「1日に二回が限界です!」
<スナイドル>
「コレデ死ネエエエエエエ!」
化け猫の口に魔力が収束し、破壊光線が放たれる。
ミスガイ達を守るため、前方に一人駆け出すシリウス。
<シリウス・バレル>
「観測者よ、掌握せよ。我引くは大いなる弓張月。
パイル・バスター!」
完全詠唱による渾身の技と破壊光線が衝突する。
<シリウス・バレル>
「だああああああああああああああああ!」
その衝撃は凄まじく、シリウスの右腕が消し飛んでいた。
すぐさま何十にも束ねた触手の群れが襲いかかる。
右腕を根こそぎ失った激痛を耐え、ミスガイ達の攻撃に繋げるため最後の力を振り絞る。
<シリウス・バレル>
「っっもう一回!パイル・バスター!」
触手を根元まで吹き飛ばした。
左手を振り切った勢いで地面に倒れるシリウス。
<シリウス・バレル>
「っっ行けええ!」
<トライアス>
「乗れ!」
彼女の背に立つミスガイ。
彼を乗せながら跳躍するトライアス。
天井まで高々と打ち上げられたミスガイに触手と破壊光線が襲う。
彼を守るようにトライアスが立ち塞がる。
両手の杖を上に振り上げ、思いっきり前傾になり、
<トライアス>
「交差分断!」
攻撃を十字に引き裂き、風穴を開けた。
宙に浮くミスガイ。溜め続けた魔力は臨界を迎え、剣がまばゆく輝いた。
彼をアシストするようにカントが魔術を放つ。
<カントフォン・アヴィーチェ>
「空間指令ーストライク!」
風を切り裂く勢いで飛んでいくミスガイ。
<シリウス/カント>
『行けええええええ!』
<スナイドル>
「クソガアアアアアアアアアアアアア!」
<ミスガイ>
「うおおおおおおおお!」
敵の防御より速く、敵の目の前にたどり着く。
狙いをすまし、急所に剣を突き立てた。
トライアスがすぐさま駆けつけ杖を刺し、最後の一撃を放つ。
<ミスガイ・トライアス>
『分断!!』
白い光と共に魔術が部屋一帯に広がった。
<オンズアーシ・ファタ・スナイドル>
「アァアァアァアアァ…………200年、裏カラこの街ヲ操り、魔王様ニ献上スル計画ガこんな、こんな奴らに邪魔サレテ!オ前達をもっと、モット操って弄んでイタカッタノニ!ああ………マダ、マダ足リナイ!足、りなギャアアアアアアアアアア!!!!!」
<トライアス>
「まずい、爆発する!」
敵の体が崩壊すると同時に紫の火柱が部屋を破壊し、城を突き破ってしていく。
火柱は上空の結界を突き抜け、結界を破壊した。
結界の赤い結晶と白い雪が月の光を反射して、キラキラ輝いていた。
<トライアス>
「大丈夫か?」
<シリウス・バレル>
「うん。なんとか……………」
差し伸べられた手を取り、立ち上がる。
ミスガイは起き上がっていたが、カントさんは意識を失ってしまったようだ。
トライアスも無事だったみたいで――
<シリウス・バレル>
「って体が!」
彼女を見ると体の一部が少しずつ消えていっていた。
<トライアス>
「魔力を全て使い果たしちまった、今はこうやって姿を保つので精一杯だ。」
<ミスガイ>
「そんな!今すぐ回復しないと!」
<トライアス>
「大丈夫。オレはお前だ、またお前がピンチになったら現れてやるよ。」
そう言ってミスガイの頭を優しく撫でる。
<トライアス>
「よくやってる、お前はよくやってるよミスガイ。今のお前なら出来ない事なんてないさ。」
<ミスガイ>
「そうかな。そうだといいな。」
少し照れくさそうにして見つめ合う二人。
<トライアス>
「ただの観光客だったてのに手伝ってもらってすまなかったな。」
<シリウス・バレル>
「いいよ。友達だもんね!」
<トライアス>
「また会おうな。」
<シリウス・バレル>
「ああ、こちらこそありがとう!」
<トライアス>
「じゃあな!」
大手を振って別れを口にする彼女。
その表情はなんだか満ち足りたような、誰かを応援するような顔をしていた。
光となって消えていく彼女をボクは最後まで見つめていた。
ありがとう、ボクの中のボク。
魔女との戦いから一夜明け、瓦礫の街に朝日が昇る。
戦場の爪痕は痛々しく残り、街のシンボルだった城も爆発と共に大半が焼失。
死傷者も少なからず出ていたようで、皆が黙祷を捧げていた。
だが市民達は嘆き悲しむばかりでは無かった。
早朝から瓦礫の片付けや、仮設テントの設営、水路で魚を釣り、出店を出している人もいた。
もう限界だというのにミスガイは街のみんなと協力して瓦礫の片付けを手伝っていた。
一方僕は城の中で女に片腕を治療してもらった。
欠損部から手がニョキニョキ生えてきた時は、生きた心地がしなかったが、すぐ痛みも無くなって腕も動かせるようになった。
昼頃、ミスガイが僕の様子を見にやってきた。
丁度お礼が言いたいと領主様とルナ・トライアスさんも集まっている。
<カントフォン・アヴィーチェ>
「市民達を代表してこの街を救ってくれてありがとうございます。心からの感謝を。」
そう言ってカントと握手を交わした。
本当は市民達の前で勝利の凱旋をする予定だったが、ミスガイと僕が恥ずかしすぎると言って止めてもらった。
女は割とノリノリだったが。
<シリウス>
「いえいえ、出来ることをしただけです。だけど……街がこんな事になってしまって。」
<カント>
「大丈夫です。人々がいれば街はまた作れます。」
<ルナ・トライアス>
「復興の折には向こうの街並みも取り入れる予定ですのよ。」
<ミスガイ>
「あれだけ街並みを守るって言ってたのに良いの?」
<ルナ・トライアス>
「まぁ街がこの有様ですからね。私はまだ諦めてませんが。」
どうやら選挙が終わってもその闘志は燃え続けているようだった。
<ルナ・トライアス>
「しかし時代はどうしても移りゆくもの。今は子供達の時代です。彼らに行末を任せるのもまた私の務め。」
<カントフォン・アヴィーチェ>
「いえ!貴方にはまだまだ働いて頂きますから。これから分家との会合、街の復興、再開発や仕事場の斡旋、産業も一から立て直さないと。やる事はいっぱいあります。頼りにしてますよルナ殿。」
<ルナ・トライアス>
「やりがいのありそうな仕事ばかり!選挙では敵でしたが、今度こそ私を信用、して下さいね。」
<カントフォン・アヴィーチェ>
「ええ、こちらこそよろしくお願いします。」
2人とも笑顔で握手しているが、なんだか不穏な雰囲気が流れているような……………
宝石店アビドス アライド
<アビドス・アライド>
「ほれ、約束の品だ。坊主にもよろしくな。」
修理された家が帰ってきて一安心するファリア。
<ファリア>
「色々と世話になった。これは?」
縮んだ家の下にいくつかの小物と手紙が挟まれていた。
<アビドス・アライド>
「弟子への手紙だ、もし旅を続けて会うような事があったら渡しておいてくれ。中は見るなよ。」
<ファリア>
「分かっておる。まぁ覚えておったら渡しておこうかの。」
<アビドス・アライド>
「お前さんに覚えてない事なんて無いだろ。」
<ファリア>
「それもそうじゃな。」
アヴィーチェ船着き場
検問所に回収されていた小舟を返してもらい、アヴィーチェを出ることとなった。
ミスガイとルナさん、そして修道院の子供達が僕達を見送りに来てくれた。
<シリウス>
「トライアスの方はどう?」
<ミスガイ>
「今はまだわからない。僕の中にいるみたいなんだけど、外に引っ張るのは今の僕にはできなさそう。でもいつかボク自身の力で彼女を取り戻してみせるよ!」
出会ったばかりの恥ずかしがりで自信なさげな面影はもう無い。
そんな彼と離れるのが名残惜しくて、僕はつい我儘を言ってしまった。
<シリウス>
「もしよかったら、僕達と一緒に行かない?」
<ミスガイ>
「いいの!ぜひ……………………」
言いかけた言葉を飲み込むミスガイ。
少し悲しそうな表情をすると、僕の目をまっすぐ見て――
<ミスガイ>
「………………ごめん。今は街の復興を手伝いたいんだ。カント君やみんなを支えてあげたい。一区切り着いたら今度はボクが会いに行くよ!」
そうはっきりと言う彼を僕は眩しいと思った。
離れてしまうのは寂しいけど、彼には彼のやりたいことがあるんだ。
それにいつか会えるのなら、それでいい。
<ファリア>
「だったらこれをくれてやる。」
話を聞いていた女は宙から腕輪を取り出すと、ミスガイに渡した。
<ファリア>
「宝石ジジイからついでに貰った物じゃ。元々被検体用のものを小僧用に調整した。願いさえすればこやつがいる場所を示してくれる。」
<ミスガイ>
「ありがとうございます!絶対会いに行くから!約束!」
<シリウス>
「うん!いつでも待ってる!」
二人で指切りを交わす。
友達との初めての約束。
それが妙に嬉しくて、なんだか心があったかくなった気がした。
<シリウス>
「じゃあ元気でね!」
彼らに別れを告げ、船の方へと歩き出す。
<ミスガイ>
「シリウス!」
呼ばれて後ろを振り返る。
彼が目の前に飛び込んできてとっさに目をつむる。
目を開けると僕は彼に抱きしめられていた。
冬の風と反比例して彼の体温は暖かい。
だというのに、そんな彼の肩は震え、僕の手には熱を帯びた雫が伝う。
<ミスガイ・トライアス>
「ボク達に会ってくれてありがとう!この事は絶対忘れないから!」
感情がとめどなく溢れてくる彼を僕も優しく抱き留めた。気づくと彼と同じものが僕の目からも流れていた。
<シリウス>
「僕も絶対忘れないよ。」
<子供たち>
『じゃあね〜!』
小舟に乗り、子供達に手を振り返すシリウス。
ファリアがオールを一漕ぎすると、音を置き去りにする程速くかっ飛んでいった。
<シリウス>
「速すぎるょぉぉぉぉぉぉぉ」
ものすごい勢いで遠ざかっていくシリウス達。
ミスガイは彼らが地平線から消えるまで見つめていた。
<ミスガイ・トライアス>
「いつか君といっしょに……………………」
<ルナ・トライアス>
「さて、それじゃまずは街のお片付けをしましょうね!」
<子供たち>
『はーい!』
瓦礫の街に子供達の元気な声が街に響く。
大通りを片付けていると小さな水路を見つけた。
そこからテチテチが飛び跳ね、その水飛沫が太陽に照らされ虹色に光っていた。
それからしばらくして分家の船が港に着く。
海岸都市アヴィーチェに来たのなら、海に浮かぶこの街をぜひ一度は訪れて欲しい。
きっと君は見るだろう。800年の歴史と、天までそびえ立つ摩天楼の姿を。
第二節 アヴィーチェ 完
魔女との戦いから2日後
海岸都市アヴィーチェ郊外
<………>
「報告を聞かせてもらおうか。」
<………>
「先日水上都市アヴィーチェにおいて魔王軍の侵攻があったようです。その時に魔王軍から助けてくれた者達に似ていると。」
魔女との戦い調査をしている一団があった。
率いているのは連盟軍13番隊 隊長パレ・リブッカー。
シリウス達を追い、彼らが去った1日後に海岸に着いていた。
彼女は立ち上がり、部下達に告げる。
<パレ・リブッカー>
「よし、調査に向かうぞ。」
次回更新は6/22になります!