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1話 空想で見た世界

体が重い。

前に倒れ込む。

ドンっと何かを突き飛ばしたようだ。

いたい。

目がとても重く、私は前に物が無いか手で確かめながら地面を這った。


ちょっと進むとキギィという音がした。直後ーー


「うっ」


見えなくても分かる。これは光だ。


吹き抜ける風。

土と草の感触。

どうやら外に出たみたいだ。


これ以上体を動かすのも危険なので、目が開くまでしばらくうずくまることにした。

何もしないのもあれなので、今の自分の状態を確認する。


「死んだよな。それは何となく覚えてる。そうだ。銃で撃たれて死んだよな………ダメだ全然思い出せない。でも生き返ったってことでいいのか?」


体をまさぐっても穴は空いていないし、血が流れている感覚も無い。

手探りながらほっぺたをつねる。いたい。


「あれは………あるな。」


どうやら前世と同じ男のようだ。男だったよな?サイズは………気にしないでおこう。

私の名前………名前?何だっけ?私って言ってたっけ?

というか僕?僕の方がしっくりくるな、ん………ん?前世の記憶が思い出せない。

自分って何だっけ?


記憶喪失。

自分で自分が分からない。

体が強ばる、震える、怖い。


「はっ」


恐怖で目が覚めるように目を開けた。


草が揺れている、芝生か。

風が心地よい。花の香りを感じる。


手に目をやる。小さいな………

さっきも顔を触ったけどぷにぷにだな。足短っ。

丁度池があった。自分の姿を確認する。


「何じゃこりゃああああああああああああああああ!」


髪が白い!体が小さい!これは………………子供の体だ!

人生で一番叫んだと思う。前世の記憶が”あいまい”だからわからないけど。


混乱している頭の中をかき消すように一陣の風が吹く。風の勢いで後ろに振り返る。


ここは山か?小屋から出てきたのか。

辺りに木々が立っている。ここだけ開けているのか。

下を見下ろす。海が見える。いや、それよりも


「これは………………」


麓の町にそびえ立つビル!ビル!ビル!

100メートル級の建造物が所狭しと生えてる!

まるでニューヨークの中心街!

それにあの大量の動く小さい点は………


ギュイーーーーーン


突如轟音と共に頭上を何かが飛ぶ。

あれは………新幹線か!

新幹線が空飛んでる!じゃあ、あの点ってもしかして車!


超高層ビルが立ち並び、車が空を飛ぶ。

昼だというのに、遠くから見てもはっきりと分かるほど、街の明かりがギラギラとしている。

海外のSF映画のような未来の都市が、人々の空想でしか無かった景色が、確かに目の前に存在した。

こんな光景に目を、心を奪われないわけが無い!


「行くしか…なぃい!」


近くで見たい!そう思うと、いてもたってもいられない!

さあ冒険の準備をしよう!

僕が出てきたであろう小屋に戻り、何かないかな~と探す。


僕はどうやら木箱から出てきたらしい。


ドアを開けると蓋の空いた木の空箱が壁に立てかけてあった。

蓋が無造作に飛んでってる事から僕が這った時に蹴飛ばしたんだと思う、多分。

横にも同じような木箱がいくつもあったけど、僕の力じゃびくともしなくて諦めた。


部屋の奥を探すと革製の丁度良いカバンがあったので持っていった。


「全然無いな……」


部屋中探したけど使えそうな物はナイフと縄と瓶だけだった。

服も見つからなかったから、ポンチョのままでいいか、

食料も無かったし。


そしてー

お待たせしました!転生した時のお決まりのやつ!

大体転生系って何かしらのバフがあるって聞くけど僕はさてどんなスキルを持ってるのかな?

胸踊る気持ちを抑えて深呼吸。僕は声高らかに叫んだ。


「ステータスオープン!!!」



「…………………」



10分くらい叫んだが特に何も起こらない。

こういうのって世界観によって色々あるって聞いたことがある気がする。


「女神様ー!!!!!」

「開けゴマ!」

「ウインドみたいなのが出たり……………しないか」


もしかして加護みたいに既に力を持ってるのかもしれない!

とりあえず近くにあった木を殴ってみた。


「いたい…」


木は特に割れる事なく手が赤く腫れただけだった。

体の語感が高まったりとも思ったけど普通の人間の感覚だ。

うーん、これは…………


「転生したのに何にもないのーーー!!!!!」


人生で一番叫んだと思う。(本日二度目)

もしかしたら何かあるかもしれないけど、あんまり期待しないでおこう。

もしかしたらそういうのがない世界なのかもしれない。


気を取り直してまして。

深呼吸する。空気が美味しい。


「さあ!」


何も分からない。ここが何処かなんて知ったこった。

転生バフは無いけど今は目の前の街!

一歩を踏み出す。地面を踏みしめる。



抑えきれない衝動と共に“僕”は旅立つ。


     ――――――――――――

      1話 空想で見た世界

     ――――――――――――


“僕”のいる山の中


<生物?>

「ううぅ。かわいい“さかな”見っけて追っかけたのはいいけど、“みち”迷っちゃったなあ。魔王様のとこ“かえれない”なあ。川に“おで”の仲間泳がすくらいしかできないなあ。」


魚の頭を持った生物が何やら川に向かって話しかけている。


<生物?>

「みんな~気持ちいいかい?それはよかった!どんどん仲間!ふやすね!」


川にゴミを落とす魚頭の生物。


<生物?>

「ん~溜らないね!この匂い!」


ガシャガシャと音を立て、ゴミに群がる大量の川魚。

ゴミを喰ったが最後、奴の眷属になる。

肉はそげ落ち、骨だけが残った魚の大群が怪生物の腹に飲み込まれていく。

その影響なのか、川が次第に黒ずんでいく。周囲の草木が枯れていく。


<生物?>

「仲間!どんどんふえるね!」






小屋を飛び出して丸半日


「ここどこおおおおおおおおおおおおお!」


迷った。完全に迷った。

山を下に降りても降りても全然街に着けない!

というか途中からむしろ登ってた気もするし。

木が高いからぜんぜん前見えないし、このポンチョ動きづらい!

もうおなかへった。もうげんかい。何かたべたい。


「ん?」


近くで水の音が聞こえる気がする。気のせいかな?川だといいなあ。

残った力を振り絞るように歩くと、そこには、


「川だあ!」


すぐに水を飲む。おいしい!これほど美味しい水は飲んだことがないかもしれない。

はっ、この水が安全かどうか分からずに飲んでしまったけど。


「まあ、大丈夫かな」


冒険の熱に浮かされているのか、判断力が鈍っているが気にしないことにした。

持っていた瓶に水を入れる。今後の冒険の為だ。

何か流れてくるな……えいっ。

魚をつかんだ。めちゃめちゃ活きが良い!持っていたナイフでとどめを刺した。


「鮭っぽいしいけるか!」


そこら辺で拾った棒で魚を刺して、そこら辺で拾った石で火を起こす。


「案外器用だな、自分」


周りに立ちこめる煙。さすがに我慢できそうにないぞ。


「それじゃあいっただきます!」


食べようとした瞬間、


ドンッと大きな音が森に響いた。なんだろう?

その音はどんどん大きくなっていく。

もしかしてこっちに近づいてる?


ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ!


<生物?>

「おでの仲間を喰うなああああああああああああああああ!」


「うわあああああああああああ」


なになになになになになになになに!

魚の頭がなんか喋ってる!ゴミの体にところどころ魚のヒレとか鱗とか見える!


<生物?>

「魔王十七将のひとり、デボン・キャトルズだ!おまえ!おでの仲間を喰おうとした!ゆるさない!」


何言ってるのかさっぱり分からない!でもなんか怒ってる!


「あっあっああっあっあっあっあっ」


言葉が出ない。にげるしかない!


「あああああああああああああ!」


<魔王十七将 デボン・キャトルズ>

「逃げるなあああ!」


全速力で走る。でも子供の体じゃすぐ追いつかれ………てない!


<デボン・キャトルズ>

「おなかがいっぱいだ…….まてえええええええ」


動きが鈍い!今のうちに木に登る!

地面を踏みしめジャンプする。木の幹に捕まり木の上に昇る。


「この体、意外とすごいかも!」


これが転生バフ?なのかな?

それにしては中学生だったら出来るようなショボイ力のような。


<デボン・キャトルズ>

「ん、上にいるな!落としてやる!」


見つかった!持っていたナイフを怪物に投げつける。


<デボン・キャトルズ>

「うおっ」


ナイフが怪物に刺さった!

今のうちに木から下りて逃げる!


<デボン・キャトルズ>

「いたいなあ。まてえええええええ!」


まだ追いかけてくる!あと使えそうな物と言えば縄か?

縄をつかんだ瞬間それは蛇に変身した。


「うわあああ」


びっくりしたと同時に怪物に投げつける。

蛇が怪物に噛みついた。


<デボン・キャトルズ>

「なかなかやるなあ!ちょっと“はなれ”ちゃったし。

よしいけっ!ダンクレオステウス!」


巨大な骨の魚が突進してくる。早いっ!

魚の衝突で吹っ飛ぶ自分の体。一瞬にして意識を失った。



「うっ………うう………」


あれからどれくらい経ったんだろう。怪物が僕のそばにいる。


<デボン・キャトルズ>

「もうにげられないぞ。やっつけてやる。」


せっかく生き返ったのに、まだ何もしてないのにここで死ぬのか?

いや、死にたくなんてない!


「あ……あ、あ…………」


でも呻き声をあげるのが精一杯で、生きようと、抗おうとする力すら残っていなかった。


<デボン・キャトルズ>

「とどめっ!…………………なんか良い匂いがするなあ?」


魚の化け物が僕の頭を踏み潰そうとした途端、遠くの方から食べ物の匂いがした。

そして何かが近づいてくる足音、一人じゃ無い。もっと多くの――


<女>

「エミーとサトウはそのまま食料を引いていってくれ。祐平は奴に隙を作ってくれ。私が子供を保護する。」


<戦士達>

「「「了解!」」」


駆け抜ける彼らは軽やかに。


<男>

「おいおいおいおい魔王の手下さんよお!てめえの相手は俺だぜええええ!」


高く飛び、剣でデボンの頭上から斬りかかる。

デボンは振り下ろされた剣を掴み、払う。


<剣の男>

「堅ぇなあ、でも、お頭あああああ!」


しゃがんだ剣の男の背中を蹴り、飛びかかる女。


<女>

揺流ようりゅう 脳震衝のうしんしょう


猫だましの要領で、両手でデボンの側頭部を弾く。


<デボン・キャトルズ>

「がはっ………いしきがっ………」


攻撃した直後、自分を抱えて走りだす女。


<女>

「離脱する。」


<戦士達>

「「「了解!」」」


<女>

「おい、大丈夫か?おい!」


なんだか声をかけられている気がする。なんて言ってるかわからないけど、しっかりしろ!とかそんなかんじなんだろう。ああ、もうだめだ。つかれ………た………




とある家屋


<女の子>

「回復魔術はかけたよ。意識は戻ってないけど」


<男の人>

「見たことないですね。この子」


<女の子>

「あたしも顔広いけどこの子とは初めてかも!」


<剣の男>

「つーことはもしかすると俺たちと“同じ”ってことっすかね」


<女>

「ああ、微弱にも君たちと同じ波長を感じる。回復と一緒に翻訳薬を飲ませておいた方がいいな」


<女の子>

「じゃああたし持ってくるね!」






起きて。


嫌だよ。まだ眠たいんだ。


起きて。みんなが待ってるよ。


みんなってなんだよ。


さあ!起きて起きて起きて!


「何なんだよ………って痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」


痛みで目が覚めた。


<女の子>

「こっちの言葉通じてる?」


「うっ、痛っ、うん」


<女の子>

「まだ回復魔術をかけてる途中だから動いちゃダメ」


目覚めるとベットの上。

合わせて4人の男女が僕を取り囲むように立っていた。


「はい………助けてくれてありがとうございます。あなたたちは?」


その中の1人、女の人が口を開く。


<女>

「私たちは“モリタミ”。この世界の自然を守る戦士さ」




* * * * * * *


王都 異世界人事務所 本部 管制室


<職員>

「異世界人、”グレイト”反応を検出。この数値は………本部長!見て下さい」


<本部長>

「どうしました?……こんなに高い数値は初めて見ますね。それにこれほどの揺らぎは……ん、消えた?至急王に通信を開いて下さい」



王宮


<本部長>

「王よ、お忙しいところ申し上げる」


<王>

「今日通信の予定は無いはずだが、良い、手短に話せ」


<本部長>

「これを見て頂きたい」


<王>

「……初めて見る数値だな。場所は?」


<本部長>

「カカミトです」


<王>

「”モリタミ”の目撃情報もあったな。近くに”13番隊”がいたな。よし、追って奴に命を下す。下がれ」

<本部長>

「はっ」





* * * * * * *


カカミト “僕“のいる山の中


<………>

「ん、何やら騒がしくなってきたようじゃ。ここに住み続けるのも限界かのう。引っ越しの準備でもしておこうか」

☆いっしょに!なになに~☆


翻訳薬

異世界転生人が飲むと異世界の言語がわかる薬。

基本的に異世界では多種多様な言語が話されているが、この薬のおかげで意思疎通が可能になっている。

飲むと一生作用する劇薬なので、異世界人事務所によって厳重に保管されている。

(悪用されると一生催眠状態にすることも可能になるため)

自身の手で異世界の言語を勉強したい偏屈者もいるため、一応解除薬も作られている。

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