17話 オレがお前でお前がオレで
目の前で仁王立ちしているのは、ボクと同じ髪型、同じ背丈、
そして同じ顔をした、神父の格好のボク!?
信じられない状況に何もかもが飲み込めない。
え、え、どういうこと!!!!!??????
<ミスガイ?(神父)>
「ちょっと杖借りるぞ。」
落ちていたボクの杖を拾うと、空中にふり投げ、鼻歌を歌いながら敵の方へ歩いていく。
落下してきた杖を掴むと、体を屈め、戦闘体制を取った。
一瞬にして敵の間合いに入り、攻撃を背面飛びで華麗にかわすと、空中で首に杖を突き立て、
<ミスガイ?(神父)>
「分断」
化け猫兵の首が落ちる。
着地と同時にすぐさま敵を捕捉する。
敵は7人。
縦、横、突きと杖を振り、獣のような俊敏さで敵を翻弄する。
次々に魔術で化け猫兵を裂いていく。
最後の一体の腕が大砲に変形する。
魔力が大砲に収束すると巨大な魔弾を放った。
<ミスガイ?(神父)>
「分断」
耳を塞ぎたくなるような爆発。
しかし杖を振り下ろした後方に攻撃は届いていない。
その戦いを後方から観察しているファリア。
<ファリア>
「空間を分断して防いでいるのか」
爆発の煙の中から杖が飛んでいき、敵に刺さる。
刺さった杖を瞬時に掴み、魔術を放つ。
真っ二つになった敵は灰となって消えていった。
<ミスガイ?(神父)>
「ふう、一通り片付いたな。ほら手貸しな」
ボクを勢いよく引っ張る神父のボク。
何を言ってるのか分からないと思うけど、ボクもよく分かっていない。
頭が混乱する中、ボクは彼?に問いかける。
<ミスガイ>
「君は一体誰なの?」
<ミスガイ?(神父)>
「何言ってんだ、お前だよお前。オレはお前だ、ミスガイ・トライアスだ。」
<ミスガイ>
「君が……………………ボク!?」
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17話 オレがお前でお前がオレで
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確かに瓜二つだし、昔のボクの性格っぽい。
彼の袖にそっと触れる。
実体はある、本当にボクなのか?!
<ミスガイ・トライアス?(神父)>
「正確にはなんつーか、お前の中の力の化身って感じだ。お前が願ったんだぜ。みんなを助けたいって。だから出てきた」
確かに願ったけど、こういうのってボク自身の力が強くなるとか……
考えるだけで頭が痛くなってきた。
<ミスガイ?(神父)>
「疑ってんのか?ほら俺の事その光ってる目で見てみろよ」
光ってる?
両目に手を被せて確認する。
<ミスガイ>
「ってぎゃあああああ!本当だ光ってる!」
ボクの右目だけが光っていた。
その光は闇夜を照らすように遠くまで伸びている。
<ミスガイ・トライアス?>
「ほらな、オレの事見てみなって」
彼を見る。
意識を集中すると、どんどん服が透けて2つの大きな、そして柔らかそうな――
これ以上は見れないよ!
慌てて目を塞ぐ。
というか神父の格好してるけどもしかして女――
<ミスガイ・トライアス?>
「何恥ずかしがってんだよ、オレが女だからって発情でもしたか?ほら、もっと見てもいいんだぜ」
そう言って胸を突き出してくる。
<ミスガイ(少年)>
「やめて!ほんとにどうなっちゃったの僕の目!」
<ミスガイ(少女)>
「それは”透視の魔眼”だ。色んなものが透けて見えンだろ?あそこの敵とか」
水路から這い出た敵を見やる。
皮が透け、中が見えてドス黒くうねうねと蠢く内蔵が見える!
<ミスガイ>
「うっおうおっぶごっっうっ」
両手で口を押さえ、吐くのを必死に止める。
<ミスガイ(少女)>
「吐くか吐かないかどっちかにしろよ。まあ人体なんて見慣れないものだしな」
シリウスが水路からあがってきた。
吐きかけた物を何とか飲み込み、すぐさま彼の方へと駆け寄った。
<シリウス・バレル>
「ミスガイ!大丈夫!?」
<ミスガイ>
「平気だよ!それよりシリウスだよね?おっきくなってる!ボクと同じくらい!」
<シリウス・バレル>
「変身したんだ。これなら魔術も使えるよ!」
彼との会話に割り込むように、女のボクが急に彼に抱きついた。
なんか女の武器をめっちゃ押し付けてるし。
<ミスガイ(少女)>
「わああ!シリウスだ!本物だ!」
突然抱きつかれ、困惑しているシリウス。
押し付けられて顔が赤くなってる。
<ミスガイ(少女)>
「初めてましてだな。オレはミスガイ・トライアス。こいつの力の化身ってやつだ。よろしくな!」
<シリウス・バレル>
「なんかだかよく分からないけど、よろしく!」
<ファリア>
「街が大変じゃというのに騒がしいの。」
いつものように余裕の表情でこっちに来るファリアさん。
<ミスガイ(少女)>
「あんたは、特に言うこと無いな」
<ファリア>
「そうかの。妾はその現象に興味があるがの小娘。人格も性別も違う分身は珍しい」
<ミスガイ(少女)>
「そうかよ。オレはテメェの実験なんざ絶対に付き合わねえからな」
目線を一切外さず、互いに見つめ合う二人。
瞬きすらしない二人の間に不穏な空気が流れる。
<シリウス・バレル>
「まぁ落ち着いて。それより……………なんて呼ぼうか?」
<ミスガイ(少女)>
「んー、オレが”トライアス”でいいんじゃないか?お前はミスガイな」
呼び方を勝手に決められた。
AとかBとかで呼ばれない分にはよかったけど。
それに気を使ってくれたのか、名前の方をもらったみたいだし。
彼女の優しさが垣間見えてボクは自然と笑顔になる。
<トライアス>
「な、なんだよ。こっち見んなって!」
照れくさそうにそっぽを向くトライアス。
思えば同一人物なんだよね。
その姿が昔のボクそっくりで懐かしい感じがした。
現実に戻すかのように化け猫兵と触手が水路から次々に這い出てくる。
<シリウス・バレル>
「みんなを助けないと!」
<ファリア>
「元を絶たねば奴らは永遠に出てくるぞ。」
<トライアス>
「敵の親玉は城の地下にいるはずだ。エグい魔力をビンビン感じるからな」
そう言うとボクを背中に乗せる。
準備運動なのか屈伸をし始めた。
<トライアス>
「よーし、行くぞ」
<ミスガイ>
「え、ボクも行くの?」
<トライアス>
「お前が近くにいないとオレの存在証明ができなくて消えちまうからな。」
<シリウス・バレル>
「僕も行く。一緒に魔女を倒しに行こう!」
未だに彼女のことも自分に起きたこともよく分かってない中、敵陣に突っ込むのはどうしても不安がのこる。
トライアスとだけなら心配だったけど、シリウスも行くなら少しは安心できる。
<トライアス>
「もう一本誰か杖持ってないか?オレ用の。」
<ファリア>
「被検体の予備の分じゃ。使わんだろうから持っていけ。」
ファリアさんが捨てるように投げた杖を、ボクは手を伸ばしてなんとか受け取った。
<トライアス>
「テメェも来るか?」
<ファリア>
「あの程度ならお前達で十分じゃ。何、逃げたりせんよ。用事があるからそっちを片付けたら手伝ってやるから。」
<トライアス>
「そうか。じゃあ行くぜ!遅れるなよ!」
目を離した隙にシリウスから100m以上離れてしまった。
って走るの速っ!
<シリウス・バレル>
「速っ!こうなったら全速力だああああああ!!」
叫びながら必死に走ってくるシリウスが見える。
前を見ると、街の建物が飛んで来るような感覚に襲われた。
体に受ける風圧も尋常じゃ無い!
さらに見えるのは建物の中や、化け猫兵の臓物ばかり。
まずい、ちょっと吐きそう。
<トライアス>
「おい、背中でえずくな、少し止まるか?」
<ミスガイ>
「大丈夫、何とか耐えるからっごっ。これどうしたら止まるの?」
<トライアス>
「分からん!だがオレが出てる以上そのままかもな!」
嘘でしょ!!!
城門前
<シリウス・バレル>
「はぁはぁ、いや速いね」
息を切らしているシリウス。
膝に手をつき呼吸を必死に整えている。
<トライアス>
「そうか、?普通だぞ」
ボクは彼女から降りてシリウスを介抱した。
<トライアス>
「目には慣れたか?」
<ミスガイ>
「うん……なんとかね。建物見る分には大丈夫」
僕の目の前に来る彼女。
大丈夫だからってボクの前に立とうとしないで、ドキドキしちゃうから。
<シリウス・バレル>
「カントさんはどこにいるか分かる?」
城に目を向ける。
門を抜け、入り口の奥。
書斎――秘密の隠し部屋!
階段が下に伸びてて、地下室、それに――
カント君!!!!!!
<ミスガイ>
「カント君が捕まってる!あの魔女もいる!」
<トライアス>
「よし、城に入ったらオレが前方、シリウスが殿、お前はオレ達のフォローだ。覚醒したお前ならオレと同じ”分断”の魔術が使えるはずだ。頼むぞ!」
<ミスガイ>
「シリウスはともかくボクになんか無理だよ」
<トライアス>
「オレはお前なんだ、オレに出来ることがお前に出来ない事なんてない。大丈夫だ!お前に何かあればオレもシリウスも死ぬだけだ!」
それダメなやつじゃん!!
<トライアス>
「ほらワラワラでてきやがった。」
さすが本拠地というべきか。
四方八方から化け猫兵が這い出てくる。
<シリウス・バレル>
「大丈夫、僕がついてる。みんなで助けに行こう!」
<ミスガイ>
「うん!」
<トライアス>
「ああ!」
返事と共に駆け出す。
<トライアス>
「突っ切るぞ!それしかねえ!」
<シリウス・バレル>
「パイル・バスター!」
<トライアス>
「分断!」
魔術で化け猫兵ごと門を破壊し、中庭を突っ切っていくシリウス達。
<トライアス>
「横の奴らに構ってる暇は無ぇ!走れ!」
襲いかかる化け猫兵を何とか躱す。
入り口を魔術で破壊し、城の中へと入った。
<ミスガイ>
「すぐ左の部屋!隠し部屋から地下に入れる!」
ミスガイの案内で隠し部屋と地下への扉を見つけた。
暗く長い階段を駆け足で降りていく。
<ミスガイ>
「ここだよ!」
一番下まで行くと巨大な扉のある部屋を見つけた。
<トライアス>
「よし。開けるぞ。」
息を呑む。ここに街を滅茶苦茶にした元凶が、”魔女”がいる。
意を決し、3人で思いっきり扉を開けた。
アヴィーチェ城 地下制御室 廻天
扉の向こうはドーム状の広い空間。
中央にいるのは十字のオブジェに磔にされた領主カントフォン・アヴィーチェ。
そして――
<オンズアーシ・ファタ・スナイドル>
「ケヒヒッ、ようこそ”魔女”の館へ。ここまでよく来たな。わざわざアタイの贄になりに来るとはねぇ!」
映像だけでは分からなかったが、奴はケンタウロスに近い体をしていた。
足は角の形、背負っているビルがギラギラと光る。
胴に貼り付いている化け猫はギロリとこちらを睨みつけ、無数の触手と右手の蛇がうねり始める。
そして大きな帽子を携えた醜悪な顔。
緊張が走り、互いに戦闘態勢を取る。
<トライアス>
「お前をぶっ殺せば全部解決だよなぁ!」
<オンズアーシ>
「やれるもんならやってみな!」
戦いの火蓋が切られ、触手が襲いかかる。
その場で飛び上がり、攻撃を回避するも三人を追尾してきた。
<トライアス>
「分断。」
四方八方に魔術を放ち、触手を切断する。
背中にいるミスガイも魔弾を放ち応戦する。
しかし切った断面がぐにょりと蠢き再生した。
<シリウス・バレル>
「外の奴とは違う!厄介だ!」
再生した尾が迫る。
シリウスが蹴りを何発も入れるも、それを上回る速度で挟撃を仕掛ける触手。
<トライアス>
「光輪分断」
今度は円形状の斬撃を放ち、触手を切っていく。
<オンズアーシ・ファタ・スナイドル>
「それじゃあ変わらないね!」
<トライアス>
「そうかよ!」
放った斬撃が折り返し、再生しようとする尾を切断した。
<シリウス・バレル>
「すごい!」
切られた触手が再生しようとするが、傷が復活しない。明らかに再生速度が落ちている。
<オンズアーシ>
「これだけだと思うか!」
左手から箒をいくつも生成し飛ばず。
<トライアス>
「当たるかよ。分断!」
<ミスガイ>
「弾丸!」
2人の同時攻撃で箒を次々に塵にしていく。
<オンズアーシ>
「よくやるね、だけど」
後方に巨大な化け猫兵が5体現れる。
前方には触手の群れと化け猫兵の大群。
<オンズアーシ>
「これを凌ぎ切れるかなぁ!」
<シリウス・バレル>
「こっちは僕が引き受ける。だから行って!」
<トライアス>
「頼む!」
手を大砲に変え、シリウスに放つ5体の巨兵。
スライディングで敵の懐に入り、足払いで体制を崩そうとするが、すぐさま拳が飛んでくる。
<シリウス・バレル>
「避けられるけど、数が多い!」
拳と大砲の波状攻撃に追い詰められるシリウス。
攻撃を避けようと高く飛んだ隙を狙われ、巨兵の手に捕まった。
<ミスガイ>
「シリウス!」
<トライアス>
「この数は中々やべぇな!」
背中合わせになり襲いかかる敵を倒していくシリウス達。だがその物量は着実に彼らを追い詰めていく。
化け猫兵の隙間から触手が伸び、ミスガイが捕まった。
<トライアス>
「くそっ、光輪分断!」
ミスガイを助けようと魔術を放つも、触手と化け猫兵に阻まれる。
<オンズアーシ>
「まだやるか。でもさっきからお前、力が弱くなっていないか?」
<トライアス>
「はあはあ、そんな事、はぁ、ねえよ!」
四方から来る化け猫兵をジャンプで躱わすも、真上から来た触手に捕まってしまった。
<オンズアーシ>
「捕まえたあ。威勢のいいお前は毒でじっくり殺してやろう。」
トライアス修道院
<子供たち>
『先生!もうやめて!死んじゃう!』
赤黒い血が止めどなく流れ出ている。
子供達や街の人々が治癒魔術をかけているが、魔女のせいなのか全くもって治る気配が無い。
化け猫兵も続々と修道院へと集まってきている。
<ルナ・トライアス>
「あ、りがと……う………………
皆さんがいる限り、私が守ります!」
何とか立ち上がり、魔術を維持するルナ。
修道院の奥からカツカツと足音が聞こえた。
<………>
「ふう、仕方がない、手伝ってやるか。」
<ルナ・トライアス>
「貴方は……」
振り返るルナと子供達。そこにいたのは―
<ファリア>
「通りすがりの魔法使いじゃ。―Crescendo」
杖を真横に振ると足元に魔方陣が発生した。
魔術によって光っていた修道院がさらに輝きだす。
<子供>
「せんせい!傷が塞がってる!」
その光は修道院の外へと広がっていき、化け猫兵の群れを消し飛ばした。
<ファリア>
「者共、魔力を貰うぞ。」
修道院にいる全員の魔力がファリアの元へ集まっていく。
魔方陣は更に拡大し、金色の光もアヴィーチェ全体に広がっていった。
水路にいた触手も化け猫兵も光を浴びて灰になっていく。
その光は勿論城にも届いていた。
アヴィーチェ城 地下制御室 廻天
<オンズアーシ>
「がっっ、この光は教会の神聖魔術!だけどこれ程の威力っ……………………魔法使いがああああああああああ!」
触手の拘束が一瞬緩む。
その隙にトライアスとミスガイが脱出し、オンズアーシにめがけて走り出す。
シリウス達の周りにいた巨兵達も、光を浴びて体勢を崩す。
<シリウス>
「手はまだ使えない。でも足なら!んんんんんっっ、パイル・バスター!」
敵の腹を踏み台にして足から魔術を放つ。
巨兵の腕から脱出したと同時に腹に風穴を開けた。
崩れる巨兵の包囲網。
すぐに敵後方に下がり、魔術を放つ。
奴らをまとめて敵の親玉に当てる!
今度は貫通より爆発に重点を置くイメージ!
収束する魔弾は円形を保ちながら自身の胴体くらいの大きさにまとまる。
<シリウス・バレル>
「パイル・バスター!」
敵に攻撃を当て、手を素早く引き抜くと魔弾は炸裂し、4体の巨兵がオンズアーシの方へ飛んでいく。
<オンズアーシ>
「力が抜ける…………神聖魔術なんざに遅れを取るアタイじゃな――」
ミスガイ達に攻撃を仕掛けようとした刹那、吹っ飛んできた巨兵に阻まれる。
<オンズアーシ>
「ガッッ、クソがッ!」
<トライアス>
「よそ見してんじゃねえよ!」
巨兵を触手でなぎ払うと、目の前には飛びかかってくるトライアス。
<オンズアーシ>
「貴様ああああああ!!」
<トライアス>
「敵将討ち取ったり!!!」
トライアスが敵の首目掛けて飛び込む。
ミスガイは全力で制御装置の上に駆け登り、カントを拘束している触手めがけて魔術を放つ。
<トライアス>
「分断!」
<ミスガイ>
「分断!」
☆いっしょに!なになに~☆
魔眼
魔力を多く吸収することで変質し、魔術の行使が可能になった目
魔眼自体に強大な魔力が込められており、魔眼での魔術発動以外にも自身の魔力を底上げする効果がある
七段階の序列が存在し、高位の物は魔法使いに並び得るという
魔眼を手に入れる方法は2種類
・生まれた時から魔眼を所持している
・後天的に魔眼を手に入れ移植する
その他にも擬似的ではあるが、魔術を目に通すことで魔眼の再現が可能